産業医に聞く!“いい”産業医を選ぶための3つのポイントとは?


企業の健康経営を実現する上で、産業医の果たす役割は大きい。

にもかかわらず、産業医選定の基準がわからず、応募や紹介があったまま選任したり、「メンタルヘルス不調者が多いから、精神科医にお願いしたい」と思い込んでなかなか選任が進まなかったりする企業も少なくありません。そのため、ミスマッチが起き、トラブルになることも――。

そこで、建設企業の統括産業医をはじめ、複数の企業で嘱託産業医として活躍する小橋正樹先生に、産業医を選ぶ際、人事担当者に注意してほしいことについてうかがいました。


メンタルヘルス対策が必要だから、精神科医が良いとは限らない


――企業と産業医のマッチングは重要だと思いますが、こんな企業にはこんな産業医が向いているといった選定ポイントはあるのでしょうか。


そうですね。たとえば、製造業や建設業などは、粉塵が出る、熱中症の危険がある、健康を害する化学物質を使っているといった業界特有の有害作業があります。特にそういった場合は、日本産業衛生学会などに所属して産業保健について包括的な「テクニカルスキル」を習得している産業医が強いとは言えるでしょう。労働衛生コンサルタントの取得有無などもひとつの目安にはなるかと思います。


最近、メンタルヘルスについての課題を抱えている企業が精神科医の先生を産業医として求めることはよくあります。しかしメンタルヘルス対策が必要だからといって、精神科医であれば誰でも良いというわけではありません。

注意してほしいのは、臨床医は患者さんを治すことが使命ですが、産業医は病気の診断をしたり、治療をしたりするのではなく、いわばチームドクター。中立な立場で、企業と社員、双方にとって最善の策を出し、企業というチームを勝利に導くということがミッションなのです。企業は働く場であるという前提のうえで、医学的見地から働けるか否かを判断しなければなりません。

人事担当者は、臨床医と産業医にはこうしたスタンスの違いがあることを理解した上で、企業と社員の双方の立場を理解し、中立性を保ちながらコミュニケーションを取り、関係者と交渉し調整する……そうしたチームドクターとしてのマインドを持った産業医を選ぶ必要があります

それができていないと、精神科医である産業医がメンタルヘルスに詳しいあまり、メンタルヘルス不調の社員を過重に配慮してしまった結果、組織として機能しなくなるといった本末転倒の事態も起こりうるのです。


こんな産業医には要注意!「ヒューマンスキル」を見極めて


――今挙げられたトラブルのほかにも、産業医の極端な意見に対して経営者が激怒した、復職について関係者間の意見が対立している、などというトラブルも耳にします。こういったトラブル事例については、産業医としてどうお考えですか?


臨床医なら、医師と患者の二者関係で完結するのですが、産業医の場合は経営者や人事担当者、上司、本人、主治医といった関係者がいるなかで判断を求められます。関係者の意向が一致していれば問題ないのですが、一致していない場合には関係者との調整能力が必要になるのです。一言でいえば、臨床医はプレイヤー、産業医はマネージャー、といったところでしょうか。

ここで産業医選定のキーとなるのは「ヒューマンスキル」ですね正義感が強いばかりに「夜勤は健康に悪いので来月から健診有所見者は全員夜勤から外すべきだ」と経営者に極端な意見をしたり、企業の状況を理解することもなしに「自分は変形性膝関節症の専門なので、何よりもまずは膝の対策を強化していきましょう」と若干ズレた施策を提案したり、オイオイさすがにちょっと待ってくれよという悩める人事担当者の話もよく聞きます。

人間は自分色に染めたいSタイプと相手色に染まってしまうMタイプに大別されますが、産業医は相手の色を把握したうえで相手にとって必要だと感じた色を円滑なコミュニケーションをとりながら付け加えていく、いわばN(ニュートラル)タイプが向いているのではないでしょうか。


また、例えば復職の場面などで、
本人は「一刻も早く復帰したい」
上司は「本当にちゃんと働けるのか」
人事は「あまり組織の秩序は乱したくない」
そして主治医は「復職可。業務軽減を要す。」の一点張り
という、それぞれの思惑がカオス状態に陥ることはよくあります。

そのような状況下で、産業医はそれぞれの立場や背景を理解し、
本人へは「私もあなたの主治医だったら復職可の診断書を書くだろう。でも、長期的にみてあなたの今後のキャリアのことを考えると、やっぱり今の状態で焦って復職しても再休職してしまう可能性が高いから、産業医としてはもっと万全の体調になってから復職した方が良いと思う。」と説得し、
上司へは「急激な負荷は再休職のリスクとなるので、復職後の一定期間はこういった配慮をお願いします。ただ、その後は大きな問題がなければ基本的には他の部下と同じように扱ってもらって結構です。業務をする上でこういう気になる点があったら本人と面談を行って、必要に応じて産業医までつないでください。」と理解を促し、
人事へは「復職の最終的な人事権は企業側にあります。毎回同じようなことで揉めないためにも、一緒に復職基準を作っていきましょう。」と持ちかけ、
そして主治医とは無駄な対立を防ぐため適宜手紙のやりとりを行い情報共有を図るなど、
双方向のコミュニケーションを丁寧に重ねながら皆が納得いくプランを専門家という立場から考えていく、まさにヒューマンスキルを駆使したチームドクターとしての役割が求められます


熱意を持って人事担当者と伴走してくれるか?産業医の主体性を見極めよう


――先生も産業医になったばかりのころは、臨床医とのスタンスの違いに戸惑われたとお聞きしました
(詳しくはこちら→「産業医こそチーム力!小橋正樹先生が語る産業保健の未来とは」


