打たれ弱過ぎる若者をなんとかしたい!さとり世代のメンタル不調への対処法
「どうして上司より先に帰るんだ」「仕事をやる気があるのか」。そして何より、「ちょっと叱っただけでなんで辞めるの。打たれ弱過ぎるよ…」
上の世代はいつの世も、若者のメンタリティが分からない。就職超氷河期時代・氷河期時代を生き抜いた、今の40代~30代にはなおさらかもしれない。
近頃の若手社員に対して、「何を考えているか分からない」「どう対応したらいいか分からない」と悩む皆さんのために、企業の産業医の立場から、職場環境を改善するアプローチ行っている筑波大学の松崎一葉先生に、最近の若手社員の特徴や対処法等をうかがった。
上の世代とはちがう、さとり世代のメンタリティ
――1980年代半ば以降に生まれ、主に2002~10年度の学習指導要領に基づく「ゆとり教育」を受けた世代は「ゆとり世代」とも「さとり世代」とも呼ばれ、淡々としている、やる気がない、マイペース過ぎるなどの特徴があると言われています。上の世代にとっては理解しがたい面が多々ある彼らは、そもそもどのようなメンタリティの持ち主なのでしょう。
キーワードは「同調圧力」です。
日本社会は同調圧力が強く、多様ではありません。国民のほとんどが日本民族で、同じような顔、同じような考え方をしています。昨今、多様な人材を積極的に活用する「ダイバーシティ」の概念がもてはやされていますが、欧米は基本的にダイバーシティです。多様な民族や人種の坩堝ですからね、隣の人がどんな顔してどんな考え方しているかは、違っていて当然なのです。
ところが日本のクラシカルな会社、特に古い会社は「社員一丸」みたいな感じで、皆同じ考えをしなきゃいけない。上司より先に帰っちゃいけないとか、社長の方針に向かって心を一つにしなきゃいけないみたいな。そういう無言の圧力に屈して、これまでの社会人は自分を殺し、仕事してきました。
そういう感じで、日本人は「皆と同じ」でないとなんか不安になる。
ところがSMAPの「世界に一つだけの花」が流行った2002年頃から、だんだんと同調圧力がゆるくなってきました。「ナンバー1になれなくていい、オンリー1でいいです」に変わってきた。ナンバー1というのは、同じような質のなかでの一番です。でもオンリー1は違う。周囲と同じでなくて構わないという考え方です。
会社もそうですね。昔ながらの終身雇用が崩れているなかで、若い世代の意識に同調圧力が薄れて来ています。まさに、「働き甲斐とか、会社の中で出世するとか、そういうのべつになくっていいっすから、働いた分はお金ください」という意識になって来ていますよね。適材適所で、今の会社で自分が活かせないなら転職すればいいと、気軽に会社を辞める時代です。
でも上の世代は、同調圧力が強い環境に適応しているから、そういう若い世代の感覚に違和感を覚える。「なんで同調しないの」と。
若い子たちは今、すごく「個」になってきています。アメリカ的な個人主義ですね。会社に滅私奉公したくない。出世とかお金儲けとかはどうでもいいからオンリー1で、自分にできることを自分の価値観のなかでやっていけば十分なんです。そこが上の世代からは欲がない、「草食系」に見えるんですね。
――上の世代との大きなちがいは、どういった背景から生じているのでしょうか。
お父さん世代が若かった頃は、一生懸命努力すればそれなりに報酬がありました。経済は右肩上がりで、給料もベースアップがあり、年功序列で一生懸命こつこつ働いてさえいれば、大した業績がなくとも必ず出世もできました。
しかし今は違います。年功序列は崩れ、評価されるのは努力ではなく能力です。もはやこつこつと努力するだけでは出世しないし給料も上がらない。そんなお父さんたちの現実を、さとり世代は目の当たりにしてしまいました。
世の中は、信賞必罰ではないし、一生懸命働いても報われない。「オヤジ馬鹿みたい、夜11時まで働いて帰って、何出向させられてんだよ、馬鹿じゃね」みたいに。一生懸命働いてきたのに報われず、うつになってしょぼくれているお父さんを見ているから、悟ってしまったんですよ。「頑張ったっていいことないじゃん」ってね。
お父さん世代は、「ビッグピクチャー・スモールウィン(Big Picture Small Win)」世代とも言われていました。社長になる、一発当てるなど、ビッグピクチャーを思い描き、その実現のために、日々こつこつとちっちゃいウィンを蓄積して行く。そうすれば、やがてそのうち大きなところにたどり着くんだと信じていたんですね。
