メンタルヘルス不調者の休職・復職の実践的対策とは (ヘルスケアIT 講演レポート)
2018年4月18から20日まで東京有明のビッグサイトで行われた、ヘルスケア×ITイベント「ヘルスケアIT 2018」。株式会社エムステージによる「メンタルヘルス不調者の休職・復職の実践的対策! ルール作成×産業医×IT活用が成功のカギ!」と題した講演が好評を博した。
医師人材紹介サービスで15年の実績があり、2年前より産業医の紹介サービスを始めた同社には「産業医が実務をしてくれない」、「産業保健体制をどうつくるのかがわからない」、「事業所の産業保健活動を管理できていない」などの相談が寄せられている。
今回のセミナーは、これまでとりわけ多かった「メンタルヘルスの休職・復職対応をどうしたらいいかわからない」という相談に応える形で、企画された。
登壇した同社鈴木友紀夫・執行取締役は「対応のポイントとなるのは社内ルール作り、産業医の活用、IT化」という。企業はメンタルヘルス対策にどのように対処していけばいいのか。社労士でメンタルヘルス法務主任者でもある舘野聡子氏による、事例を交えた解説など、セミナーの内容をかいつまんでレポートする。
データに見る、雇用・労働問題こそが経営リスクという事実
舘野 本日はたくさんの方にお越しいただき、ありがとうございます。こうした内容のセミナーに大勢の方が来て下さること自体、関心の高まりを感じます。メンタルヘルス対策は近年急激にクローズアップされていますが、これまで、メンタルヘルス不調を放置しても、勝手に辞めていくから特に対処していないという会社も多かったのです。
しかし、これからは労務管理・雇用労働リスクとして、メンタルヘルス問題にどう対応するかが、企業にとってますます重要になります。なぜ、企業にとって重要なのか、そしてどうすればよいのかを具体的な事例を交えながらお話します。
舘野 聡子(たての さとこ)/特定社会保険労務士/シニア産業カウンセラー/メンタルヘルス法務主任者/株式会社ISOCIA代表取締役
民間企業に勤務後、社労士事務所に勤務。その後「ハラスメント対策」中心のコンサル会社にて電話相談および問題解決のためのコンサルティング、研修業務に従事。産業医業務を行う企業で、予防のためのメンタルヘルス対策とメンタル疾患の人へのカウンセリングに従事。2015年に社労士として独立開業、株式会社エムステージでは産業医紹介事業の立ち上げにかかわる。
まず、いくつかご紹介したいデータがあります。
ひとつ目は「リスクマネジメント動向調査」です。2008年から毎年東京海上日動リスクコンサルティングが実施している調査で、2017年の調査で初めて「労働・雇用問題」が経営リスクの1位となりました。
「労働・雇用問題」が経営リスクとして改めて認識された背景には、電通の過労自殺、NHK記者の過労死、ホンダカーズ千葉の過労自殺などの過労死・過労自殺に関する報道、働き方改革、監督署指導の強化の3つがあります。
過労死や過労死自殺の報道と呼応するように、厚労省は、2016年12月、「過労死等ゼロ」緊急対策と銘打ったガイドラインを出しました。ここでは、労働時間ガイドラインなど長時間労働を許さない取組の強化、支社単位でなく本社にも責任を問うなどの、メンタルヘルス・パワハラ対策の強化、そして、相談窓口の充実など社会全体で過労死ゼロを目指すことを標榜しています。
二つ目のデータは、監督署に関するものです。2015年から1年で、長時間労働が疑われる事業所への指導が倍増しています(ただし、2015年は100時間超、2016年は80時間超が対象)。
また、監督署に寄せられる相談のうち、労働者と事業主の間の民事上の労働紛争、つまり、労使間のトラブルは年間25万件にのぼっています。
また、それ以外の相談も含めると、113万件の相談が寄せられており、これを民間で働いている労働者数で割ると、労働者の50人にひとりが監督署に相談に行っている計算になります。その内容は、いじめやいやがらせ(パワハラなど)が2012年以降、ずっと1位を占めています。
もうひとつ例を挙げましょう。
電通や、ホンダカーズなどの事例を含む、過労自殺など、精神障害の労災補償の認定は2016年に1355件(1年間)と、過去最高の件数となっています。そのうち、年間90から100件弱が過労自殺の認定です。
