【社労士に聞く】社員のメンタルヘルス対策 ≪新卒編≫


企業にとって大きな課題である、社員のメンタル不調対策。特に新卒の新入社員、人事労務担当者、40代の中間管理職のメンタル不調が増えているという。


3者それぞれによくある事例、本人や周囲が気をつけるべきこと、企業として取るべき対策などについて、社労士やカウンセラーとして多くの企業の現場で活躍している舘野聡子先生に話を聞いた。


<新卒編><人事労務担当者編><40代・中間管理職編>の3回にわけて掲載。

1回目は学生から社会人へのギャップなどでつまずきがちな新卒の事例を解説する。


舘野 聡子(たての さとこ)

株式会社ISOCIA 代表取締役/特定社会保険労務士/シニア産業カウンセラー/キャリアコンサルタント/メンタルヘルス法務主任者


民間企業に勤務後、社労士事務所に勤務。その後「ハラスメント対策」中心のコンサル会社にて電話相談および問題解決のためのコンサルティング、研修業務に従事。産業医業務を行う企業で、予防のためのメンタルヘルス対策とメンタル疾患の人へのカウンセリングに従事。2015年に社労士として独立開業、株式会社エムステージでは産業医紹介事業の立ち上げにかかわる。


さまざまなギャップ「こんなはずではなかった」


―新卒の新入社員がメンタル不調に陥りやすい理由や事例には、どんなものがありますか。


まず、学生時代とのギャップが挙げられます。

学生時代社会人になってからでは、生活や自分の「地位」に当然ながら大きな違いがあります。

たとえば、ある学生が、大学のゼミやサークルなどで行動力があり、友達も多く、周囲と良好な人間関係を構築していたとします。いわゆる「コミュ力」も高いと評価されていて、リーダーシップも発揮できていました。

しかし、会社に入ると、それまで勝ち得てきた評価や蓄積はリセットされて、一からのスタートになります。また、会社の評価基準は大学までの評価基準とは違うのが普通です。

いち新入社員として、先輩や取引先など知らない人たちばかりの中、初めての環境で人間関係を築かなくてはなりません。しかもそこでは、今までどおり振る舞っていても、誰も「リーダーシップがある」とか「コミュニケーション能力が高い」とは思ってくれません。ここでまず「こんなはずではなかった」と、つまずきを感じるようです。


―それまでの評価が“チャラ“になって、一から積み上げなければならない。しかもそこではいままでの「コミュ力」がさほど通用しないのですね。


自分と周囲との能力のギャップもあります。海外留学経験の有無による英語力の差、大学の専攻の違いによる専門知識の差、その職種に関係する資格の有無による知識の差などです。スタート地点で、すでにほかの新入社員と大きく差がついているように感じ、「周囲のほうが優れている」と落ち込んでしまうようです


―これも「こんなはずではなかった」ですね。

 

会社への期待と現実とのギャップもあります。たとえば、本人が望んで入った会社でも、入社前に考えていた会社のイメージと現実とはもちろん異なります。最初からやりがいを感じられたり、華やかな仕事ができたりするわけではありませんから、「こんなはずではなかった」と思ってしまう。会社に失望して、やる気をなくしてしまうのですね。

ガソリンスタンド、工場のライン、営業支店などで研修をしていて、現場の叩き上げの人に思わぬことで叱責され、くじけてしまう例もあります。

配属先で失望する人もいます。思っていた部署やチームでなかった、同期の配属先で働きたかった、同期についた上司がうらやましいなど、同僚のほうがよい環境で仕事ができているように思ってしまうのです。さまざまな小さな差異が、決定的なキャリアの差につながると考えてしまいます。

そのほか、もともと別の会社に就職したかったのに、親に反対され、しぶしぶ親が認める有名企業や大企業に入った後で「こんなはずではなかった」と思う人も多いようです。親が本人の進路に介入しすぎるなど、親子関係に問題があることもあります。

  

―「5月病」と言われますが、メンタルヘルス不調になりやすいのはゴールデンウィーク明けなどが多いのでしょうか。


むしろ、6、7月に増えているように思います。研修期間や研修後の配属期間に当たるからです。

学生時代にそれなりのポジションにいた人に限って、入社後にそれが維持できなかったり、「思った環境ではなかった」「こんなつまらない仕事をしなくてはならないのか」という失望感を持ったりして、やりがいが見えなくなってしまいがちです。また、思わぬ叱責や他人との比較など、些細なことで自信を失い、自分の居場所がないと感じるのです。「この会社でこれから先やっていけるのか」と悩んでしまいます。入社たった3ヶ月くらいで異動希望を出すケース、出社することができなくなるケースも珍しくありません。


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 声をかけ、「承認されている」という感覚を与える



―ちょっとしたことで、自分の居場所が見つけられなくなるのですね。周囲はどうしたらいいのでしょうか。


上司よりも年の近い、メンターのような人がいれば理想的です。そういう人からの声かけが大事です。「自分もそうだった。同じような経験をして、同じように悩んでいた」「この仕事は無意味に思えても、必ず将来につながる」ということを伝えてほしいです。ひとりで悩んだままにさせないことです。