そうなんです。産業医になったばかりのころは、臨床医とのスタンスの違いがよくわかっていませんでした。多くの医学生や医師は産業医のことはおろか一般社会の常識を学ぶ機会すら殆どなく、恐らく「労働基準法って何?」というレベルでしょう。臨床医から産業医になることは、社会人デビューという感覚くらいの方が適切かもしれません。そのため私は、会社や人事の仕組みなどは、産業医として働きながら勉強していきました。おおかたの産業医も同様だと思います。


ここで大事なのは、そういった知識は後からでもつけられるということ。テクニカルスキルやヒューマンスキルを兼ね揃えていて、しかも社会経験豊かで即戦力になる産業医を採用できるに越したことはありません。ただ、市場を見るにそういった産業医は決してまだ多くないのが正直なところ。

そのため、人事担当者は産業医を「採用」という観点からだけでなく「育成」という観点からも考えていかざるえません。となると小手先の知識やスキルではなく、もっと本質的な部分を見ていく必要がある。

なので突き詰めて考えていくと、産業医選定の最重要ポイントとなるのは「主体性」があるかどうかだと私は思います主体性が前提としてあれば、好奇心を持って企業の制度などについて学び、相手企業のことを理解して、人事担当者と伴走しながら、今持っているスキルで最善の提案をしようとする姿勢が期待できますし、そんな熱意ある産業医なら信頼できるのではないでしょうか。


産業医選定の面接でオススメ質問「先生ならこんなときどうしますか?」


――自社が求める産業医を選定するために、産業医を選定する際、面接でどんな質問をすれば良いでしょうか。


今まで述べてきたテクニカルスキル、ヒューマンスキル、主体性について、採用面接の場で手っ取り早くスクリーニングする方法があります。ひとつは、産業医にお願いする業務を一方的に伝えるのではなく、なるべく双方向の意見交換などができるようにすること。

もうひとつは、本人、主治医、上司、人事など関係者間の意見が一致していない場合に産業医が判断を求められるケースの実例を出して、その場合どう対応するのかを聞いてみることですたとえば、「復職について主治医の診断と産業医の判断が違う場合どう対応しますか」とか、「血圧が非常に高い社員がどうしても働きたいと言っているが、産業医としてはどう判断しますか」というように。

そのようなやりとりを通じて、産業医としてのスキルや姿勢がある程度見えてくるかと思います。


ただ、スキルについては、ときに長期的な視点を持つことも大切です。

たとえ満足のいく回答でなくても、真摯に取り組もうとする姿勢があり、相手のことも理解しつつ、産業医としての意見もはっきり言うアサーティブな対応ができそうだと判断できれば、産業医として選定してよいと思います。逆に、全体的に投げやりな態度だったり、専門外だからという理由で全く耳を傾けない姿勢だった場合は、選定を慎重に考えた方が良いかもしれません。


――産業医として、人事担当者にお願いしたいことはありますか?


企業を支えているのはヒトであり、そのヒトを支えているのは健康です。「健康を考えることはヒトを考えること」という認識を持って、人事担当者の方にも主体性を持って産業保健に関わって欲しいというのが一番の願いです産業医にすべて丸投げ、という姿勢だとこちらもやりづらいですね。

主体性さえあれば、たとえ健康施策における自社の課題や取り組み方が分からなくても、コミュニケーションをとることで産業医が最善のプランを提案することもできますから。実際、健康施策を進めるにあたり、やはり経営トップや人事が主体的に動いている企業はスムーズに事が進むことが多いです。

中には、経営トップの健康経営に対する意識が乏しいことから人事担当者が影で調整役となり、経営トップへの産業医プレゼンなどをセッティングするなどしてうまく産業医を利用している企業もあります。それも、人事担当者と産業医がお互い主体性を持っているからこそ、実現できることですよね。


また、産業医は「採用するもの」ではなく「育成するもの」という感覚も持ち合わせて欲しいというのがもうひとつの願いです。特に産業医経験が浅いうちは「医学に詳しい新卒社員」くらいに捉えていた方が良いかもしれません。なので、健康に関する情報はもちろん、経営や人事労務に関すること、ステークホルダーに関すること、業界ニュースや業界特有の風習に関することなど、産業医に出せる情報はどんどん出してほしいですね。

また、産業医が衛生委員会や打ち合わせの場などであまりにイタい発言をしていたら、それはただ単に組織や業界への知識がないだけかもしれません。是非、うまく自尊心を傷つけない程度に指摘してあげてください。主体性を持った産業医であれば、それらの情報や経験をバネに一生懸命勉強して必ず企業により良いリターンをくれるはずです。

産業医がチームドクターとしてのマインドを持っていること、熱意を持って人事担当者と伴走してくれること、そして、人事担当者も同じレベルの熱意で課題に取り組むことで、企業と産業医の「最高の相性」は生まれるのではないでしょうか。


プロフィール:小橋 正樹(こばし まさき)

日本産業衛生学会専門医/労働衛生コンサルタント(保健衛生)/メンタルヘルス法務主任者

2010年、産業医科大学医学部医学科卒業。福岡記念病院、南部徳洲会病院にて主に救急診療医・総合診療医として従事。
産業医科大学産業医実務研修センター修練医を経て、現在は建設企業の統括産業医のほか、製造業、情報通信業、保険業、サービス業など約10社で嘱託産業医を務める。(2018年1月現在)

文/坂口鈴香  編集/サンポナビ編集部


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