働く女性の健康課題とは?企業が取り組むべき支援策や職場での困りごとを解説
働く女性が増加している一方で、女性特有の健康課題への対応が企業には求められています。従業員の生産性低下や業務負担の増大につながる問題であり、健康課題の特徴を正しく理解し、柔軟な対応が必要です。しかし、「対策が必要とは感じていても実際にどのような健康課題があるのか把握するのが難しい」「具体的に何をすればよいのかわからない」とお悩みの企業担当者の方が多いのではないでしょうか。
本記事では、女性の健康課題への対策について解説します。代表的な健康課題の一覧や、健康保持増進に向けた企業の取組も紹介しますので、参考にしてみてください。
職場における女性の健康課題が注目されている3つの理由
女性の健康課題は、企業が取り組むべき経営課題として注目されています。
経済産業省が行った健康経営の実務者連絡会 参加者アンケートでは、健康経営の取り組みで関心が高いものとして「女性特有の健康問題対策」が56%で1位でした。
引用:健康経営における女性の健康の取り組みについて│経済産業省
女性特有の健康課題が注目される背景として、以下の3つがあげられます。
1.働く女性の増加
2.ライフステージごとに直面するさまざまな健康課題
3.女性の健康課題による経済損失は約3.4兆円
参考:なぜ女性の健康支援が必要なのか│働く女性の心とからだの健康サイト
1.働く女性の増加
職場における女性の健康課題が注目される背景の一つが、働く女性の増加です。働く女性の割合は労働力人口の約4割とされています。令和5年時点では3,051万人であり、10年前と比較すると344万人増加しました。
また、初婚・初産年齢の上昇や生涯出生数の減少、平均寿命の延長など、働く女性に関係する状況は変化しています。働く女性が増加し、働き方が多様化した現代では、男性だけでなく女性も含めた健康課題への取組が求められています。
参考:令和6年度男女共同参画白書│内閣府
2.ライフステージごとに直面するさまざまな健康課題
女性はホルモン量が生涯を通して変動するため、ライフステージによってさまざまな健康課題が生じます。健康課題への対処がなされないままだと、休職や退職、アブセンティーズムの増加を引き起こし、企業の生産性低下につながる可能性があります。
生産性低下を防止するため、女性の健康課題を適切に理解し、対処のための施策を打ち出していく必要があるでしょう。
現代女性の健康課題一覧
引用:女性特有の健康課題│働く女性の心とからだの応援サイト
上記の図のように、女性ホルモンの分泌量によってさまざまな健康課題が生じます。出産を経験する性成熟期には、月経前症候群や子宮内膜症などの生殖器関連の問題が目立ちます。閉経が近づく更年期には、更年期障害による多彩な症状がみられるでしょう。
うつ病を始めとするメンタルヘルスの問題や、甲状腺機能の異常、女性特有のがんなども生涯を通して健康を脅かす問題です。
WHOが定義する「全ての人にとって実現すべき健康」
女性の健康課題を考える上では、「健康な状態」の定義を理解しておく必要があります。WHOは「全ての人にとって実現すべき健康」を以下のように定義しています。
Health is a state of complete physical, mental and social well-being and not merely the absence of disease or infirmity.
