復職してもまた休職してしまう社員への適切な復職支援とは?
2017年1月「うつ病による傷病休暇から復職した社員の47.1%が、5年以内に傷病休暇を再取得している」という厚生労働省研究班の調査結果が発表されました。
このニュースに衝撃を受けた人事担当者は、多かったのではないでしょうか。
先の調査結果は「うつ病は元々再発しやすい」と結論づけられていましたが、インターネット上では「回復する前に復職せざるを得なかったのでは?」「会社は適切な対応ができていたのだろうか」といった意見が出るなど、活発な議論が行われました。
今回は、復職対応の基本を振り返りながら、人事担当としてどのような復職支援を行えば、再休職を防ぐことができるのか考えてみましょう。
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<目次>
復職に関わる関係者とは?
休職から復職に至るまでは、会社と休職者の間で何度か面談が設けられます。復職判断に関わることになるのは、主に次の5者です。
1. 休職者本人
復職にあたっては、何よりも「復職したい」という本人の意思が必要です。
2. 休職者の主治医
休職者の復職の希望を受けて「復職可能かどうか」という診断を下します。
3. 休職者の上司
休職者から希望があった場合、休職中の連絡窓口を務めることもあります。
4. 人事担当者
原則として、休職中の連絡窓口から復職のフォローアップまで全てを担当します。
5. 産業医
会社からの依頼を受けて休職者と面談し、復職の可否について意見します。
私傷病休暇で休職した社員の復職までの流れ
厚生労働省の「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」によると、メンタルヘルス不調者が私傷病休暇を取得した場合、復職までには大きく分けて次の5ステップがあります。
1. 病気休業開始及び休業中のケア
2. 主治医による職場復帰可能の判断
3. 職場復帰の可否の判断及び職場復帰支援プランの作成
4. 最終的な職場復帰の決定
【職場復帰】
5. 職場復帰後のフォローアップ
上の見出しを見ても、人事担当者として具体的に何をすべきかピンと来ないかもしれません。
続けて、各項目について詳しく見ていきましょう。
1.病気休業開始及び休業中のケア ~休職中の過ごし方~
休職者の状態や会社の方針にもよるためケースバイケースですが、休職中の経過としては次のような例が考えられます。
<休職前期>
不眠や食欲減退を緩和していく、リラックス期間です。処方された薬がある場合は、決められた量だけ飲みながら、生活を整えていきます。
リラックス期間といっても、旅行に出る、人と会う等の積極的な楽しみは控えて、ひたすらボーっとする、テレビを見る、横になる等、受動的な楽しみを見つけることから始め、徐々に意欲を取り戻していくことが大切です。
会社からの連絡が心理的な負担になりやすい時期なので、会社支給の携帯電話やPC等は渡さない方が良いでしょう。
連絡頻度は、2ヶ月に1回~月に1回を目安に、休職者の状態に合わせて決めます。1ヶ月程で回復を感じられる場合もあれば、半年以上かかることもあります。
<休職後期>
休職者が、人に会ったり、買い物に出かけたりすることが苦でなくなり、以前のような日常生活が送れるようになってきたら、復職へ向けたリハビリをスタートします。まずは、何時に寝て何時に起きたのか、食事は何時に何回とったのか等がわかるように、生活記録表をつけてもらいましょう。
これまでメールや電話でとっていた連絡を面談に切り替えるのも、復職に向けた大きな一歩。リワーク・プログラムの利用や職場復帰を見据えたリハビリは、この時期から徐々に始めると良いでしょう。
例えばPCを使う事務職の場合、まず「PCの前に座り続けること」から慣れていく必要があります。「そんな簡単なことから?」と驚くかもしれませんが、そうした「ごく簡単ことができないくらい不調に陥ったため、休職している」という事実を忘れてはいけません。
2.主治医による職場復帰可能の判断 ~主治医は休職者寄りの判断に!?~
休職者が「復職したい」という意向を主治医に伝えた場合、主治医は休職者が復職可能な状態かどうかを判断します。もちろん、全く回復していない場合、主治医が「復帰可能」という診断を下すことはありませんが、主治医は患者である休職者寄りの診断を下しやすいことは念頭に置いておきましょう。
また、休職者の主治医だからといって、休職者の職務や職場環境、そして会社のどの部署でどのような業務を行っているかを熟知しているわけではありません。そこで、主治医といえども不調の原因が完全に排除されているかどうかを判断することは非常に難しく、「軽微な作業なら可」といった曖昧な診断を下すことが多くなります。
そうした診断書を見て、人事担当者として判断に困る場合は、迷わず会社の産業医に相談しましょう。
3.職場復帰の可否の判断及び職場復帰支援プランの作成 ~復職の見きわめ~