これらのデータが示すように、雇用・労働に関するリスクは高まるいっぽうです。とりわけ、国の肝煎りで対策が進む、長時間労働、ハラスメント、過労死・過労自殺の三点は会社にとって特に待ったなしに対処すべき問題です。
長時間労働、ハラスメント、過労死・過労自殺に対する国の対策は
これらの問題に対する国の対策をご説明しましょう。
まず一つ目は、長時間労働について。国は労基法を改正し、近々、時間外労働の上限が設けられる見込みです。
二つ目は、メンタルヘルスに大きな影響があるハラスメントです。2017年1月より、育休法、均等法の改正によって、マタハラ防止措置が義務化されています。パワハラ防止も、厚生労働省で開催されていた「パワーハラスメント防止についての検討会」での議論を受け、ガイドラインを策定する方向で労働政策審議会で議論されています。
三つ目は、過労死、過労自殺です。労働安全衛生法改正で産業医の権限が強化され、職場のメンタルヘルス指針も出されています。
このように、政府が法規制やガイドラインを示し、対策を進めている「長時間労働、ハラスメント、過労死・過労自殺」。これら3つともがメンタルヘルスと大きな関係があります。私は社労士として、さまざまな企業の相談を受けていますが、このような潮流のもとで、近年はメンタルヘルスの相談が群を抜いて多くなっているのを実感しています。
激増しているメンタルヘルスの相談
企業からどういう問い合わせを受けることが多いか、を少しご紹介します。
メンタルヘルス不調者に関するものとしては、
- 主治医の診断書の提出を拒む
- 産業医の面談を拒むあるいは自己判断で復職してしまう
- 会社からの連絡を無視する
- 休職の回数に規定がない場合に、休職してはちょっとだけ出勤してまた休職する、といったように、会社の制度を悪用して休み続ける
- 会社の制度の不備、対象者が休職中にネットに誹謗中傷を書き込む
- 退職後に会社を中傷する
といったことがあります。
会社の体制や対応については、
- 産業医が休職・復職者対応をしてくれない
- 対象者の休職状況が管理できていない
- 復職時に産業医の面談をするフローができていない
- 個人情報であるはずの病名が、職場中に知れているなど情報の管理の問題
- 事業所ごとに対応に差があり不満が出てしまう
などの相談をよく受けます。
各社共通の課題は、
- 休職・復職のルールの不備
- ルールがあっても周知されない
- 産業医や社内に専門家がいない
- 休職者の管理がしきれていない
- 支社で統一対応ができない
- 守秘義務体制の不備
といったあたりになるでしょう。
休職・復職対応に悩んでいる企業の方が多いのは、普段から相談を受けていて感じていることですが、その裏付けとなるようなデータをひとつご紹介します。
2016年の労働安全衛生調査でもメンタルヘルスに取り組んでいる事業所のうち、休職・復職支援は17.9%しかできていないというアンケート結果が出ているんです。
平成28年「労働安全衛生調査(実態調査)」
この、誰もが難しいと感じる休職・復職支援、どのように取り組んでいけばいいのでしょうか?
企業としてメンタルヘルス対策に必要な3つのこと
企業としてメンタルヘルス対策に必要ことは3つ。
それが今回の講演タイトルになっている ①ルールづくり ②産業医活用 ③IT化 であると考えています。
具体的には休職・復職の就業規則の整備と社内体制づくり、産業医との連携や社内の専門人材育成、そして休職・復職プロセス管理のシステムの構築ということになります。
1.ルールづくり
一番のカギになるのはルールづくりです。ルールをつくり、運用できるマニュアルをつくり、誰が、どこまで、どのような責任でやるかを決める。そして支社でもそのルールを統一して周知する。ここがまずひとつのポイントです。そして、そのルールをもとに、産業医と連携することで支援体制が初めて機能するのです。
2.産業医の活用
産業医は、働き方改革の中でもその権限が強化され、企業の注目度も高くなっています。産業医の役割は前述の「労働者の心の健康の保持増進のための指針」のなかでも中心的な役割を果たすことが期待されています。
どうでしょう?皆さんの会社の産業医の先生は、こういったことに対応してくださる方でしょうか?