(健康とは、病気ではないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態にあることをいいます)
引用:世界保健機関(WHO)憲章とは │公益社団法人日本WHO協会
病気になっていないから健康というわけでなく、生涯働き続けるための健康保持や予防策を推進することが重要です。例えば、不妊や何らかの病気にかかり、生活の質が低下してから対処をするのではなく、不調が生じたら早急に対処することが大切です。
そのため、20~30代の若い世代のうちから健康教育や相談、健診を推進する意識付けに取り組んでいく必要があります。企業として、女性従業員の健康意識を高め、疾患予防や健康課題による影響を最小化する取組が求められます。
3.女性の健康課題による経済損失は約3.4兆円
月経随伴症や更年期症状、不妊治療などを含めた女性の健康課題による経済損失は約3.4兆円と推計されています。より質の高い健康経営を実践していくためには、女性の健康課題に対する理解や職場環境改善は重要課題だといえるでしょう。
引用:女性特有の健康課題による経済損失の試算と健康経営の必要性について│経済産業省
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女性の健康課題に関する職場における支援状況
女性の健康課題への対応が注目される一方で、職場での支援は思うように浸透していない現状があります。具体的には、どのような支援状況なのでしょうか。
経済産業省が行った調査をもとに、女性の健康課題への対応について解説します。
女性が職場にサポートを望む一方で、企業は「何をすればいいかわからない」
職場における女性の健康課題への支援として、従業員と企業側のミスマッチが生じている現状があります。
経済産業省によると、女性従業員の約7割が「健康や体に関する十分な支援がない」と感じている一方で、企業側の約27.5%は「何をすればいいかわからない」、18.8%は「当事者である従業員から症状を聞く手段がない」という課題を抱えているのです[1]。
こうしたミスマッチの背景には、以下のような要因が影響していると考えられます。
- 健康課題に関するリテラシー不足
女性の健康課題に関する相談体制が十分でない
柔軟に働ける環境が整っていない
健康課題に関するリテラシー不足
経済産業省の調査では、女性の健康課題が労働損失や生産性などに影響していることを、70%以上の回答者が知りませんでした[2]。特徴的なのは、男性や管理職だけでなく、女性従業員自身も知識が不足していたのです。
従業員のヘルスリテラシー不足により、企業の推進する取組や従業員の対処方法がわからず、適切な支援につながっていないといえます。ヘルスリテラシーを高めるため、健康課題に対する情報提供や社内研修などで周知を図る必要があります。
女性の健康課題に関する相談体制が十分でない
女性の健康課題によって、52%の従業員が働く上での困難さを経験しています。また、女性従業員に関わる管理職も、34%が対応に苦慮していることがわかっています。特に、メンタルヘルス(56%)、月経関連症状や疾病(41%)への対応がわからず困ることが多いようです[2]。
一方で、相談窓口の整備や情報提供などのサポート体制の整備など、健康支援策の対応は遅れています。女性の健康課題に対して、従業員や管理職が相談できる窓口が必要です。
柔軟に働ける職場環境が整っていない
出産、育児休暇の推進や時短勤務など、ワークライフバランスを整えるための施策は20%以上の企業が取り組んでおり[2]、少しずつ浸透しつつある状況ということが分かります。
一方で、健康課題によりキャリアや仕事などを諦めた経験があるのは43%と半数近くにのぼります。そして、以下のようなサポートがあれば助かったと回答しています[2]。
- 会社による業務分担・適切な人員配置:41%
両立のための休暇制度や柔軟な勤務形態等のサポート:33%
上司等部署内コミュニケーション:32%
仕事と家庭の両立支援制度が整備されていたとしても、実際はうまく活用されていないといえます。管理職とうまくコミュニケーションがとれず、休暇のための業務分担やサポートが得られにくいことから、キャリアを諦めてしまいやすいという課題があります。
参考:
[1]女性特有の健康課題による経済損失の試算と健康経営の必要性について│経済産業省
[2]健康経営における女性の健康の取り組みについて│経済産業省
働く女性の健康増進に向けた具体的な3つの支援策
働く女性の健康課題への対策は、企業の生産性を向上させるためには、推進すべき経営課題といえます。健康増進のために求められる3つの支援策を紹介します。
1.従業員への理解の促進
女性の健康課題が適切に支援されていない状況の背景には、従業員のリテラシー不足があります。健康課題に関する情報提供や研修などから、男女問わず周知を図ることが求められます。
特に、管理職が研修を通じて女性の健康課題に関する知識を得て、必要なサポートを理解することが大切です。管理職が正しい知識を持っていることで、女性従業員は相談しやすくなるでしょう。
また、管理職以外の従業員にも社内メルマガやイントラネットなどを通して情報提供を行う施策も重要です。社内全体の理解が深まり、女性が治療のために気兼ねなく休暇を取れるようになるため、疾患予防にもつながります。
働く女性のためのストレスマネジメントについては、以下の記事も参考にしてみてください。
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女性の健康課題によって職場で困った経験とは?
