改正労働安全衛生法で産業医の何が変わるのか【前編】


株式会社エムステージは12月、企業の人事労務担当者向けのセミナー「働き方改革と産業医の機能強化」(ティーペック株式会社協賛)を開催しました。大企業で専属産業医としての長いキャリアのある浜口伝博先生が「改正労働安全衛生法で産業医の何が変わるのか!」と題して講演。改正の目的や具体的な内容、法律に込められたメッセージまでわかりやすく解説していただきました。前編、後編に分けて、講演要旨を紹介します。

浜口 伝博(はまぐち・つたひろ)


産業医科大学医学部卒業。病院勤務後、(株)東芝(1986~1995)および日本IBM(株)(1996~2005)にて専属産業医として勤務。その後、Firm & Brain(有) を設立し、開業型の産業医として独立。大手企業を顧客に持ち、統括産業医、労働衛生コンサルタントとして活躍するかたわら政府委員や医師会、関係学会の役員を務めながら、産業医科大学をはじめ、慶應義塾大学医学部、順天堂大学医学部、東海大学医学部にて教鞭をとっている。

私は30年以上産業医として活動してまいりました。本日はこの度改正された、労働安全衛生法の産業保健に関わる部分について何が変わるのかということを解説します。



日本の安全衛生の現状


厚生労働省は日本の労働災害を減少させるために、5か年ごとに労働災害防止計画を策定しています。2013年度~2017年度の第12次においても、死亡災害や死傷災害、業種別の死傷者数の削減などの目標数値を掲げていました。しかし、今年報告された実績を見てみると、全14項目のうち1項目しか達成できていません。


また、労働によりメンタルヘルスになり、自殺した認定件数も右肩上がりです。過労死は以前よりは減っていますが、理想的な数字であるとは言えません。労働者の健康診断の有所見率も右肩上がり。それに加え、労働者人口はむこう30年で40%ほど減ると言われています。そんな状況では、経済成長はおろか、経済力も維持できなくなるかもしれません。さらに、日本の一人当たりの生産GDPを見ると、アメリカの一人当たりの生産力GDPの6割くらいです。人口は減る、生産力は低い。だから、働き方を変え、一人一人の生産性を向上させるしかないのです。そのためには、「人」に投資をして、「人」を大事にする社会に変えていく必要があります



本日のテーマは労働安全衛生法の改正です。

今回の改正の一番の目的は、過労死を一掃することなんです。


産業保健や産業医業務は変革が続いてきました。産業医の仕事は、健康診断をしたり、再検査を指示したり、保健指導を実施したり、職場巡視をしたりすることです。そこに2006年から、過重労働者への面接指導が始まりました。2015年12月には、安全衛生法が改正され、対象の事業所はストレスチェックをすることが義務付けられました。そして今回、2019年4月1日からは産業医の権限が強化されます。


実際、メンタルヘルスの問題は増えていて、発達障害、新型うつなどにも産業医が対応しなくてはなりません。精神疾患以外にも、がんなどの治療と仕事の両立にも対応しています。最近は労働者の健康問題に関する裁判も増えてきています。あれも知らない、これも知らない、という産業医では困るんです。それぞれの会社の問題を理解して、解決するプロフェッショナルな産業医が必要です。


産業医の権限はすでに強化されている


産業医の権限は、今回の労働安全衛生法の改正の前にすでに強化されています。


そもそも、仕事が原因で病気やけがをした社員がいたら、事業主は労働安全衛生法違反になります。会社の規模が大きくなるにつれ、事業者は社員のすべてを把握することは難しくなります。そこで、代わりに管理するのが管理監督者です。法律上の履行補助者と呼びます。もしも仕事が原因で社員の体調が悪くなったときに、責任を問われるのは法人、事業者、管理監督者です。産業医も履行補助者としての立場です。つまり、事業者から「我々と一緒になって安全衛生を進めてください」と言われる立場なんですね。産業医には、安全配慮義務の責任範囲にいますので、裁判でも履行補助者の立場として責任を問われます。