こうしたことがきちんとできる産業医の方を企業は選任すべきですし、企業の側もこうしたことを産業医の方にお願いするという認識を持っていただきたいと思います。
3.IT化
ここで、IT化やシステムといっているのは、たとえば、休職中の人の対応に抜け、漏れがないか、人事担当者が異動した場合に、引き継ぎがきちんとできるかという、ごく基本的な情報の持ち方のことです。しかし、その基本的な情報の整理や管理こそがなかなか煩雑で、効率的にできている会社は少ないものです。
雇用、労働問題ははっきりした労働リスクであり、とくにメンタルヘルスの休職・復職対応はこれからの会社の存続にすら関わる問題になってくるでしょう。いまお話した3つのポイントを中心に確認して、必要な体制を整えていただければと思います。
メンタルヘルス対策をサポートするエムステージの3つのサービス
鈴木 さて、これまで企業が抱えるメンタルヘルスの諸問題や背景について説明していただきました。ここからは、エムステージがお手伝いできることを簡単にご紹介します。
休職・復職者の対応は、「ルールづくり、産業医活用、IT化」。この3つがカギだということがおわかりいただけたと思います。
鈴木 友紀夫(すずき ゆきお)/株式会社エムステージ執行取締役
1966年生まれ、福島県出身。東京理科大学にて応用微生物学を専攻。医師の人材サービス大手に所属後、エムステージの立ち上げに参画して今に至る。現在は産業医事業部にて、労働者の健康を守るため、そして医師の新たな働き方を提案するために奔走している。
1.ルールづくり
まず、ルールづくりでは、「メンタルヘルス休職・退職マニュアル」を作成しました。お話いただいた舘野氏と産業医の監修による、40ページのPDF形式の冊子です。弊社サイトから購入が可能です。
特徴は、指針だけを無味乾燥に並べただけではなく、誰が、いつ、何をするのかという実務が分かる手引書としての構成であることです。いつ、誰が、誰に、これこれの文書を提出する、あるいはいつ、誰が、誰に、どんな質問をする、ということまで実務担当者が知りたいことが詳細に分かります。文書書式も23種類入っています。
2.産業医の活用
産業医活用については、弊社は15年の実績があり、全国7拠点を活用して、各事業所にマッチした選任を行えるよう、産業医紹介、業務委託サービスを展開しています。
弊社に登録されている2万人のうち6000人が産業医で、うち1000人が求職されています。相談をいただければ、1日で5,10件応募があります。実務コーディネーターが付き、実務サポートツールもあり、産業医の方にスムーズに活躍していただける体制を組んでいます。
3.IT化
IT化については、産業医関連業務 管理システム、M Connectを提供しています。
一言でいうと、産業医の関連業務を統一管理できるシステムです。産業医訪問・面談などのリマインド・アラート機能や、必要書類のダウンロード、活動に関わる書類の保存管理など、これまで煩雑だった作業が、システムを使うことによって軽減されます。また、本部から各事業所への一括通知や進捗報告など、これまで各事業所でバラバラだった作業が統一管理できます。
このシステムに、この7月、新たに、休職・復職プロセス管理機能、産業医面談管理機能が加わります。休職・復職を休職準備期間、休職、復職準備、復職という4つのフェイズに分けて管理し、各フェイズごとに産業医面談の設定や対象者の状態を記録します。
休職期間はえてして、あっというまに終わってしまうもので、その間にいろいろしなければならないことがあるわけですが、会社はいつなにをするのか、対象者はなにをするのかなどが、一元管理でき、効率的に行えます。
メンタルヘルス対策でお困りのことがあれば、お気軽にご相談いただければ幸いです。
本日は、ご参加いただきありがとうございました。
(出展ブースの前で、集合写真)
文/奥田由意 編集/サンポナビ編集部
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