女性の健康課題への理解を促すには、職場で困る経験を具体的に知ることが大切です。以下のように、症状が及ぼす影響への理解を促すとよいでしょう。
症状 |
具体例 |
月経随伴症状 (出血、生理痛など) |
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更年期障害 |
|
2.働き方の柔軟化
出産、育児のための休暇や復帰後の時短勤務などの両立支援制度に加え、休暇を取りやすい職場環境の調整が必要です。属人化を防ぐ業務プロセスの推進や、リモート勤務の体制整備など、柔軟な働き方ができるよう、取組を進めましょう。
また、健診や病院受診のために休暇を取りやすくする制度や現場への理解促進も重要です。重篤化する前に対処することで、長期的な視点から生産性の低下を防止できます。
3.相談体制の整備
専門家による相談窓口の設置も重要です。専門家に相談することで、困りごとや症状に対する正しい理解と知識が得られ、原因が明確化されます。また、上司や同僚には話しにくい問題も安心して相談できるでしょう。
また、専門家から管理職へ、従業員に対する必要な配慮や対応策を第三者の視点から共有することで、周囲がどのようにサポートすればよいかが明確になるでしょう。
株式会社エムステージでは、産業医・保健師・心理職等の専門職と、スピーディーに面談設定ができる「Sanpo保健室」を提供しています。女性の健康課題について豊富な知識を持つ専門職がフォローしています。専属の産業医や保健師がいなくても、必要な時に必要な分だけ面談の実施が可能です。
資料ダウンロードは無料ですので、ぜひお気軽にお役立てください。
女性特有の健康課題に取組む企業事例
働く女性の健康課題に対しては、具体的にどのような取組を行えばよいのでしょうか。3つの企業事例を紹介します。
大塚製薬株式会社
大塚製薬株式会社では、「女性の健康推進プロジェクト」として、一般向けに女性のセルフケアの情報提供や健康調査研究を行っています。社外だけでなく、社内の従業員に対しても研究開発で得られた知見を生かした取組を推進しています。
同社が実施する「女性の健康セミナー」では、女性だけでなく男性や家族への参加を促し、周知を図っている点が特徴的です。また、婦人科医の経験を持つ産業医に相談ができるなど、女性特有の問題を話しやすい環境が整えています。
参考:働きやすい環境のために│大塚製薬
花王株式会社
花王株式会社では、女性の健康相談窓口を設置し、気軽に産業医に相談できる仕組みづくりに取り組んでいます。美容部員として全国に点在する女性従業員が相談しやすいよう、メールにてやり取りができるシステムを導入しています。不妊治療など話しにくい内容でも、相談しやすいことが特徴です。
また、女性の健康セミナー、イントラネットでの情報発信「Women's News」など、従業員への周知を図る取組にも注力しています。さらに、勤務制度に関しても、短時間勤務制度「メリーズタイム」を導入し、柔軟な勤務形態を実現しています。
参考:企業取組事例 花王 株式会社│働く女性の心とからだの応援サイト
株式会社ワコール
株式会社ワコールでは、健診や病院受診のためのサポート制度に注力しています。乳がんや子宮がん検診は、ほぼ自己負担なしの受診が可能です。内勤者は自社の検診車での受検もできるため、就業時間中に受けやすい仕組みとなっています。
また、産業医による婦人科セミナーやイントラネット、Webセミナーを通じた情報発信を行い、女性の健康課題の理解促進に努めています。子宮がんの啓発セミナーには男性も参加可能で、女性に限らず周知を図る取組が特徴です。
さらに、「生理休暇」に変わり、名称による使いづらさに配慮した「パーソナル休暇」を2020年より導入しました。不妊治療や家族の通院付添い、学級閉鎖時の対応など広い範囲で活用できる休暇制度で、柔軟な働き方を促進しています。
参考:Well-beingの実現│ワコールホールディングス
参考:企業取組事例 株式会社 ワコール│働く女性の心とからだの応援サイト
健康経営の推進には女性の健康支援が不可欠
女性の健康課題への対応は、企業の生産性向上と従業員の活気を保つために必要な施策です。リテラシー向上のための研修や情報提供、柔軟な勤務制度の導入、相談窓口の整備など、女性が安心して働ける職場環境づくりが欠かせません。
女性の健康課題に配慮した制度設計には、症状や治療に関する理解など、専門的な知識も必要です。判断が難しい場合は、産業医や保健師などの専門職と連携し、アドバイスを受けながら施策を進めていきましょう。
株式会社エムステージでは、産業医や保健師の紹介からメンタルヘルス領域まで、産業保健のあらゆるお悩みに対応するサービスを展開しています。人事労務課題にお困りの方はぜひ一度お問い合わせください。