専門医解説:「眠れないまま朝…」原因はストレス?睡眠障害6つのタイプと改善法
健康的な生活を送るために、睡眠はとても重要な要素。
健全な睡眠を保つことができなければ、日常生活のさまざまな場面でトラブルが発生します。
近年では、睡眠に関するトラブルが引き金となり、作業効率の低下など職場でも多くの問題が指摘されるようになっています。
まずは睡眠障害について知ることから始めてみましょう。
睡眠障害の治療に幅広く取り組み、東京都品川区の「スリープ&ストレスクリニック」等で睡眠に悩む多くの患者の治療に当たる林田健一先生にお話をうかがいました。
目次[非表示]
- 1.睡眠障害の原因となる「ストレス」「高齢化」「24時間化」
- 2.「眠れないまま朝…」原因は?睡眠障害おもな6つのタイプ
- 2.1.眠れない原因と睡眠障害の種類・タイプを知る
- 2.1.1.睡眠障害のタイプ①「不眠障害」
- 2.1.2.睡眠障害のタイプ②「睡眠呼吸障害」
- 2.1.3.睡眠障害のタイプ③「過眠症」
- 2.1.4.睡眠障害のタイプ④「概日リズム睡眠障害」
- 2.1.5.睡眠障害のタイプ⑤「睡眠時随伴症」
- 2.1.6.睡眠障害のタイプ⑥「睡眠関連運動障害」
- 2.2.睡眠障害の種類・タイプによって治療法は異なる
- 3.睡眠障害、受診の目安は「週3回の不眠が1ヶ月以上」
- 4.眠りの良し悪しを決める「睡眠時間・睡眠の質・リズム」とは
- 5.「眠れないまま朝」にならないために、セルフケアを習慣化する
- 6.仕事と睡眠障害~企業はどのように対応すべきか
睡眠障害の原因となる「ストレス」「高齢化」「24時間化」
睡眠障害の原因には、ストレスだけでなく社会的な問題がある
―最近、睡眠障害に悩んでいる人が増加していると聞きます。こちらへ来院される方の傾向として、どのような特徴がありますか。
オフィスタワー内のクリニックということもあり、来院される方は働き盛りのビジネスパーソンが多いですね。20〜50代を中心に、幅広くいらっしゃいます。
近年、睡眠障害に悩む人が増えている原因としてはさまざまなものが挙げられます。
まずは、ITが発達して海外とのやりとりや、移動中や自宅でも仕事が可能となり、昼夜を問わず仕事に追われる機会が増え、社会全体が眠らない24時間社会になったこと。
それから、競争社会や成果主義などの影響により、多くの人がストレスを抱えていること。
さらに、高齢になると人間は睡眠構造が変化して、睡眠が浅くなったり、睡眠時間が減少したり、夜中に何度も目が覚めたりすることがあります。
社会全体で高齢化が進んでいることも、睡眠障害に悩む人が増えていることの一因だと考えられています。
「眠れないまま朝…」原因は?睡眠障害おもな6つのタイプ
眠れない原因と睡眠障害の種類・タイプを知る
ー「睡眠障害」と一括りにしても、実際はさまざまな症状があると聞きました。詳しく教えていただけますか。
睡眠障害は大きく分けて、次の6つのタイプに分けられます。
睡眠障害のタイプ①「不眠障害」
これは文字通り、寝つきが悪かったり、眠りを維持できなかったりする状態のこと。入眠困難や中途覚醒、早朝覚醒によって翌日の体調に影響を来します。
睡眠障害のタイプ②「睡眠呼吸障害」
これは睡眠中の呼吸が異常な状態になることで、近年、メディアなどで話題になることの多い睡眠時無呼吸症候群もこのひとつです。
睡眠障害のタイプ③「過眠症」
日中に強い眠気が生じて起きているのが困難になる状態をきたし、ナルコレプシーや睡眠不足症候群が含まれます。
睡眠障害のタイプ④「概日リズム睡眠障害」
通常、昼間に活動して夜に眠るという人間の活動サイクルは、体内時計のリズムに合致しています。
しかし、昼夜逆転の勤務体系や不規則な生活習慣などにより、このリズムが合致しなくなると、日中に眠気を感じたり、夜間に眠れなくなったり、早朝に覚醒してしまったりします。
睡眠障害のタイプ⑤「睡眠時随伴症」
睡眠中や入眠時に、寝ぼけや寝言、悪夢など望ましくない現象が起きる状態で、小児に多い夜驚や夢中遊行、高齢者に多いレム睡眠行動障害がこれに含まれます。
睡眠障害のタイプ⑥「睡眠関連運動障害」
睡眠中や入眠時の不快感による運動衝動、繰り返す脚のピクつき、歯ぎしりなどが含まれます。
眠ろうとして床につくと、脚に虫が這うような不快感を感じてじっとしていられず、眠っていられなくなる症状は、「むずむず脚症候群」の可能性があり、妊娠中の方、貧血や透析中の方、女性に多くみられます。
睡眠障害の種類・タイプによって治療法は異なる
ー自分がどのタイプに属しているのか、正しく知ることが必要なのですね。
そうです。睡眠障害の種類によって、原因も治療法も異なります。
