上司・部下がいないストレスフリー組織?「ホラクラシー」が秘める可能性


上司から課せられた重い目標、少し指導したつもりがパワハラだと訴える部下。会社の人間関係は今も昔もストレスだらけ…。自己実現や社会貢献のために働くつもりが、いつのまにか上司の評価のために働いていた…そんなせつない会社員のみなさんに、ぜひお伝えしたい。「ホラクラシー型組織」。


従来のマネジメント型経営、いわゆるピラミッド型の組織とは違い、上司部下という概念がなく、組織を構成する個々人や組織全体に権限を分散させる。新しい組織のあり方としてじわじわ注目を集めているのが、この「ホラクラシー型組織」だ。


そんな新しい経営で働き方のイノベーションを巻き起こしているのが株式会社キャスター取締役COO/株式会社働き方ファーム代表取締役の石倉秀明氏。

株式会社キャスターは「リモートワークを当たり前にする」をミッションに掲げ、自社の社員も全員リモートワーク。リモートワーカーのためのオンラインアシスタントサービスや企業へのオンライン人材派遣などを展開している。石倉氏にそんな新しい経営、組織のあり方について聞いた。


石倉 秀明(いしくら ひであき)/株式会社キャスターCOO/株式会社働き方ファーム代表取締役

「働き方」が最大の関心事。2016年より株式会社キャスター取締役COOとして活動しつつ、多くのクライアントの採用や事業立案、営業部門強化のサポートなどを行い、2016年3月、株式会社働き方ファームを設立。世の中の課題を働き方の観点から解決すること、働き方を選べる社会を創ることが使命。


株式会社キャスター/「リモートワークを当たり前にする」をミッションに掲げ、オンラインアシスタントサービス「CasterBiz(キャスタービズ)」や「remotestyle」「在宅派遣」などリモートワーカー派遣事業を展開。


ホラクラシー型組織だと、働く人が自由になる?


――株式会社キャスター(以下、キャスター)はホラクラシー型組織や全社員リモートワークなど、組織や働き方が“今まで”とちょっと異なります。まず、「ホラクラシー型組織」とはどういったものなのでしょうか?


ホラクラシー型組織とは本来会社やそのトップが持つ権利を社員に分散させようという考え方です。上司と部下という関係はなく、あるのは個人の役割だけ。マネージャーはいますが、チームの成果に責任を負うというのが役割であって、役職ではありません。マネージャー手当が付くわけでもありません。


キャスターの社員はすべてリモートで働いていて、出社義務はありません。

渋谷にオフィスを移転しましたが、誰も出社しません(笑)。社員は100数十名ほどいますが、会って話したことがあるのは10名くらい。というのは、首都圏在住の社員は3割ほどで、日本全国、世界10カ国に分散しているんです。社員がいろんな場所でそれぞれの役割を担っています。

我々のビジョンは「労働革命で人をもっと自由に」なのですが、場所を自由にする=リモートワーク組織とのつながりを自由にする=ホラクラシーであると意味づけています


働き方ファーム、新オフィス屋上からの景色


――そんな自由な組織だと、無法地帯になってしまいませんか?


それはありません。成果だけでシンプルに測るからある意味シビアです。全員リモートワークなので基本的にコミュニケーションはチャット。個別のチャットで仕事を進めるのは禁止、基本はオープンなグループチャットで行われますし、グループの作り方のルールも設定しています。会話の内容がすべて開示されるわけで、これもまたシビアですね。おかしな意思決定はできません。誰も自分勝手なジャッジはしなくなります。


権利が社員に分散されている自由な組織であるがゆえに、情報の透明性についてはかなり担保しています。財務状況はどうか、トップが何を話しているか、どこで何の会議があるのか、すべての情報に社員全員がアクセスすることができます。


――ホラクラシー型組織を選択するメリット、つまり、従来のヒエラルキー型組織と比較しての強みというのは何になるのでしょうか?


一つの目的があってみんなで攻めるときはヒエラルキー型は優れています。ただし、市場が伸びているから通用している側面もある。今の時代、労働人口も減り撤退戦を強いられている中で、組織を持続させやすい、守りに強いのは分散型であるホラクラシー型の方です。何かあったときにバラバラに逃げられるから、生き残る可能性も高い。


――ベンチャー企業が守備を重視というのは意外ですね。むしろ攻めていかなくてはいけないのでは…?


ベンチャーなのでもちろん攻めも重要です。守りに強い組織でありながら拡大していこうというのは矛盾もありますが、会社経営はいいときばかりではありませんからね。

実際、キャスターも2014年の立ち上げからの2年ほどヒエラルキー型で経営していましたが、今のホラクラシー型の方が組織力は上がっていると思います。前者は結局トップの能力次第なんです。自分たちの能力の限界で会社の規模が決まってしまうのは望ましくないと思います


屋上にはソファも置かれていました。


情報をフルオープンにする効果


――ホラクラシー型組織を運営していく上での原則のようなものはありますか?


