クラッシャー上司の暴走を“上手に”止めるポイントとは
クラッシャー上司とは《部下を精神的に潰しながら、どんどん出世していく人》のこと。一部上場企業の役員のうち数人はクラッシャー上司だといわれている。あなたの職場はどうだろう。
もし、クラッシャー上司がいたら、暴走を止め、被害から社員を守るのは、会社の重要な責任だ。しかしいかんせん、「基本的に能力があって、仕事ができる」のも彼らの特徴。会社としては、クラッシャーとその部下と、両方を潰さずに改善させたいというのが本音。ではどうしたらいいのか?「クラッシャー上司」の命名者の一人で、クラッシャーの行動を是正させる「クラッシャー対策プログラム」を開発し、実施している、筑波大学の松崎一葉先生に聞いた。
大切なのは、「建設的人事処分」
――職場でクラッシャー上司が暴れていたら、会社はどう対応するべきでしょう?
答えは単純です。明らかなクラッシャー上司には、処分を加えるべきです。ただし、クラッシャーは仕事ができるので、懲戒処分をくだしてしまうと、戦力が落ちてしまう。だから怖くて、処分できないという問題があります。クラッシャーの暴走をいかに抑えるかは、会社にやる気があるかないかだけの話です。
また、その処分が、罰して終わりではあまり意味がありません。たとえば左遷は、ひとつの方法ですが、地方へ飛ばしてそのままだと、今度はその飛ばした先でまたクラッシャー行為を始める可能性があります。実際、レジリエンス(自己治癒力)が高いクラッシャー上司は、左遷ぐらいではへこたれません。そこで私たちが開発したのが「クラッシャー対策プログラム」です。
クラッシャー対策プログラムとは?
会社が、クラッシャーの暴力的言動を明らかなハラスメントと認定した後に、業務指示として、その社員を参加させる、心理カウンセラーによる3日間の集中プログラム。
プログラムでは、まず人がどれほど傷つくか、「心の痛み」について、ロールプレイを通じて実感してもらう。
次に心理検査を実施して、本人の自己愛の歪みを分析して指摘、内在する強烈な劣等感に正面から対峙させる。
他者への攻撃性に転換してきた劣等感に正面から向き合わせるのだから、相当なストレスを与えることになるが、そこを熟練の心理カウンセラーが徹底的に受容し、傾聴し、共感することで支える。
3日間の集中プログラムの後は、約3ヶ月間、定期的にカウンセラーとやりとりを続けることで、健全な自己愛を獲得する方向に導いていく。
参考:『クラッシャー上司 平気で部下を追いつめる人たち』(PHP新書)
――対策プログラムは効果が高そうですが、それだけに、クラッシャーに与えるストレスも強そうで、大変だと思いました。
このプログラムは、「建設的人事処分」です。通常の人事処分では、左遷や減給、訓告等、クラッシャーのプライドを傷つけるようなことをして、クラッシャー的な指導を止めさせようとしますよね。でもそれだと、クラッシャーは働けなくなってしまうのです。
クラッシャーに、パワハラを禁じると、2つの現象が起こります。
1つめは、クラッシャーのプライドが傷ついてうつになる。戦意を喪失し、まともに働けなくなってしまうので、会社としては戦力が落ちて減益になる。クラッシャーは能力が高いですからね。
2つめは、クラッシャーの道具はパワハラなので、そのツールを禁じると、部下をどうやって指導したらいいか分からなくなる。
大事なのは、パワハラをせずに、自分の知識や経験を継承するにはどうしたらいいか、彼らにスキルを教育することです。だから建設的人事処分では、潰す行為を止めさせると同時に、どうすれば部下に知識・経験を上手く継承できるかをレクチャーしなければなりません。
日本の管理職の多くは、部下に知識を継承する方法の教育は受けていませんよね。大学だって、年1回、教育の仕方についてのセミナーを受けないと、教員の資格が更新されないんですよ。教え方の教育は必要だと思いますね。
