〈インタビュー:遠藤源樹先生〉今、本当に求められている「治療と仕事の両立支援」とは

病気の治療をしながら働く「治療と仕事の両立支援」は、ここ数年で多くの企業に広まりを見せてきましたが、中小企業への浸透度はまだまだと見られる部分があります。

今回は、最前線で活躍される遠藤源樹先生へインタビューを通じ、今求められている両立支援についてクローズアップします。


専属産業医の経験で気づいた「両立支援」の重要性

▼プロフィール:遠藤源樹 先生

「治療と就労の両立支援」「健康経営」分野の第一人者。100社以上の豊富な産業医経験と、日本初の「病休・復職実態追跡調査」等のデータをもとに、行政、企業や医療機関等、全国各地で講演するなど精力的に活動。国の研究班「がん患者の就労継続及び職場復帰に資する研究」等の研究代表を務めるなど、治療と就労の両立支援や働き方改革の分野の研究の新たな扉をいくつも開けている。医師、医学博士、産業衛生専門医、公衆衛生専門家。著書に『治療と就労の両立支援ガイダンス』(労務行政)がある。


遠藤先生のご経歴について教えていただけますか。

私は福井県大野市の農家の生まれで、祖母の病気をきっかけに「病気で悩んでいる人を助けられるような人間になりたい」という想いから医師を志し、産業医科大学に入学しました。

2003年に産業医科大学を卒業と同時に上京し、JR東京総合病院にて内科・精神科、こころとからだの元気プラザで働いた後、2008年にNTT東日本の専属産業医としてのキャリアをスタートしました。


どのようなご経験だったのでしょうか。

NTT東日本首都圏健康管理センターは、日本最大級の産業保健スタッフを有する大きな組織であり(当時、産業医約30名、産業看護職約100名が在籍)、著名な精神科の教授の先生方をはじめ、経験豊富な産業医・看護職の皆様から沢山のことを学ばせていただきました(産業医を学びたい方は、まずはNTTの産業医として働くことをお勧め致します)。

健康診断の事後措置や過重労働面談のみならず、メンタルヘルス不調やがん、脳卒中や心疾患、様々な難病を罹患した社員の方と面談し就業判定する経験を数多く積むことができ、とても充実した産業医生活でした。

特に、昭和40年代から蓄積されてきた復職支援のノウハウが唯一無二の深さがあり、現在の「治療と就労の両立支援」の基礎として沢山のことを学ばせていただき、産業医として、とても充実した日々を過ごしていました。


順風満帆な人生ではなかったからこそ、両立支援の研究に取り組もうと考えた

画像はイメージです

先生が両立支援を研究されている理由についてもお聞かせください。

私、遠藤源樹は順風満帆な人生からほど遠いものがありました。

臨床医、産業医として働く傍ら、なぜか、映画『麗しのサブリナ』を観た影響で、土日にフランス料理の学校Le Cordon Bleu(ル・コルドン・ブルー)で、コルドン・ブルーの料理の学位を取得するまでフランス料理にはまり、毎週末、ホームパーティや出張シェフでフランス料理をふるまう生活。

同期が専門医を取得して臨床医や産業医として活躍しているのを横目で見ながら、「自分は、医師として、もっと違うかたちで社会に貢献したい」と日々、模索していました。

そんな医師としての自分を変えてくれたのが私の妻でした。

結婚後、義父のサポートで、平日は産業医、夜間と土日は産婦人科医として働くようになったものの、産婦人科医の義父からは「お前は、産婦人科より公衆衛生の方が向いている。これからの人生、自分には公衆衛生しかないんだという気持ちで、歯を食いしばって頑張ってみろ」と激励されました。

そして、義父の言葉に後押しされ、獨協医科大学公衆衛生学講座教授の武藤孝司先生に「先生の下で、公衆衛生学を勉強させてください」と懇願しました。

武藤先生は、くすぶり続けてきた私の過去を知りながらも、大学院生として温かく迎え入れてくださり、公衆衛生学・疫学の基礎や意義など多くのことを教えてくださいました。

大学院生として研究テーマを考えていたころ、「学生時代に夢に描いていた順風満帆なエリート街道から外れた20代の挫折経験」、そして「メンタルヘルス不調やがんなどの病気で療養した方々を全力で産業医として就労支援してきた経験」から、「治療と就労・生活の両立に関する研究をしたい」と思うようになりました。

心の中にある臨床医になりたいという気持ちをいつも抑えて、産業医として多くの患者さんたちの就労を支援する、ただそれだけでした。

そんな私にとって転機となったのが、2015年5月に大阪で行われた日本産業衛生学会で「がん患者の復職率は約6割.日本初のがん患者就労コホート研究の結果から.」を発表した時でした。

この発表直後から新聞社などメディア各社からの取材が殺到するようになり、私の就労支援の研究が脚光を浴びるようになりました。

それ以降、「がんと就労」のみならず、「統合失調症と就労」「脳卒中と就労」「心疾患と就労」「不妊治療と就労」「妊娠・育児と就労」等の研究や講演などに取り組んでいます。


企業に求められている「治療と仕事の両立支援」のあり方と進め方

画像はイメージです

がん罹患社員の就労支援の重要性について教えてください。

がんは、罹患率、死亡率が高い疾患でありますが、医療の発展により、がんの5年生存率などの指標で大きな改善が見られ、がん患者の生命予後は大きく改善しています。また、がん患者の約3割が20歳から64歳までの就労世代です。

少子高齢化に伴い、定年年齢の引き上げが段階的に行われており、今後、就労世代のがん患者、脳卒中患者の数は増えていくにつれて、治療と就労の両立支援の重要性は、今後益々重要性を増していくでしょう。


産業医や保健師等の専門スタッフには、どのような活動が求められていますか。

産業保健スタッフの方には「疾病性」の言葉を「事例性」の言葉に変換する、翻訳者の役割をお願いしたいです。

具体的に言うと、主治医から伝えられる言葉は、医療の現場では当たり前に使われる疾病性の言葉ですが、それを伝え聞いた企業としては「具体的に何をすればよいのか分からない」と感じていることが多い。

そこで、産業保健スタッフが事例性のある言葉に置き換え「治療・通院のために週3日の勤務が望まれます」ですとか「在宅勤務であれば就業可能です」といったように、職場に伝わる形に翻訳することが欠かせないと考えます。

そのためにも、産業保健スタッフの方たちは両立支援に関する情報収集を日頃から行っておく必要があります。


ありがとうございました。最後に、メッセージをお願いします。

がん等の病気になっても絶望しなくて良い社会を作りたい。これが私の望みです。

現実的には、治療と仕事の両立支援に関する制度について、構築することが難しいと感じる企業もあるかと思います。

しかし、両立支援の制度・風土をつくることはメリットが多いのも事実です。

例えば、健康経営の実現や採用活動に寄与すること等、社内だけでなく社外へのメッセージという点でも効果がありますので、ぜひとも取り組んでください。

最後になりましたが、人は、誰しも「病気」と「老い」とともに生きていかなければなりません。

病気になって、今まで通り働けなくなってしまったとしても諦めずに済む。そして、また職場に戻ってこられることが当たり前の世の中にしていきたいです。

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