メンタルヘルス不調者の場合、職場復帰するためには「寛解」といって、日常生活を営める程度に症状が改善した状態を目指します。「寛解」は「完治」では、ありません。仮に休職者の主治医が「復帰可能」という診断をした後でも、状態が悪くなってしまうこともあります。
そこでリワークに向けては、一つひとつステップを確認しながら進めていくことが大切です。
厚生労働省の「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」には、職場復帰可否の判断基準として次の7つの例が挙げられています。
・ 労働者が十分な意欲を示している
・ 通勤時間帯に一人で安全に通勤ができる
・ 決まった勤務日、時間に就労が継続して可能である
・ 業務に必要な作業ができる
・ 作業による疲労が翌日までに十分回復する
・ 適切な睡眠覚醒リズムが整っている、昼間に眠気がない
・ 業務遂行に必要な注意力・集中力が回復している
特に通勤については、実際の通勤時間帯に通勤訓練を行うことが重要。空いている電車であれば乗れるものの、ラッシュ時の混雑した電車に乗ると気分が悪くなる、というケースは珍しくないためです。
また、メンタルヘルスの不調で休職した人の場合、「休職者自身の考え方の癖」が不調を招くことがあります。そうしたケースでは、復職後にまた不調が繰り返される可能性があるため、医療機関等で行っているリワーク・プログラムを利用し、考え方の癖を改善していくことも大切です。
4.最終的な職場復帰の決定 ~人事担当者は焦らずに~
職場復帰が迫ると、「自分はちゃんと働けるのだろうか」と不安が募る休職者もいれば、「早く復帰しなければ!」とどんどん焦りが加速していく休職者もいます。しかし、人事担当者が一緒に不安になったり、焦ったりしては、これまでの努力が水の泡。
休職者の通勤訓練や模擬出勤は、休職者を迎え入れる職場の人々にとっても「慣らし勤務」となります。また、復職直後は通常の就業時間での勤務が難しいと考えられる場合、時短勤務を検討する必要があります。時短勤務を採用しない場合でも、復職直後は従前の職務の7割程度を目安にすると良いでしょう。再休職を防ぐためには、こうした働き方の調整を疎かにせず、着実に一歩一歩進めて行きます。
休職者の勤務開始日を決める際も、焦りは禁物。週末や連休の前日など、「勤務再開後すぐに、しっかり休みがとれる日程」がお勧めです。
5.職場復帰後のフォローアップ ~職場対応で気を付けたいポイント~
いよいよ休職者の勤務開始日。休職開始時から対応してきた人事担当者にとっては、待ちに待った日ではないでしょうか。しかし、それは「職場復帰」というプロジェクトのゴールではなく、通過点に過ぎません。
再休職を防ぐためには、メンタル不調者の業務負荷の軽減や体調への配慮はもちろんのこと、メンタル不調者と一緒に働く人々とのコミュニケーションが非常に重要です。
周囲への説明が十分でなく、メンタル不調者の負担軽減ばかりを優先して周囲の負担が重くなれば、他の従業員が「不公平だ」と感じるかもしれません。反対に、皆がメンタル不調者を好奇の目で見ることや、腫れ物に触るように扱うことも良くないでしょう。
メンタル不調者の職場復帰にあたっては、その同僚や上司など、現場のメンバーの理解が必須。また、他の従業員にしわ寄せがないよう、人事担当者としては周囲にも配慮しておきたいところです。
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復職対応に関する企業の義務とリスク
「休職」は、本来会社側から「あなたは働ける状態ではないので、休職してください」と告げる、退職猶予措置です。そこで、復職に関しては、休職者ではなく会社側が主体性を持って判断しなければなりません。
例えば、休職者の主治医が「軽微な作業なら可」という診断をした場合でも、該当する軽微な作業がない場合、無理に新たな業務を作り出す必要はありません。時短勤務や勤務日数の調整、模擬出勤時の給与の有無についても、どこまで柔軟に対応するかは会社側の判断です。
しかし、その根底には、労働契約法の第5条で定められている「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。」という安全配慮義務の大前提があることを忘れてはなりません。この「安全」には、精神面での健康も含まれます。
過去の判例において、安全配慮義務違反として損害賠償を請求されたのは、「会社が予見できた損害を回避する義務を怠った」「会社側の配慮の欠如と損害に因果関係がある」と判断されたケース。
また、実際に損害賠償を請求されることはなくとも、休職期間が満了を迎え、メンタルヘルス不調者の復職が叶わなかった場合に、揉めることが多いようです。
人事担当者としてリスクを回避するポイントは、何と言っても「従業員のメンタルヘルスの不調を未然に防ぐこと」。
メンタルヘルス不調者が出た場合には、「休職時に、復職までの流れと条件を書面で伝えておくこと」「休職期間の満了が迫る前に、休職者の状況を確認し、あらためて復職の条件を双方で確認しておくこと」が大切です。
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