【産業医に聞く】働く女性のためのメンタルヘルス、人事・労務に求められるケアとは



結婚・出産後も働くことが当たり前になった今、女性たちは職場でも、家庭でも、心身ともに疲労困憊。

溜まったストレスがメンタル不調や体調不良を引き起こす前に、知っておくべきセルフマネジメントとは。また、更年期と仕事との付き合い方や、働く女性たちを支える管理職が知っておくべきストレスマネジメント策とは。職場のメンタルヘルスの専門家である、産業医の加藤杏奈先生に話をうかがいました。

加藤 杏奈(かとう あんな)/産業医/労働衛生コンサルタント

産業医科大学医学部医学科卒業。東京大学大学院医学系研究科公共健康医学専攻修了。専門は産業医学、予防医学、メンタルヘルス。産業衛生専門医。現在、某化粧品メーカーの産業医として勤務している。


実は女性の方が多い、ストレスの種類


Q1.女性と男性でストレスの原因や種類は違うのですか?


厚生労働省が5年に1度実施している労働者健康状況調査によると、仕事に何らかのストレスを抱えている人は60%にのぼります。そのうち、人間関係にストレスを抱えている人は男性35%に対し、女性は50%と高めです。

私自身職場復帰支援やストレスチェック後の面談を行っていて気づいたことは、男性は仕事の量や質、仕事への適正の問題に加え、「上司にこんなことを言われて辛い」など、仕事の具体的な理由があることが多いのに対し、女性は職場の人間関係や家事と仕事の両立家族の問題などストレスの種類が多いということ

男性に比べて女性の方がストレスレベルが高いのは調査結果より明らかになっており、その理由として、女性の方が仕事に限らずストレスの種類が多いこと、それに付随して独身女性よりも既婚女性の方がストレスが多いと言われています


Q2. 女性がメンタル不調に陥ると、どのような症状が出るのでしょうか。

大半の方が心だけではなく身体行動にも症状が現れます。月経不調や、更年期症状ともとれる自律神経の失調などもその一つですが、メンタル不調を起こした人の約2/3は、まさか自分が精神的な疾患にかかっているとは気づいていません。その理由は、身体や行動面に症状が出ていることに、本人が気付いていないからです。

メンタル不調の症状は、心だけでなく身体や行動面にも出るということを、あらかじめ知っておくことも重要です。例えば、身体の症状としては、片頭痛の悪化、胃痛、便秘や下痢、めまい・動悸、月経の乱れ、月経痛がひどくなるなど。行動面では仕事でミスが増える、交通事故、アルコールの量が増える、女性は過食に走る方も多い印象ですね。


Q3.実際に女性社員から受ける相談はどのようなものが多いですか?

一番多いのは職場の人間関係の悩みです。特に、女性同士の人間関係の悩みがメンタル不調の原因になるケースが多いですね。私が女性の産業医ということもあり、更年期や月経不順など、女性特有の症状についてのご相談もよく受けます。これらはいわゆる不定愁訴と言われるもので、原因を探るためプライベートについての質問をするうちに、恋愛相談になることもあります。これも女性ならではの特徴ですね。

最近は、女性の地位向上に積極的に取り組む会社が増え、女性管理職も増えています。これに伴い、チーフやリーダーなど責任ある立場に抜擢され、「どうしていいかわからない」「重圧に耐えられない」といった悩みも急増しています。会社でできるメンタルヘルス対策の一つとして、マネジメント研修は有効ですが、そういった不安や精神的負担の変化に対応しきれないまま女性の管理職が増えている印象です

 

Q4.男性はプライベートを仕事に持ち込まない人が多いのでしょうか?

一般的に仕事とプライベートのオン・オフは男性の方が得意です。ワークライフバランスの概念のなかに、スピルオーバー効果という考え方があります。ワークとライフの状況が、いい意味でも悪い意味でも、もう一方に影響するという意味で、女性は男性よりもその影響を受けやすい傾向があります。例えば、恋愛がうまくいっていたら仕事もうまくいくし、失恋したら仕事が手につかないというのは、女性なら経験したことあるって人も多いのではないでしょうか。

海外の調査研究では、男性は家庭の問題が仕事の妨げになったときにメンタル不調を起こしやすく、逆に女性は仕事が家庭に影響し始めたら、メンタル不調を起こしやすいという研究結果があります。


Q5.産業医面談でも男女で対応方法を変えていらっしゃいますか?

