これからの「産業保健」はどうなる?厚労省の検討会資料から現状と課題を読む
2022年10月、厚生労働省にて、有識者による「産業保健のあり方に関する検討会 第1回」が開催されました。
検討会では、産業保健に関する現状と課題を提示するとともに、今後の産業保健活動に求められる内容についても討議が行われます。
本記事では、編集部が概要をピックアップしてお知らせいたします。
資料出典:厚生労働省「産業保健のあり方に関する検討会 第1回」
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厚労省の検討会で示された産業保健の”現状”と”課題”
精神障害の労災件数は増加傾向にある
ここ数年の精神障害の労災請求件数をみると、平成31年以降は2,000件を超え、令和3年では過去最多となる2,364件となりました。
あわせて、労災の認定件数も増加傾向にあります。
また、労災の支給決定件数(令和3年)の内訳では「パワーハラスメント」が最も多く、次いで「仕事の量・質(業務内容や業務量の大きな変化)」、「事故や災害の体験」などが続いている。
一方で脳・心臓疾患の労災認定件数は減少傾向にあることがわかりました。
企業におけるメンタルヘルス対策の現状
次に、ストレスを抱える労働者の割合についてです。
令和3年では53.3%が仕事や職業生活に関して強いストレスを感じていることが公表されましたが、ここ数年の数値と比較すると、横ばいまたは減少していることがわかります。
一方で、メンタルヘルス不調を原因として休職あるいは退職した労働者がいた事業場の割合を見てみると、令和3年では前年よりも増加しています。
また、”事業場の規模が小さいほどメンタルヘルス対策が不十分である”ケースが多いという現状も公表されました。
事業場の規模別にストレスチェックの実施状況を見ると、50名以上の事業場(実施義務あり)では93%以上が実施していることに対し、ストレスチェックの実施義務がない49名までの事業場では60%台に低下する。
この傾向はストレスチェック結果の活用についても同様のことがいえるようで、小規模な事業場ほどストレスチェックを有効活用できていない現状が垣間見えます。
「一億総活躍社会」実現のために
検討会で公表された独立行政法人 労働政策研究・研修機構の調査によれば、2020年時点には6,868万人いた労働人口も、2040年には6,195万人に減少。
同時に2040年では、65歳以上の高齢者が全体の19%(1,174万人)を占めるようになります。
内閣の推進する「一億総活躍社会」の実現を考えると、職域において従業員には健康的で長く働いてもらうことが求められます。
一方で、働く人たちの定期健康診断の有所見率に注目すると、その数値は上昇傾向にあります。
60歳以上では、血圧・血糖において有所見となることが多く、また転倒をはじめとした労働災害の発生に関しては女性の高齢労働者が多くを占めています。
女性の健康課題、治療と仕事の両立支援
病気・けがの予防が重要であることは言うまでもありませんが、従業員に健康課題があったとしても働き続けられる職場を形成していくことも求められています。
具体的には、働く女性の健康課題とその配慮や、治療と仕事の両立支援も大切になります。
検討会の公表資料によれば、女性の健康課題によって職場で困った経験のある女性は全体の51.5%。内容としては月経関連の症状や疾病、PMS(月経前困難症候群)が多くなっています。
一方で、約4割の企業が、働く女性に対して配慮あるいはサポートを行っていないことも挙げられました。
治療と仕事の両立支援も同様に、「何らかの疾患で通院している労働者」の割合は年々増加し、直近の調査では36.8%に上ります。
しかし、17.1%が「通院のための休暇取得等、企業へ何らかの配慮を希望した」ものの、特段の配慮がなかったと回答しており、この点に関しては休暇制度や就業規則の見直し、あるいは社内へ両立支援に関する理解を浸透させることも必要といえるでしょう。
企業等における健康経営の浸透・拡大
近年では健康経営への注目度が高まっており、経済産業省の認定制度「健康経営優良法人」にエントリーした法人数は15,718社と、2021年に過去最多を記録しています。
特に、中小規模法人部門はその認定数が毎年3,000件以上も増加しており、中小企業経営者の認知度も向上してきたことがわかります。
また、実際に健康経営に取り組んでいる、あるいは取組みを検討している法人は68%に上り、多くの法人が健康・人材への投資を重要視しているようです。
その背景には、健康リスクによる生産性低下を防ぐことだけでなく、健康経営が自社ブランディングや採用戦略にも好影響を与えることにあるようです。
就職活動を行う方やその親に行った調査では、就活生で43.8%、その親で49.6%が「従業員の健康や働き方に配慮している」企業に就職したい(させたい)と回答しています。
今後の産業保健でキーとなる健康データ・IT技術の活用
国内外では、疾病予防や健康増進に関する取組みの一環として、ウェアラブルデバイスやアプリケーションを活用した健康管理を行っている企業もあります。
例えば、歩行量や睡眠時間、血圧や脈拍等を計測することで、アプリケーションから食事や運動に関するアドバイスが行なわれるといったツール等が挙げられます。
企業によって運用されるツールは様々ですが、こうした継続的なサポートにより、従業員個人の健康に関するリテラシー向上につなげられることが考えられます。
また、コロナ禍以降リモートワークが普及しましたが、その陰では上司・部下・同僚間のコミュニケーション不足や、それに関連してメンタルヘルス不調に気づきにくいといった課題も出てきています。
ここでもICT技術の活用が重要になり、勤怠管理を行うアプリケーションやオンラインによる相談の実施等の内容が検討会にて事例として公表されました。
産業保健スタッフに求められる期待
これまで挙げてきた健康課題に関する配慮や健康経営に関する実務的な取り組みを実現するためには、適切な産業保健活動を推進していくことが欠かせません。
産業保健活動のキーパーソンとなるのは産業医、産業保健師といった専門のスタッフですが、このように多様化・深刻化する職場の健康課題・ニーズに応えていくことが求められています。
そして、同検討会の中では、安衛法等の法令で定められている産業保健スタッフの活動内容と、企業から求められている活動(あるいは活動実態)が乖離している点も挙げられています。
また、今後の課題の一つとして、こうしたニーズに応えられるよう、産業医等がスキルアップを目指せる研修の必要性についても討議されました。
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「産業保健のあり方に関する検討会」は今後も開催が予定されています。
企業等では、感染症の流行や働き方の変化だけでなく、様々な健康課題などに対応していく必要があります。
今後はより一層、産業医や産業保健師といった専門スタッフの重要性も高まることが考えられます。
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