【何時間で面接指導?】長時間労働のリスクと産業医面談の活用ポイント
長時間労働(過重労働)は、従業員の仕事に関する満足感を下げ、心身の健康リスクを上昇させる可能性があります。
また、長時間労働によって脳・心臓疾患や精神障害が発生するケースも多く報告されており、労災が発生した場合には労働者へのダメージだけでなく企業のイメージダウンにも直結するため、職場での対応は喫緊の課題となっています。
長時間労働が引き起こすリスクや、産業医面談を活用した改善のポイントについて解説します。
目次[非表示]
長時間労働の現状と、企業が抱えている労災・訴訟・イメージダウンのリスク
長時間労働が原因で発症した「脳・心臓疾患」「精神障害」の現状
「働き方改革」が推進されている昨今では、長時間労働(過重労働)などの対策について「健康経営」の観点から熱心に取り組む企業が増えてきています。
しかし、過重労働を原因とした労災の発生件数はまだ減少に転じていません。
厚生労働省が発表した「過労死等の労災補償状況」から現状を見てみると、2019年の「脳・心臓疾患」の労災請求件数は936件で、2018年と比べ59件増加しています(支給決定件数は合計216件)。
また、精神障害の労災補償状況を見てみると、精神障害の請求件数は2,060件(2019年)あり、前年度と比べると240件の増加となっています。
出典:厚生労働省「過労死等の労災補償状況(令和元年度)」
長時間労働による労災発生で企業が背負う、訴訟・イメージダウンのリスク
長時間の時間外労働(残業)、度重なる休日出勤、有給休暇を取得させないなど、従業員に過度な労働を強いている場合には、脳・心臓疾患や精神障害発症の恐れがあります。
それだけでなく、労災を主張する従業員からの訴訟(損害賠償)リスクも予想されます。
また、過労死・過労自殺という悲しいケースが起こってしまった場合はどうなってしまうでしょうか。
「働き方改革」や「健康経営」が推進されている昨今、過労死が起こってしまうことや、労働基準監督署からの勧告や指導が入ることがあれば、企業のイメージダウンは避けられません。
そして、行政から悪質な法違反と判断された場合には、厚生労働省によって企業名を公表されてしまうリスクもあるのです。
長時間労働の解消に向けて、何から準備するべきか
まずは経営陣が意識を改革し、トップダウンで取り組む
厚生労働省の推奨する取組みの手順を見てみると、長時間労働の解消に向けてまず行うべきことは、経営者や管理者、労務担当者の意識を変革させることにあります。
その上で「過労死や過重労働による健康障害を生じさせない」という方針を決定し、表明することからはじめます。
なお、方針を検討する際には「労働者の意見を聞くこと」と「社内的な合意形成」が大切になりますので、必ず労使間で意見のすり合わせを行った上で方針を決定しましょう。
そして、方針の決定した後は、文書等を用いて労働者全員に周知を徹底します。
出典:厚生労働省「時間外労働削減の好事例集」
●過重労働対策に関する方針表明の例
1.労働環境を含めたあらゆる領域の環境改善は、企業の社会的責任である。
2.過重労働を防止し労働者の健康を確保することは、企業存立の基盤である。
3.労働者全員参加のもとに、過重労働対策を推進する。
4.時間外労働は、原則として月45時間以内とする。
5.過重労働防止のためのガイドラインを作成し、これを実施し、結果を評価する。
6.評価結果をフィードバックし、過重労働防止のために継続的な改善を行う。
出典:厚生労働省「新しい時代に、人々が求めている職場とは?」リーフレット
担当者それぞれの役割を明確にした上で「過重労働対策推進計画」を策定する
方針を明らかにしたら、次のステップでは、過重労働対策を担当する部署や担当者を設定します。
その際に、責任と権限などを明確にして、担当者それぞれが「過重労働対策の当事者」として意識を持って取り組んでもらえるように促します。
同時に「過重労働対策推進計画」を策定することも重要になります。
労務管理をこれまでの経験や勘に頼るのではなく、しっかりと過重労働対策の「PDCAサイクル」を活用し、活動を推進しましょう。
厚生労働省の推奨するPDCAサイクルには以下の項目が挙げられています。
- PLAN(計画):衛生委員会を活用した対策の策定(安全衛生に関する事業場の計画に過重労働対策を盛り込む、労働者からの申し出受付や面接指導対応など)
- DO(実施):各部門による対策の実施(人事労務部門・産業保健部門・管理監督者の連携による対応)
- CHECK(評価):衛生委員会などによる対策実施状況などの評価(長時間労働者及び面接指導を受けた労働者の報告、産業医などからの健康管理上の評価など)
- ACT(改善):問題点の抽出、活動の見直しと改善(実効策の改善。安全衛生計画の改善)
また、PDCAサイクルを効果的に回していくためにも、方針と情報を各部門で共有しながら、担当者全員で進めて行くことが重要です。
就業規則の変更、産業医の面接指導などを通じて長時間労働を改善する方法
長時間労働対策のために社内制度・就業規則を見直すことも大切
長時間にわたる過重な労働を改善するためには、就業規則をはじめとした社内制度の見直しを行うことも大切といえます。
つまり、従業員に長時間労働をさせないためのルールを作ってしまうということです。
その際には労使間で十分な話し合いを行うことや、場合によっては社会保険労務士などの専門家への相談が必要です。
また、社内制度の変更にあたって、従業員の勤務状況をしっかり把握することが欠かせません。
タイムカードや勤怠管理システムの情報から「長時間残業している従業員がいないか」「休日に出勤している従業員はいないか」といった、勤務状況の実態を確認します。
その上で、時間外労働の削減を実現させるための制度を構築していきましょう。
過重労働対策に効果が期待できる具体的な制度には「勤務間インターバル制度」があります。また「有給休暇の取得促進」も大切な取組みの一つです。
何時間働いたら、産業医面談が義務になる?
役割を任された各部門の担当者が、適切な長時間労働の対策を進めていくためには、医療の専門家である産業医との連携が欠かせません。
なお、面接指導が義務となるのは「時間外労働時間(残業)」「休日労働時間」の合計時間数(以下)です。
・〈義務〉1か月あたり80時間以上:企業は申出のあった労働者に対し、必ず産業医の面接指導と適切な事後措置を実施する。
※「時間外・休日労働時間」とは、1週間あたり40時間以上(休憩時間を除く)の働いた時間数を指します。
このように、企業と産業医が連携して長時間労働の解消に努める必要があります。
連携のポイントは、それぞれの部門・担当者が収集した勤怠のデータを産業医と共有すること。また、産業医からは面接指導の状況などについて意見をもらうようにします(その際には個人情報の保護に十分注意します)。
その結果を元に、衛生委員会などの場で人事担当者と産業医が定期的に意見交換を行い、長時間労働の改善に向けた取組みを行っていくことが大切になります。
参考資料:厚生労働省「新しい時代に、人々が求めている職場とは?」リーフレットより
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繰り返しになりますが、長時間労働による労災・休職の発生は、企業に大きなダメージを与えるため、過重な労働の実態がある場合には必ず対策をするべきです。
そのためには、過重労働対策に協力的であり、頼れる産業医を探すことが有効的な方法のひとつになります。
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