〈家庭医解説〉男女別:更年期の症状、リスクと健康管理


健康の重大な節目、更年期。誰もが通る道ゆえか、男性も女性も、人知れず苦しみながら、働いている人が大勢いる。そんな人たちは、どんな症状で悩んでいるのかそしてどんなことに気を付けてもらえばいいのかさらには同僚や人事としてどのような対応が求められるのか

慈恵医大新橋健診センター医長として、15年以上に渡って人間ドッグの診察・診断に従事し、さらに大企業の産業医としても活躍。自身のクリニックで、「家庭医」として、大勢の患者さんの診療にあたっている常喜眞理医師に教えてもらった。



【女性編】

不定愁訴を放置せず、一度は病院を受診して


――最近は若年性更年期障害という言葉も目にするようになりましたが、一般的に女性の更年期はいつからですか?


閉経前後の10年ぐらいなので、だいたい40代半ばぐらいからですね。ただ、実は変化は30代から始まっています。20代では豊富に出ていた成長ホルモンが低下し、細胞再生能力が衰え始めます。回復力が弱まって、だんだんと無理が利かない身体になってくるのです。みなさん、実感しているのではないでしょうか。


――更年期と言えば、やはり女性ホルモンの低下ですよね。


そうですね。更年期を迎えると、卵巣機能が衰え、女性ホルモンであるエストロゲンの減少が始まります。ただし、問題は量の低下よりも「変化」ですこの変化が、ホルモン分泌の司令塔である脳の視床下部にストレスを与え自律神経に悪影響を及ぼし様々な不調(いわゆる不定愁訴)を引き起こすのです

「いくら寝ても眠い」「頭痛、めまい、ふらつき」「手足のしびれ」「吐き気」「顔のほてり、のぼせ(ホットフラッシュ)」「だるい、疲れやすい」「汗が止まらない」「冷え」「生理不順」「性交痛」「膣炎」「不眠」「更年期うつ」等々、何でも起こり得ます。


――どうしたらいいでしょう?


更年期障害には、こうすればOKという絶対の正解はありません。とはいえ、女性ホルモンの低下によって視床下部がストレスを受け自律神経が、「交感神経」という戦闘モードに傾いている状態…ということは分っているので、意識的に「副交感神経」のスイッチを入れて、バランスを取るようにするのがいいと私は思っています。

医学の教科書には、次のようなエクササイズが載っていますので、試してみていただきたいです。

1.目をつぶり、体を大の字にして仰向けに横たわる

2.ゆっくり深呼吸を繰り返し、できるだけ呼吸することだけに集中する

3.落ち着いてきたら、深呼吸しながら右手の指先に意識を集中する

4.右手に温かさを感じたら、意識を左手の指先に向ける

5.同じように右足、左足を意識していく

※さらに右手からもう2~3回繰り返す

このエクササイズの目的はリラックス。なので、人によってはヨガ、瞑想、ゆっくりした入浴など、自分の好きな方法で、リラックスしていただければよいと思います。

あとは、体幹を温かくすることも大切です。なぜなら、自律神経系の大切な部分は、背骨の近くにあるからです。なので、背骨を冷やさないようにするのも、更年期ケアのポイントですね。


――なかには、あまりにもつらくて、仕事が続けられなくなる女性もいますよね。


セルフケアでは我慢できないレベルなら女性専門外来などに相談するのがいいですね。更年期障害は、こじらせるのが一番よくないので。

現在行われている代表的な治療法は、漢方薬、ホルモン補充療法、抗不安薬の投与です。医師と相談しながら、自分に合う治療法を見つけるといいでしょう。

気を付けて欲しいのは「漢方は西洋薬と違い、いくら飲んでも副作用がないから安心」と、勘違いしている方がいることです。漢方薬も薬ですから、しっかり効果もあれば、副作用もあります。長期間、服用する場合には、漢方薬であれ、西洋医薬であれ、3~6か月に一度は血液検査をして、副作用をチェックすることをお勧めします。


――更年期障害と間違いやすい病気もありますよね。


最たるものは、甲状腺の病気です。

甲状腺の病気は女性に多く、たとえば甲状腺ホルモンの分泌が少なくなる病気には「橋本病」があり、女性の約10人に1人が発症すると言われています。特に、中年女性に多くみられる身近な病気ですから、注意が必要です。しかも、その症状は、更年期の症状と似ています。

不定愁訴がつらくても、「更年期だから仕方ない」と我慢してしまう方は少なくないと思いますが一度は医師の診断を受けてみてはどうでしょう。甲状腺機能の異常は、血液検査で簡単に分りますので。


