〈産業医コラム〉考え方のクセとの付き合い方について
日本医師会認定産業医
菊池 広大
「同僚があなたの忘れた書類に気がついて、わざわざ追いかけて届けてくれた」こんなとき、皆さんはどのように考えますか。「届けてくれて助かった」と考える人もいるでしょう。
また「自分のためにわざわざ悪いなぁ」と考える人もいるかもしれません。このように起こった事実は一つでも、捉え方・考え方はいくつもあります。事実をどのように考えるかは自分の気分に影響を与えますし、反対に自分の気分が考え方に影響を与えることもあります。
日々の生活の中ですべてについて根拠をもって論理的に思考して生きることは現実的ではありません。そのため人は誰しも考え方の傾向、つまり考え方のクセを持っています。以下に考え方のクセの一覧をまとめました。
1.全か無か思考
柔軟さを失い、一括りで結論づける
2.過度の一般化
「いつもうまくいかないと」決めつける
3.心のフィルター
1つの悪いことにこだわりいい事を無視する
4.マイナス化思考
なんでもないことをネガティブに意味づける
5.結論の飛躍
根拠が無いのに悲観的な結論を出す
6.誇大視と過小評価
悪いことは大きく、良いことは小さく捉える
7.感情的決めつけ
客観的な事実より、感情を事実の証拠にする
8.すべき思考
強迫観念や義務感から自分を追い詰める
9.レッテル貼り
極端な決めつけ、偏見の確信化
10.自己関連付け
「自分のせいだ」と自己評価を下げる
いくつか身に覚えのある考え方があったのではないでしょうか。
このように見てみると多くの方はこれらの考え方をしないようにしようと思うかもしれません。
しかし自分の考え方のクセを消すことはなかなかできません。重要なのは考え方のクセを消すことではなく、考え方を増やすことです。前述の事例でも「自分のためにわざわざ悪いなぁ」という考え方のほかに「届けてくれて助かった」という考え方もあると気がつくことです。
「自分のためにわざわざ悪いなぁ」という考え方だけだったときは、そこから生じた「罪悪感」が感情の100%を占めてしまっている状態です。「届けてくれて助かった」という考え方を増やすことで、そこから「喜び」などの感情が生じれば「罪悪感」50%、「喜び」50%となり、「罪悪感」のウエイトは減少します。このような自然と浮かぶ考え方のクセ以外の新しい考え方を「バランス思考」と呼びます。
ではバランス思考を探し出すにはどのようにしたらいいのでしょうか。簡単な方法をご紹介します。それは自然に浮かんできた、考え方のクセに対して以下のような点を考えてみることです。
友達が同じことを考えていたら何と言ってあげたいか?
.以前同じようなことはなかったか?その時どのように対処したか?
自分ではどうしようもないことで自分を責めていないか?
何のためにそう考えるのか?
自分は何を心配しているのか?
自分自身に何と言ってあげたいか?
一つでもバランス思考が思いつけば、ストレスに感じていた感情のウエイトは半分になります。たった一度、行っただけでは大きな変化はないかもしれません。繰り返し行うことで、考え方のクセのすぐ後にセットでバランス思考も思い浮かぶようになってくればしめたものです。
考え方のクセは誰にでもあるものです。それは一人ひとりの今までの人生の中で必要に迫られて身につけてきた処世術のようなものです。
ですから考え方のクセがあることで、自分はダメなのだとは思わないでください。ただその考え方のクセによって、もし辛くなってしまっているのなら、今回ご紹介した方法を試すことで少し楽になっていただけたら幸いです。
文章出典:株式会社イーウェル「健康コラム」より寄稿