働き方改革関連法~企業が産業保健で対応しなければならないことは?(1)

働き方改革関連法が4月から施行され、産業医の権限や産業保健機能が強化されます。

事業者はどのようなことに対応しなければならないのでしょうか。関連法で産業保健が強化された背景や、施行にあたり事業者が気を付けることについて、特定社会保険労務士の舘野聡子先生に聞きました。

産業保健の強化は、働き方改革関連法で「多様な働き方をサポートする」役割

働き方改革関連法の大きな柱は、多様な働き方の実現です。それを阻害している要因の一つである長時間労働の抑制と同時に、長時間労働が原因となった体調不良なども防止していこうというのが今回の法改正の方向です。産業医の権限や産業保健機能の強化は、その柱を補完して、実効性を高めるような役割だと思います。事業者は労働時間をきちんと把握して、長時間労働を減らす方向に動きます。その上で、労働者が仕事で命を落としたり、体調不良になったりしないように産業保健の体制づくりをして、労働者の健康を守ることが求められているのです。

産業保健分野で4月から変わることや新たに始まることは多いのですが、その一つが長時間労働者に対する面接指導の要件の変更です。今回の改定により、時間外・休日労働時間が1月あたり80時間を超えた労働者には、その旨を通知しなければならず、本人の申し出があれば、医師による面接指導をすることになります。気を付けた方がいいのは、研究開発業務従事者の場合です。時間外・休日労働時間が1月あたり100時間を超えたら、申し出なしに面接指導を行わなければならないので、労働時間の通知と合わせて忘れずに面接指導も案内しましょう。

労働者が安心して健康相談できるよう、情報の取り扱いルールの検討と周知を

今回の関連法施行で、事業者は、労働者が産業医などに健康相談をできる環境整備や、その仕組みの労働者への周知に努めなければならない、とされました。労働者が健康問題で働き方に悩んだ時に、安心して相談できる環境をつくることが大切です。

キーになるのは、労働者の健康情報の取り扱い方法だと思います。4月から事業者は、労働者の心身の状態に関する情報を適切に管理するために必要な措置を講じなければなりません。

誰が何の目的で情報を収集し保管するのか、情報を収集するときに同意が必要な事項は何か、同意はどのように取得するかなどを社内で検討し、労働者にそのルールを周知して運営をしていくということです。

保健師が常駐している企業では、保健師が健康情報を取り扱うことが一般的です。しかし、そうでないところは、まずは「誰が情報を取り扱うのか」をきちんと決める必要があります。

今回、健康情報の取り扱いについて定めた狙いは、労働者が健康相談を安心して受けられるようにすることと、労働者の健康状態による不利益な取り扱いを防ぐことです。

労働者は「健康情報がどの範囲まで伝わるかわからない」不安を抱えている

自分の健康情報が職場のどの範囲まで伝わってしまうのかがわからないために、産業医などに相談することをためらうという事例は珍しくありません。

例えば、がんの診断を受けた契約社員が「病名を会社に伝えると、契約更新されないのではないか」と心配することはあるでしょう。本人は治療と仕事の両立は可能だと考えていても、会社側は「がんでは働けない」と思うかもしれない、という不安です。

また、がん治療をしている労働者が、病気休暇は一切利用せずに有給休暇で対処しているケースも多いです。やはり背景には「偏見にさらされるのではないか」「重要な仕事を任せられないなどの不利益を受けるのではないか」などの不安があると思います。

自分の健康に関する情報を会社に開示する不安は、情報の取り扱われ方に関することや、相談したことで不利益にならないという情報がなければ払拭できません。職場が「本人の希望に添ってきちんと配慮したい」と考えているだけでは、伝わらないのです。今後、このような悩みを抱える労働者は増えてくるのではないでしょうか。

働き方改革関連法~企業が産業保健で対応しなければならないことは?(2)に続く



舘野 聡子(たての・さとこ)

株式会社ISOCIA 代表取締役/特定社会保険労務士/シニア産業カウンセラー/キャリアコンサルタント/メンタルヘルス法務主任者

民間企業に勤務後、社労士事務所に勤務。その後「ハラスメント対策」中心のコンサル会社にて電話相談および問題解決のためのコンサルティング、研修業務に従事。産業医業務を行う企業で、予防のためのメンタルヘルス対策とメンタル疾患の人へのカウンセリングに従事。2015年に社労士として独立開業、株式会社エムステージでは産業医紹介事業の立ち上げにかかわる。

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