〈神山昭男先生に聞く〉企業の人事・産業医は「職場のメンタルヘルス問題」とどう向き合うべきか

職場におけるメンタルヘルス不調者の対策は大きな課題となっており、その対応について悩みを抱える企業の担当者も多い。

今回は精神科の専門医であり、長年産業医としても活躍する神山昭男先生へのインタビューを通じ、企業の担当者と産業医が取り組むべきメンタルヘルス不調対策についてお話を伺いました。


メンタルヘルス問題の存在に気づき、適切に対処することが大切

解説:神山昭男 先生

精神科医。産業医。医療法人社団桜メデイスン有楽町桜クリニック院長。

日本産業精神保健学会理事、 第28回大会長。日本精神神経科診療所協会副会長。東京精神神経科診療所協会前会長。日本産業保健法学会理事。日本産業ストレス学会第24回大会長。日本精神神経学会第115回総会副会長。


職場メンタルヘルス不調対策について、企業はどのように対応すべきでしょうか。

職場のメンタルヘルス問題を解決するためには、産業医と人事労務担当者がその分野に理解を深め、慎重かつ丁寧に取り組む必要があります。

ひと口に職場のメンタルヘルス問題と言いましても、その内容・要因には様々なものがあり、解決には産業医と人事労務担当者の緊密な連携が欠かせません。

例えば、「問題社員」と呼ばれる社員がいるようなケースでは、メンタルヘルス問題の存在が行動に影響を及ぼしていることもあります。

問題社員は「業務指示をきちんと守らないことが多い」、「何度も遅刻や忘れ物をしてしまう」といった行動が目立つことで、しばしばトラブルを生んでしまう。

しかし、問題を起こす社員を医学診断すると発達障害などの精神医学的な病状を抱えているケースもあり、そのような場合には診断と治療の要否の検討が必要になります。この対応が企業での適切な対応となり、解決の手がかりとなります。

ですので、企業の人事労務担当者や上長、そして産業医それぞれが情報とその見解を持ち寄り、連携を行うことによってこの課題を解決しなければならないのです。


職場のメンタルヘルス問題には、まず要因を知ることが重要になりますね。

発達障害が疑われる社員の中には、社内で「仕事ができない人」や「トラブルメーカー」だと判断されていることがあります。

また、こうした社員に対して、上長は何度も指導や注意を行うことがあるため、そのうちにパワーハラスメントもどきになってしまうといったケースが多く、これが社員本人や上長のストレス要因にもなるのです。

それだけでなく、これらの人間関係に携わる人事労務担当者にも負担がかかることで、職場のメンタルヘルス問題が生まれます。

こうしたことから、まずは職場における労務問題の根底にある健康面の要因の存在について、上長や人事担当者が、見えないからと言って見逃さず、気づくことが対応の第一歩となります。

上長・人事労務担当者が専門家に頼らず、独自の判断で配置転換や退職勧奨を行う等の排他的扱いをしてしまうと安全配慮義務違反になりかねません。是非、産業医を通じて精神科専門医への相談、受診につなげてください。


上長や人事労務担当者がこうした問題に気づくための要点と、その後の対応についても教えていただけますか。

発達障害に関する気づきの一つには、社員の行動面、対話面、学習面の特徴があります。

例えば、上長からの指導・警告の回数が多い社員、始末書を何度も提出しているような社員には注意が必要になるでしょう。

仕事での不注意が多く、感情的になりやすい傾向があるため、会社として対応に悩むケースについては、やる気がないことからくる不注意や怠慢、真剣さが足りないなどと単純に考えがちです。

そして、問題社員として扱い、排除する等の人事的な対応を行うケースもありますが、これは当該社員へさらなるストレス負担をかける可能性があり、企業にとっても訴訟などの重大なリスクにつながる恐れがあるのです。

発達障害などが疑われる社員に対し、誤った措置をとった企業が訴訟されるという判例も多く、訴訟に発展した場合には企業のイメージにも大きな影響を及ぼします。


精神医学について、産業医・人事労務担当者はもっと理解、認識を深めること

メンタルヘルス不調の社員について、どのような対応を行うべきでしょうか。

ここまで、職場のメンタルヘルス問題の要因についてお話しましたが、メンタルヘルス不調になってしまった社員への対応にも注意が必要です。

企業におけるメンタルヘルス不調者への対応などを見ますと、残念ながらメンタルヘルスはまだまだ軽視されている傾向にあると感じています。

しかし、不調が深刻化することは自殺などのリスクもあり、生命にかかわる疾患であるわけですから、企業と産業医は問題意識を持って、早期にこの対策へ力を注ぐことが期待されています。

企業の産業医はメンタルヘルス問題に関する一連の判断を行っているわけですが、実際は産業医が精神科以外の専門科である場合がほとんどですね。

救急医療に不慣れな医師が救急外来に携わると、的確な対応を求めるのは困難と誰しもが容易に想像がつくと思います。ですので、場合によっては似たようなことが起きてしまう。つまり、早期に適切な対応を行えず、問題が深刻化しまうリスクがあるのです。


メンタルヘルスに関する知見はどのように習得すれば良いのでしょうか。

人事労務担当者、産業医として、各方面からメンタルヘルスに関する情報やノウハウの収集を行うことは欠かせないでしょう。

例えば、過去の労働判例からメンタルヘルス関連、安全配慮義務違反に関する事件の重大性を知ることや、精神科専門医の講演等から学ぶことも有効です。

日本産業精神保健学会では、職域のメンタルヘルスに関する専門的な知識を得ることができますので、人事労務担当者、産業医、産業看護等の方はぜひ参加してください。

その他にも、精神科専門医が行う企業の担当者あるいは産業医向けのセミナーや講演があれば参加し、自主的に知見を増やすことが大切になります。

第28回日本産業精神保健学会のご案内

  〈2021年11月〉日本産業保健法学会の第1回学術大会が開催されます 2021年11月、第28回目となる日本産業精神保健学会が開催されます。今学会のテーマは「新型コロナ時代の健康と労働~産業メンタルヘルスに関わる課題とその解決を求めて~」。会期は11月20日、21日の2日間にわたり開催され、オンデマンド配信は11月20日~12月23日 エムステージ 産業保健サポート


最後に、部下を持つ上長や人事労務担当者、産業医にメッセージをお願いします。

職場のメンタルヘルス問題を解決するためには、企業の人事労務担当者や上長、産業医のそれぞれがメンタルヘルスに関する理解を深めること。

そして、問題があれば早期に連携して取り組める仕組みをつくることが大切です。

できれば、精神科医と企業とが関わりを持ち、サポートしてもらうことが対応策につながると考えます。

労務問題は労務対策で、という時代ではなく、健康面も含めた対応が必要な時代に入っています。

また、昨今のリモートワークが増えた職場では、社員のメンタルヘルス状態が見えづらい環境にもなってきており、新たな課題も出てきています。

メンタルヘルス不調の対策は、社員のみならず企業組織にとっても重大な課題であるとの認識で、人事労務担当者、産業医は取り組んでください。

神山昭男

神山昭男

精神科医。産業医。医療法人社団桜メデイスン有楽町桜クリニック院長。 日本産業精神保健学会理事、 第28回大会長。日本精神神経科診療所協会副会長。東京精神神経科診療所協会前会長。日本産業保健法学会理事。日本産業ストレス学会第24回大会長。日本精神神経学会第115回総会副会長。

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