【産業医が解説】「新型うつ」と「適応障害」の違いは?社員への対応法を解説

(最終更新日:2020年4月7日)


産業保健領域ではこのところ従業員のメンタル不調が大きな課題となっているが、精神疾患にも様々な種類がある中で、とりわけ見分けづらく、解釈しづらいのが「新型うつ」である。

新型うつとはいったいどんな病気なのか、はたして疾患だと断定できるのか、どのような対応が有効なのか、従来型の「うつ」との違いは何なのか……。

精神科の臨床医として勤務するかたわら、6社で産業医を務めている尾林誉史医師に尋ねた。


医師プロフィール: 尾林 誉史(医療法人厚生会 道ノ尾病院)

東京大学理学部を卒業後、企業で5年間勤務。産業医を志し、2007年に弘前大学医学部に学士編入。2011~13年、東京都立松沢病院にて臨床初期研修。2013年、東京大学医学部附属病院精神神経科に入局。同時期に、精神科の後期研修を岡崎祐士先生(前・東京都立松沢病院院長)のもとで行うべく、長崎市の道ノ尾病院に赴任。現在、主に東京に本社を置く企業6社での産業医も務める(2017年9月現在)

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サラリーマンを経て産業医に――企業にフルコミットする、独自のスタイルを構築する尾林 誉史先生


投薬の効果が出にくく治療のしにくい「新型うつ」

――尾林先生はご自身の社会人経験も活かして、産業医として丁寧なアプローチで実績を上げておいでです。

産業保健分野ではこのところメンタル不調が大きな課題となっていますが、若者を中心に増えていると言われる「新型うつ」について教えてください。


わたしは「新型うつ」という名称では診断していません。

精神科医の中でも、「新型うつは、はたして本当に疾患群なのかどうか」という議論があるんです。病気といってよいのかどうか、ボーダーラインを引くのが難しいところだといえるでしょう。

いわゆる「新型うつ」は、仕事場の周囲の人たちからは「怠け」や「甘え」と捉えられてしまうケースもあるようですが「がんばれ」と励ましてなんとかなるような根性論の問題でなさそうだ、という点に関しては医師の間でも見解が一致しています。

投薬を行ってもあまり効果が上がらず、症状がすっきりしないという共通点があり、治療しづらい。

そういう一群があるのは確かだけれども、仕事上でどう対応するのが適切なのか正解がまだわからずに医師側も迷っている、というのが実際のところだと思います。

そこでわたしの場合は「新型うつ」という概念はあまり使わずに面談などでもお話ししています。

(編集部註:日本うつ病学会は、「新型うつ病」は専門用語ではないとしています。「現代型うつ病」などの他の名称で呼ばれることもあります)


――「新型うつ」は、病気ではないということですか?


そうとも言いきれません。

わたしは、「新型うつ」といわれるような症状(編集部註:不眠や気分の落ち込みが見られて本人は苦しいが、常にうつ状態とは限らず、仕事場を離れると気分は回復し、好きなことなら活動的にできるという症状)の方にお会いしたら、ひとまずは「適応障害」です、とお伝えしています

そして「もしわたしが今のあなたと同じ立場に置かれたとしたら、きっと同じような暗い気持ち、つらい状況になると思いますよ」とお話しするようにしています。

ご本人に原因や問題があるのではなくて、同じ環境に置かれたらそういう心と身体の反応が出ても当然なのだ、ということを理解してもらうようにしています。

「原因は周囲の人達や仕事内容にあるのかもしれないし、状況を長引かせてしまったこと自体にあるかもしれませんね」とも言うようにしています。


職場など特定の環境が原因となって心身に問題が生じる「適応障害」とは

――「適応障害」とはいったい何なのでしょうか。


「適応障害」とは、ある種の環境に本人が耐えがたさを感じていて、気分や行動の面で問題が起こることを指します。

適応障害というのも一応は病気だとカテゴライズされていて、薬を使ってめきめきとよくなることもありますが、何よりも環境を変えるのが一番効くんです。

ですので、会社の中を見渡してみて、どうしてもその方にフィットしそうな職種や業務、ポジションがない場合には、人によっては転職をすすめることもあります。


よくなる手段が他にないと判断すれば、適応障害の従業員には転職をすすめることも

――産業医が転職を勧めるというのは大胆な提案のように聞こえますね。


逃れられない環境から逃れる方法が転職しかなさそうな場合には、それがご本人のためになると思うので、すすめるということです。

もちろん、企業の人事担当にはきちんと伝えますよ。

ただ、そのようなケースでは「Aさんですけれど、面談でお話ししてわたしは転職をおすすめしましたよ」と報告すると「ああ、そうですよね。今のまま漫然と同じ仕事をお願いするのもつらそうだなと思っていたんです。

それが本人にとってはいいのかもしれません」と納得して頂けることが多いですね。


従来型の「うつ病」の場合は「大事な決断は後回し」が鉄則

――転職を視野に入れる上で、注意が必要なケースはありますか?


