【弁護士解説】「職場クラスター」の発生は安全配慮義務違反?企業が抱えるコロナ対応の法的リスク

「職場クラスター」が発生した場合、企業が法的責任を追及されることがあります。

安全配慮義務を果たすために必要な感染症対策とはどのようなものでしょうか。

労働法制に詳しい弁護士 倉重公太朗先生にお話を伺いました。

※リモートによる取材:2020年7月8日

【目次】

  1. 「職場クラスター」の発生で問われるのは、企業の法的責任
  2. 職場クラスター・感染症対策で、企業が法的責任を追及されないためには
  3. 職場クラスター対策では、産業医の「お墨付き」が法的リスクを低減させる
  4. コロナ禍で「何もしてくれなかった産業医」はただのリスク。変更したっていい
  5. コロナ禍を乗り越えるため、産業医に求められている「コンサルタントの役割」

解説:倉重公太朗(くらしげ・こうたろう)

慶應義塾大学経済学部卒、オリック東京法律事務所、安西法律事務所を経て2018年10月~倉重・近衞・森田法律事務所の代表弁護士に。経営者側労働法専門の弁護士。第一東京弁護士会労働法制委員会外国法部会副部会長、日本人材マネジメント協会(JSHRM)理事、日本CSR普及協会理事などを務めている。労働審判等労働紛争案件対応、団体交渉などを得意分野とし、役員・管理職研修、人事担当者向けセミナー等を多数開催。代表著作は『企業労働法実務入門』シリーズ(日本リーダーズ協会)、『雇用改革のファンファーレ』(労働調査会)など著作は25冊を超える。


「職場クラスター」の発生で問われるのは、企業の法的責任

倉重先生の元には、どのような相談が増えているのでしょうか。

やはり圧倒的に新型コロナに関する企業からの労務相談が増えていますね。

特に多いのは、このコロナ禍において「どのようにして安全配慮義務をクリアしていくか」というものです。


具体的な相談内容を教えていただいてもいいですか。

つまるところ、職場における衛生管理です。会社として衛生管理を“どこまでやっておくべきか”が大きなテーマになっています。

例えば「職場クラスターを防ぐために、どこまで新型コロナ対策をしておけば問題がないか」「安全配慮義務をクリアするためにしておくべきことは何か」というものが特に増えています。


「職場クラスター」の発生は、企業にとってどのような法的リスクがあるのでしょうか。

まず、労災と安全配慮義務は別のものですので、分けて考える必要があるでしょう。

労災認定の基準で言えば、病院で働くスタッフや消毒を行う専門業者などが、新型コロナに感染した場合に労災の対象となることが考えられます。

これは先日、病院で働くスタッフが労災認定されたことでも話題になりましたね。

では、その他多くの一般的な企業ではどうか。

一般的な企業でもクラスターが発生した場合には労災になり得るとの通達が出ています。

先日も派遣会社でクラスターが発生しましたね。そのようなケースで注意すべきは安全配慮義務違反による訴訟のリスクです。

例えば「会社の新型コロナ対策が不十分だったから、仕事が原因で感染した。」というもの。

こうしたケースは、今後急増する可能性があります。


「職場クラスター」が発生した場合、企業は安全配慮義務の責任が問われる可能性がある、ということですね。

その通りです。

法的リスク回避のため、企業の方にまず知っていただきたいことがあります。

それは、結果として感染者を出してしまったとしても、それだけで安全配慮義務違反となるのではなく「どこまで感染症対策を行っていたか」が裁判では論点になるということです。


職場クラスター・感染症対策で、企業が法的責任を追及されないためには

職場における感染対策を「どこまで」やっておくべきか、その線引きを教えてください。

安全配慮義務で大切になるのが「社会通念」という線引きです。

例えば「マスクの着用を一切認めない」など「一般の人が普通に考えて危ないことをやらせている状況」というのは、何か問題が発生した場合、企業が責任を問われる可能性が高いわけです。

新型コロナウイルスに関しても、ここまで世間で大きな話題になっているわけですから、この「社会通念」において適切な対応を行っていない場合には同じことが言えると考えられます。

もちろん、この辺りについては今後いろんな判例が出てくることでしょうから、明確化される可能性がありますが、コロナ禍の前と後では「社会通念」自体が変わっていることには注意を要します。


「社会通念上NG」と判断されるのは、具体的にどんな行動でしょうか。

例えば、営業や小売部門の従業員に対して、お客様の前で失礼になるからマスクはさせない。アルコール消毒をさせない、などといった指示を会社が出している場合はNGになるでしょう。

このようなことを指示を出している企業があったようですが、社会通念上有り得ないと判断される可能性が高いです。


企業が安全配慮義務を果たすため、まず取り組むべきはどのようなことでしょうか。

まずは、感染することで重症化のリスクが高い「高年齢の従業員」や「基礎疾患のある従業員」こういった従業員に対して、何の対策もせずにそのまま働かせておくのは危険といえます。