――ほかに、注意すべき健康リスクはありますか? どのように健康管理したらいいでしょう。


子宮筋腫ですね。成人女性の3~4人が子宮筋腫を抱えているといわれており、更年期年齢である40代になると、筋腫率はさらに高まります。閉経後は、大きくなることも増えることもないんですけどね、それまでは便秘や頻尿、月経痛、不正出血、貧血等の悪さをしますし、酷い時には子宮壊死を起こすこともあります。

なので、年に一度はエコー検査による子宮がん検診を受けてその際に筋腫のチェックもしてもらうのがいいと私はお勧めしています

それから50代になると、がんを発症する方が目に見えて増えてきます。いずれのがんも、大切なのは、早期発見。早期治療です。健康保健組合で受けられる検診はぜひ受けていただきたいのですが、私は、自分のクリニックの患者さんには、人間ドッグなどで行われる「任意型検診」をお勧めしています。

任意型検診では、まだ死亡率を下げる効果が証明されていない検査もあります。でも私は、大学の健診センターで毎週約30人、15年以上に渡って人間ドッグの診察・診断を続けるなかで、「任意型検診によってがんが早期発見されてよかった、助かった」と思う事例に、何度も立ち会っています。

                                                                 

【男性編】

実は高血圧ほど元気。調子よくても気を付けて!


――女性だけの症状と思われがちな更年期障害ですが、実は男性にもあるのですよね。男性の更年期はいつからですか?


男性の場合人それぞれですが、だいたい女性と同じくらいから始まっていると思います。つまり40代半ばぐらいからですね。


――従来は、男性には更年期障害はないと言われていました。


そうですね、以前は定年も55歳でしたし、平均寿命も短かったので、更年期を感じる前に、退職していた方が多かったからかもしれませんね。激務で知られる某広告代理店なんかは、定年まで残れないのが当たり前。「辞めて独立するか死ぬかどっちかだ」と聞いたことがあります。60歳まで働き続けられない人は、案外沢山いたような気がします。


――企業戦士は大変だったんですね。


だんだん男性も女性化しているというか、変わって来ていますよね。家事をする人も増えているし。以前は、50代、60代の男性は、自分の弱さを見せるのが恥ずかしかったものですが、今はわりとオープンに弱みをさらけ出すようになりました。


――どのような症状が現れますか?


筋肉の増加を高める男性ホルモンであるテストステロンが減り、自分では若い頃と同じように動いているつもりでも筋肉が落ちてくるので動けていない

私の後輩の男性外科医も、40代後半になったら思うように体が動かないと言っています。男性外科医は体力勝負ですから、「自分は筋肉がある」ということが、仕事に立ち向かう上での心の支えになっている人が多いんです。だから、サイクリングしたりマラソンしたりして持久力を養いながら筋トレにも励んで。酔っぱらうと「この筋肉が自分の自信を支えている」と肉体自慢する人もいるほどです。

その筋肉が減って、全体の力が衰えてくるのは心細いでしょうね。あとは、髪の毛もボリュームもなくなってきます。筋肉や髪の毛のボリュームは男性の自尊心に関わる部分ですから、精神的に落ち込む場合もありますし、そもそもテストステロンが落ちるとストレスも増大します。


――それはバリバリ働いてきたデキる男性ほど、つらいかもしれませんね。


そうですね。傍から見ても、イライラしているのが分る男性、いるんじゃないでしょうか。特に50歳から60歳ぐらいまでは大変です。体力は落ち、モチベーションも下がるのに、働かざるを得ない。

私は産業医として、長年継続して診させていただいている方が沢山いるのですが、大手のメーカーさんは比較的対策が進んでいるように感じます。日本の産業保健は鉄と製造業が引っ張ってきた感がありますからね。工場内に診療所があり、専任の健康スタッフがいて、メンタルヘルスやワークエンゲイジメントなど健康経営に取り組んでおられる。

だからでしょうか。そういうメーカーの社員さんは、会社のことをずっと愛していて、更年期でも気持ちが安定している方が多いように思います。

男性の場合は、会社の生活がずっと自分の中の主軸になっているので、更年期対策も会社として積極的に取り組む姿勢が重要なのではないでしょうか


――男性の更年期世代には、どのような健康リスクがありますか?


