【社労士に聞く】社員のメンタルヘルス対策 ≪40代・中間管理職編≫

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社労士の舘野聡子先生に教わる社内のメンタルヘルス不調対策。≪新卒編≫人事・労務担当者編≫に続く3回目は、中間管理職になったばかりで、不調に陥りやすい40代の対処法を解説する。


舘野 聡子(たての さとこ)​​​​​​​

株式会社ISOCIA 代表取締役/特定社会保険労務士/シニア産業カウンセラー/キャリアコンサルタント/メンタルヘルス法務主任者


民間企業に勤務後、社労士事務所に勤務。その後「ハラスメント対策」中心のコンサル会社にて電話相談および問題解決のためのコンサルティング、研修業務に従事。産業医業務を行う企業で、予防のためのメンタルヘルス対策とメンタル疾患の人へのカウンセリングに従事。2015年に社労士として独立開業、株式会社エムステージでは産業医紹介事業の立ち上げにかかわる。

これまでできた業務も責任が増えると負担に


―40代の場合、どんな人がメンタルヘルス不調になりやすいですか。


新卒と並んで、メンタルヘルス不調が多い年代です。特に昇進や異動のタイミングで不調になりやすいですね。

20年近く仕事をしてきて、当然自分の業務や役割はわかっていて、責任感も十分にあるのですが、昇進で重くなった責任に堪えられないという人がいます。「ここまではなんとか来たけれど、管理職のような仕事は自分にできるのだろうか」とか「結果が出せなかったらどうしよう」など不安に思うのです。これまでは示された課題に向かってがんばれたのに、業績に関した責任が重くなると仕事に集中できなくなることもあります。今まで普通にやってきたことであるにもかかわらず、です。


―マネジャーに初めてなった人が、部下を持つことを「難しい」と感じる話はよく耳にしますね。


上に立ち、人に何かを指示したり、仕事を振ったりする難しさですね。自分が指示されるだけならよかったし、2、3人の後輩に仕事を振るくらいなら問題はなかったのです。しかし、大勢の部下に仕事を振るということに難しさを感じます。管理職になるとそれに伴って会議や打ち合わせなど時間がとられることが増えますし、指示しなければならないことも多くスピード感も求められる。トラブルがあれば、それにも対処しなければなりません。

一番大変なのは、部下が指示通りに動かないとか、年上だという場合です。指示を出す前に「部下になんていえばいいだろう」と悩み、そのあとは「部下にどんなふうに思われただろうか」と悩んでしまう。そういったことが複合的な原因となりメンタルヘルス不調が引き起こされるケースにも遭遇したことがあります。



―動かない部下がいると大変そうですね。


チームがよければいいのですが、指示通りに動かない部下ばかりで、かつその部下たちのコミュニケーション能力が低いとか、部下とそりがあわないということになると、指示をするのが面倒で、全部自分でやってしまうということになりがちです。本来は自分の上司に支援を仰いでもいいのですが、「そんなことをすると、自分ができないことを証明することになる」と思い、言えないわけです。結果一人で抱え込み、プロジェクトが破綻し、さらには会社に来られなくなったりします。


―なぜ人に仕事を振れないのでしょうか。

 

これまでやらせてできなかったという経験がある場合、あるいは説明するより、自分がやったほうが早いと思っている場合、自分にも人にも厳しいいわゆる完璧主義で、求めるレベルが高く、人に任せられない場合などがあります。


―部下の分まで仕事をしていたら、時間がいくらあっても足りないですよね。


自分の仕事だけを考えても、忙しすぎるということも多いです。労災認定される中には、仕事量が多すぎて、なんとか仕事をおわらせないといけないという責任感が強い性格も相まって休めずに過労になってしまった例もありました。そのうえ部下に任せられないことも重なるとお手上げです。


―女性管理職のメンタルヘルス不調で、特徴的なパターンはありますか。


「女性管理職を増やすという数値目標で抜擢された」と陰口を言われて、メンタルヘルス不調になることがあります。他人からのいわれない中傷を、そのまま受け止めてしまい本当にできないと思いこんでしまうのです。


―企業として、40代のメンタルヘルス不調に対しどのような対策ができますか。


誰かを管理職に抜擢したなら、その上司はまず「あなただから抜擢した。フォローやサポートはする」としっかり伝えて下さい。それは男性であろうと女性であろうと同じことです。