テレワークに変更する、感染リスクの低い業務にシフトするなど、可能な範囲で対応していくことが求められています。

なお、ここでは「可能な範囲で」というのがポイントです。テレワークが不可能な職場でもテレワーク業務を作れと言っている訳ではありません。


基礎疾患の情報など、企業が把握することが困難なケースもありますが、どのように対応すればよいでしょうか。

基本的には基礎疾患などの情報を会社が把握することはできませんが、こうした有事の際であれば、人命を優先することを第一に対応すべきと考えます。

ですので、人事や衛生担当者は、まず従業員に対して「基礎疾患を持っている方、健康面に不安のある方は申し出て下さい」などとアナウンスすると良いでしょう。

「知らなかったから何もしなかった」では、企業が安全配慮義務違反の責任を問われる可能性があります。


職場クラスター対策では、産業医の「お墨付き」が法的リスクを低減させる

職場クラスター防止と安全配慮義務をクリアするための対策、企業が行動する際の注意点を教えてください。

大切なのは配慮する「気持ち」ではなく「どこまで対策したのか。その記録を残したか」ということになります。

そのため、企業としてとった行動や対策について記録しておくことが重要となります。

あるいは、記録として残る方法で対策を進めるようにしてください。

具体的には、社内イントラネットやメールなどを使って連絡を取ることが有効でしょう。

また、その際には産業医に確認をとって、ちゃんと「お墨付き」をもらうようにしてください。


産業医の「お墨付き」とはどのようなことでしょうか。

企業が新型コロナの対策として何か行動する際に、対策の内容について産業医に確認をしてもらうことや、あるいは事前にアドバイスをもらうことです。

例えば、産業医の行う職場巡視を通じて「3密」になりがちな会議室の使い方を指導してもらうことや、机の配置など、オフィスの環境について意見を出してもらうこと。

また、衛生委員会の活用も大切になります。

衛生委員会の場を使って、各種の対策について産業医から意見をもらうこと。そして、その意見も必ず議事録に残すようにしてください。

こうすることで、企業が過失を問われる可能性はまず無いと考えられます。

職場巡視や衛生委員会を通じて、産業医からもらった「OK」をもとに対策していたという証拠が残っていれば、企業が法的責任や過失を問われる可能性は低いでしょう。


コロナ禍で「何もしてくれなかった産業医」はただのリスク。変更したっていい

となると、コロナ禍が訪れる前から会社に姿を現さない、いわゆる「名義貸し産業医」の存在は、企業にとってリスクになる可能性が高いですね。

その通りです。

この新型コロナ禍において、産業医が何も協力してくれない場合には、変更を検討してもいいんじゃないかと考えます。

今までお話してきたような“各種の判断”について、産業医が「責任を取りたくない」、「私にはわかりません」などと言って意見を出さないケースも考えられます。

しかし、それでは「産業医」の意味がありません。

特に、今後は新型コロナ絡みの裁判が増えていく可能性がありますから、当事者意識がなく、法令上最低限のことしかしない産業医の存在は、企業にとってはむしろリスクにすらなります。


企業としても、新型コロナに関する安全配慮義務について、もっとリテラシーを高める必要があるということですね。

そうです。

しかし一方で、一般企業で働く人たちが感染症に詳しいわけがないのですから、対策にしたって何からはじめればいいかわからないはずですよね。

そもそも、感染症対策・職場クラスター対策において、企業は安全配慮義務の明確な範囲を知らないでしょう。

だから、産業医という専門家に介入してもらう必要があるのです。


ほとんどの産業医が感染症の専門医ではないと思うのですが、いかがでしょうか。

しかし、産業医のポジションは企業にいる「医学の専門家」なわけですよね。

その責任感を持って、職場クラスター対策に努めてもらう以外ありません。

企業で働く労働者は病気や感染症についてもっと何も知らないわけですから。

例えば「感染症が専門ではないから意見が出せない」と言われた場合。それはただの言い訳で、すでに世に出ている最新の知見をキャッチして、衛生委員会などを通じて企業にフィードバックすることだって可能でしょう。

そして、先ほどの「産業医として意見を出しても責任が取れない」というケース。

これについても、もちろん「後から振り返って完璧な正解」を出すのは確かに難しいかもしれませんが、行政が出している各種のガイドラインに当てはめて「最低限こうすべき」という意見や、職場環境に問題が無いかという程度の判断くらいは出来るはずなのです。

医学的に素人である人事担当者が判断するよりはマシなはずです。


コロナ禍を乗り越えるため、産業医に求められている「コンサルタントの役割」

企業は今まで以上に産業医と連携していくことが重要ということですね。

もちろん、従業員の健康確保が第一ですが、今後はより一層「安全配慮義務の責任を問われないように活動していくこと」も、重要な視点の一つになってきます。

その中で、産業医がキーパーソンになることは間違いありません。

また、今回の新型コロナ禍の到来によって、テレワークの急増など実質的な「働き方改革」が起こったわけです。

働き方も多様化する中、変革期には、メンタルヘルスの課題も発生しやすくなると考えられますので、企業は常にこれらの判断を迫られていく状態になります。

それと同時に、産業医には、決められたルーティーンをこなすだけではなく、状況に応じた適切なアドバイスを企業の実情に応じて行うというコンサルタント的な役割も求められていくようになるでしょう。


▼編集部より▼

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倉重公太朗

倉重公太朗

慶應義塾大学経済学部卒、オリック東京法律事務所、安西法律事務所を経て2018年10月~倉重・近衞・森田法律事務所の代表弁護士に。経営者側労働法専門の弁護士。第一東京弁護士会労働法制委員会外国法部会副部会長、日本人材マネジメント協会(JSHRM)執行役員 を務めている。労働審判等労働紛争案件対応、団体交渉などを得意分野とし、役員・管理職研修、人事担当者向けセミナー等を多数開催。代表著作は「企業労働法実務入門」シリーズ(日本リーダーズ協会)、「雇用改革のファンファーレ」(労働調査会)。

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