【産業医が解説】メンタル休職からの復職プロセスを考える

 

産業保健領域で筆頭に挙がる問題といえば、従業員のメンタル不調による休職である。休職を経て症状が改善したとしても、同じ会社で復職することには難しさを伴うケースも多い。

企業は、社員の休職期間の過ごし方や復職への道のりを、どのように考え、サポートしていけばよいのだろうか。精神科の臨床医として勤務する傍ら、6社で企業の産業医を務めている尾林誉史医師(関連記事)に尋ねた。

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「休職から復帰へ」というプロセスをしくみ化したい

 

———尾林先生はご自身の社会人経験も活かして、産業医として丁寧なアプローチで実績を上げておいでです。職場のメンタル不調における休職・離職・復職について、お話を聞かせて頂けないでしょうか?

 

現在6社で産業医として働いています。従業員規模のそれほど大きくない企業さんが多いので、メンタル不調予備軍というわけではないメンバーの方まで含め、ローテーションでできるかぎり多くの方と面談を行うようにしています。関与するようになってから、たまたまかもしれませんが、離職者があまり出なくなったと企業の方にはありがたいことに言って頂けています。

それでもやはりメンタルを崩す人は出ています。ただ、以前は休職期間が満了してフェードアウトするように退職、というパターンが多かったようです。それが、「休職、療養、復職準備、職場復帰」という、あたりまえの復職プロセスが動き始めました。

企業の人事や労務と協力しながら、この流れをどこまでしくみ化できるのか、引き続き取り組んでいきたいと考えています。今はまだ「休職期間の定めはあっても、復職規定はない」など、制度やしくみが追いついていない企業が多いようですね。過去に休職していて今では復職したメンバーらと「メンタル不調をうまく乗り越えたエピソードを、社内に還元できるといいよね」と話しているところです。

 

 

メンタル面について相談しやすい雰囲気づくりを

 

———休職経験を社内で話すというのは、一般的にはとても勇気のいることではないでしょうか。風通しのよい職場なんですね!

 

最初からそうだったわけではないかもしれません。わたしが多くの社員さんと面談を行うことで、「産業医に相談すること」が特別視されなくなったのでは、と感じています。

また、時間があれば「ぶらぶら職場巡視」に出かけて「最近どう?」「顔死んでるけど、大丈夫?」「最近、上司の方が変わったんでしょ。仕事量、多すぎない?」とカジュアルに皆さんとお話をするように心がけています。メンタル面のコンディションについて相談することにはネガティブイメージがつきまといがちですが、それが多少なりとも減ったのではないでしょうか。

職場のメンタル不調の芽を早めに見つけるためには、ご本人の直上の上司が気づいてアラートを上げてくれるのが一番確かです。ですので「話しやすく、全員がお互いを気にかけ合う雰囲気づくり」が非常に大切だと思っています。

 

休職中も、月1回の面談でコンディションを把握

 

———休職から復職までのプロセスについて教えてください。

 

はい、休職期間中も月1回はわたしが面談を実施して状況を確認し、復職の目途も立ってきたところで、通勤の練習やリモートワークを活用した復帰へのリハビリを提案しています。そして復職へと繋げていきます。

休職への入り方については、メンタル不調が出ている方と面談をして、「じゃあちょっと休もっか」という話になるわけですが、「休み方がわかりません」という相談も結構あるんですよ。

うつなどで休職する場合には、どこかしらの病院やクリニックにかかって治療を受けていますよね。主治医の先生が治療に積極的な方だと「毎日、この程度の運動をこれくらい続けて」「この時間にはこういうことをして」といったメニューを提示して下さることもあります。そういう場合はその方針に則って進めていきましょうと話しますが、もし主治医の先生からは薬物投与だけでその他の指示があまりない場合には、月1回の面談の際に過ごし方についても話をしています。

どの休職者とも必ず月1回会って話をしていますので、その中で「そろそろ大丈夫かな」という見極めがついてきたら、そこで復職について相談を始めます。

職場復帰への第一歩としてリモートワークを活用

 

———うつには休むことが必要だと言われますが、完全に回復して元の生活を取り戻すには「適切な仕事」も重要ですよね。復職までの助走期間にはどんな働き方が向いていますか?

