【後編】西野精治先生に聞く。職場で睡眠障害を持つ人の見つけ方と指導方法

前編では、「睡眠の大切さ」について、医学博士・西野精治先生にお話を伺いました。

後編の今回は、産業医や保健師の方々に向けて、睡眠の重要性を企業の中でどう伝えて行くかということに焦点を当ててインタビューを行いました。ぜひ、産業医の活動の参考にされてください。

<この記事は後編です。前編はこちら>

  【前編】西野精治先生に聞く。ビジネスパーソンが知っておきたい、「睡眠」の大切さ 米スタンフォード大学で30年近く睡眠の研究を行う、『スタンフォード式最高の睡眠』の著者・西野精治先生へのインタビュー前編。ビジネスパーソンが知っておきたい「睡眠」の大切さについて、睡眠不足が招くリスクや睡眠の質を上げるポイントなどをご紹介します。 エムステージ 産業保健サポート


コロナウイルスと睡眠との関係性


解説:西野精治(にしの せいじ)

スタンフォード大学医学部精神科教授/同大学睡眠生体リズム研究所(SCNL)所長/医学博士/精神保健指定医/日本睡眠学会専門医/株式会社ブレインスリープ 最高経営責任者(CEO) 兼 最高医療責任者(CMO)

2017(平成29)年に出版した啓蒙本『スタンフォード式 最高の睡眠』が30万部を超えるベストセラーとなり、書籍で取り上げた「睡眠負債」が流行語大賞トップ10に選出される。


コロナ渦で始まった在宅勤務。睡眠への影響はあるのでしょうか?

・睡眠時間は増えたが、睡眠の質は悪化

眠りの研究事業を展開する株式会社ブレインスリープは、新型コロナウイルスの影響による人々の働き方の変化と睡眠の関係性について調査しました。その結果から、働き方に変化のあった多くの人の睡眠時間に変化があったことが分かったんです。

働き方に変化があった人は変わらない人よりも睡眠時間が増えていましたが、同時に変わらない人よりも就寝時間や起床時間が遅くなっていました*。

コロナウイルスの影響を受けたことによる睡眠の質の変化については、働き方に変化があった人は変化がなかった人に比べ、睡眠時間が増えているにも関わらず、睡眠の質が下がったと感じているという結果*もあります。

これは、在宅勤務の人が多くなり通勤時間が無くなったことにより睡眠時間は増えましたが、起床や就寝の時間が遅くなるなど生活リズムが後ズレしてしまいました。それに伴い体温のリズムもズレることにより、寝起きが悪くなってしまうなど睡眠の質も悪化したことが推察できます。


・睡眠時無呼吸症候群のコロナ罹患率は、10倍以上

もう1つコロナウイルスと睡眠の関係を調べた調査があり、新型コロナウイルスに感染した方のうち、なんと約37.5%もの人が睡眠時無呼吸症候群であるという結果が分かったんです。

この結果から、新型コロナウイルスの感染疑いがあった人は、要因の1つとして睡眠時無呼吸症候群の疑いがある方が多く、それがもたらす睡眠不足など生活習慣の乱れにより免疫力の低下を招き、罹患してしまった可能性が考えられます。

このように、睡眠障害は免疫力の低下により、感染症にもかかりやすくなってしまうため注意が必要です。

*出典:株式会社ブレインスリープ『~新型コロナウイルスの影響による働き方の変更に伴う実態を調査~』


睡眠障害の1つ、睡眠時無呼吸症候群の恐ろしさ

「眠れない」理由には、深刻な病気が隠れていることもあるのでしょうか?

・男性なら20人に1人の割合でいる、睡眠時無呼吸症候群

先程、コロナウイルスの感染率が高いとお話しした、睡眠時無呼吸症候群。中等度以上の睡眠時無呼吸症候群は、男性ならおよそ5%、女性でも2%程もの患者がいるとされています。

男性なら20人に1人ぐらいの割合で睡眠時無呼吸症候群というわけですから、職場の中に罹患者がいてもおかしくない身近な睡眠障害の1つです。


・治療をしないと、4割もの人が亡くなってしまう

この睡眠時無呼吸症候群の怖いところは、中等度以上の場合心筋梗塞や脳梗塞などのリスクが通常の2~4倍になり、重症の場合治療せずに放置した方の約4割が8年以内に死亡するというデータもあるのです**。

カナダの調査では、睡眠時無呼吸症候群の方が適切な治療を受けると、個人の年間医療総額が半分になるという結果が出ているほどです。


・スクリーニング調査をして、患者を見つけよう

だから、もし睡眠障害の人がいたら、適切な治療につなげてあげることがとても大切なんです。まずは、職場の中でスクリーニング調査をするなどして、睡眠障害の可能性の高い人を見つけ出し、睡眠障害の恐ろしさや治療の重要性を教えてあげましょう。

**出典:株式会社ブレインスリープ『睡眠偏差値 調査結果報告2020』


職場で睡眠障害を見つけたら、睡眠の専門家に相談を

睡眠障害を持つ人には、どのような指導が必要でしょうか?

・多くの科にまたがる、睡眠医療

現在、睡眠の治療を行うクリニックというのは多くありますが、科目としては、神経内科であったり、精神科であったり、循環器科であったりと多岐にわたります。

これは睡眠というのはなかなか奥が深く、医学の分野でもいろいろな科にまたがっているためで、睡眠の治療をしようと思っても何科の病院を紹介すればいいのか迷われるかもしれません。


・睡眠薬は、症状に合わせて適切な処方を

また、「夜眠れないから」と、病院で睡眠薬を一般の病院で処方してもらっている人は多くいます。

しかし、安易に睡眠薬を処方してもらうのではなく、本来はなぜ眠れていないのか原因をしっかり判定し、それに応じて適切な処方にしていくという形にしなければいけないのです。それには、やはり睡眠の専門医による診療が必要と言えるでしょう。

職場で「よく眠れていない」という人がいたら、まずは睡眠時無呼吸症候群などの睡眠障害を疑い、睡眠の専門医や専門医療機関の受診を薦め、改善プログラムを促すことが大切です。


・実は日本にも多い、認定専門医 登録医療機関

睡眠障害の治療をするためには専門知識を持つ専門医に診てもらう必要があり、その1つの目安となるのが、日本睡眠学会が認定している認定専門医と登録医療機関です。専門医は全国に500~600人***、医療機関は100施設ほど****あります。

日本睡眠学会のHPに認定専門医や認定医療機関が県別に掲載されているので、産業医や保健師の方は睡眠障害を持つ人に受診を勧めるなど、適切な治療につなげることが重要です。

そういった睡眠の専門医に診てもらうことで正しい睡眠の知識を身に着け、誤った行動を正し良い習慣を身に着けることが睡眠障害の改善には必要なのです。

***出典:一般社団法人 日本睡眠学会「睡眠医療認定」

****出典:一般社団法人 日本睡眠学会「登録医療機関」

西野精治

西野精治

(にしの・せいじ) スタンフォード大学医学部精神科教授/同大学睡眠生体リズム研究所(SCNL)所長/医師/医学博士/株式会社ブレインスリープ 創業者兼最高研究顧問 認定資格 精神保健指定医、日本睡眠学会専門医、産業医 2017(平成29)年に出版した啓蒙本『スタンフォード式 最高の睡眠』が30万部を超えるベストセラーとなり、書籍で取り上げた「睡眠負債」が流行語大賞トップ10に選出される。

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