企業に常勤する「専属産業医」とは?嘱託との違い・兼務の可否・探し方を紹介
最終更新日:2021年7月12日
事業場の従業員が増え、法律で定められた人数に達した場合、企業には「専属産業医」を選任する義務があります。
一般的な産業医と専属産業医は何が異なるのでしょうか。
また、専属産業医を選任するにあたり、企業が準備するべきことは何でしょうか。
「専属産業医のキホン」をまとめましたので、確認しておきましょう。
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専属産業医とは、事業場に常勤する産業医
大規模な事業場に常勤する産業医が「専属産業医」
労働安全衛生法により、50人以上の従業員がいる事業場は、産業医を選任する義務があります。
そして、従業員数が50人~999人の事業場の場合は、月1回程度訪問する「嘱託産業医」の選任で問題ありません。
しかし、事業場の従業員が1,000人(※)を超えている場合には、常勤する「専属産業医」の選任が義務になります。
もちろん、中小規模の事業場に産業医を常勤させることも可能ではありますが、一般的には「中小企業=嘱託産業医」「大企業=専属産業医」というイメージがあります。
また、従業員が3,000人を超える事業場の場合には、この専属産業医を2名以上選任する必要があるのです。
※以下の有害業務の場合は、従業員500人以上から専属産業医の選任が必要です
1. 多量の高熱物体を取扱う業務及び著しく暑熱な場所における業務
2. 多量の低温物体を取扱う業務及び著しく寒冷な場所における業務
3. ラジウム放射線、X線その他の有害放射線にさらされる業務
4. 土石、獣毛等の塵埃又は粉末を著しく飛散する場所における業務
5. 異常気圧下における業務
6. 削岩機、鋲打機等の使用によって、身体に著しい振動を与える業務
7. 重量物の取扱い等重激な業務
8. ボイラー製造等強烈な騒音を発する場所における業務
9. 坑内における業務
10. 深夜業を含む業務
11. 水銀、砒素、黄燐、弗化水素、塩素、塩酸、硝酸、硫酸、青酸、一酸化炭素、 二硫化窒素、亜硫酸、ベンゼン、アニリン、その他これらに準ずる有害物の ガス、蒸気、又は粉塵を発散する場所における業務
12. 病原体によって汚染のおそれが著しい業務
13. その他厚生労働大臣が定める業務
出典:株式会社エムステージ「はじめての産業医選任まるわかりガイドブック」
●「産業医の仕事内容」について詳しく書かれた記事
〈職務内容・働き方・報酬〉専属産業医と嘱託産業医の違い
専属産業医も嘱託産業医も基本的な職務内容は変わらない
産業医の職務は多岐にわたりますが、主に以下の5つがあります。
●産業医の主な業務
- 総括管理:健康管理、作業管理、作業環境管理、労働衛生教育が、事業場で適切に展開されるために必要な労働衛生管理体制の構築、労働衛生関係諸規程の整備、年間計画の策定など、労働衛生管理の基盤整備に関わる職務
- 健康管理:健康管理は、健康診断、面接指導、健康測定等により労働者の健康状態を把握し、作業環境や作業との関連を検討することにより、職場要因による健康影響を最小限にとどめ、職業性疾病の未然 防止を図るとともに作業関連疾患の発病や増悪を防止し、さらには生活習慣病の予防と管理を目指すこと
- 作業管理:作業管理については、高気圧作業をはじめ、VDT作業、振動工具取扱い作業、重量物取扱い作業など、一連続作業時間や一日作業時間、作業姿勢、作業方法などについて対策を講じること
- 作業環境管理:作業環境管理は、職場環境に存在する有害要因に起因する健康障害リスクを評価し、リスクの排除または適切な制御を行うことによって、労働者の健康を保持するための活動
- 労働衛生教育:労働安全衛生を効果的に推進するためには、安全衛生教育を体系的にかつ組織的に進めていく必要がある。法定および法定外も含め、企業規模、業種、労働者の年齢構成などあらゆる視点から計画的に実施すること
出典:厚生労働省「産業医の職務」より一部抜粋
これは、すべての産業医に共通した職務内容であり、専属産業医であっても嘱託産業医であっても、基本的なものに大きな違いはありません。
産業医には、職場の健康を保持・増進することを目的とした産業保健活動が求められています。
専属産業医と嘱託産業医では「働き方」が異なる
それでは、専属産業医と嘱託産業医で何が違うのかというと、それは「働き方」といえます。
嘱託産業医は非常勤ですので、一般的に月1回程度、事業場を訪問します。
そして、日本の多くの産業医の選任形態はこの非常勤である「嘱託」です。
一方で、事業場の規模が大きくなると、常勤の専属産業医を選任が必要になることは先ほども書きましたが、大企業には産業医を常勤させておく必要があります。
ですので、専属産業医は週4日程度、事業場に常勤することが多いです。
このようにして、専属産業医と嘱託産業医は「働き方」が主な違いになっています。
また、事業場に常勤している専属産業医であれば、従業員と接する機会も増えるため、より企業の健康活動にコミットメントができるともいわれています。
専属産業医と嘱託産業医、報酬の違いは?