男女で変えるというよりは、面談者によって変えています。実は、面談を受ける側のスタイルに男女で違いがあると感じています。女性は話を聞いてもらうだけでも安心されます。話をすることで抱えていた悩みやイライラが整理され、すっきりする方も多いようですね。

一方、男性はあらかじめ話す内容や質問項目を考えてきて、「病院に行くべきか?」など、産業医に具体的なアドバイスを求める方が多い印象。面談が始まると無意識に手帳を開いて臨む人が多いのは、男性の特徴かと思います。


 《まとめ》

○男性より女性の方がストレスの種類が多く、ストレスレベルも高い

○メンタル不調は心・身体・行動の3側面に現われるが、気づかない人が多い。

○女性のストレスの原因は「人間関係」の割合が男性よりも多い

参照:働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト「心の耳」

○女性は話すだけで気分がすっきりすることも。産業医に気軽に相談を!

○急に管理職に抜擢され、メンタル不調に陥る女性が急増中



女性ならではのライフイベント「妊娠、出産、育休」両立のメンタルケア


Q1.女性のメンタル不調が起こりやすい年代はありますか?

20代は新入社員としてのプレッシャーや仕事への適応障害、30代は責任ある立場となり、上からも下からも責められる葛藤、妊娠・出産・子育て、40代になると子どもの巣立ちや介護、更年期など、女性はライフステージに合わせて様々な環境の変化があります。そういう意味では、いつ誰がメンタル不調に陥っても不思議ではありません


Q2.実際に、産業医に相談するタイミングはどうしたらいいんでしょう?


不眠はメンタル不調の重要なサインの一つです。身体が疲れているのになかなか眠れない、途中で何度も起きてしまうなど、不眠症状が1週間続くなら、早めに相談してください。その他、先に述べた心・身体・行動に何かストレスサインがあれば、早めに相談して頂きたいです

私が産業医を行っている会社の社員の中にも、もう少し早く相談してくれていれば休職せずにすんだのではないかと思われるケースが結構あります。例えば、仕事や職場の人間関係に適応できていない場合は、配置転換や就業制限など会社に助言できるのが産業医の強みです。うまく活用してほしいですね。


Q3.先ほど、リーダーの重圧でメンタル不調に陥る社員も多いということでしたが、育児との両立についてはいかがでしょうか? ワーキングマザーも増えてきているので気になります。

たしかに、育児休暇後に職場復帰し、「周りに迷惑をかけては申し訳ない」と気を遣ううちに、心身不調に陥る人もいます。

女性登用や産休・育休制度を整備するだけでは不十分で、例えば男性の育休取得・イクメンの推奨など、女性の仕事以外のストレスを軽減する対策が企業には求められています。共働きが当たり前になった今、プライベートでも男性が率先して共同作業をしてくれるような働きかけを、会社として推進することが求められていると思います。


Q4.育休中の社員をフォローする側にもケアが必要ですよね。

そうなんです。お子さんの急な発熱などで早退することはご本人にとってもストレスですが、業務を引き継ぐ社員にとっても急な仕事が舞い込んでくるわけですからストレスがかかります。フォローをしてくれる社員に不満が溜まらないよう、その分きちんと評価される制度を構築することも大事なのではないでしょうか

また、休む側も当然の権利という意識ではなく、日頃から周囲に感謝の気持ちを伝えることも大切です。お互いさまの気持ちが必要ですよね。


 《まとめ》

○どの年代でもライフステージの変化によってストレス不調に陥る可能性あり

○自分の心・身体・行動の変化をチェック。おかしいと思ったら早めに産業医に相談を。

○不眠が1週間続けばメンタル不調の可能性が。

○企業は男性の育休、イクメンの推奨など女性の仕事以外のストレスを減らす対策を。

○育休中の社員をフォローする側のケアも忘れずに。


ストレスマネジメントに有効な“マインドフルネス”を知ろう


Q1.女性がメンタルヘルスを健康に保つためには、何が必要ですか?

ストレスを感じた時に自分はどのような症状が出るのか日頃から知っておくことが大事です。例えば、ストレスがたまると下痢をしがちなど、自分の症状に気づくことができれば、ストレスに振り回されずに済みます。

本来、女性はストレスリリーフがとても上手です。友人と話す、家族に愚痴を聞いてもらう、運動する、好きな映画を観る、美味しものを食べに行くなど、自分なりのストレスマネジメントの方法を2・3個持っていると、さらに強いでしょう。


Q2.ストレスを手放すオススメの方法はありますか?

