働き方改革関連法~企業が産業保健で対応しなければならないことは?(2)

働き方改革関連法が4月から施行され、産業医の権限や産業保健機能が強化されます。

事業者はどのようなことに対応しなければならないのでしょうか。特定社会保険労務士の舘野聡子先生に聞きました。

働き方改革関連法~企業が産業保健で対応しなければならないことは?(1)から続く

「部下の健康診断の結果を見せてほしい」という管理職にどう対応するか?

例えば、人事部署に「部下の健康診断の結果を見せてほしい」と言いに来る管理職に、どのように対応しますか?

「はいはい」と見せるわけにもいかず、困ってしまうのではないでしょうか。

基本的には健康診断等の実施の事務に従事した者は、その実施に関して知り得た労働者の秘密を漏らしてはならない(安衛法104条)とありますので、担当者は聞かれても答えてはならないということになります。きっと上司は部下の体調を心配しての行動なのだと思います。そうであれば、「何か気になることがあるのですか?」と声をかけていただくのがいいと思います。上司が心配しているところが分かれば、その後の対応も見えてきます。必要があれば、上司が産業医と直接相談する場を作ってもいいかもしれません。

ここで重要なのは、健康診断結果や診断書などの健康情報について、誰がどの程度まで把握することができるのか、職場で対応が必要な場合にどのような流れで対応するのかを決めていて、周知していることです。

健康診断結果については、その内容によって産業医が就業上の措置をとることがあります。労働者の健康の確保のために必要な場合には、産業医や産業保健スタッフが健康情報を適切に加工して事業者(人事など)に提供することになっています。

労働者の健康診断結果を、必要性がないにも関わらず、本人に断りなく上司に見せたということになれば、不快に感じる労働者もいるでしょう。

産業医は事業者と労働者の間に立つ調整役に

事業者は労働者に「収集した健康情報はこのような目的でこのように取り扱います」「産業医は健康相談の中で収集した情報を本人の同意なしに事業者に提供することはありません」としっかり周知する必要があると思います。労働者に「相談しても大丈夫」という安心感をもってもらわなければ、産業医への相談体制ができても、絵に描いた餅になってしまうのではないでしょうか?

情報の取り扱いのルールをつくって周知をしたら、事業者がそのルールをしっかり守り、労働者との信頼関係を積み重ねていくことが重要です。

労働者が、自分の健康情報を開示することで不利益な取り扱いを受けるのではないかと悩んだ場合は、産業医に相談すればいいのです。

産業医は、労働者に対して「この状況なら会社にこの範囲まで伝えれば大丈夫」「会社は治療の職務への影響を心配しているので、治療に必要な日数や見通しを主治医に聞いて、会社に伝えた方がいい」などの助言ができます。

また、事業者には本人の同意を得た上で情報を提供し、「この治療だとこれくらいの期間ですむので、問題なく就業できる」「このような心配があるけれど、会社としてはどう対応するか」などと話をすることができます。このような調整役は産業医しかできません。

産業医が持つ事業者と労働者の間の調整役としての役割は、今回の改革でより強化されていくでしょう。いわゆる“名ばかりの産業医“では、その役割を果たすのは難しいのではないでしょうか。

バランス感覚を持つ産業医でなければ対応できない場面は、これから増えていくと思います。

事業者が産業医を選ぶ目も重要になります。

健康相談や健康情報の取り扱い方法を周知するからには、しっかりした産業医でないと労働者との信頼関係は崩れてしまうからです。​​​​​​​

働き方改革法施行を、事業者、管理職、労働者の意識を変える機会に

労働者が健康問題について相談できる場がないために退職してしまったり、病気を隠したまま無理をして、体調をさらに崩してしまったりすることはとても残念なことだと思います。労働力人口が不足しているこの時代、貴重な人材の退職は、事業者にとって大きな損失です。労働者が産業医に相談しやすい環境を整えることは、会社にとってリスク管理でもあるのです。

また、制度をつくり、周知をしていても、労働者から「健康相談を受けることで、上司から『あいつは弱い』と思われるのが怖い」という声が聞こえてくることもあります。そのような雰囲気が社内にあるなら、管理職教育が非常に重要です。

少子高齢化が進み、労働者人口は減っています。働いている人を大事にできない会社は、これからの時代、生き残っていけません。

新年度は働き方改革関連法関係で、有給休暇制度整備や36協定の見直しなど忙しいと思いますが、産業保健への意識や健康情報の取り扱いについての社内教育もぜひ進めてほしいです。今回の改訂を事業者の意識、管理職、労働者の意識を変える機会だと捉えて、改革に取り組んでもらいたいと思います。



舘野 聡子(たての・さとこ)

株式会社ISOCIA 代表取締役/特定社会保険労務士/シニア産業カウンセラー/キャリアコンサルタント/メンタルヘルス法務主任者

民間企業に勤務後、社労士事務所に勤務。その後「ハラスメント対策」中心のコンサル会社にて電話相談および問題解決のためのコンサルティング、研修業務に従事。産業医業務を行う企業で、予防のためのメンタルヘルス対策とメンタル疾患の人へのカウンセリングに従事。2015年に社労士として独立開業、株式会社エムステージでは産業医紹介事業の立ち上げにかかわる。


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