反対に、その人が「うつ病」であれば絶対に転職を勧めることはありません。

うつ病患者さんにとっては「大事な決断は後回しに」というのが鉄則です。

よくなるまでは十分休んで、離職などの重要なことは決めずに回復するのを待つべきなんです。

また補足しますと、最近では「うつ」の見立てのときにはその方に「発達障害(発達症)」があるかどうかを最初に見極めるようにしています。

もし発達障害のある方であれば、「いつも遅刻する」とか「空気の読めない発言をしてしまう」といった目立ちやすい短所があるために、周囲から認められにくくて自己肯定感が低くなり、二次障害としてうつ病を発症していることがありますから。

その場合は、その人が持っている個性や苦手分野とどうつきあっていくのかというアプローチが必要になってきますね。


――「新型うつ/適応障害」や「うつ病」「発達障害の二次障害としてのうつ病」などの他に、類似する症状で何か気をつけるべきものはありますか?


「うつ病」「新型うつ/適応障害」と並んで「自分は病気なのだと思いたい状態」というものも散見されますね。

置かれている状況がつらくて、今の自分は病気なんだとカテゴライズしたほうが心の整理のつく人たちです。

でも実際にはうつ病にはあてはまらないし、適応障害のようにも見受けられない。そういうケースもままあります。


――具体的にはどのような状態を指すのでしょうか?


一概には言えませんが、そういった方たちは、「こんなにがんばっているのに、自分はまったく報われていない」というように承認欲求が強すぎたり、「いくらやっても完成形にはほど遠い。うまくいかない」というように過度に自信がなかったりと、極端な傾向が見受けられるように思います。

そういう方に、ただ「あなたは病気じゃないんだから、がんばれ」と伝えても響きませんし、一方で病的な対応を取りすぎると本人の自助力を損ないかねません。

しっかり受け入れて、ほどよく突き放す。そんなバランス感覚を持って接する必要があるのかもしれませんね。


新入社員の落ち込みにはまず業務量の見直しなどを提案

――そのような方にはどのように対応しているのですか?


臨床家としての見極めがあっての上ですが、まずは率直に「がんばれ」と言っています。

「先生、心配していた新入社員のBくん、面談の結果、どうでしたか?」

「はい。お話を聞いて『がんばってね』と言っておきました」

「ああ、やっぱりそうですよね……!どうもありがとうございます」

と人事の方と会話するようなケースもあります。そのような場合には、そのままがんばってうつになったということはあまり聞きません。

もちろん励ますだけでなく、本人のお話を聞いて、業務量の見直しや部署の異動などについても人事の方に相談します。

特に新入社員さんなんかだと、職場や仕事に慣れるだけでも大変なことですから、仕事の量が多くて対応できなくなってしまった結果、そういう状態になってしまうこともあります。

ただ、「病気じゃないですよ。大丈夫、がんばれますよ」って伝えてあげられるのも、精神科医の重要な役割のひとつだと思うんです。

医師から「あなたは病気ではない」って言われるとちょっとドキッとしますよね。それも大事なことだと考えています。


つらい状態にある人に、産業医としてのセカンドオピニオンと、就業環境調整のアドバイスを

――先生は精神科の臨床医であるとともに産業医です。産業医としては企業の従業員を「診察・診断」はできないと思うのですが、その辺りの線引きはどのようにされているのでしょうか。


はい、「診断・治療をする立場ではない」ということは最初にお伝えしています。

そして何らかの治療が必要だとなれば「きちんと主治医の先生に診てもらって下さいね」と言って、クリニック探しのお手伝いをすることもあります。

とはいえ治療につなぐ上で何らかの見立てがまず必要になります。

「主治医と産業医とで役割や立場は異なりますが、わたしの精神科医としての見立てはおおむね間違ってはいないと思います。なので、この意見はセカンドオピニオンだと思って聞いて下さいね」とお話ししています。

もちろん治療は主治医の先生が行うのですが、職場の環境、上長との関係、仕事の内容や量などについてはやはり産業医であるわたしのほうが知っている情報が多いわけです。

ですので、業務量の調整、配置転換、休職や復職についてのアドバイスといった面ではお力になれることが多いと感じています。



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