ストレスチェック導入マニュアル|実施前に定めるべき8つの事項
2015年12月より、50人以上の労働者がいる事業場で毎年1回の実施が義務付けられたストレスチェック制度。厚生労働省は『ストレスチェック制度簡単!導入マニュアル』という導入用のマニュアルの中で、ストレスチェック実施前に【事業場の衛生委員会で話し合う必要がある事項】を8つあげています。
今回は、その8つの事項に関して、具体的な内容や、実際にどのようなケースが多いのかをまとめました。
目次[非表示]
事前に決めるべき8つの事項
ストレスチェック制度を導入するにあたり、はじめに決めるべきことは以下の8点であると厚生労働省の『ストレスチェック制度簡単!導入マニュアル』に記載されています。
① ストレスチェックは誰に実施させるのか。
② ストレスチェックはいつ実施するのか。
③ どんな質問票を使ってストレスチェックを実施するのか。
④ どんな方法でストレスの高い人を選ぶのか。
⑤ 面接指導の申出は誰にすれば良いのか。
⑥ 面接指導はどの医師に依頼して実施するのか。
⑦ 集団分析はどんな方法で行うのか。
⑧ ストレスチェックの結果は誰が、どこに保存するのか。
(厚生労働省 ストレスチェック制度簡単!導入マニュアルより抜粋)
衛生委員会などでこの8点を議論した上で、ストレスチェック制度に関する方針を決定したら社内規程に明文化する必要があります。
それぞれ、どのように決めていくのかをみていきましょう。
【議題①】ストレスチェックは誰に実施させるのか
ストレスチェックを実施する上で「ストレスチェックの実施者」と「ストレスチェックの実施事務従事者」を選任することが必要です。
<A. ストレスチェック実施者>ストレスチェックの実施者とは
ストレスチェックの実施者は、実際にストレスチェックを実施する人のことで、医師、保健師、厚生労働大臣の定める研修を受けた看護師・精神保健福祉士のいずれかでなければなりません。
労働安全衛生法には以下のように規定されています。
第六十六条の十 事業者は、労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、医師、保健師その他の厚生労働省令で定める者(以下この条において「医師等」という。)による心理的な負担の程度を把握するための検査を行わなければならない。
引用元:労働安全衛生法
このような規定はありますが、事業場の実情を把握している【産業医】が実施者になることが最も望ましいとされています。
<B. ストレスチェックの実施事務従事者>実施事務従事者とは
ストレスチェックの実施事務従事者とは、実施者の指示のもと、ストレスチェック制度に関わる業務をサポートする人をさします。人事権を持つ監督的地位にある人でなければ、基本的には誰が担当しても問題ありません。外部委託することもできます。
実施方法によって業務内容は異なりますが、主な業務は以下の4つになります。
- ストレスチェック実施に関する社員への通知の連絡
- 質問票の回収
- データ入力
- 結果の通知(実施者が行うこともできます)
などの個人情報を取り扱う業務を担当します。
事業場によっては、高ストレス判定された従業員からの面接指導希望申し出の連絡窓口を担う場合もあります。人数の規定はありませんが、事業場の規模に比例して業務量も増えるため、適切な人数の実施事務従事者を用意する必要があると言われています。
【議題②】ストレスチェックはいつ実施するのか
ストレスチェックの社員への周知から医師による面接指導及び実施結果の集団分析が終わるまでにかかる期間は、2ヶ月程度と言われています。
- まず、社員に対してストレスチェックを実施することを周知します。
- 次に、紙媒体であれば質問紙を配布し、オンラインであればURLを通知します。
- 1週間〜2週間ほどの期間で回答期限を設け、ストレスチェックの結果を回収します。
- 回答が集まったら個人に結果を通知し 、高ストレス者判定が出た人から面接指導希望者を募ります。
- 希望者には医師による面接導を実施します。同時並行で集団分析を行いましょう。
ここまでで2ヶ月程度が目安となります。
また、ストレスチェックの実施前には、衛生委員会で実施体制、実施方法を審議・決定し、社内規定に定めて周知するなどを行う必要があるため 、準備段階の期間も想定して、実施時期を決定しましょう。
【議題③】 どんな質問票を使って実施するのか
質問票の項目としては、【国が推奨する57項目の質問票】を利用することが推奨されています。こちらからダウンロードすることができます。特に事業場で必要な変更がない場合は、こちらを使用しましょう。
ストレスチェック代行サービスを依頼する場合は、業者独自の質問票を使っている可能性もあります。
また、ストレスチェックはITシステムを用いてオンラインで行うこともできます。オンラインで実施する場合は、以下のサイトを参照ください。
「厚生労働省版ストレスチェック実施プログラム」ダウンロードサイト
実施後のデータ入力、集計を考えると、オンライン実施のほうが手間が少なく、効率的に行えるといえるかもしれません。
【議題④】どんな方法でストレスの高い人を選ぶのか
「何点以上の者が高ストレス者である」という一律に定められているものではありません。数値基準は衛生委員会等で調査審議をし、変更することが可能です。
高ストレス者を判定する基準は、『心理的な負担の程度を把握するための検査及び面接指導の実施並びに面接指導結果に基づき事業者が講ずべき措置に関する指針』にて以下のように規定されています。
高ストレス者の選定方法
次の①又は②のいずれかの要件を満たす者を高ストレス者として選定するものとする。この場合において、具体的な選定基準は、実施者の意見及び衛生委員会等での調査審議を踏まえて、事業者が決定するものとする。