「あなたの今の気持ちは、あなただけでなくみんな経験していることだ」ということが伝わるだけでもずいぶん違います。そして、「今やっていることにも価値がある」と繰り返し伝えてあげてください。


―上司よりもメンターのほうがいいのですか。


会社に慣れるまでは、年の離れた上司より、年の近い先輩の言葉のほうが有効であることが多いですね。


―上司はどう接したらいいでしょう。


承認されているという感覚を持たせてあげることが大事です。「入社してくれてありがとう」「あなたのことはちゃんと見ている。今はできないことがあるかもしれないが、これからの会社には君が必要だと思っている」ということを伝えてください。

相手は、自信を失ったり、自分を見失ったりして、会社にいていいのか分からなくなっているのです。だから「信頼している」、「あなたのことを認めている」、「いてほしいと思っている」ことを伝え、応援してほしいのです。そのためにはまず、声をかけることです。


―上司と新卒の新入社員に年の差がありすぎて、コミュニケーションがとりづらいこともあります。


もし世代に隔たりがありすぎるなら、その間を埋めるような人を配置するなど配慮したほうがいいですね。そうでなければ、メンター制度などで成長支援をする体制があるとよいと思います。ただし、メンター自身にも教育が必要で、「ただ、飲みに連れていけばいいんだろう」くらいの認識ではだめです。


―声かけ以外の対策にはどういうものがありますか。


生活面からの管理も大切です。生活習慣の乱れがメンタルヘルスに悪影響を与えることがわかってきました。睡眠時間、バランスの取れた食事、適度な運動などしっかりと生活習慣を整えると気持ちの落ち込みを予防できる可能性があります。

新入社員は学生時代からの夜型生活をひきずっている人も多く、深夜まで起きていて、ちょっと寝て出社するなど、明らかに睡眠時間が足りていなかったり、食事も菓子パンなど簡単に食べられるものに偏っていたりします。

そういう生活習慣を改善して、特に睡眠が改善するだけで気分が軽くなる人もいます。

産業医面談は疲れやストレスを専門家の立場から見てアドバイスを受けられる、今後困ったときの相談できる医師として連携をする、などの面からも有効です。新入社員は入社後、産業医面談を必ず全員が受けるという対策をとっている会社もあります。とてもいい取り組みだと思います。


最もだめなのは、放置や孤立化



―絶対にしてはいけないことはなんでしょう。


気づかず、放置するのが一番よくないですね。元気そうに見えても、それだけで本当に元気かはわかりません。大丈夫だと思うのは、周囲の勝手な見立てに過ぎないこともあります。

2、3年目の社員なら、パフォーマンスの低下などで、元気なときとの比較ができますが、新卒は変化が見えにくいです。入社後1年くらいは面談を頻繁にするなど、おせっかいなくらいに介入して、気をつけておく必要があります。落ち込んでも自力で回復する人もいますが、夏休みなどまとまった期間休んだ後、「もう会社に戻れない」と思い詰めてしまう人もいます。


―新卒の場合、入社前の状態をみんなが知らないので、比較できず変化がわかりにくいということですね。なにかサインはあるのでしょうか。


明らかに元気がない、思いつめたような表情をしている、ちょっとしたことで泣くなど涙もろくなっている、大きく落ち込む―などはメンタルヘルス不調の兆候として、参考にしてもらうといいと思います。


 ―ほかに注意することはありますか。


いまの若い世代はLINEが日常の連絡手段で、メールはあまり使わないなど、連絡の方法ひとつとっても上の世代とは違います。仕事のやり方も違って当然です。上の世代から見て、「KY」な振る舞いに見えても、世代間の常識の違いによるものだったり、きちんと説明されていないためにとった行動だったりします。それを頭ごなしに「わがまま」とか「非常識」と切り捨てないことです。今の管理職も若いころは「新人類」とか言われてきたでしょう。

例えば、新入社員が「これって残業つくんですか」などの労働条件に対する素朴な疑問を投げてきたとします。「そんなことを聞くな」と抑圧するのはNGです。法令順守は会社の義務ですし、聞くこと自体全く問題ありません。上の世代の「自分はそんなこと【忖度して】聞かなかった」、というのは新入社員の疑問とは全く関係ないことです。きちんと状況を説明してあげてください。


 ―新卒入社の社員はどのような心構えでいればいいのでしょう。


目先のつらさにとらわれすぎないほうがいいでしょう。今の積み重ねが、必ず今後の仕事のしやすさをつくっていきます。入社したばかりで何もできないのは当たり前です。少しずつ仕事をしていくうち、信頼を得て、「次もあの人にこの仕事を頼もう」と思われるようになり、だんだん楽になっていくものです。

 

周囲や上司の方にお願いしたいのは、今つらそうにしている新卒入社の社員に、「この先に仕事のしやすさがある」「やりがいが見つけられる」という、先のビジョンを見せることです。そして、繰り返しになりますが、「あなたに来てもらって感謝している」「ここで一緒に働いてほしいんだ」ということを伝えること。そして、この会社で働いてよかったと思ってもらうことを目標にしてほしいですね。


文/奥田由意 編集/サンポナビ編集部

>>>2回目は、さまざまな相談に応じるうち、自身のメンタルが不調に陥ってしまいがちな ≪人事労務担当者≫ のケースを解説します。

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