10項目で解説:メンタルヘルス疾患による休職・復職に対応した就業規則の作り方

就業規則とは、労働時間や賃金、人事・服務規律など、労働条件や待遇の基準、従業員が守らなければならない規律を具体的に定めた職場の規則です。

近年増えているのが、休職・復職、特にメンタルヘルス疾患による休職・復職に関する規則が不十分で、トラブルに発展するケース。

トラブルを未然に防止するために、休職に対応できる就業規則になっているか、10項目で確認してみましょう。

目次[非表示]

  1. 1.トラブル防止のために、就業規則に休職・復職規定を盛り込もう
  2. 2.10項目で見る、就業規則を改定する際のポイント
    1. 2.1.1.休職制度の対象従業員の範囲
    2. 2.2.2.休職期間と勤続年数
    3. 2.3.3.休職命令・受診命令が発令できるか
    4. 2.4.4.休職期間の賃金
    5. 2.5.5.休職期間の勤続年数
    6. 2.6.6.退職金の算定基礎への参入
    7. 2.7.7.退職・解雇など、休職期間満了時の取り扱い
    8. 2.8.8.復職時の手続き
    9. 2.9.9.復職時の産業医や会社の指定する医師の意見書の必要性
    10. 2.10.10.本人の協力を盛り込むこと



トラブル防止のために、就業規則に休職・復職規定を盛り込もう

就業規則とは、経営側と従業員が共に理解している「職場全体のルール」です。労働時間や賃金、人事・服務規律など、労働条件や待遇の基準、従業員が守らなければならない規律などを具体的に定めた職場の規則のことを指します。

近年、特にメンタルヘルス疾患による休職・復職が増えており、就業規則がそれに対応していないことで、トラブルになるケースが目立ちます。

就業規則を見直してみましょう。休職・復職の規定がありますか?メンタルヘルス疾患による休職・復職にも対応できる規則になっているでしょうか?

休職・復職については、就業規則に必ずしも定めておく事項ではありませんが、トラブル防止のために、しっかり定めておくことをおすすめします。


10項目で見る、就業規則を改定する際のポイント

まずは、自社の就業規則が休職・復職に対応しているか確認しましょう。

確認、改訂のポイントは以下になります。

  1. 休職制度の対象従業員の範囲
  2. 休職期間と勤続年数
  3. 休職命令・受診命令が発令できるか
  4. 休職期間の賃金
  5. 休職期間の勤続年数
  6. 退職金の算定基礎への参入
  7. 休職期間満了時の取り扱い
  8. 復職時の手続き
  9. 復職時の産業医や会社の指定する医師の意見書の必要性
  10. 本人の協力を盛り込むこと

就業規則に休職・復職規定を盛り込むポイントについて、具体的な内容を確認しましょう。    


1.休職制度の対象従業員の範囲

まずは休職制度の対象者を決めましょう。試用期間中や勤続が1年未満の従業員は休職制度の対象外の職場もあります。

また、体調不良の際の休職には「診断書の提出が必要」と明記する必要があります。

休職はいわば、急な病気やケガで仕事ができなくなったとしても、すぐに辞めなくてすむように作られた猶予期間。よって、会社は従業員の休職理由を確認する必要があります。


例えば従業員がメンタル不調を理由に、従業員が休職を申し出てきたとします。

しかし、使用者が診断書の提出を求めたものの、従業員に提出を拒まれた場合、使用者は労働が本当にメンタルヘルス不調であるかを確認することができないままに出勤しない状態が続くことになります。

休職規定にある休職事由に該当するかどうか、本人の申し出だけでは確認できません。

休職に入るタイミングで提出できないときは理由を確認し、提出を促す必要があります。


2.休職期間と勤続年数

休職の期間は法で決められていないため、就業規則に定められた期間になります。

休職期間については、就業年数によってに差を設けている企業が多いようです。

一般的には、主治医の診断書で必要とされる期間を休職期間としていますが、復職までにさらに療養が必要ということであれば就業規則の上限まで延長して休職することができます。

    