① 調査票のうち、「心理的な負担による心身の自覚症状に関する項目」の評価点数の合計が高い者
② 調査票のうち、「心理的な負担による心身の自覚症状に関する項目」の評価点数の合計が一定以上の者であって、かつ、「職場における当該労働者の心理的な負担の原因に関する項目」及び「職場における他の労働者による当該労働者への支援に関する項目」の評価点数の合計が著しく高い者
引用元:厚生労働省『心理的な負担の程度を把握するための検査及び面接指導の実施並びに面接指導結果に基づき事業者が講ずべき措置に関する指針』p.6,7
以上の2つの観点で【実情に合わせて事業者が決定する】ことになっています。また、職種毎に設定することも可能です。
いずれにしても、選定基準については、衛生委員会等で産業医等と相談の上、高ストレス者をどのように選定するかを決めましょう。
【議題⑤】面接指導の申出は誰にすれば良いのか
高ストレス者であると判定されてから、高ストレス者が面接指導の希望を申し出る時に、誰にどのような方法で行うかを決めておく必要があります。
結果通知の際に、連絡先や申し出の方法を記載しておくと良いでしょう。
一般的には、人事や総務の担当者や実施事務従事者が窓口となることが多いようです。
【議題⑥】面接指導はどの医師に依頼して実施するのか
ストレスチェックの結果、高ストレス者と判定された人が受ける面接指導を行う医師を事前に決めておくことが必要です。
高ストレス者に対して、ストレスの要因について聴取し、ストレス対処技術、セルフケアなどの指導を行います。必要であれば、事業者に対して異動や職場環境改善など解決に向けた提言をしていくことになるため、基本的にはストレスチェック実施者と同一の【事業場の実情を理解している産業医】が行うことが望ましいと言われています。その他の医師に依頼する場合は、事業所の実情を理解してもらうための工夫をする必要があります。
【議題⑦】集団分析はどんな方法で行うのか
集団分析とは、部署ごとやチームごとでのストレスチェックの結果を比較して分析することで、ストレスの原因を特定し、職場改善を図る分析方法です。多くの事業場は、ストレスチェックの代行業者に一任していて、自社で行なっている事例はあまりないというのが実情と言われています。自社内で行う場合は、誰がどのように分析を行うのかを予め決めておきましょう。
国が標準的な項目として示している「職業性ストレス簡易調査票」(57 項目)又は簡略版(23 項目)を使用する場合は、集団分析には「仕事のストレス判定図」 という厚生労働省が無料で提供する分析ツールを用いる事が推奨されています。
このツールを活用することで部署ごとに、
- 仕事の量的負担
- 仕事のコントロール
- 上司の支援
- 同僚の支援
を可視化することが可能です。
あくまでも集団を対象にしてストレス要因を評価するものなので、判定図を作成する部署は、できれば 20 人以上、少なくとも 10 人以上の集団になるようにしましょう。人数が少ないと、個人差の影響が大きくなり職場のストレスを正しく評価できなくなったり、個人が推定さ れてしまう可能性が出てきてしまいます。
【議題⑧】ストレスチェックの結果は誰がどこに保存するのか
ストレスチェックの結果の記録の保存に関しては、実施者が行うことが望ましく、困難な場合は実施事務従事者が行うことになっています。いずれにせよ、非常にセンシティブな個人情報が含まれるため、セキュリティの確保が求められます。
労働者の同意により、実施者から事業者に提供された結果の記録は、事業者が5年間保存しなければなりません。
『心理的な負担の程度を把握するための検査及び面接指導の実施並びに面接指導結果に基づき事業者が講ずべき措置に関する指針』にて以下のように規定されています。
事業者は、実施者によるストレスチェック結果の記録の作成及び当該実施者を含む実施事務従事者による当該記録の保存が適切に行われるよう、記録の保存場所の指定、保存期間の設定及びセキュリティの確保等必要な措置を講じなければならない。この場合において、ストレスチェック結果の記録の保存については、実施者がこれを行うことが望ましく、実施者が行うことが困難な場合には、事業者は、実施者以外の実施事務従事者の中から記録の保存事務の担当者を指名するものとする。
実施者又は実施者以外の実施事務従事者が記録の保存を行うに当たっては、5年間保存することが望ましい。
なお、ストレスチェック結果の記録の保存方法には、書面による保存及び電磁的記録による保存があり、電磁的記録による保存を行う場合は、厚生労働省の所管する法令の規定に基づく民間事業者等が行う書面の保存等における情報通信の技術の利用に関する省令(平成 17 年厚生労働省令第 44 号)に基づき適切な保存を行う必要がある。また、ストレスチェック結果の記録は「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」の直接の対象ではないが、事業者は安全管理措置等について本ガイドラインを参照することが望ましい。
引用元:厚生労働省『心理的な負担の程度を把握するための検査及び面接指導の実施並びに面接指導結果に基づき事業者が講ずべき措置に関する指針』
方針を決定し、ストレスチェック制度を導入しよう
ストレスチェック制度を導入する上で事業所の衛生委員会で話し合う必要がある事項の主なもの8点は以上になります。
この8つの議題を社内で議論した上で、方針を決定したら社内規程に明文化しておきましょう。規程を編集する際は、厚生労働省が作成していて参考例があるのでそちらを参照ください。
方針が決定したら、早速ストレスチェック制度導入のために実働していきましょう。
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