無理せず長く働くために~障害年金制度を知っていますか?≪基本編≫


「公的年金」と聞くと、高齢になった時に受け取る「老齢年金」のイメージが強いが、年金支給の対象は高齢者だけではない病気やけがで、働いたり生活をしたりすることが困難な人には「障害年金」として支給される。障害年金の専門家・社会保険労務士の松山純子氏は「いざというときに自分を守ってくれる大切な制度。無理せず長く働くために多くの人に知ってほしい」と話す。松山氏が障害年金に関心を持った背景や、働きながら障害年金を受給する意義について聞いた。

松山 純子(まつやま・じゅんこ)

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社会保険労務士。YORISOU社会保険労務士法人代表社員。

短期大学卒業後、福祉施設(身体・知的・精神)で人事総務やケースワーカーとして10年以上勤務。2006年松山純子社会保険労務士事務所を開業。2017年10月に法人化した。著書に「改訂版 障害年金をもらいながら働く方法を考えてみませんか?」(日本法令)「スッキリ図解 これならわかる障害年金」(翔泳社)など。

【公的年金の仕組み】

日本の公的年金制度は、20歳以上の全ての人が共通して加入する国民年金と、会社員が加入する厚生年金などによる「2階建て構造」になっている。種類としては、高齢になったときに受け取る「老齢年金」、重度の障害を負ったときに受け取る「障害年金」、家計を支える人が亡くなった時に遺族が受け取る「遺族年金」の3種類がある。

※ 賃金:厚生年金への加入期間中の給与と賞与の平均額

※ 障害等級:基礎年金は1~2級、厚生年金は1~3級があり、1~2級の等級は基礎年金と厚生年金で共通している。2級以上の障害厚生年金受給者は、同時に障害基礎年金を受給できる。数字が少ない方が重度の障害。

参考:厚生労働省「公的年金制度の概要」



年金は現役世代も受給できる


―障害年金とは、どのような制度ですか。


障害年金は、老齢年金と同様、国民が毎月一定額の保険料を納めている公的年金の一つです。もしものときの経済的不安をカバーするいわば「保険」ですね。病気やけがで働いたり生活をしたりすることが困難になった人に国から支給されます。老齢年金とは異なり、現役世代も受給できます。自分を守ってくれる大切な制度です。


―現在、障害年金の専門家として活躍されていますが、障害年金に関心を持たれたきっかけは何ですか。


短期大学を卒業後、障害者福祉施設で、人事総務やケースワーカーとして10年間以上勤務しました。正規雇用されている700人のうち半分は障害者。振り返ってみると、この時期に、私が障害年金を専門として選んだ原点となる、二つのポイントがありました。


一つ目は、仕事を休むタイミングの違いに疑問を抱いたことです。同僚に、頚髄損傷で車いすを使っている人が何人かいました。車いすにずっと座っているので、お尻に※褥瘡(じょくそう)ができてしまうんです。褥瘡は、その部分から感染を起こして亡くなる人がいるほど深刻なケースもあります。治療開始が遅れると治るのに時間がかかるので、しっかり治すには、仕事を休んだり、入院したりした方がいい。同僚の中で、早い段階で仕事を休んだ人は、早く職場に復帰できました。一方、ぎりぎりまで休まずに働いていた人は、褥瘡が悪化して、休職し、復帰できずに結局退職しました。

その時は気づかなかったんですが、後から、両者の差はなんだろうと考えた時、経済的な余裕の差ではないかと思ったんです。そして経済的な余裕を支えていたのは、障害年金を受給していたかどうかだったのかもしれないと感じたのです。

※褥瘡 床ずれ。体重で圧迫されている場所の血流が悪くなったり滞ったりすることで、皮膚の一部が赤い色味をおびたり、ただれたり、傷ができてしまうこと

二つ目は、仕事に復帰できなくなった筋ジストロフィーの男性の言葉です。最初は手動の車いすを使っていたのですが、次第に筋力が衰えて電動車いすになり、電動も自分で操作できなくなって、最後はお母さんがおぶって出勤してくるようになりました。そしていよいよ出勤が難しくなったとき、彼は「籍だけは残しておいてほしい」と言ったのです。その時、「社会とのつながりがあるということは、生きる上での希望になるんだ」と気づかされました。


のちに、私も体調を崩し、その職場を退職しました。在職中に社労士の資格を取っていたので、体調が戻った後、知り合いの経営する会社の顧問をすることになったのです。

開業し、顧問以外に何を柱にしようかと考えていた時、障害年金が浮かびました。私は福祉施設に勤めていたので障害年金を知っていましたが、当時は、あまり知られていなかった。人々が病気になっても、障害年金で経済的な余裕が生まれれば、長く働き続けることができる。もっと障害年金制度を広めていきたいと思いました。



―当時は、障害年金の専門家も少なかったのではないですか。

自分も制度や手続きを勉強しながらの業務だったので、くわしい人が少ないことに驚きました。開業して2年目くらいに、東京都社労士会の障害年金に関する自主研究会を立ち上げました。事務所のホームページに「障害年金手続き」と出したら、多くの相談が来て、困っている人はいると確信しました。


働く人にとっての障害年金の三つの意義


―働く人にとって障害年金はどういう価値がありますか。


障害年金を受給する意義としては、

①自分に合った労働時間を選択しやすくなる

②治療費として使うことで、治療に専念できる

③心のゆとりができる

などがあると思います。

①自分に合った労働時間を選択しやすくなる

例えば、病気やけがで週5日、フルタイムで働くのは難しい、という状態があったとします。体調がつらかったり、療養する必要があったりしても、無理して週5日働こうとする背景の一つには、休んだ分給料が減ることへの経済的な不安があります

障害年金で生活費が支えられれば、週3日勤務にしてみよう、短時間勤務にしてみよう、という選択ができるようになります。休職期間を経て、復職する時も同様です。週5日働けなければ休職、退職、という選択肢しかなかったのが、より自分に合った働き方を考えられるようになります

職場が多様な働き方を受け入れる土壌はできてきています。社会では、育児中の時短勤務なども広がってきました。また、厚生労働省は「事業場における治療と職業生活の両立支援のためのガイドライン」を出しました。

会社側としては、従業員が無理のない働き方ができれば、貴重な人材を失わずにすみます。

②治療費として使うことで、治療に専念できる

治療にはお金がかかる場合があります。限度額を超えた場合、その超えた額を支給する公的医療保険の「高額療養費制度」もありますが、障害年金を治療費に充てられることで、通院の回数や治療を制限することなく、しっかり治療に集中できます。

しっかり病気やけがを治すことが、早めの職場復帰、フル勤務復帰につながることも多いです。

③心のゆとりができる

障害年金で経済的な余裕が出てくることで、例えば通院の帰りにカフェでお茶するゆとりもできます。経済的な不安がある状態では、なかなか心休まる機会が取れなかった人が、カフェでほっと一息つけるようになった、という話はよく聞きます。心の健康の上でも、必要なゆとりです。これは結構見落とされがちですが、私は大切なことだと思っています。


今は問題なく働くことができていても、ある日突然障害を抱えてしまう可能性は誰でも持っています。自分を守ってくれる制度としての認識が、もっと進んでほしいです。



障害年金は、障害の状態になったら自動的に年金が支給される訳ではありません。

要件を満たしていたとしても、受給には請求手続きが必要です。≪実践編≫では、障害年金の対象者や手続きの方法をお伝えします。

▼≪実践編≫はこちら

無理せず長く働くために~障害年金制度を知っていますか?≪実践編≫


文・編集/サンポナビ編集部


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