「過眠症」のひとつであるナルコレプシーのように、投薬や生活習慣の改善を行いながら、気長に付き合っていく必要のある疾患もあります。
また、うつ病などメンタルのトラブルが睡眠の問題を引き起こしている場合もあります。
「眠れない」などの不眠症はうつ病の前触れとして起こることもありますし、反対に、うつ病の一症状として、不眠症が現れていることもあります。
その場合は同時に、こころの治療を行わなければなりません。
不眠に悩む場合は、かかりつけ医がいればまず相談し、スリープクリニックなど、睡眠のトラブルを専門に扱う医療機関を訪れ、自分がどのタイプに当たるのか、調べてもらうと良いでしょう。
睡眠障害、受診の目安は「週3回の不眠が1ヶ月以上」
日常生活に影響する睡眠障害。不眠が続いているなら医療機関の受診を
ー不眠に悩んでいる場合、医療機関を訪れた方が良い「目安」はありますか。
一般に、「眠れない」「寝つきが浅い」などのトラブルが週3回発生していて、そうした状態が1ヶ月以上続いている場合は、医療機関を訪れることをお勧めします。
しかし実際は、眠りたくても眠れなかったり、寝つきが浅くて夜中に何度も覚醒してしまったりする状況に置かれているにもかかわらず、睡眠に対しての意識が低く、不調を隠したまま生活している人も少なくありません。
ですが、こうした睡眠障害は仕事中のミスや日常生活でのトラブルを引き起こしかねませんし、場合によっては大きな事故にもつながります。
特に、不眠が原因で、翌日の仕事の効率が落ちるなどの影響が出ている場合は、睡眠障害を疑う必要があります。
できるだけ自分の睡眠に対して意識を高く保ち、不眠などの症状が一定期間続いているようなら、早めに医療機関を受診すると良いでしょう。
ーこちらのクリニックでは、どのようなきっかけで来院される方が多いのですか。
オフィスタワーにあるクリニックですので、患者さんのほとんどがビジネスパーソンです。そのため、仕事中に居眠りをしてしまったり、うっかりミスが連発してしまったりなど、仕事のトラブルが続いたことが原因で来院される方が多いですね。
なかには、ミスの多さや居眠りを上司や同僚に指摘されて初めて気づき、睡眠トラブルが原因ではないかと思い至って、来院される方もいます。
睡眠は日常繰り返す習慣ですから「眠れない」「寝つきが浅い」などのトラブルを抱えていても、つい簡単に考えてしまいがち。
でも、そうした状態が長く継続する背景には、必ず何らかの原因がありますし、その原因を取り除かなければ、健康な睡眠を確立することはできません。
症状が軽微なうちに治療を始めれば、深刻化を防げることもありますから、睡眠に関するトラブルで悩んでいる方は、ぜひ早めに医療機関へ相談して欲しいですね。
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眠りの良し悪しを決める「睡眠時間・睡眠の質・リズム」とは
睡眠の良し悪しを見極める~重要な「3つの指標」
ー自分の睡眠が適切なものか、見極めるための指標はありますか。
睡眠の良し悪しを見極める評価の指標としては、3つあります。
それは「睡眠時間」「睡眠の質」「睡眠のリズム」です。
まず1つめの指標である「睡眠時間」ですが、一般的に、睡眠の長さは7〜8時間がベストと言われています。
しかし、これにはかなり個人差があり、なかにはショートスリーパーと言って、睡眠時間が極端に少なくても大丈夫な人もいます。
これは主に遺伝子の変化が原因とされていて、このような人は毎日4〜5時間の睡眠でも十分健康を維持できるのですが、実際にこういうタイプは非常に稀。
よく、ご自分のことをショートスリーパーだとお話されている方もいらっしゃいますが、実際には睡眠時間が不足していて、ご自分で気づかないうちに居眠りをしていることも少なくありません(笑)。
ー現実的に、ショートスリーパーの人はほとんどいないということなのですね。
反対に毎日10時間以上の睡眠時間を確保しないと、健康を保つことができない人もいます。
このような場合は、7〜8時間の睡眠でも寝不足を感じ、日常生活に支障をきたすことがあります。
まずは自分に最適な睡眠時間がどれくらいか調べるために、意識的に7〜8時間の睡眠を継続してみると良いでしょう。
2か月間ほど、このような生活を続けてみて、睡眠不足が解消されたり、頭の中がスッキリしたりと言った変化が見られたら、自分にとって適切な睡眠時間は7〜8時間だとわかります。
ー適切な睡眠時間がわかれば、それをキープすることが健康維持の鍵になるのですね。
そうです。そして、指標の2つ目が「睡眠の質」。
夜中に何度も目が覚めて、一度起きると再び眠りにつくのが困難になることもあります。このように、睡眠が途中で中断されてしまったり、眠りが浅かったりすると、睡眠の質が良いとは言えません。
