〈専門家に聞く〉新型コロナ「災害レベル」の現状~企業におけるBCPの重要性

ミネルヴァベリタス株式会社 顧問

信州大学 特任教授 顧問 本田茂樹


繰り返す感染症の流行~BCPの更新は必須

本田茂樹 先生

「災害レベル」の感染拡大、企業におけるBCPの重要性

新型コロナウイルス感染症の流行が続いていますが、ワクチン接種が道半ばであるとともに変異株の影響もあり、その終息時期が見通せません。

また、報道では「災害レベル」という言葉も耳にするようになり、この危機的状況を表しているといえるでしょう。

そして、新型コロナウイルス感染症の流行は、最後のパンデミック(世界的な大流行)ではありません。

今後も、ひとたび新たなウイルスによる感染症が発生すると、国家間での人や物の移動が高速・大量となっていることもあり、またたく間にパンデミックとなる可能性が続きます。


これまで企業は、テレワークやウェブ会議のような新たな業務スタイルを導入するなど、この新型コロナウイルス感染症への対応策を講じてきました。

しかし、その流行が長期化する中、マスク・アルコール消毒薬の不足や、社内での感染疑い事例への対応などの悩みを抱えた企業が少なくありません。

また、BCP(事業継続計画)を策定していた企業でも、実際には適切に運用できず、BCPの見直しを検討しているところもあります。


BCPは策定そのものが目的ではなく、それを的確に運用することによって、危機的事象が発生した場合に事業を中断させない、そして中断した場合でも速やかに事業を復旧、継続することです。

そのためには、策定したBCPを定期的に更新するとともに、今回の流行長期化のようなタイミングで見直しを行い、その実効性を高めることが肝要です。 


認識しないことには、備えられない~優先順位がすべて

リスクマネジメントはあらかじめ、起こり得る危機的事象を洗い出し、それに対して的確な準備をしておくことが基本です。

逆に、そのような危機的事象が認識できなければ、そのリスクに対して備えることはできません。

 

1.企業において感染者は発生すると認識しておく

日本において、新型コロナウイルス感染症の最初の感染者が見つかったのは、2020年の1月ですが、それからすでに1年半以上が経過しています。

当初は、感染者の数が少ない時期もありましたが、感染拡大が続く中、今では、どの企業で感染者が発生しても不思議ではありません。

実際に職場で感染者が発生した際にあわてないよう、そのときの対応を整理しておくことが求められます。

具体的には、自社で感染者が発生した場合、保健所の指示に従いながら、従業員の受診、濃厚接触者の確認、職場の消毒などの対応を行うことになりますが、それらの手順を初動のアクションプランとしてまとめ、平常時からシミュレーションを行うことが有用です。

また、感染した従業員が職場復帰する際の手順も決めておきましょう。

新型コロナウイルス感染症からの回復状況には個人差がありますから、療養が終わり、職場復帰する場合も、業務によって症状を悪化させることがないようにします。

本人の申し出を踏まえるとともに、産業医や産業保健スタッフとも連携して職場復帰を進めることが重要です。テレワークの活用なども含め、従業員の負担軽減に配慮した無理のないものとすることが望まれます。

なお、新型コロナウイルス感染症に対する国や自治体の対応方針は、今後も変わることがありますから、最新の情報に基づいて自社の対策を進めることが大切です。


2.業務の優先順位付けは必須

建物・設備やライフラインに甚大な被害を及ぼす自然災害と異なり、新型コロナウイルス感染症など感染症が流行した場合の主な影響は、従業員への健康被害です。そこで、感染拡大時においても、どのように従業員のやり繰りをしながら事業を継続していくかがポイントです。

職場で感染者が発生すると、当該従業員はもちろん、保健所によって濃厚接触者とされた従業員についても、自宅待機を行うことになりますが、このような場合、一度に多くの従業員が職場から離れざるを得ません。

通常業務に加えて、保健所や医療機関との連絡・調整や消毒などの感染防止対策を行う必要に迫られます。

もちろん、従業員の数が限られる中ですべての業務を行うことはできませんから、平常時に自社業務の優先順位付けを行い、緊急事態に直面した際は、優先度の高い業務から順に対応することが肝要です。

感染症のまん延時期などは、平常時に「できること」でも、その優先順位が低ければ一時的に切り捨てる、つまり、「やらない」という決断が求められます。


3.従業員の安全確保はBCPの最優先事項

感染症流行の拡大時期において、従業員を業務にあたらせることは、従業員の感染リスクを高める可能性があります。また、感染した従業員が欠けることから、長時間労働や精神的なダメージなどが生じ、労働環境が過酷になることも懸念されます。

労働契約法第5条(労働者の安全への配慮)(注1)の観点からも、産業医とも連携しつつ、従業員の感染防止対策、そして従業員の過重労働やメンタルヘルスにも的確な措置を講じることが極めて重要です。

(注1)労働契約法第5条

「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」


複合災害への備え~準備は裏切らない

産業医と連携し、緊急時に備える

新型コロナウイルス感染症の流行が続く中で、今後、地震などの自然災害が発生すると、それは複合災害となることを意味します。自社のBCPについて、複合災害にも耐えられるかどうかの観点から見直すことが重要です。

例えば、大規模地震が発生した際、企業は従業員の帰宅を抑制し、安全に帰宅することが確認できるまで、社内に待機させることが求められています。 

ただ、従業員が社内で宿泊する場合、限られたスペースに多くの従業員が留まる環境が生じます。多くの企業では、宿泊場所として会議室などの広いスペースを使うことを想定していますが、さらに新型コロナウイルス感染症の流行を考慮し、それぞれの従業員に対してより広い空間を提供することを検討するとよいでしょう。

また、寝具の共有は感染防止対策の観点から望ましくありませんので、毛布などは一人ひとりに配布することを検討します。

これらの環境整備については、産業医の職場巡視等を活用し、アドバイスをもらうことをおすすめします。


感染症の流行をはじめとして、企業を取り巻く環境が同じままで変わらないということはありません。

我々は、このような状況変化に伴い、BCPの最適解も変わり得ることを認識しておきましょう。

(参考資料)

「新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け)」(厚生労働省ホームページ)


解説:本田茂樹

三井住友海上火災保険株式会社に入社後、リスクマネジメント会社の勤務を経て、現在はミネルヴァベリタス株式会社の顧問であり信州大学経営大学院にて特任教授も務める。

リスクマネジメントおよび危機管理に関するコンサルティング、執筆活動を続ける一方で、全国での講演活動も行っている。

これまで、早稲田大学、東京医科歯科大学大学院などで教鞭を執るとともに、日本経済団体連合会・社会基盤強化委員会企画部会委員を務めてきた。

近著に「待ったなし!BCP[事業継続計画]策定と見直しの実務必携 水害、地震、感染症から経営資源を守る」がある。​​​​​​​​​​​​​​

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