――努力は夢を裏切らないみたいな。
だけど、ちょっと前に話題になった、いわゆる「未熟型うつ病(編集部註:新型うつ病とも呼ばれるが、松崎氏は未熟型と呼ぶ)」になるような人たちは「ビッグピクチャー・ビッグウィン(Big Picture Big Win)」です。「ビルゲイツやザッカ―バーグみたいになるには一発当てなきゃ。なのに、なんで俺、こんな会社でチマチマ経理の仕事やっていなきゃなんねぇんだよ」みたいな。それで辞めていた。
一方「さとり世代」はその後で、「スモールピクチャー・スモールウィン(Small Picture Small Win)」。大きなことは考えない。日々無理なく、そこそこに楽しければいい。
精神科医の斎藤環先生は「人の成熟は、社会の成熟に反比例する」と言っています。社会が成熟していくと、人は成熟しなくても許されるようになる。社会が不安定で、安心安全が担保されていない途上国では、子どもは生きて行くために早く大人にならざるを得ませんが、日本のように社会が成熟してくると、とりあえず就職しなくとも、アルバイトでもまあまあ快適に生きて行けるから、大人にならなくてもいいと考える人たちが出てくる。
――さとり世代には、上の世代が持っていたような「欲」はないのでしょうか?
「承認欲求」は強いですね、でも昔とは質が変わって来ています。たとえば、有名な「マズローの欲求5段階説」というものがあります。人間の欲求は5段階のピラミッドのように構成されていて、低階層の欲求が満たされると、より高次の階層の欲求を欲するとされるというものですが、「承認欲求」は下から4段目。昔は、社会の中で偉くなったり、お金持ちになったり、バブルの時代にはエルメスやロレックスなどの高級ブランドを身につけることで「承認欲求」を満たしていました。
でも今は、「いいね」なんです。インスタのフォロワー数や「いいね」の数で、承認欲求が満たされる。コンビニのアイスクリームのケースに入って写真撮ってアップして、「いいね」をもらって喜ぶ。
かつて万人に共通していたような仕事だとか経済とかに対する承認ではなく、誰からであろうが「いいね」と言われればいい、というふうに変わって来ています。
メンタル不調、休職を防ぐコミュニケーション、マネジメントのコツ
――同調圧力になじめずメンタル不調におちいった若者には、どういった支援をしたらいいでしょう。
意外にも、会社側が就業規則をきちっと示し、どのような支援ができるかを伝え、「さあ、きちんとやろう」と促せば、案外、同調するようになります。それほど強固な信念があるわけではないからです。
具体的には、もし休職しているのであれば、会社の就業規則でいつまで休めるのか、出社が可能になったらリハビリのプログラムもありますよ、などのサポート体制について説明します。あとは、JD(ジョブ・ディスクリプション)があるといいですね。「あなたがやるべき仕事はこれです」と、具体的な職務内容や職務の目的、目標、責任、権限の範囲のほかに、社内外の関係先、必要とされる知識や技術、資格、経験、学歴などが明記されている書類で、アメリカの企業では、これがなければ仕事が出来ません。
JDによって、やらなければならない仕事と目標をきちっと示し、それがどれくらいできたかの評価を与え、「これがやりたくないのであれば、うちの会社での仕事はありません。解雇もやむなしです」と、はっきり言って聞かせることが大事です。
――同調は苦手でも、なじめるものですか。
そこは、合理的ですからね。納得はできないけど、せっかく正社員として雇用されているわけだし、会社は本気で支援してくれるみたいだから、ちょっと頑張ってみようかなと、案外同調するようになります。
会社側から、最大限の支援を申し出て行くと、すごく安心するんですね。
――自分が大切にされていると、感じさせることが大事だと。
ええ、自分の「個」が大切にされている感覚は重要ですね。
メンタル不調におちいる人たちには、個が無視されているという被害感情があるんです。
そこで、会社には、あなたの個を尊重する就業規則もありますよと、あなたが言いたいことにも耳を傾けますよという態度を示すことが大事になってくるわけです。
