中小企業も対象に!「パワハラ防止法」義務内容・罰則・就業規則のポイント
(最終更新日:2021年8月19日)
2020年6月、ついにパワーハラスメントの防止に関する法律(改正労働施策総合推進法)が施行され、中小企業は2022年4月にその対象となります。
つまり、ハラスメントの防止・対策を行なうことが中小企業においても義務化されるわけです。
この記事では
・「パワハラ防止法とは何か、企業における”4つの義務”はどんなものか」
・「何をしたらパワハラに該当するのか」
・「中小企業はどのように対策するべきか」というポイントについてまとめています。
目次[非表示]
ハラスメントの現状~「パワハラ防止法」施行で2022年4月には中小企業も対応必須に
2022年4月、中小企業も「パワハラ防止法」の対象になる
2019年5月、職場における「いじめ・嫌がらせ」を防止するための、いわゆる「パワハラ防止法(正式名称:改正労働施策総合推進法)」が成立し、2020年6月に施行されました。
また、2022年4月には中小企業も対象になりますので、各企業においては準備や対応が課題となっていることでしょう。
パワハラ防止法に違反した際の罰則は設けられていないのですが、場合によっては「勧告」「指導」の対象となってしまうため注意が必要です。
また、当然のことながら企業(事業主・使用者)には「安全配慮義務」がありますので「パワハラの実態を知っていたが放置していた」などということになれば、民法上の不法行為責任(※)に問われる可能性もあります。
※民法第709条、第715条
補足「中小企業」の定義とは?
ここでは、中小企業がどのように定義されているかについても確認しておきましょう。
中小企業であるかどうかは、おもに資本金や従業員数で区別されていますが、業種によってもその定義は異なります。
中小企業基本法では、以下の表のように定義しています。
業種分類 中小企業基本法の定義 製造業その他 ・資本金の額又は出資の総額が3億円以下の会社または
・常時使用する従業員の数が300人以下の会社及び個人 卸売業 ・資本金の額又は出資の総額が1億円以下の会社又は
・常時使用する従業員の数が100人以下の会社及び個人 小売業 ・資本金の額又は出資の総額が5千万円以下の会社又は
・常時使用する従業員の数が50人以下の会社及び個人 サービス業 ・資本金の額又は出資の総額が5千万円以下の会社又は
・常時使用する従業員の数が100人以下の会社及び個人出典:中小企業庁「中小企業・小規模企業者の定義」より一部改変
「いじめ・嫌がらせ」の相談件数は8年連続トップ。毎年増え続けるハラスメントの現状
出典:厚生労働省「令和元年度個別労働紛争解決制度の施行状況」より編集部作成
10年間で2倍以上になったハラスメントの相談件数
厚生労働省の調査(※)によれば、総合労働相談コーナー宛に寄せられる「いじめ・嫌がらせ」といったハラスメントに関する相談件数は毎年増え続けています。
過去10年間を比較してみる(上図)と〈ハラスメントに関する相談〉件数は2010年度では39,405件だったものが、2019年度には87,570件と、2倍以上の件数になっています。
総合労働相談コーナーでは、その他にも数多くの相談を受け付けているわけですが、職場のいじめ・嫌がらせに関する相談は全体の中でもトップであり、相談全体のおよそ25%(2019年度)を占めているのです。
※厚生労働省「個別労働紛争解決制度の施行状況」
中小企業でもパワハラ対策は急務
この数値は実際に相談された件数のみがカウントされていますので、水面下ではさらに多くのハラスメントが存在していることが予想されます。
企業におけるハラスメントの発生は他人事ではありません。
パワハラ防止法の施行により、大手企業では先行して対応が進んでいると思われますが、中小企業においても、早急な対応が求められているのです。
■参考になる関連記事■
中小企業の事業主がおさえておくべきパワハラ防止法の「義務」とは?
パワハラ防止法で中小企業に課せられる義務の内容
パワハラの防止について、企業(事業主)が果たさなければならない「義務」についてです。
パワハラ防止を義務化する法律(労働施策総合推進法)の第三十条に記されていますので確認しておきましょう。
●労働施策総合推進法(第三十条の二)
事業主は、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であつて、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。
2 事業主は、労働者が前項の相談を行つたこと又は事業主による当該相談への対応に協力した際に事実を述べたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。
つまり、中小企業の事業主における義務とは
・ハラスメントに関する相談があった場合には、必要な措置をとらなければならない
・相談者のプライバシーを守り、相談された内容を元に不利益な取り扱いをしてはならない
ということになります。
また、ここを読むと、企業に課せられた義務は「雇用管理上必要な措置を講じること」(法第30条)とされています。
では、「措置」とは具体的にどのようなものでしょうか?