次に専属産業医と嘱託産業医の報酬の違いについてです。
株式会社エムステージの調べによれば、嘱託産業医は月1回1時間の訪問で数万円程度が報酬の相場となっています。
(嘱託産業医の場合、事業場の状況によって契約時間が変わります。)
対する専属産業医は、企業や勤務日数などにもよりますが年俸800万円~1,500万円が報酬の相場になっています。
ですので、嘱託産業医から専属産業医に代える場合、企業が産業医に支払う報酬は増加すると考えていいでしょう。
〈兼務の可否・探し方〉専属産業医の選任はどこに相談するべき?
専属産業医が嘱託産業医を兼務するときの注意点
次に、専属産業医が嘱託産業医を兼務する場合についてです。
例えば、事業場の従業員が1,000人に達する際に「今選任している嘱託産業医の先生に、引き続き専属産業医として業務をお願いしたい」と企業が考えることもあると思います。
しかし、その嘱託産業医が他の企業でも産業医の業務を行っている際には注意が必要になります。
その理由は、産業医の兼務に関するルール(要件)があるからです。ですので、事前にルールについてもあわせて確認しておきましょう。
※なお、2021年3月に発出された「「専属産業医が他の事業場の非専属の産業医を兼務する場合の 事業場間の地理的関係について」の廃止について(基安労発 0331 第2号)」により、地理的な要件は廃止されました。
●専属産業医が他の事業場の嘱託産業医を兼務する際の要件
専属産業医が非専属(嘱託)の産業医を兼務することができる場合は、以下のすべての要件に該当するも のとする。
①専属産業医の所属する事業場と非専属事業場とが、
・労働衛生に 関する協議組織が設置されている等労働衛生管理が相互に密接し関連して行われていること
・労働 の態様が類似していること等、一体として産業保健活動を行うことが効率的であること
②専属産業医が兼務する事業場の数、対象労働者数については、専属産業医としての趣旨を踏まえ、そ の職務の遂行に支障を生じない範囲内とすること。
③対象労働者の総数については、労働安全衛生規則第13条第1項第3号の規定に準じ、3千人を超えては ならないこと。
基発第214号より一部改変
企業が苦労する、専属産業医探し方
従業員数が1,000人(有害業務等を取り扱っている事業場の場合は500人)を超えることが見込まれる場合は、早めに専属産業医を選任する準備を始めましょう。
産業医を探す方法としては、主に次の4つの方法が考えられます。
・医師人材紹介会社に産業医の紹介を依頼する
・地域の医師会に相談する
・健康診断を実施している健診機関に紹介を依頼する
・社員の人脈で探す
しかし、非常勤の嘱託産業医と比べて、専属産業医の採用に苦労する事業場は少なくありません。
その理由は、日本の産業医の多くは嘱託産業医であり、専属産業医として働く医師の数はそれほど多くはないためです。
そのため、産業医として働く意思の情報を豊富に持っている人材紹介会社や専門機関への相談が近道になるといわれています。
●産業医の報酬について詳しく書かれた記事
専属産業医を探す際には、産業保健体制の構築も
大企業では、健康管理室と呼ばれる社内の産業保健体制を構築しているケースが一般的です。
専属産業医の所属する事業場は、必然的に従業員数が多いため、面談やストレスチェックの対応など業務量も増えます。
専属産業医が一人でそれだけの業務を行うことは困難になるため、健康管理室と呼ばれる部門を設け、産業医の活動をサポートする保健師や事務を補助するスタッフを配置している企業も多いのです。
社内に既存の体制があれば別ですが、専属産業医を探す際には保健師などの産業保健スタッフも同時に探すことも必要になることを覚えておきましょう。
また、医師の紹介会社であれば、産業医だけでなく保健師の情報も豊富に所有していることも多いため、相談してみることが近道になります。
株式会社エムステージでは企業の産業保健活動を網羅的にサポートできるよう、サービスを展開しています。ぜひ一度お問い合わせください。