「みなし労働時間」を超えたら残業代は出る?裁量労働制のキホンと注意点を解説
仕事の内容やペースを労働者個人の裁量に委ねる「裁量労働制」には、専門業務型裁量労働制と企画業務型裁量労働制の2種類が存在します。
裁量労働制を運用する際に大切になる「みなし労働時間」の基本ルールと、注意点について解説します。
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「裁量労働制」と「みなし労働時間」ってなに?
「裁量労働制」とは?
2019年からスタートした「働き方改革関連法案」の中でも注目されている裁量労働制。
裁量労働制とは、使用者と労働者があらかじめ「みなし労働時間」の取り決めを行った上で行う業務形態です。
つまり、裁量労働制は「実際に1か月で何時間働いたか」という考え方ではなく「1か月○○○時間働いたとみなす」という労働形態になります。
その代わりに、業務の遂行方法は大幅に労働者の裁量に委ねられ、使用者からも具体的な指示をされないことが、裁量労働を運用する際のルールとなります。
「みなし労働時間」をオーバーした分は残業代として支払う
裁量労働制が適用されている労働者が「みなし労働時間」をオーバーしていた場合でも、これまでは割増賃金の支払い義務がありませんでした。
しかし、2019年4月からスタートした「働き方改革関連法案」では、裁量労働制で働く人も一般的な労働者と同様に、労働時間を把握した上で割増賃金を支払うことを義務付けています。
要するに「みなし労働時間制」で働いた場合にも残業代が支払われるということです。
そのためには「みなし労働時間制」だとしても、企業は裁量労働で働く従業員の勤怠時間をしっかり把握することも大切になります。
それと同時に、裁量労働制で働く労働者であっても、長時間働いた場合には産業医(医師)による面接指導の実施が義務化されています。
専門業務型と企画業務型、2つの裁量労働制の違いとは?
専門業務型裁量労働制の対象となる業務
専門業務型と企画業務型、2つの裁量労働制の違ですが、それぞれで対象となる業務内容や労働条件が異なっています。
まずは専門業務型裁量労働制から見ていきましょう。
専門業務型裁量の対象になる業務は以下のものがあります。
専門業務型裁量労働制の対象業務
①開発者(新商品・新技術)、研究者(人文科学・自然科学)
②情報処理システム分析・設計の業務
③記者、編集者(新聞・出版事業)
④デザイナー(衣服・室内装飾・工業製品・広告等)
⑤プロデューサー、ディレクター(放送番組、映画等の制作事業)
⑥コピーライター(広告、宣伝等)
⑦システムコンサルタント(情報処理システム活用等への助言業務)
⑧インテリアコーディネーター(照明器具、家具等の配置に関する考案業務)
⑨ゲーム用ソフトウェアの創作者
⑩証券アナリスト
⑪金融商品の開発者
⑫大学での教授研究の業務
⑬公認会計士、弁護士、建築士、不動産鑑定士、弁理士、税理士、中小企業診断士
裁量労働制を運用する場合には、上記の業務に当てはまる業務内容であることが条件です。
また、使用者と労働者は以下の項目について労使協定を結び、必ず所轄の労働基準監督署へ届け出ることが必要です。
- 「制度を適用する業務の範囲」
- 「業務遂行の方法などへ具体的な指示をしないこと」
- 「1日あたりのみなし労働時間数」 など
※専門業務型裁量労働制の労使協定の作成例は厚生労働省のHPにて公開されています。
企画業務型裁量労働制の対象となる業務
企画業務型裁量労働制の対象業務となるのは、以下の条件を満たしている必要があります。
企画業務型裁量労働制の対象となる業務の条件
①業務が所属する事業の運営に関するものであること
②企画、立案、調査及び分析の業務であること
③業務の性質上これを適切に遂行するにはその遂行の方法を大幅に労働者の裁量に委ねる必要がある業務であること
④業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関し使用者が具体的な指示をしないこととする業務であること
なお、企画業務型裁量労働制を運用する場合には、労使委員会で5分の4以上の多数議決が必要になります。そして、この決議を所轄の労働基準監督署に届け出る必要があります。
専門業務型と企画業務型裁量労働制、定義からみる「違い」
専門業務型裁量労働制と企画業務型裁量労働制の対象業務と同じように、それぞれの業務形態について知っておきたい定義が以下のものです。
確認しておきましょう。
- 専門業務型裁量労働制:業務の性質上、その遂行の方法を大幅に労働者の裁量にゆだねる必要があるため、業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関し具体的な指示をすることが困難な業務
- 企画業務型裁量労働制:事業の運営に関する事項についての企画、立案、調査、分析の業務であって、業務の性質上、その遂行の方法を大幅に労働者の裁量にゆだねる必要があるため、業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関し具体的な指示をしない業務
「裁量がない」労働者を裁量労働制で働かせることはできない
裁量労働制を拡大解釈し、悪用することは厳禁
裁量労働制の対象となる業務を拡大解釈すること、みなし労働時間を理由に「長時間労働を強いる」「残業代を支払わない」といった裁量労働制の悪用は厳禁です。
前述してきたように、裁量労働制を適用するためには要件をクリアする必要があります。
そして、労働者本人にも対象業務を適切に遂行するための知識・経験を有していることが条件となっているのです。
したがって、全く職務経験や裁量がない労働者を裁量労働制で働かせることはできません。
また、裁量労働制で働く従業員に対して実際には裁量を与えず、上司から「業務について具体的な指示」を出しているような場合は、裁量労働として認められないので注意します。
裁量労働制で働く従業員も、過重労働に関する取扱いは同じ
たとえ「みなし労働時間」で働いている従業員であっても、使用者は労働者の勤務時間を把握することが必要です。
そのためには、出勤・退勤時刻(入退室時刻)を具体的に把握・記録し、長時間労働の実態があれば改善することが求められています。
また、裁量労働制で働く従業員であっても長時間労働をしている場合には産業医による面接指導の対象になります。
裁量労働制とはいえ、労働者の労働時間や健康には使用者の管理が求められています。
適切な対応を心がけましょう。
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