【教えて!山越先生】嘱託産業医にどうやって業務を依頼する?~後編~(5)

​​​​​​​嘱託産業医にどうやって業務を依頼する?~後編~の山越先生のイメージ写真

産業医の山越志保先生が、人事労務担当者の疑問や悩みに答える「教えて!山越先生」。

第5回となる今回は、前回に引き続き「嘱託産業医への業務依頼」についてのお悩みにお答えします。

▼前回の記事はこちら

嘱託産業医にどうやって業務を依頼する?教えて!山越先生 よろず健康相談室 第4回

(人事労務担当者)  これまで専属産業医がいるような大企業にいた経験しかなく、月1回程度の訪問頻度の嘱託産業医とどのように関わればいいのか、どの程度まで業務をお願いしていいのか、といった対応の仕方が分かりません。教えてください。

(山越先生) ​​​​​​​前回では、嘱託産業医に依頼する業務として5つの柱をご紹介し、人事担当者がそのロードマップを描き、バランスよく、優先順位をつけて、業務を進めていきましょうとお話ししました。

【産業保健実務における5つの柱】

  1. 衛生委員会の開催
  2. 職場巡視
  3. 定期健康診断の事後措置
  4. 過重労働対策
  5. メンタルヘルス対策

そして、1番から3番の柱までは詳しくお話しさせていただきましたので、今回は、後半の4番目と5番目の柱についてご紹介していきたいと思います。

4.過重労働対策

(山越先生) ​​​​​​​『働き方改革』に伴い、以前と比べて、長時間労働の是正が叫ばれるようになりました。また、ブラック企業という言葉も浸透してきており、労働基準関係法令違反をした場合には、企業名が公表されるという時代になりました。

このため、数年前と比較しても、企業として積極的に、過重労働を正していこうという姿勢が見られるようになりました。

衛生委員会などでも、月時間外労働45時間、60時間、80時間、100時間超えた社員数、その社員が属する部署などを発表してみてはどうでしょうか。

どこの企業にも繁忙期というものがあると思いますが、過重労働になる時期・部署の傾向が見えてくると思います。

それから、過重労働社員さんも割と決まった方がなる傾向にあるため、月時間外労働が80時間を超える社員さんは、本人だけでなく、上司を含めて産業医面談をしてみることをオススメします。

まずは、社員さん本人のみの面談で、本人が業務に耐えうる体調かどうかの確認をするだけでなく、現在の業務はどうなのか、正直どう思っているのかなどを産業医が具体的に聞き出すことで、過重労働に陥ってしまう原因などがはっきりしてくることがあります。

その後、上司と人事担当者、産業医とで、面談のフィードバックを兼ねて、打ち合わせをするのです。組織の中の人には、見えなくなっている過重労働に陥る原因・仕組みを産業医との打ち合わせを通して、洗い出すことができるかもしれません。

また、労働安全衛生規則第52条の2の関係により、月時間外労働80時間を超えた社員の氏名、時間外労働に関する情報をリストアップして、産業医に確認してもらい、産業医の署名、捺印をもらうようにしましょう。

5.メンタルヘルス対策

(山越先生) ​​​​​​​一般の雑誌でもメンヘルという言葉が出てくるくらい、メンタルヘルス不調が一般の人々にも知られるようになってきました。

そして、労働災害請求・認定でも精神障害による労災が年々増加傾向です。産業構造の変化、インターネットの発達など時代が大きく、スピード感を持って変化する中で、企業としてメンタルヘルスへの取り組みが非常に重要になってきました。

じゃあ、何をすればいいの? どこから手を付ければいいの?といったところが本音としてあるでしょうか。当然、今現在、メンタルヘルス不調者がいればその対応を産業医とともに検討していく必要があります。

メンタルヘルス不調者が社内にいないということであれば、下記の2点から開始することをオススメします。

  1. メンタルヘルス不調者の早期発見・早期対応
  2. メンタルヘルス不調者の予防


①メンタルヘルス不調者の早期発見・早期対応

①においては、まず、勤怠や身だしなみ、仕事のパフォーマンスなどの乱れがないかをチェックすることです。

例えば、遅刻が増えた、急な欠勤が増えた、休日明けの月曜日に休むなど勤怠が乱れている社員、過重労働社員さん、そのほかには、急に身だしなみがだらしなくなった、化粧をしなくなったとか、仕事のパフォーマンスが低下した社員さんなどが要注意です。