瞑想やヨガなどで最近話題となっている“マインドフルネス”の考え方がオススメです。分かりやすく言えば、「今、ここに集中する」という意味です。現代は、情報とモノに溢れすぎていて、選ぶだけでストレスがかかります。思い悩んだ末の決断でも、「あの時あれでよかったのか」とさらに悩んでしまう。そして、メンタルを崩しかけている人に話を聞くと、先々の不安を抱えている人がとても多いのです。生真面目な人ほどそういう傾向があります。「今、この時に集中することで、起こってもいないことで悩んでも仕方がないと、不安を手放すことができます

 ストレスをメイクで隠せるのは女性の利点ですが、朝・夕のノーメイクの自分の顔を鏡で見てみることもオススメですよ。「疲れているな」「今日は調子がいいな」など、鏡で日々のストレスチェックをされてはいかがでしょうか。


 《まとめ》

○ストレスを感じた時、自分がどうなるのかを知ることが大事

○自分のストレスマネジメント策を2・3個持つと強い

○マインドフルネス(今に集中)で不安から解放


気を遣いすぎもNG!正しい知識があれば、声かけも迷わない


Q1.社員のメンタルヘルスを管理する側は、どんなことに気を付ければよいでしょうか。

一番有効なのは日頃から社員とコミュニケーションを取り声掛けをすることです。「今日ちょっと調子悪そうだけど大丈夫?」の一言が出るのと出ないのでは、実際に問題が起きた時に大きな差が出てきます。

ある会社では女性社員がハラスメントにあった際、男性の上司たちがハラスメントを起こした側の対応に集中してしまい、被害者の女性のケアが上手くできなかった例がありました。女性は自分が受けた恐怖や怒りを聞いてほしかったのに、上司が腫れ物に触るように接してしまったために、誰にも相談できず、逆に孤立してしまったのです。

「大丈夫?」「話したかったら言ってね」「大変だったね」などの一言があれば、女性は想いを打ち明けられたかもしれません。上司に話しにくいなら、相談できる窓口を紹介するなど、女性が孤立しない対策を取るのも一案です。この事例のように、日頃からコミュニケーションが取れていないと気の遣い過ぎがかえって裏目に出てしまうことがあります。これはお互いにとって幸せなことではありません。


Q2.気を遣い過ぎてもいけないのですね。

はい、やり過ぎて失敗してしまった例もあります。男性ばかりの職場に女性社員が数名入社したことで職場の雰囲気は明るくなり、生産性も上がったのですが、女性社員の一人が妊娠したことで、状況は一転。男性たちは身重の身体を気遣って女性を担当職から外すなど、特別扱いしてしまったのです。周りの過剰反応により、女性は思うような仕事ができないうえに、周りの女性社員からは「なぜあの子だけ特別扱いなんだ!」と不平不満が爆発してしまいました。

このような状況を招いた一番の要因は、女性の妊娠・出産に関する知識のなさです。他にも、月経痛、更年期、乳がん・子宮がんなど女性特有の疾患の正しい知識をもつことも大事です。人事や上司は社員を特別扱いし過ぎてもだめだし、過剰な気遣いもNGです。公平な対応を探るにはやはり男性社員特に人事の方が女性のメンタルヘルスに関する正しい知識を持つ必要があると思います


Q3.女性の健康セミナーなども有効でしょうか?

対象を女性に限定するのではなく男性も参加できるセミナーにすることが鍵です。私が以前に行った健康セミナーでは、前半は女性だけのQ&Aスタイル、後半は男性社員も参加しての講話スタイルにしました。女性の健康だけをテーマにすると男性は入りづらいので、メタボや禁煙、男性更年期など男性の関心事もセミナーに盛り込みました、この健康セミナーをきっかけに、職場で健康に関する話題が出たりするなど、思わぬ効果もありました。

その企業では乳がん・子宮がん検診の推奨、正しい知識の啓発にも力を入れています。その結果、日本人の検診受診率約40%に対し、約80%の女性社員が検診を受けています。


Q4.中小企業など、セミナー開催が難しい場合、どういう方法がありますか?

国が無料で提供しているメンタルヘルス関連のツールはたくさんあります。例えば、厚生労働省の「こころの耳」というサイトでは、数分でセルフストレスチェックができます。このほかにも、「15分でわかる職場復帰支援」など、人事や管理職向けのe-learningもあります。このような無料ツールを上手に活用すれば、コストをかけずに導入することは可能です。

会社にメンタルヘルスの重要性を理解されるには、コストをかけた結果、「生産性が上がった」「離職率が下がった」など、成果を証明したり、競合他社の導入事例の提示、産業医の上手な活用などもポイントでしょう。


 《まとめ》

○女性社員への腫れもの扱いも、特別扱いもNG

○女性特有の疾患について、正しい知識をもつ

○メンタルヘルスは無料ツールを利用すれば、低コストで導入可能


(加藤先生からコメント)

一昔前のように、家のことは妻に任せて、男性が外で働けば働くほど成果がでる時代ではありません。今は、上司が女性ということも珍しくなくなりました。男女のジェンダーの違いをマイナスに捉えるのではなく、プラスに捉えて協働する方が、企業の生産性は上がります。実際、女性がイキイキ働いている職場は、周りの雰囲気までよくなる例をいくつも見てきました。女性が元気な会社は、会社も元気です。我々産業医は、そのお手伝いができるように日々心掛けていますので、上手に利用していただければと思います。

文/ 岩田 千加


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