プログラムでは、そうした教え方もレクチャーします。
もう1つはアフターケアですね。プログラムでは、クラッシャーのプライドをズタズタにしてしまうので、相当なショックを与えることになります。自己愛が傷ついてボロボロになった状態から立ち直らせるには、心理カウンセラーの支援が欠かせません。
つまり、教え方の教育と心の支援と、この2つをペアでやるのが建設的人事処分です。
――一方で、クラッシャー上司のやり方がより巧妙化する、ということはないでしょうか
そうですね、クラッシャーは優秀ですからね。声を荒げたり、暴力的な態度に出るといった分りやすいパワハラをしない人もいます。「会社のため」「仕事のため」というお題目のもと、ネチネチと責めつづけるなどして、部下を潰していく。いわゆるモラハラですね。
それは傍で見ていれば分かるものなのですが、被害に遭っている同僚を、周囲がかばったり、共に戦おうとした、という話はあまり聞いたことがありません。クラッシャーが存在を許される職場は、そこにいる人たち自体も鈍感で、やられている当事者への共感性が足りないのだと思います。
クラッシャー対策プログラムを導入するには、まず職場全体も、共感性を働かせられるようになることが必要です。
レジリエンスを高め、内なる「クラッシャー」をなだめる
――「さとり世代」の特徴などを理解しているつもりでも、超氷河期入社の40代上司たちは、どうしても陰性感情(怒り、悲しみ、嫉妬などのネガティブな感情)を抱いてしまい、クラッシャー的な衝動を抑えきれなくなることがあります。そうした気持ちをどうコントロールしたらいいでしょう。
その上司は、自分の中で意識を上げなければいけません。能力が低くても、自分のチームですからね。
自分の能力が100だとして、若手社員の能力は60ぐらいだとします。上司としては、能力が低いのに、どうしてもっと頑張らないのか、やる気がまったく感じられないとかっとなり、つい陰性感情を持ってクラシャー化し、怒鳴ったり、追い詰めたりしてしまうわけですよ。
でも、それをやったら、相手はもっとへこむだけ。頭が真っ白になって、使い物にならなくなる。
ガツンと説教されたからって、「昨日までの自分がバカでした。今日から気持ちを入れ替えてがんばります」と、改まる人間は絶対にいません。だからこそ、上手く使わなくてはならない。
秘訣は、いわゆるレジリエンス(自己治癒力)。簡単に言うと、逆境にめげないしたたかさなんです。
現代は、「能力が低い部下がいたら辞めさせてしまえ。替わりはどんどん来る」なんて時代じゃないですよね。たとえ能力が60,70しかない部下でも上手く使って、現有勢力でやって行くほかないんです。
それには、部下の能力をいかにして100%引き出すかが重要です。陰性感情を持って叱責したり、委縮するようなことをしたりしていたら、ただでさえ低い能力が、さらに減少してしまいます。
そこは合理的に考えて、したたかに。褒めて、励まして、気持ちよく力を発揮してもらうのが賢いやり方です。上司の皆さんには、自分が今、何をしなければならないか。ミッションのエンドポイントを再確認して、したたかに振る舞って欲しいです。
プロフィール:松崎 一葉(まつざき いちよう)
筑波大学医学医療系産業精神医学・宇宙医学グループ教授。1960年茨城県生まれ。1989年筑波大学大学院博士課程修了。医学博士。産業精神医学・宇宙航空精神医学が専門。官公庁、上場企業から中小企業まで、数多くの組織で精神科産業医として活躍。またJAXA客員研究員として、宇宙飛行士の資質と長期閉鎖空間でのサポートについても研究している。主な著書に『会社で心を病むということ』(新潮文庫)、『もし部下がうつになったら』(ディスカヴァー携書)、『クラッシャー上司 平気で部下を追い詰める人たち』(PHP新書)等、著書多数。
文/木原洋美
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