 

最近では大手企業やIT・通信系企業を中心に、リモートワークという働き方も増えてきていますよね。会社の中で、顔が見えそうで見えない従業員さんというのも増えてきています。それを活かして、復職の第一歩として、直接顔を合わせなくてもリモートでできそうな仕事を少しずつ振っていく、というやり方をとっています。

比較的うまくいっている手ごたえはあります。その際に重要なことは、会社側が「彼/彼女のこの能力にとても期待している」というポイントを把握することです。それが休職者本人の自尊心にもつながると考えています。

ある事例では、新しくゲームを開発するにあたって、休職中のメンバーに制作中のソフトをひたすらプレイしてもらいました。本人はただ自宅でゲームをやり込んで感想を述べるだけです。でも、それが会社にとっては大きな財産になる。「ここでこうするとこんなバグが出る」「この画面構成はいまいち」など、気がついたことを開発チーム宛に次々メールしてもらうんです。わたしは面談で「いや〜、家でゲームして、それが仕事になるなんていいねぇ!」なんて話していたんですが(笑)、実際、そのメンバーの持っている感性や気づきというものは、ゲーム開発に際して他の人にはない強みなんですよね。

リモートワークで適切な業務リハビリを設計できないという場合は、リワークプログラムなどを利用するというやり方もあるかもしれませんね。

 

———リワークプログラムではどのようなことをするのでしょうか。

 

リワークプログラムの内容にはさまざまなものがありますが、1つ大きなポイントとしては、勤務時と同じレベルでの「生活リズムをつくる」ということが挙げられます。また、勤務時と同等とまではいかないにしろ「働いているときの感覚を蘇らせる」、「自身の疲労度を客観的に把握する」ことなども重要ですね。

プログラムの内容は、本来ならば個々人の状態や性格に合わせて個別にカスタマイズできればベストですが、現実的にはコストの問題もあって、一律のプログラムにならざるをえない場合が多いでしょう。もちろん、集団リワークプログラムでありながら効果を上げているものもありますが、すべてがそうだとはいえません。

その意味において、リワークプログラムの活用について、産業医が今後サポートしていける部分もあるのではないかと思っています。休職状態と職場復帰とをつなぐものがリワークプログラムなのですから、実施に際して、会社での本人の姿を知っている産業医だからこそできるアドバイスやアレンジメントもあるかもしれませんね。

 

「会社の期待」と「本人の希望」がマッチする業務を探す

 

———復職時の業務を見つけるのは誰の役割でしょうか?人事主導、それとも上司やご本人ですか?

 

あくまでもわたしの場合ですが、復職後のポジション、仕事量などについて人事と落としどころを見つけるのは産業医の役割だと思っています。復職にあたってご本人は主治医の先生とも相談しますが、会社の中でその方がどんな役割を担ってきたのかを知っている産業医のほうがその点では情報は多いですから。

会社がその人に対して最も期待している能力、そして本人もやりたいと思う仕事、双方がマッチするところを見つけたいと思っています。

やっぱり会社にとって「彼/彼女にやめられたら困る」というのは非常に大きいんですよね。大事じゃない社員さんなんていませんよ。社内規定で休職可能な期間というのは定められていますが、そこは状況に応じて会社側も柔軟に運用することがあります。一律に休職期間満了で退社にする、しないといけない、というものでもないです。

 

———復職後の仕事を考えるにあたって、ご本人とはどのように話しますか?