――同調してくれるようになったとしても、「興味がないのでやりたくない」という仕事をムリにさせると、メンタル不調になりますよね。
そこは「有意味感」をもたせることですね。有意味感とは、つらいことや面白味を感じられないことに対しても、なんらかの意味を見いだせる感覚のことです。この感覚が欠けている人が、意味を見いだせないまま無理やり仕事していると、ストレスを感じて、メンタル不調におちいってしまいます。
有意味感を持たせるには、とりあえず周りで辞めないように支援しながら、我慢させるしかありません。我慢させて、慣れさせる。慣れてくれば自然に、意味もでてくるものです。
「我慢して続けていれば、将来、こんないいことがあるよ」と口で言っても、分からない人には分からない。私たちも子どもの頃、「どうして勉強しなくちゃいけないの」と、親に反抗していましたよね。あれと同じです。
だから我慢させるしかないし、我慢させるためには、周りから支援しなければいけない。そうすると自然に有意味感がでてきます。
――そこまでしてあげないといけませんか。
そうですね。そういう社員を採用してしまったからには仕方ありません。なんとか出来る範囲でサポートして、成長させて、戦力になってもらうのが、したたかなやり方だと思います。
――つまり、さとり世代も周囲も、だらだら慣れて行くしかない。
それは、すごく大事です。ウェルカムな感じで、全面的な支援を申し出て、近寄って行けば、彼らもだんだん近づいて来て、同調圧力に同調してくれるようになります。だらだら慣れて行くんです。
彼らの考え方や行動が予測できるようになれば、いちいち呆れたり、戸惑ったりすることもなくなります。
――予測できれば、こちらがコントロールしている気持ちになれて、彼らに対する陰性感情(怒り、悲しみ、嫉妬などのネガティブな感情)もわかなくなるかもしれませんね。
いわゆる想定外を想定内に落とし込むことが大事です。人間って、想定外だと面喰ってしまうんです。でも想定内だと、「ほら、思っていた通りになったよね」と、陰性感情がわかなくなるものです。
産業医としてのアドバイス「だらだら慣れよう」
――さとり世代の言動に戸惑いつつも、会社としては、せっかく縁があって入ってきた社員には、成長して、適応して欲しいと思いますよね。先生がそのために、産業医として努力しておられることはありますか。
そうですね。正社員として採用したからには、未熟だったり、ストレス耐性が低かったりしても、会社は大人になるよう支援して、成長させなければならないと思います。義務ではありませんが。
ストレス耐性が低いというのは、人間的に未熟であるというだけで、人間性が歪んでいるわけではありません。だから切り捨てるのはよくない。事実、そうやって支援して、成長できた若者の多くは、「会社のお陰でこんな元気になりました」とすごく感謝して、忠誠心が芽生え、会社に貢献できる社員になります。
彼らを成長させてあげるために必要なのは、周囲の人間の基礎知識です。さとり世代とはどういう人たちなのか、知っておいたほうがいい。そこで僕は、知識教育をしています。
さとり世代はこういうふうに考えて、こんなふうに反応する、あるいは行動するという基礎知識があれば、部署の皆が残業している時に、1人だけ定時で帰ったとしても、(あぁ、やっぱり彼は帰るんだ)と、想定外が想定内になる。その上で、鷹揚に受け止めて「じゃあ、週末はしっかり休んでください。その代わり、月曜はちょっと頑張ってもらうからよろしくね」と、引き締めることもできる。行動が把握できて、コントロールできるようになれば、上司や周囲のストレスもなくなり、職場の雰囲気もよくなるでしょう。
人類は、想定外のものに基本的に、違和感と恐怖を感じる生き物なんです。大江健三郎が書いています。「蛇に恐怖感を感じるのはなぜか、それは手足がないのに素早く動くからだ」と。素早く動く者には手足が無ければいけない。なのに蛇は手足がない、のっぺりしているのに飛びかかってくる。
蛇というのはたとえが悪いですが、大人がさとり世代に感じる違和感も、それと似ています。我慢して、だらだらと慣れるのがいいと思いますよ。したたかにね。
文/木原洋美
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