情報の透明性はホラクラシーにおいてとても重要です。先ほどすべての情報にアクセスできると言いましたが、なんなら社員全員の給与もオープンです。すべての議事録も開示しています。会議も出たければ誰でも出席できます。

情報の透明性を担保することによって、健全なコミュニケーションが行われ、公平なジャッジがされる。「伝わらない・伝えてない問題に割く労力がなくなることは社員のストレスを減らしていると思います


――自由なぶん、組織運営は難しそうですね…。


マネジメントの難易度は高いと思います。また、情報格差がない、つまり情報の共有を制限することによってマネジメントを担保していたような企業にとってはすべてフラットにするのはハードルが高いかもしれません。そんな企業は意外と多いですよね。このマネジメント手法は社員の不安因子のひとつにもなりうるので、個人的にはなくした方がいいんじゃないかと思います。


マネージャーに求められてるものが多すぎませんか?


――中小企業における働き方改革の弊害の一つに、マネージャー層の疲弊、ダメージがありますね。御社だとそのあたりはどうなのでしょうか?


マネージャーに求めることが多すぎるのが問題だと思っています。事業の成果を出し、メンバーのモチベーションマネージメントを行い、部下を育て、採用もやる…、そんなスーパーマンみたいなことできるわけがない。世の中にそんなにできる人は多くありません。いたとしてもそういう人は少ないので再現性が低く、現有戦力で対応できることの方が重要だと思っています。

マネージャーに対する要件セットはもっと軽くするべきです。キャスターのマネージャーのミッションは目標達成のみ。教育や採用はそのための手段であって、必要ないならやらなくてもかまいません。もっと言えば、誰でもマネージャーになれていいのです。


情報の透明性やマネージャーの要件セットの話は、突き詰めると社長やトップマネジメント層が自分たちの権利を手放せるかどうかにかかっています。働き方改革というならそこを考えるべきですね。


マネージャーに限らず、働き方改革の弊害の話が出ていますが、「改革だ、残業を減らせ」と言ってもそのための仕組みや業務設計を考えていない企業がほとんどです。それだと、現場が疲弊するのは当然。自動化やアウトソーシングなどできることはたくさんあります。やらないことを決めるのも重要な戦略です。


採用難の時代に生き残る企業になるには


――極論、今ヒエラルキー型の組織はホラクラシー型になっていく、なった方がいいのでしょうか?


それはそうは思いません。ヒエラルキー型の方が目的を達成するにはいいですし、どっちもあってもいいと思います。


ホラクラシー型であるかどうかは実はどうでもよくて働き方の多様性は特に中小企業ほど担保しなければいけません。会社が減るペースよりも早く労働人口が減っていくわけで、特に20代、30代の若い人たち、さらに首都圏で働ける人たちを求めてもどんどんパイは狭くなります。

有効求人倍率1.6倍というデータがありますが(平成30年1月)、それは平均値で、従業員5000人以上の大企業は0.4倍くらいです。採用に困りません。一方で従業員300人未満の中小企業は6.5倍。これで誰もが欲しがる優秀な人材を採用するのは絶望的に苦しい。宝くじを狙うようなものです。

この状況をちゃんと把握した上で、雇用形態、時間、場所など働き方の多様性を認め、組織として柔軟に受け入れるということをしていかなければいけません。労働人口は減り、働き方も自由になる。この流れは止まらないのですから。昨今の採用難は景気の問題ではないのです。

繰り返しになりますが、ただひたすら、いい人が採用できるのを待っていても解決しません。そのうち時間切れになります。「仕組みでなんとかしていかなくてはいけない問題であり、時代なんです


「強い人」だけが新しい働き方を選べるようにはしたくない


――働き方の多様性というと、最近は副業する人も増えていますよね?


そうですね、でも個人的にですが、やっぱり1つの会社で働きたいと考える人の方が多いのではないかと思うんです。副業や独立ができる人は、やっぱりアグレッシブだし優秀な人が多い。スキルの高い人や明確にやりたいことがある人が自由に働き方を選べるのはある意味当然。一般的には、やりがいのある仕事を安定して楽しくやりたいと考えている人の方が多いんじゃないかと。我々が目指しているのはそういう普通の人たちが新しい働き方を選べるできるようになるという世界なんです。リモートワークをすごい人たちの特権にするつもりは一切ありません。


――どんな人でも、働き方を選べるようになることが大切なのですね。


そうですね。ただ、働き方の多様性って選択肢があってどちらかを選ぶということではないと思います。総合職か一般職か、リモートか出社かという“0”か“1”かではなく、グラデーションで考える必要がある。会社が決めたルールに則って個人に選ばせるのが今のやり方だとすれば、会社として許容範囲を提示して、その範囲内で個人が自由に選べるようになるのが望ましいと思います。


――最近は、働く人のストレス、メンタル不調が問題になっていますが、ずばり、ホラクラシー型組織だと職場のストレスは減ると思われますか?


情報格差を武器にマネジメントされない、公平にジャッジされる、という文化に合う人にはそうでしょうね。上司と部下という縦の関係ではなく、横の関係になり共通のミッションで繋がるということは、今の時代に合っていると思います。働き方の多様性を認めるということは会社もそして個人もお互いの関係性を選べるということ。ホラクラシーの考え方はこれからの新しい働き方において意義のあるものだと思います。

ただし、働く人のモチベーションも大事ですよ。「会社にこういうことをしてほしい」というマインドの人には合わないし、情報格差がない中での実力主義なので、決して楽ではありません。ただ言えることは、キャスターの求人にはちょっと対応しきれないくらいの応募が来るので、新しい働き方として求めている人が多いのも事実です。

文/ ふるたゆうこ  編集/ 清水久美子


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