【Q&A】職場のメンタルヘルス対応・社労士が解説する6つのポイント
(最終更新日:2019年12月20日)
2019年6月28日に厚生労働省が公表した「過労死等の労災補償状況」によると、精神障害に関する労災の請求件数は前年度増となりました。
メンタルヘルスによる休職を防ぐため、企業では従業員のフォローを行うことが求められています。
しかし「メンタルヘルス対策って、何から取り組めばいいの?」という人事担当者の方も多いでしょう。
今回は「職場で取り組むメンタルヘルス」について「Q&A形式」でお伝えします!
解説していただくのは、特定社会保険労務士の舘野 聡子先生です。
プロフィール:舘野 聡子(たての さとこ)
株式会社ISOCIA 代表取締役/特定社会保険労務士/シニア産業カウンセラー/キャリアコンサルタント/メンタルヘルス法務主任者
民間企業に勤務後、社労士事務所に勤務。その後「ハラスメント対策」中心のコンサル会社にて電話相談および問題解決のためのコンサルティング、研修業務に従事。産業医業務を行う企業で、予防のためのメンタルヘルス対策とメンタル疾患の人へのカウンセリングに従事。2015年に社労士として独立開業、株式会社エムステージでは産業医紹介事業の立ち上げにかかわる。
目次[非表示]
ポイント①:「メンタルヘルス不調」とは何かを知る
――そもそも「メンタルヘルス不調」とは、どのような状態のことを指すのでしょうか?
これについては、厚生労働省が次のように定義しています。
精神及び行動の障害に分類される精神障害や自殺のみならず、ストレスや強い悩み、不安など、労働者の心身の健康、社会生活及び生活の質に影響を与える可能性のある精神的及び行動上の問題を幅広く含むものをいう
引用元:厚生労働省 「労働者の心の健康の保持増進のための指針」
いわゆる病名がついている状態だけではなく、何らかの強いストレスや悩みなどを抱えている状態もメンタルヘルス不調にあてはまることが示されています。
ポイント②:メンタルヘルス対策に欠かせない「4つのケア」
――メンタルヘルスケアは人事・労務担当者だけが取り組むことなのでしょうか?
そんなことはありません。厚生労働省の「労働者の心の健康の保持増進のための指針」の中でも、メンタルヘルスケアは4つの種類に分けて示されています。
メンタルヘルスケアは、「セルフケア」、「ラインによるケア」、「事業場内産業保健スタッフ等によるケ ア」及び「事業場外資源によるケア」の「4つのケア」が継続的かつ計画的に行われることが重要
引用元:厚生労働省 「労働者の心の健康の保持増進のための指針」
この図の3つめの「事業場内産業保健スタッフ等」には、下記の役割の人たちが含まれています。
- 産業医等
- 保健師等
- 心の健康づくり専門スタッフ
- 人事労務管理スタッフ
- 事業場内メンタルヘルス推進担当者
社員自身、周囲の同僚や上司、産業保健の専門スタッフ、外部資源が、各段階で適切に連携しつつ、メンタルヘルスケアを推進していく仕組みを作っていくことが、企業としての務めだと言えます。
ポイント③:メンタルヘルス不調に対する❝3段階❞の予防策
――では、そのメンタルヘルス不調を予防するためには、どのような対策があるのでしょうか?
どの段階で対応するかという点で、大きく3つに分けることができます。
1次予防:メンタルヘルスを未然防止する
メンタルヘルス不調が起こる前に、予防をする段階です。
具体的には、メンタルヘルスケアの教育研修・情報提供や、ストレスチェック制度の活用して職場環境の改善をしていくこと、などがあげられます。
2次予防:メンタルヘルス不調を早期に発見し、適切な措置を行う
不調者がいたら早めに発見し、対応する段階です。
不調者自身が自分の状態に気づき自発的に相談したり、周囲の人がいつもと違う同僚や部下の様子に気づくことで、産業医面談、医療機関への受診などの適切な措置を行います。
3次予防:メンタルヘルス不調となった労働者の職場復帰支援等を行う
メンタルヘルス不調となって休職してしまった社員に、職場支援などを行う段階です。
休職に入ってから、復職後に問題が発生していないかのフォローアップまで、一連の流れの中で適切な復職支援を行います。
メンタルヘルスを未然防止する1次予防が重要であることは言うまでもありませんが、残念ながら休職となってしまった場合も、復職をゴールに見据えた3次予防に取り組むことで、復職後の再休職を防止していきましょう。
ポイント④:職場復帰支援の流れを理解する
――3次予防の休職開始から職場復帰までの流れは、具体的にどのようなステップを辿るのでしょうか?
休業開始から職場復帰まで、全体で第1ステップから第5ステップまであります。特に大事なのは
第1ステップ:休業開始及び休業中のケア
第2ステップ:主治医による職場復帰可能の判断
第3ステップ:職場復帰可否の判断および職場復帰支援プランの作成
の前半3ステップです。この段階でどれだけしっかり対応するかが重要になってきます。
ポイント⑤:メンタルヘルスの休職・復職対応のために、すぐにすべきこと
――まだ休職者が出ていない段階でも、すぐにすべきことはありますか?
もちろんあります。
まずは、休職・復職に関する就業規則、ルールの確認です。もし整備されていない場合は、すぐに取り掛かりましょう。メンタルヘルスに対する理解を広めるために、研修もしておきたいです。
また、産業医との連携が欠かせないので、日頃から産業医との連携については話し合っておいてください。
まとめると、次のようになります。
メンタルヘルスの休職復職のために、すぐにすべきこと
- 就業規則内容の確認
- 休職復職ルール策定と衛生委員会での審議
- 休職復職の際に使用する帳票の整備
- メンタルヘルスと傾聴、休職復職の役割に関する管理職研修
- メンタルヘルスとセルフケアに関する一般社員研修
- 産業医との連携について協議
ポイント⑥:産業医と連携してメンタルヘルスに対応する
――「産業医との連携」が重要とのことですが、メンタルヘルス対応において、産業医はどんな役割を果たすのでしょうか?
産業医は通常の医師とは違い、病名を診断したり、処方箋を出したりすることはできません。
状況に応じて適切な医療機関を紹介したり、主治医と情報交換をしつつ、休職者の復帰可否を判断したりする立場にあります。
ここで重要なのは、産業医は「就業上の配慮の判断」ができるということです。
会社の外にいる主治医は、患者の状態の変化はわかりますが、職場の状況を見ているわけではないので、就業上問題ないレベルなのかは判断できない部分があります。また、人事・労務担当者や上司は、職場の状況はわかりますが、医学的な評価はできません。
休職者が元の職場に復帰して問題ないか、就業上の配慮を含めて、医学的なの視点で評価できるのが産業医になります。
メンタルヘルス対応における産業医の役割
- メンタル不調者に対する医学的評価
- 状態に応じた適切な医療機関への紹介
- 不調者について人事への説明
- 産業医意見書の作成
- 生活記録表等を利用した、回復状態の判断
- 主治医との情報交換
- 就業上の配慮の判断と管理監督者への説明
- 必要に応じてメンタルヘルス研修の実施
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