改正労働安全衛生法で産業医の何が変わるのか【後編】


株式会社エムステージは12月、企業の人事労務担当者向けのセミナー「働き方改革と産業医の機能強化」(ティーペック株式会社協賛)を開催しました。大企業で専属産業医としての長いキャリアのある浜口伝博先生が「改正労働安全衛生法で産業医の何が変わるのか!」と題して講演。改正の目的や具体的な内容、法律に込められたメッセージまでわかりやすく解説していただきました。前編、後編に分けて、講演要旨を紹介します。

浜口 伝博(はまぐち・つたひろ)


産業医科大学医学部卒業。病院勤務後、(株)東芝(1986~1995)および日本IBM(株)(1996~2005)にて専属産業医として勤務。その後、Firm & Brain(有) を設立し、開業型の産業医として独立。大手企業を顧客に持ち、統括産業医、労働衛生コンサルタントとして活躍するかたわら政府委員や医師会、関係学会の役員を務めながら、産業医科大学をはじめ、慶應義塾大学医学部、順天堂大学医学部、東海大学医学部にて教鞭をとっている。


>>前編から続く

③産業医の勧告と地位の確保

産業医には勧告権があります。産業医の立場から見て、職場改善が必要であれば、事業主に対して勧告を行います。今回の労働安全法改正により、事業者は勧告を尊重し、勧告を受けたときは、その内容を衛生委員会や安全衛生委員会に報告しなければならない、とされました。


でも産業医が的外れな勧告をする場合も、なきにしもあらずです。そんなことがないように、規則第14条の3では「産業医が勧告をしようとするときは、あらかじめその内容について、事業者の意見を聞きなさい」とされています。また、事業者は、産業医勧告の内容と実際の措置(措置をしない場合はその理由)について記録し、3年間保存しなければいけません。さらに事業者は、衛生委員会や安全衛生委員会に勧告の内容と、それに対する措置の内容を報告します。また、産業医は、衛生委員会や安全衛生委員会に対して必要な調査審議を求めることができます。例えば、「会社の喫煙率はどうなっているのか調べてください」という産業医からの求めがあったら、調べて報告しないといけません。


そして、産業医が辞任したときや産業医を解任したときは、その理由を衛生委員会や安全衛生委員会に報告しなければなりません。



産業医の勧告権について、過重労働者に対する面接を事例に挙げます。


今の決まりでは、残業時間が80時間を超えると面接をします。そうなったら、事業者はまず労働者本人に「あなたは80時間超えたよ」と連絡するのです。それから産業医に、80時間を超えた労働者のリストを提出しなければいけません。もしも、労働者自身が面接したいと申し出たら、産業医は面接を実施し、結果と意見を事業者に出します。例えば「問題ないよ」とか「問題ですので、来月からは残業させてはいけません」というものです。産業医の意見通りに対応するかどうかは、事業者の判断です。しかし、対応しても対応しなくても、産業医への報告は必要です。また、対応しないときは理由も付けて報告します。産業医がその報告を見てそれでも該当労働者の健康に影響があると判断したら、勧告しようとなります。


これまでの説明で、産業医は、労働者の健康に関わる全般において権限が与えられていることを理解していただけたと思います。

④健康情報管理の構築

次に、労働安全衛生法第101条をみてみます。

事業者は、産業医の業務内容などを常時作業場の見やすい場所に掲示し、労働者に周知させなければならないとあります。また、産業医に健康相談を申し出る方法も周知します。産業医は過重労働面接や健診のとき以外でも、いつでも健康相談にのってくれるということを開示する必要があるのです。これは、先ほど(前編で)申し上げた通り過労死や過労自殺を一掃させるためです。事業者は、労働者が産業医にいつでも相談できる環境を作ってください、というのがこの法律の趣旨なのです。



産業医と契約するとき、「法律上の業務をやってください」という時代はもう終わりました。「先生に来てもらうのは、我々がこんな課題を抱えているからです。これができないと困ります」と、企業側から産業医にどんどん主張してください。企業からそういう声があると、産業医の先生方も勉強をせざるをえなくなります。よりよい職場をつくっていくためには、産業医と企業双方のコミュニケーションが不可欠です。


また、104条には、心身の状態に関する情報の取り扱いについて書かれています。


会社は収集した社員の健康情報をどういう風に保存や活用をし、その情報を誰が見るのか、ということをきちんと社内ルールとして明記します。そして、それを開示します。

産業医を中心に個人情報の管理体制をつくり、労働者に、個人情報は保護されていることを伝えるのです。事業者は「個人情報は守ることができるので、いつでも産業医に相談してください」という体制を整えなければなりません。


法改正の目的を知ろう


2016年に厚生労働省の「産業医制度の在り方に関する検討会」の報告が出されました。このときに検討されていた内容が、そのまま今回の法律化につながっています。

この検討会で出された課題の中で、私が産業医視点で大事だと思うことは次の八つです。

①チームとして進める産業保健活動

②効果検証の仕組みの導入(PDCAを回す)

③健康診断、長時間労働者、高ストレス者への面接指導と就業上の措置の的確判断

④仕事と治療の両立支援(主治医との連携)

⑤労働衛生管理への専門的知識に基づく判断

⑥勧告の適正実施

⑦職場巡視の緩和と産業医への必要情報提供

⑧専属産業医と嘱託産業医の役割概念

この中でも特に鍵になるのは、「専門的知識」「就業の的確判断」「PDCAを回すこと」「チームとして解決」の四つです。産業医も組織の一員。システムとルールをつくり、会社としてPDCAを回すことで、目標値までたどり着いて、ということです。


これまでの産業医は職務提供型でした。これからは、課題を解決していくことが求められています。法律の裏にあるメッセージは「課題の解決につながらない職務提供はいりません。長期ビジョン、年間計画で、産業医活動を展開してください」です。



産業医に求められる力は、5K

カ、会話する力

キ、規律する力

ク、工夫する力

ケ、計画する力

コ、行動する力

だと思っています。


ますます産業医への期待は高まっています。人事労務担当のみなさん、もし契約する産業医が「それほどできる自信がない」と弱気になっていたら、「すぐにはできなくていいので、1年後に成果を出せるように一緒に頑張りましょう」と伝えてください。

>>前編はこちら


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