男性ホルモンの減少は、様々な健康リスクに関係しています。まず、ケガのリスクですね。若い頃と同じ感覚で運動して、骨折する方はとても多いです。しかも、元と同じように回復することはありません。たとえば人工関節にしたとしても、更年期以降のケガは、機能が完全に元に戻ることはないのです。

それから血管病のリスクですね。脳卒中や心筋梗塞、動脈硬化を引き起こす、高血圧には十分気を付けていただきたいです。私の経験では、高血圧の患者さんほど、アクティブで元気です。元気と血管年齢は逆と考えてもらった方がいいでしょう。

先日も健康診断で50代男性の血圧を測ったところ、上が250で下が140もありました。いつ倒れても不思議はない状態です。だけど症状は何もない。それどころか非常に元気で、仕事をバリバリやっているのはもちろん、普段から小学生の野球チームで監督もしているとおっしゃる。それでも血圧を下げる薬を飲んでいただいて、2ヶ月目で上が180の下が110ぐらいまで下がったんですね。そしたら「先生、低血圧で立ちくらみがします」(笑)。危険なくらいの高血圧の時のほうが調子がよかったと。「突然死しなかっただけよかったんですよ」とお話しして、治療を続けてもらっています。

男性はそういう方、多いんですよ。

あとは、「自分はぷっつり逝くから、放っておいてください」と開き直る方も多いのですが、そんなに上手く「ピンピンころり」と逝ける人は滅多にいません。寝たきりとか、片麻痺とか、体が不自由になるケースが多いので、気を付けてもらいたいです。


――更年期世代はがんも増えてきますね。


そうですね。特に多いのは前立腺がんで、加齢によるホルモンバランスの変化が影響しているものと考えられています。前立腺肥大症とともに更年期以降の男性は注意すべき病気です

前立腺がん以外も、更年期以降は、がんが急激に増えてきます。定期的ながん検診健診を心がけて欲しいと思っています。


――男性と女性の更年期との付き合い方では、どんな違いがありますか?


女性は、家庭と仕事など、人生において複数の役割を普通にこなしてきていますが、男性の場合は仕事1本なので、なかなか気持ちの切り替えが難しいのが特徴です。

自分の衰えを受け入れて、そこからどのように自分のポジションを再構築していくか。特に家庭でのポジショニングは重要です。買い物でも洗濯でもなんでもいいから役割を引き受けて、やってみることをお勧めします。


――薬での治療はどうですか?


男性は55歳ぐらいになると、口に出そうが出すまいが更年期を感じておられるので、更年期を乗り越えるには、専門医で薬を処方してもらうのもいいと思います。女性と同じように漢方薬もいいし、ホルモン補充療法も効くと思います。ただ、前立腺がん等のリスクが高まるとも言われていますから、慎重な投与が必要です。


【男女共通編】

これからの健康管理のために


――男性・女性共通で、健康管理の為にお勧めしたいことはありますか?


40代のうちにホームドクター(家庭医/かかりつけ医)を見つけておくことですね。更年期に入ると、さまざまな不調がでてきますが、たとえば背中が痛い時、何かを受診したらいいか迷いますよね、大変な病気かもと心配し、大きな病院の内科や整形外科等をドクターショッピングしてしまう方も少なくありません。

そんな時、常日頃から診てもらっているホームドクターがいて、相談に乗ってもらえれば、診断から治療法まで一緒に考えてもらえるし、必要な場合には、適切な大病院を紹介してももらえます。

長く付き合うことで、現在の身体の症状だけでなく、いままでかかった病気や受けてきた検査、生活や労働環境などを加味して、トータルに考えて、アドバイスや対応をしてもらえるはずです。

医師と患者さんは相性がありますので、いろいろな先生に会ってみて、しっかりコミュニケーションがとれる先生を見つけてください。


常喜 眞理(じょうき まり) 

1963年東京生まれ。東京慈恵会医科大学卒業。消化器病学会専門医、消化器内視鏡学会専門医・指導医、内科学会認定医、日本医師会認定産業医、人間ドック健診専門医。2012年、内科、皮膚科、小児科診療を行う「常喜医院」を開業。慈恵医大新橋健診センターでは診療医長として、健康診断(人間ドック)の内科診察を務め、婦人科や乳腺外科の診察結果を総合的に最終診断。長年、大手企業での職場におけるメンタルヘルスサポートの産業医としても活躍。


常喜先生の近著
マリ先生の健康教室 オトナ女子 あばれるカラダとのつきあい方』(すばる舎/2018)

女性家庭医としての立場から、女性の体に起こる変化を年代別に整理。それぞれの年代での上手な対応策が提案されています。

文/木原洋美

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常喜眞理

常喜眞理

(じょうき・まり)1963年東京生まれ。東京慈恵会医科大学卒業。消化器病学会専門医、消化器内視鏡学会専門医・指導医、内科学会認定医、日本医師会認定産業医、人間ドック健診専門医。2012年、内科、皮膚科、小児科診療を行う「常喜医院」を開業。慈恵医大新橋健診センターでは診療医長として、健康診断(人間ドック)の内科診察を務め、婦人科や乳腺外科の診察結果を総合的に最終診断。長年、大手企業での職場におけるメンタルヘルスサポートの産業医としても活躍。著書に『マリ先生の健康教室 オトナ女子 あばれるカラダとのつきあい方』(すばる舎/2018)がある。

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