【2020年改正】精神障害の労災認定基準と企業におけるハラスメント予防
最終更新日:2020年12月7日
従業員のストレス状態をしっかり把握していますか?
仕事による過度なストレスが原因で、従業員が「精神障害」を発病した場合、労災になってしまうおそれもあります。
2020年5月には「心理的負荷による精神障害の労災認定基準」が改正されました。
精神障害の労災認定基準を理解して、労災防止に役立てましょう。
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労災予防の視点で「精神障害」の認定基準を知っておくことが大切
労災として認定されることもある「精神障害」を発病する要因とは?
精神障害を発病する要因は、仕事や私生活といった外部からのストレスに対して、個人の対応力の強さの関係があると考えられています。
そして、発病した精神障害が「仕事による強いストレス」と判断された場合には、労災として認定される可能性があります。
しかし、ストレスの原因が「仕事」だけにあるとは限らない場合もあります。
例えば、私生活でも強いストレスがあったり、アルコール依存があることや持病といった要因が関係していることもあるため、精神障害の労災認定には医学的な判断が求められています。
以下の図で精神障害の発病要因を見てみましょう。
出典:厚生労働省「精神障害の労災認定」
認定に条件がある? 精神障害が労災として認定される3つの要件
精神障害として労災認定される要件は3つあります。
以下の3つを確認しておきましょう。
●精神障害の労災認定〈3つの要件〉
①認定基準の対象となる精神障害を発病していること
②人体基準の対象となる精神障害の発病前おおむね6か月の間に、業務による強いストレス(心理的負荷)が認められること
③業務以外の心理的負荷や個体側要因により発病したとは認められないこと
※評価基準について:精神障害を発病した労働者が「原因となる出来事を主観的にどう受け止めたか」ではなく「同種の労働者が一般的にどう受け止めるか」という観点で評価されます。
出典:厚生労働省「精神障害の労災認定」
今回は、主に企業の人事担当者が知っておきたい知識として「仕事」に関連する上記①&②の要件について解説します。
〈認定基準①〉発病した精神障害の種類が認定基準の対象となるか
労災認定の基準となる「精神および行動の障害」に該当するか
①の「認定基準の対象となる精神障害を発病していること」とは、具体的に「ICD-10(国際疾病分類第10回修正版)」の分類される精神障害が該当します。
認定要件の①を満たすには、この「ICD-10」の障害に認定されるかどうかが基準となります。
「ICD-10」の第5章「精神および行動の障害」について、以下の図で確認しておきましょう。
出典:厚生労働省「精神障害の労災認定」
この図の中で、仕事に関連した代表的な精神障害は「うつ病(F3)」や「急性ストレス反応(F4)」となります。
なお、「ICD-10」で分類される精神障害が認定基準の対象となってはいますが「認知症(F0)」や「頭部外傷(F0)」や「アルコール・薬物による障害(F1)」は除外されることに注意します。
〈認定基準②〉精神障害の発病原因と考えられる、仕事上の「出来事」が評価対象に
評価には「業務による心理的負荷評価表」が用いられる
次に、②の認定基準「人体基準の対象となる精神障害の発病前おおむね6か月の間に、業務による強いストレス(心理的負荷)が認められること」についてです。
これは、言ってみれば「精神障害の発病前の6か月間に、仕事で起こった“出来事”が、発病とどれくらい強い関係があるのか」という事についての評価になります。
その“出来事”の分類には「業務による心理的負荷評価表」が使われ、労働基準監督署によって評価されます。
なお「業務による心理的負荷評価表」については厚生労働省のホームページで確認することができます。
精神障害の原因となった“出来事”は3段階で評価される
評価には「弱」「中」「強」の三段階があり「強」の評価ほど「仕事によるストレス」と判断されるようになります。
また、精神障害の発病原因となった仕事上での“出来事”については「特別な出来事」と「特別でない出来事」の2つに分類されます。
「特別な出来事」に該当する場合には「強」となり、そうでない場合には次の手順で3段階の評価が行われます。
●「特別な出来事」に該当しない場合の評価方法
「業務による心理的負荷評価表」を用いて、次の3点が評価されます。
(1)「具体的出来事」に当てはまるかどうか。あるいはそれに近い出来事があったかどうか
(2)「具体的出来事」の内容に事実関係が合致しているか。合致している場合にはその強度
(3)複数の出来事がある場合には全体の評価を行う
「長時間労働」も精神障害の評価基準になっている
精神障害の発病と長時間労働の関係
長時間労働は、精神障害発病の原因となり得えます。
そのため、精神障害の労災認定では次の3つの視点から評価が行われます。
なお、以下でいう「時間外労働」とは、週40時間を超える労働時間を指します。
①「極度の長時間労働」
発病直前の“きわめて長い”労働時間が評価の対象となります。
●「強」と評価される例
・発病直前の1か月におおむね160時間以上の時間外労働を行った場合
・発病直前の3週間におおむね120時間以上の時間外労働を行った場合
②「連続した長時間労働」
発病前の1~3か月の間にあった長時間労働が評価の対象となります。
●「強」と評価される例
・発病直前の2か月連続して1か月当たりおおむね120時間以上の時間外労働を行った場合
・発病直前の3か月連続して1か月当たりおおむね100時間以上の時間外労働を行った場合
③「他の出来事と関連した長時間労働」
長時間労働と「出来事」が同時に発生した場合には、評価のレベルを修正することもあります。
●「強」と評価される例
・転勤して新たな業務に従事し、その後月100時間程度の時間外労働を行った場合
※上記の時間数は目安であり、基準に至らない場合でも「強」と評価されることがあります。
2020年の法改正で「パワハラ」も精神障害の労災の対象に
「パワハラ」に関する精神障害の認定基準を知っておく
2020年に「心理的負荷による精神障害の労災認定基準」が改正されました。
それにより、労災認定基準の別表に「パワーハラスメント」の項目が追加されています。
パワハラに関する心理的負荷と、判断される内容や出来事については次の表で確認しておきましょう。
出典:厚生労働省「精神障害の労災認定基準の改正について」
ハラスメントがある場合には評価期間に特例が適応される
認定基準では”おおむね6か月の間に起こった出来事”が評価の対象となりますが「いじめ」「セクシャルハラスメント」のような繰り返される出来事がある場合には、それが始まった時点からの評価となります。
まとめ
精神障害の労災認定要件について、確認できましたでしょうか。
企業の方は、職場で精神障害の労災が発生しないよう、適切な対応を心掛けてください。
そこで大切になるのはストレスチェックの結果をもとに「日常的に従業員のストレス状態を把握すること」をはじめ「精神障害の発生原因をなくすこと」といえます。
産業医などの専門スタッフと連携し、労災予防に取り組んでいきましょう。
参考:厚生労働省「精神障害の労災認定」パンフレット
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