2019年11月に示された「職場におけるパワーハラスメントに関して雇用管理上講ずべき措置等に関する指針」にて具体的な措置の内容が記載されています。
中小企業が取り組むべきパワハラ防止”4つの義務”とは
ハラスメントを防止するために、企業(事業主)は以下1~4の措置を講ずべき義務としています。
●「パワハラ防止法」における事業主の義務
1.事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発
2.相談(苦情を含む)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
3.職場におけるパワーハラスメントに係る事後の迅速かつ適切な対応
4.1~3までの措置と合わせて、相談者・行為者等のプライバシーを保護すること、その旨を労働者に対して周知すること、パワハラの相談を理由とする不利益取扱いの禁止
つまり、パワハラに対する「社内方針の明確化と周知・啓発」「相談体制の整備」「被害を受けた労働者へのケア」や「再発防止」について、適切な措置を取ることが求められていると言えるでしょう。
中小企業におけるパワハラ防止対応のポイント
パワハラ対策の第一歩は就業規則と周知・啓発
まずは、前述した「事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発」についてです。
中小企業におけるパワハラ対策、第一歩は「規則の整備」とともに「企業がパワハラ対策を講じていること」を従業員に知ってもらうことです。
それと同時に、以下の点を就業規則(あるいは「ハラスメント規程」など)に盛り込むことが求められています。
すでにセクシュアルハラスメントの服務規律がある場合にはその規律に盛り込む形でもよいでしょうし、規則の整備に不安がある場合は、社会保険労務士等にアドバイスをもらうようにしてください。
●パワーハラスメントの定義
・行為の禁止
・懲戒
・相談、苦情への対応
※注意点:就業規則を改訂する際は必ず労使間で意見交換を行うこと。
そして「ハラスメント防止」の規程を就業規則に盛り込んだら、従業員への説明会や文書の配布なども忘れずに行い、周知を徹底します。
なお、厚生労働省が運営する「あかるい職場応援団」では、就業規則の策定モデルを公開していますので、参考にしてみてはいかがでしょうか。
また「あかるい職場応援団」には労働者からの相談を受け付ける窓口も開設されていますので、働く方にとっても心強い味方になるでしょう。
出典:あかるい職場応援団「パワハラ対策7つのメニュー〈ルールを決める〉」
社内におけるパワハラ対策、体制整備のポイント
出典:厚生労働省・明るい職場応援団「パワハラ対策7つのメニュー」
次に「相談(苦情を含む)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備」についてです。
従業員からハラスメントに関する相談があった場合等、企業では適切な対応が求められています。
同時に、従業員が相談できる体制を整備することも大切。
具体的には「ハラスメントの相談窓口を設置すること」「ハラスメント研修等を実施すること」等が推奨されています。
「ハラスメント相談窓口」の設置・整備については、関連記事で解説していますので、チェックしておきましょう。
なお、「ハラスメント相談窓口」は外部の相談窓口を利用することもできます。
当ブログを運営する株式会社エムステージでは、ハラスメント外部相談窓口のサービスも取り扱っていますので、よろしければチェックしてみてください。
パワハラ防止法の指針から読む「定義(類型)」と「境界線」
人事部門は職場における「パワーハラスメント」の定義を理解しておく
パワハラを防止するためには「どんな行為がパワハラに該当するのか」について知っておく必要があります。
パワハラの定義は「優越的な関係を背景とした」「業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動により」「就業環境を害すること」とされています。
しかし、これだけではなく「パワーハラスメントの6類型」として、以下1~6のように、具体的な行為を分類し、法で定めているのです。
次の行為はパワハラとして判定される可能性が高いため、特に注意してください。
●パワーハラスメントとして判定される行為の類型
1.身体的な攻撃(暴行・傷害)
2.精神的な攻撃(脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言)
3.人間関係の切り離し(隔離・仲間外し・無視)
4.過大な要求(明らかに遂行不可能な業務の強制)
5.過小な要求(能力や経験と見合わない仕事を命じることや、仕事を与えないこと)
6.個の侵害(私的なことに過度に立ち入ること)
※注意:1~6がすべての類型を網羅しているわけではありません。
「パワハラ防止指針」で示された「境界線」とは?
どこまでが「業務上の指導」で、どこからが「パワーハラスメント」となるのか、使用者や管理職の方たちは知っておくことが重要です。
そこで、2019年11月に「職場におけるパワーハラスメントに関して雇用管理上講ずべき措置等に関する指針」が示されました。
その指針の中で、パワハラの境界線について、さらに具体的な例を明示しています(以下の図を参照)。
この例示については様々な意見が交わされていますが「これに該当しないからパワハラにはならない」ということにはなりませんので、十分に注意すべきです。
パワハラの発生状況など、自社の人間関係を知る
企業がすべきことは、安全配慮義務をしっかり守ることといえます。
具体的には、前述した「就業規則等でハラスメントについて規定する」のほか「相談窓口の開設」や「相談者の不利益取扱いを行わない」ことが挙げられます。
このほかにも、日頃から従業員の行動に注目することも大切です。
例として「勤怠の様子がおかしい従業員がいないかどうか」「声を荒げている管理職などがいないかどうか」といった部分に気をつけます。
そして、ストレスチェックの結果などとも照らし合わせ、必要に応じて産業医と連携したフォローを行っていくことも有効でしょう。
また、労働者もハラスメントについて関心を持ち、理解を深めることが重要です。普段の言動や行動には注意を払い、事業主が行う措置への協力に努めることが大切です。
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パワハラ防止法とその対応について紹介しました。
過度なハラスメントによって、従業員が精神障害の労災認定を受けてしまったら……従業員はもちろん、企業にも大きなダメージを受けることになってしまいます。
ついに法律で定められた「パワハラ」について、しっかりと対策していきましょう。
参考:厚生労働省「職場におけるパワーハラスメント対策が 事業主の義務になりました︕」
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