知識面の管理職研修だけでなく、管理職になったときとそれ以前とのさまざまな心理的なギャップを埋めるフォローは必要です。特に直属の上司のフォローですね。「あなたに任せたいから、やってほしい」「困ったら相談に乗る。そして、そのことで悪い評価はしない」という安心感を与えることが必要です。そして実際にちゃんと相談に乗ってください。



―管理職の管理職、すなわち上司がケアをするのですね。


更に上の方だと大変お忙しい方が多いと思います。しかしケアすることで大事な部下を失わずにすむ。管理職が倒れてしまったら大変な損失です。手厚くケアして、事態を悪化させないことです。

管理職の上司は役員である場合も多く、相談されても「気にせず部下に仕事を振ればいい」などと簡単に言ってしまい、本人の葛藤になかなか思い至らないものです。管理職が「マイナス評価になるから、上司に問題を相談したり、不安を口に出したりすることができない」と思ってしまう状態を作らないでほしいですね。


心身の不調について自覚できることが大切



―管理職になると、部下のメンタルヘルスケアについての研修があるところは多いようです。


部下に対してもですが、それと同様に管理職自身が自分でメンタルヘルスケアできることも重要です。メンタルヘルスケアについて管理職自身にも教育をし、不調に陥っていないか自覚できるようにしてほしいです。

また、家族、友人などのプライベートが充実していると会社の評価だけにとらわれないですむので、不調を回避できます。逆に家族の問題、たとえば、配偶者との関係がうまくいっていないとか、子どもが不登校になったなどの要因も複合的に重なってメンタルヘルス不調につながることがあります。

仕事の関係はうまくいっているのに、プライベートの人間関係が仕事に悪影響を及ぼす人もいます。


―人間関係の悩みも多くなるうえ、40代は身体も若い頃と同じではないですよね。


はい。身体の負荷が大きくなっていることを知るのも大切ですね。体力の低下で疲れやすくなっています。家族の介護が重なることもありますし、仕事のプレッシャー、家庭の責任、個人の体調と数え上げると、3重苦、4重苦のような状態です。


―体調不良だと、よけいに気分が落ち込みがちになると、1回目の≪新卒編≫でもおっしゃっていました。


メンタルヘルス不調は、体調不良という形でも現れますから、体調の管理をしっかりすることも大事です。喫煙、飲酒を控え、睡眠を整えて下さい。体力が充実していれば困難は乗り越えられるものです。自分で心身の不調を捉えるようにして、ストレスの把握をすることで早めの対処につながります。


―不調について自覚するよい方法はありますか。

 

自分の行動をときどき振り返るといいですね。自分を知ることで、行動変容につなげることができます。例えば睡眠が足りていないと判断ミスが増えがちだと気づくなど、どういうタイミングで自分が不調になるかを知ることです。飲酒で眠りが浅いとわかっていれば、大事なプレゼンがある前日は飲まないようにするなど、あらかじめ悪いことが起こる確率を低く抑えられます。昼寝などで細かく区切って仮眠しても熟睡できないとわかったら、夜まで眠るのを我慢してまとまった時間眠るなど、質のよい睡眠をとるための工夫もしましょう。

誰にとっても言えることですが、運動、睡眠、食事が整えば、メンタル不調を食い止めやすくなります。スマートフォンのアプリなどを使って、睡眠時間や一定の時刻の脈拍など、ライフログを取ることをお勧めします。自分で原因まで気づくのが難しいという方は、早い段階で職場の産業医や保健師、カウンセラーに相談してください。きっと有益なアドバイスをもらえるはずです。


完璧主義やめ、よしとする基準下げて



―40代の心構えとして助言はありますか。


完璧主義をやめて、基準を下げることですね。いろいろと煮詰まってしまったら、「生きているだけで自分はたいしたものだ」とか、「会社に来ただけでえらい」くらいまで、よしとする基準を下げることが大事です。完璧な人など一人もいないんですよ。


すべての世代、人事労務担当者にも言えることですが、相談できる人をつくっておくことを強くお勧めします。カウンセラーでもよいですし、家族、友人、飲み屋のママなど誰でもいいのです。まるごとの自分を肯定してもらえることで、不用意に傷つかなくてすみます。

今はカウンセリングも、対面、オンライン、SNSなどさまざまな相談の方法があるので、ご自身にあったものを見つけ、活用してみてください。​​​​​​​


文/奥田由意 編集/サンポナビ編集部


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