まずは、それらの気になる社員さんに「体調はどうですか?疲れてませんか?」といったように、声かけをしてみてはいかがでしょうか。

あまり、親しくないというようでしたら、直属上司からお声かけしていただいてもいいかもしれません。なるべく、2人だけのときに、声をかけるのがポイントで、話しやすい雰囲気を作ることも大切です。

それで社員さんから「実は…」という話になるかもしれないし、ならなくても、心配であれば、社員の勤怠や業務などを含め日頃の様子を産業医に相談してみるといいと思います。それから、必要があれば、産業医面談につないでいくといいでしょう。

②メンタルヘルス不調者の予防

②も大変重要です。メンタルヘルス不調者が発生した場合なども合わせて②を対策していかないと、いわゆる「もぐら叩き状態」となります。

確かに、現在発生している、もしくは発生しそうなメンタルヘルス不調者への対応も重要です。ただし、メンタル疾患も身体の病気と同じく、早期の対応が非常に大切です。

メンタルヘルス不調が悪化しまくってから対処しようとすると、労力、お金、時間を多く費やすことになるでしょう。

そして、予防中心に動いていく事で結果的にはメンタルヘルス不調者への早期の対応ができ、社員さんも喜ぶ。会社としてもコスト削減、生産性向上につながっていき、会社も喜ぶということになるかなあと思います。

その予防を行わないと、メンタルヘルス対策としては、片手落ちになってしまう可能性があります。こうして、文面で読んでいると、「なるほど」と思われるのですが、日々の業務のほかにメンタル事例対応に追われると意外と予防まで手がまわらないものです。では、どうしたらよいでしょうか?

予防の際に考えたいのは、メンタルヘルスを行う上での、「4つのケア

  1. セルフケア
  2. ラインによるケア
  3. 事業場内産業保健スタッフなどによるケア
  4. 事業場外資源によるケア

特に、中小企業においては①、②から行うことが重要かと思います。そこで①としてはストレスチェックをうまく活用することをオススメします。

ストレスチェックで

「高ストレス=悪」と勘違いしている社員さん、上司、人事担当者をお見受けします

そうではなくて、現在、高ストレスであることを自分で認識してもらって、自分なりのストレス解消法を見つけたり、仕事の進め方を変えてみたり、といったセルフケアをするように社員さんにオススメします。

そして、衛生委員会の講話で、産業医にメンタルヘルスのセルフケアについて、お話してもらい、それを全社に周知徹底するということもやり方の一つではないでしょうか。

社員さんの中には、メンタルヘルス不調に対して無防備な人もまだまだいます。

そして、セルフケアと同時に②ラインによるケアを進めていきます。このときには、マネージャーなど、いわゆる、管理職といった人たちを集めて、産業医に管理職研修をしてもらうこともいいかもしれません。


産業保健の主役は人事担当者です

(山越先生) このように書き連ねてみると、意外と産業医にしてもらう業務は、衛生委員会への参加、職場巡視、面談だけでなく、いろいろと広がっていくのではないかなと思います。

産業医の立場から言わせていただくと、企業、人事担当者には、いい意味で、うまく産業医を活用して、ぜひ、企業の安全衛生活動を活発にしてもらいたいところです。

ただし、嘱託産業医は専属産業医ほどの時間がないため、訪問時間を無駄なく、優先順位をつけて業務をしてもらえるように、下準備、時間的なスケジュール管理を人事担当者で行い、うまく、現場と産業医をつないでいただけたらと思います。

そして、最後にお伝えしたいことは、嘱託産業医は確かに企業において医療の専門家ではありますが、あくまでアドバイザーにすぎません。実は職場の産業保健の主役は、これを読んでいる人事担当者であるあなたであることを忘れないでください。

【プロフィール】

山越 志保(やまこし しほ)/日本医師会認定産業医/労働衛生コンサルトタント(保健衛生)

都内の病院で内科医として勤務しながら、日本医師会認定産業医・労働衛生コンサルタントを取得し、産業医としての業務を開始。これまで多岐にわたる企業で、産業医業務を担ってきた。現在は、株式会社さくら事務所を設立し、臨床と産業医活動を行っている。


つづけて読みたい

▼教えて!山越先生 よろず相談室のバックナンバーはこちら。

第1回 「長時間労働の社員をどう説得すればいい?」

第2回「メンタル不調社員に産業医面談を受けてもらうには?」

第3回「二次健診の受診率を上げるには?」

第4回「嘱託産業医にどうやって業務を依頼する?」

あわせて読みたい

▼ 山越先生の過去の特集はこちら。

今の休職復職対応、ここが残念!マニュアル活用のススメ(前編) ​​​​​​​

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