また、従業員が復職してすぐに休職するような、休職と復職を繰り返すケースも想定されます。

そのため、「復職から〇カ月以内に同一または類似の理由で再休職する際は、休職期間を復職前の休職と通算する」など、休職期間は通算する旨の規定を設けた方が良いでしょう。

そのような取り決めがない場合、原則として新たな休職期間が発生可能性もあります。


3.休職命令・受診命令が発令できるか

遅刻や欠勤を繰り返している従業員が、受診を拒むケースや、休職を希望しないケースが想定されます。

就業規則には一定日数の欠勤で、受診命令、休職命令をすることができる旨を明記しましょう。

規定がなければ、本人が申し出ない限り、受診や休職をさせることができないまま、遅刻や欠勤が繰り返され、業務への支障が発生し続ける可能性があります。

医療機関を受診して問題がないようであれば、遅刻や欠勤は病気が影響しているわけではないということが分かります。

本人の申し出だけでなく、医師に診察をして判断してもらう必要があります。


4.休職期間の賃金

休職した場合の給与については、就業規則で定めることができます。

一切支給しない企業もあるようですが、一定期間は満額支給して、その後徐々に減らし、最終的に無給するケースもあるようです。

賃金・給与の支払いについてはトラブルに発展することも想定されますので、予め規定しておきましょう。


5.休職期間の勤続年数

就業規則には、休職期間が勤続年数に含むか、含まないかを明記しましょう。


6.退職金の算定基礎への参入

上記と同様に、休職期間が退職金の算定基礎に参入するか、しないかを就業規則にて規定しましょう。


7.退職・解雇など、休職期間満了時の取り扱い

休職期間が満了しても復職ができない場合について、予め就業規則に定めた方が良いでしょう。

自動的に退職とする企業が多いようですが、解雇とする企業もあります。

休職と解雇・退職に関しては紛争に発展するケースもあるため、過去の裁判例等から「どのようなケースがトラブルになるか」といった点を確認しておくことがおすすめです。

裁判例はこちらから:労働政策研究・研修機構「休職制度と職場復帰」


8.復職時の手続き

休職制度は、休職の事由が消滅すれば復帰することが前提の制度です。   

私傷病の療養のための休職の場合、仕事ができる状態になれば休職の事由が消滅し、職場復帰することになります。

休職の事由が消滅したかどうかは、本人が主治医の診断書などを提出するほか、産業医等医師の面談で会社が判断します。

復職が可能と判断された場合は、一定期間勤務時間を短縮する時短勤務や残業の制限などの就業制限を実施しながら少しずつ職場に慣れていくようにする職場が一般的です。

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9.復職時の産業医や会社の指定する医師の意見書の必要性

復職にあたり、休職者が産業医面談を拒むケースも考えられます。

復職には、産業医の意見書が必要だということを明記しておいた方がいいでしょう。ただ、産業医と休職者との相性が悪い場合もあります。リスクを避けるために会社の指定する医師でも良い旨を書いておきましょう。


10.本人の協力を盛り込むこと

復職の際の判断や、復職後の配慮事項などについて主治医から意見をもらいたいという場合に、本人の同意や協力が必要になることがあります。本人のための面談ですので、会社の要請があった場合には協力するという内容を入れておくことをお勧めします。


就業規則に休職・復職規定を盛り込むポイントについて確認できましたか?

トラブル発生を事前に防ぐためにも、就業規則の作成は専門家に監修してもらうことをおすすめします。

記事監修:特定社会保険労務士 舘野聡子


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舘野聡子

舘野聡子

たての・さとこ 株式会社ISOCIA 代表取締役/特定社会保険労務士/シニア産業カウンセラー/キャリアコンサルタント/メンタルヘルス法務主任者 民間企業に勤務後、社労士事務所に勤務。その後「ハラスメント対策」中心のコンサル会社にて電話相談および問題解決のためのコンサルティング、研修業務に従事。産業医業務を行う企業で、予防のためのメンタルヘルス対策とメンタル疾患の人へのカウンセリングに従事。2015年に社労士として独立開業、株式会社エムステージでは産業医紹介事業の立ち上げにかかわる。

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