また、特に男性に多いのですが、肥満やメタボが原因で睡眠時にいびきをかいたり、無呼吸になったりして、睡眠の質を低下させることもあります。
―「睡眠のリズム」についても教えてください。
指標の三つ目となる「睡眠のリズム」です。
たとえば海外出張が続いたり、シフト勤務で夜型の生活を強いられたりすると、睡眠のリズムが乱れてしまいます。
一般に就寝や起床の時間がある程度決まっていて、一定のリズムで睡眠を確保することが、良い眠りに必要だとされています。
「眠れないまま朝」にならないために、セルフケアを習慣化する
不眠・眠れない状態を改善するために、まずは睡眠のセルフケアを
ー睡眠の質をアップするために、簡単にできるセルフケアはありますか。
セルフケアとして、まずは決まった時間に起きるようにすること。
たとえ夜に眠れなかったとしても、昼間に起床するとまた夜に眠れなくなってしまいます。
つまり、夜に眠れるかどうかは、朝に決まるということ。
起床時間を一定にし、もし可能なら太陽の光を浴びながら目を覚ますと、体内時計がリセットされて、スッキリした目覚めにつながります。
―寝る前の習慣・行動についても教えてください。
それから、寝る前の行動を一定にし、ルーティン化することも大切。
入浴後にストレッチをしたり、寝る前に本を読んだり、自分なりの「入眠儀式」を定めておくことも、スムーズな眠りにつながります。
また、昼間の眠気対策としては、昼休みに20分ほどの仮眠をとるとよいでしょう。
これは夜間の寝不足を補うものではなく、脳をリセットすることが目的で、通常、人間の脳は2時間おきくらいに疲労から眠気を感じる習性があり、そのピークが午後2〜3時に訪れます。
しかし、お勤めをしている人の場合、その時間帯に仮眠をとることは難しいでしょうから、昼休みの最後に20分ほど仮眠をとると良いでしょう。
眠れないまま朝を迎えないために~スムーズな入眠のポイント
ー夜に寝付けない場合は、どのようにしたら良いのでしょうか。
眠れず、イライラしながら布団の中にずっといるのもよくありません。
「布団=緊張する不快な場所」と脳にインプットされてしまい、条件反射的に不眠が加速してしまいます。
もし、15〜20分ほど布団の中にいても眠れない場合は、一旦布団から出て、小説を読んだり、温かい飲み物(ただしノンカフェイン)を飲んだりして一息つくと良いでしょう。
それから、寝不足だからと言って、あまり早めに布団に入るのも好ましくありません。
そうすると必然的に眠れない時間が長くなってしまいます。
もし、不眠で悩む場合は「6時間眠れればよし」というように気軽に考え、できるだけ布団にいる時間を短くすると良いでしょう。
また、人間の体は夜になると体温が下がり、自然と眠りに入りやすくなります。
そのため、寝る直前に熱すぎるお風呂に入るのはNG。
ちょっとぬるめのお風呂にゆっくり浸かると睡眠に入りやすくなります。
ー「眠れないから」と。お酒や睡眠改善薬に頼る人もいますが、効果についてはどうでしょうか。
眠れないからといってお酒を飲むと、どんどん酒量が増えるだけで睡眠障害はまったく改善されません。
また、市販の睡眠改善薬を服用する人も多いでしょうが、現在、市販されているのは抗ヒスタミン薬で、喉が乾くなど副作用をもたらすこともあります。
もし、服用を考えているなら、医療機関に相談し、自分に合ったタイプの睡眠薬を処方してもらうことをおすすめします。
また、なかにはうつ病などメンタルの問題が原因となって睡眠障害を引き起こしている人もいます。
そういう場合、根本的な原因が解決されなければ、不眠を解消することはできません。
もし、心当たりがあるなら心療内科やメンタルクリニック、精神科などを受診した方が良いでしょう。
仕事と睡眠障害~企業はどのように対応すべきか
睡眠障害は健康や生産性に影響がある。企業でも意識を高く持っておくこと
ー最後に、社員に睡眠障害と思われる人がいた場合、人事や労務担当者はどのように関われば良いのか、教えてください。
そもそも睡眠は何のために必要かといえば、健康に生きるため。睡眠に異常が起こればメタボや高血圧、心疾患など健康上のリスクも高まります。
会社の生産性を維持し、かつ、社員の健康を守るためにも、人事や労務を担当する人たちには、社員の睡眠状態について意識を高く持っていただきたいですね。
残業が過多になっていないか、夜のシフト勤務が続いていないか、最近居眠りが多くないか、うっかりエラーが多くなっていないかなど、各部署との連携を密にし、もし、睡眠に関してトラブルを抱えていそうな社員には、最近の睡眠状況を確認したり、産業医に相談したりすると良いでしょう。
文/鈴木博子
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