 

ご本人が明確に「元の部署に戻りたいです」と話してくるケースは少ないように感じています。

わたしのほうから「社内で知ってる誰々さんの仕事だったらやってみたい、とか、こういう種類の仕事ならやりたい、っていう希望はある?」と率直に聞くようにしています。

それから人事の方に伝えて、「ああ、彼/彼女があの仕事に。それもありかもしれませんね」って会社側が納得するポイントまで話し合って、次回のご本人との面談で「こういう仕事になるよ/なるかもしれないよ」ってところまで言うようにしています。それは最初からそういう流れでできたというわけではなくて、人事の方との阿吽の呼吸の部分も大きいですね。

 

———それだけ人事・労務や産業医が社員の働きがいやコンディションに気を配ってくれていれば、会社へのロイヤリティや仕事に向かう熱量も上がりそうです。

 

はい、わたしもそんなイメージを抱きながら産業医としてのスタイルを模索しています。単に不調者と面談をするということではなく、社員のみなさんのメンタルケアを通じて「最先端の福利厚生」のようなものを実現できればと考えているんです。やっぱり従業員を大事にしている姿勢が伝われば、会社に対して愛着って湧くと思うんですよ。

もしそういう思いが現場の方にも浸透してきているならば、そんなに嬉しいことはありませんね。

 

———一方で、一般的には、会社のメンタルの相談窓口がなかなか社員の信頼を得られないという話も聞きます。秘密は守られるのか、査定に響かないのかといった不安も簡単にはぬぐえません。

 

そうですよね(苦笑)。例えばメンタルについてのホットラインが用意されたとしても、メンバーがうがった目で見てしまうのはある意味当然だと思うんですよ。また、マネジャーからすると、そこからのエスカレーションを「どう扱おうかな」とちょっとやっかいに感じたり。知らないうちにマネージャーとメンバーとで上下関係が形成されやすいんです。その間に入っていって、関係性をなんとなくフラットに近づけるのも、産業医の介在価値の一つなんじゃないでしょうか。

 

メンタル休職体験をタブー視せず社内の共有財産にできれば

 

———根本的な話として、職場のメンタル環境を良くするためにはどう取り組んでいけばよいのでしょう? 例えば「ノー残業デーをつくりましょう」「有休を消化しましょう」などと決めても変わりませんよね。

 

職場環境をよくするための効率のいい方法、というものはないと思います。経営も、人事も、マネージャーも、メンバーも、会社ぐるみの総力戦ですよね。

現場の人たちのステージと経営側のステージとをいかに近づけるか。それがわたしの産業医としての仕事だと思っています。そこを近づけていくと、乗り越えて議論を始める人たちがかならず出てくるんです。

ある事例ですけれど、「絶対に大丈夫」と周囲から太鼓判を押されていたパワフルな人が急にメンタルで倒れてしまったんです。休職期間を経て復帰して、今では従業員サイドとして安全衛生委員会に参加して自身の経験を発信しているんですよ。

「もうね、休むとこんなにつらいから。絶対にこうなっちゃダメ!」「メンタル問題を軽んじないように」「うちの会社はプレイングマネジャーが多いから、自分の業務中心になっちゃうことが多いけど、管理側はメンバー一人一人をきちんと見て下さいね」など堂々と従業員側からの意見を出してくれるんですよね。それは会社にとって大きくプラスに働いています。

メンタル休職をタブーにしないということも大事だと思います。そういう指摘もそのご本人からありました。過去のメンタル不調を、いかにポジティブなアセットとして会社に還元し、活用していくか。休職から復職へのサイクルを定着させるというのは、そういった試みでもあると思っています。

 

 

医師プロフィール: 尾林 誉史(医療法人厚生会 道ノ尾病院)

東京大学理学部を卒業後、企業で5年間勤務。産業医を志し、2007年に弘前大学医学部に学士編入。2011~13年、東京都立松沢病院にて臨床初期研修。2013年、東京大学医学部附属病院精神神経科に入局。同時期に、精神科の後期研修を岡崎祐士先生(前・東京都立松沢病院院長)のもとで行うべく、長崎市の道ノ尾病院に赴任。現在、主に東京に本社を置く企業6社での産業医も務める(2017年9月現在)

▼尾林先生のキャリアについてのインタビュー記事
サラリーマンを経て産業医に――企業にフルコミットする、独自のスタイルを構築する尾林 誉史先生

 

 

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