その上で、2015年12月にストレスチェック制度が始まりました労働安全衛生法で産業医の権限が初めて強化されたのです。社員のストレスチェックは、就業時間に実施されるにもかかわらず、事業者は前提として個人の結果を見ることはできません。それを見ることができるのは産業医だけです。つまり、それこそが産業医の権限強化なんです。


さらに、2017年6月に改正された労働安全衛生規則での権限強化もあります。それまで産業医は月1回の職場巡視が義務付けられていましたが、巡視、衛生委員会、過重労働面接は産業医の負担が大きいということで、巡視は2カ月に1回の頻度まで許容されました。だからと言って、産業医の責任が半分になるわけではありません。もし職場でトラブルが起きたら、産業医は駆けつける必要があるからです。


2019年4月からさらに権限強化



産業医の視点で今回の法改正を見ると、要点は四つあります。

①時間外労働の上限規制の導入

②健康管理における産業医の権限強化

③産業医の勧告と地位の確保

④健康情報管理の構築

①時間外労働の上限規制の導入

今回、働き方改革として労働基準法も改正され、初めて法律で時間外労働時間の上限が定められました。今は、残業時間は無制限ですが、2019年4月からは、上限を超えたら労働基準法違反となります。大原則として、時間外労働は月45時間まで。年間360時間を超えてはいけません。臨時的な特別な事情がある場合は年720時間まで許されますが、それ以上はだめです。単月で100時間を超えることもだめ。また、複数月の平均を80時間以下にするという決まりもできました。45時間を超えていいのは、年に6回までです。

さらに産業医による面接指導対象者の基準は、時間外労働100時間から80時間に引き下げになります。また、新技術・新商品などの研究開発者や、高度プロフェッショナル制度の対象者は、100時間を超えると本人が希望をしなくても面接指導が必須になります。

②健康管理における産業医の権限強化

労働安全衛生法第13条と14条では、産業医は知識と能力の維持向上に努め、誠実に職務を行わなければならないという項目が追加されました。

また、事業者は、労働時間に関する情報やそのほか必要な情報を産業医に提供しないといけないことになりました。

では、何を、いつまでに、産業医に提供しないといけないのでしょうか



新設された規則第14条2を見てみましょう。

①健康診断後、過重労働面接後、高ストレス者面接後、において講じた事後措置の内容(措置を講じない場合は、その理由)

②月残業80時間を超えた労働者の氏名・当該時間

③そのほか産業医が必要と認めるもの

産業医は社員の健康診断の結果を見たり、過重労働者への面接をしたりして「この人は来月から残業禁止、出張禁止」などの意見書を書いて職場の人事労務担当者に提出します。職場はその意見書を受けて「その通りにやりました」「その通りにしませんでした」ということを産業医に報告する義務があります。

規則第14条4には、産業医の権限の付与について書かれています。

1、事業者は産業医に対して、第14条第1項に掲げる事項をなし得る権限を与えなければならない。

【第14条第1項】

①健康診断・その結果に基づく措置

②長時間労働者に対する面接指導・その結果に基づく措置

③ストレスチェック、高ストレス者への面接指導・その結果に基づく措置

④作業環境の維持管理

⑤作業管理

⑥上記以外の労働者の健康管理

⑦健康教育、健康相談、労働者の健康の保持増進措置

⑧衛生教育

⑨労働者の健康障害の原因の調査、再発防止

この①~⑨のすべてに産業医の権限があります。


また、事業者や職場の責任者に意見を述べる権限もあります。さらに、労働者の健康を確保するため、緊急性が高い場合は、労働者に対する必要な措置を職場に指示することもできます。もちろん今でもできますが、それを法的効力を持ったことに大きな意味があると言えます。産業医は意見を言ったり指示をしたりしているのに、事業者が対応しなかった場合、その事業者が責任を問われることになります。


>>後編につづく


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改正労働安全衛生法で産業医の何が変わるのか【後編】


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