産業医がいない地方の小規模支社。電話面談できる?教えて!山越先生(7)


産業医の山越志保先生が、人事労務担当者の疑問や悩みに答える「教えて!山越先生 よろず相談室」。

第7回となる今回は、「地方の小規模支社に産業医がいない。電話面談できますか?」についてのお悩みにお答えします!


人事労務担当者

Q . 従業員10人前後の地方支社で、メンタルヘルスを含めた不調者が発生しました。本社には産業医を選任しているのですが、地方支社では選任しておらず、面談や就業制限などの判断ができずに困っています。電話面談などで対応はできるのでしょうか。

山越先生

A .地方の支社などは従業員が数名単位であることが多く、法律的には産業医を選任する義務はない。でもヒトがいる以上、一定の確率で不調者が出る可能性は十分にあります

しかも地方となると東京ほど産業医がいない。人事担当者として「困ったな…」という状況になることはあると思います

こういう相談、数年前からよく受けるようになりました。

大手企業から「地方の小規模事業所の健康管理、就業上の措置について、今後継続的に相談させてほしい」と言われ、電話面談やスカイプ面談をするようになった事例を紹介します。


最初打診されたときは、正直、電話面談はちょっと嫌だなぁと感じておりました。と言いますのも、古い人間だと思われるかもしれませんが、「産業医面談の基本は『じかに会って話を聴く』でしょ!?」と考えていたからです。電話面談では本人の表情やしぐさはわからないし、ノンバーバル・コミュニケーションできないし…と思っていました。

でも、企業からの強い要望(実質的には、ほぼ、プレッシャーに近かったのですが)に押されて、電話面談を開始することになりました。

ただ、始めてみると電話面談でも、社員さん、企業さんのお役に立てるものだな~と思うようになりました。ただ、進め方には少しコツが必要かもしれません

本日はそのコツについて、お話していきたいと思います。


山越 志保(やまこし しほ)/日本医師会認定産業医/労働衛生コンサルトタント(保健衛生)


都内の病院で内科医として勤務しながら、日本医師会認定産業医・労働衛生コンサルタントを取得し、産業医としての業務を開始。これまで多岐にわたる企業で、産業医業務を担ってきた。現在は、株式会社さくら事務所を設立し、臨床と産業医活動を行っている。


面談者の情報を事前に産業医に共有する

山越先生

電話面談を開始するにあたって、まず本社の保健師が、面談者本人からだけでなく、地方の小規模事業所の人事担当者や上司を通じて、下記のような事前情報を入手してくれました。

<事前情報>

• 現在の病状、治療方針など(分かっている場合)

• お薬手帳

• 現在の業務内容、業務量、勤務形態

• 勤怠状況、欠勤・遅刻の有無

• 人間関係を含め職場環境

• (場合によっては)人柄や個人の状況をうかがわせるエピソード

これらの情報に基づいて、電話面談を開始しました。

第1回目の電話面談をするまでは、本人のしぐさや顔色、表情などの詳細が分からないことが困るのではないかと心配していました。しかし、実際に電話面談をしてみると、声の大きさ、会話の間、言葉の選び方などからある程度、人となりが予測できました。そして、定期的に面談することによって、より適切な就業上の措置を検討することができるようになったのです

実際のケースを挙げてみたいと思います。

【実際ケース 電話面談】42歳男性 宮崎県の工場勤務

もともと健康。健診の胸部X線で異常を指摘。精査の結果、肺の良性腫瘍で、手術の方針。


<事前情報>

• 職場:工場での家電製品を作る後工程。たまに、重いものを持つ

• 勤務形態 4日勤、2夜勤の交代勤務

• 現場メンバーは少なく、交代勤務は1人でも休むと補填が大変

電話面談してみると、面談者本人は10日間の有給休暇を手術期間にあて、有給休暇を消化した後は、すぐに交代勤務も含めたフル復帰をするつもりでした

体調を確認すると、食欲はあるものの、歩くと息切れをして、夜に横になると、手術の後が痛くて、しばしば目が覚める状況でした。このため熟睡できていないそうです。

【産業医としてのコメント】


術後1か月は無理をしないほうがいいですよ。就業することと日常生活を送ることとは負荷のレベルが違いますからね。就業する方が活動レベルとしては高いですから。

術後1か月は休職して、その後は定時勤務のみで、原則時間外労働禁止、夜勤も禁止にしましょう。

面談者本人はそれをしぶしぶ承諾し、1か月後に再度電話面談をすることにして、その回の面談は終了となりました。しかし、その直後、面談者の直属上司から怒りの電話が来ました。「本人が働きたい、大丈夫だと言っているのに、なぜ、就業制限をかけるのでしょうか?おかしいんじゃないかっ!!!」

怒っている上司に、面談者本人の状態や安全配慮義務などを丁寧に説明しても一向にご理解いただけなかったため、後日、その小規模事業所の社長から、上司本人に安全配慮義務、産業医の役割、上司の役割などを説明していただき、ようやく理解を得ました。


そして、1か月後の再面談の際に、面談者本人から「就業制限をかけてもらってよかった」と非常に感謝されました。実際に働いてみたら、特に仕事を始めて1週間は体調がきつく、仕事を制限してよかったと実感したそうです。その後も半年間かけて、徐々に就業制限を解除していきました。


上記の事例では、電話面談でも十分に役に立つ就業上の措置ができたのではないかと思います。後日、小規模事業所の社長からも感謝され、他のケースの相談が続いたからです。今もその事業所では、電話面談対応をしています。


面談者の上司、人事担当者と産業医の打ち合わせの場を設ける

山越先生

また、電話面談後は、面談者の上司、事業所の人事担当者と打ち合わせの場を設けます。

そこでは①面談者に就業制限を遵守させること②勤怠状況に変化(休日明けの遅刻が増えた、急な欠勤が増えたなど)があれば、次回の面談を待たずに、産業医に報告すること―を伝えています。

打ち合わせでは、先ほどの事例のように理解のない上司もたまにいらっしゃいます。そんな時には、安全配慮義務などを中心とした産業保健を理解してもらうように働きかけています。


企業として大事なことは、電話面談とは言え、産業医に丸投げしないことでしょうか。

面談者は遠隔地にいて、しかも手段は電話です。産業医だけでなく、地方事業所の上司、人事担当者、保健師などチームで対応することが必要だと思います。

例えば、事前情報を慎重に集めておく、面談後には就業上の措置を遵守させる、何かあれば産業医に報告して、こまめに連携を取る―などですね。でもこれって、電話面談に限らず、日常の産業保健でも当たり前のことかな~なんて思います。


最後に、社員も企業も産業医もハッピーに働いていくために一言…。

小規模事業所の事例を産業医にご相談するときは、しっかり産業医と小規模事業所についても契約を結んでからにしましょう


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