安全配慮義務とは?違反を防ぐポイント&自己保健義務との違いを紹介
最終更新日:2022年4月25日
企業には、安全配慮義務と呼ばれる、従業員の安全と健康に配慮する義務があります。
本記事では、「安全配慮義務とは?」という初歩の部分から、安全配慮義務違反となるケースと、違反を防ぐポイントを紹介します。
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法律から読む「安全配慮義務」とは?
安全配慮義務とは、労働契約法で規定されたルール
安全配慮義務とは、使用者に課せられた従業員の安全・健康について合理的に配慮する義務であり、労働契約法の第5条(労働者の安全への配慮)に規定されています。
つまり安全配慮義務は、労働者のけがや病気等の発生あるいはその危険を使用者が回避に努める義務とも言えます。
安全配慮の義務は、使用者と労働者の間で契約を交わしていなくとも生じます。
よって、例えば「うちの会社では、就業規則等で安全配慮義務に関する契約をしていない」という場合であっても、使用者は労働者の安全と健康に配慮する必要があるのです。
また、安全配慮義務の違反は労働者(従業員)の当人だけでなく、企業にも大きなダメージが発生する恐れがあるため、十分な注意が必要です。
安全配慮義務と同時に「予見可能性」という言葉もよく出てきます。
けがや病気が発生することを予測できたにもかかわらず、特に改善に取り組まなかったような場合には、民事訴訟にて企業が過失を問われることがあるため、健康障害の発生を予見することが重要になっています。
(労働者の安全への配慮)
第五条 使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。
安全配慮義務が規定されている労働契約法について
労働契約法はその名の通り、労働契約に関する事項が規定された法律です。
主に次の5つの項目があり「労働契約の5原則」とも呼ばれます。
①労使対等の原則
②均衡考慮の原則(就業形態の異なる労働者の待遇バランス)
③ワークライフバランスの原則
④信義誠実の原則
⑤権利濫用禁止の原則
安全配慮義務と自己保健義務の違い
安全配慮義務と合わせて聞く言葉に「自己保健義務」というものがあります。
自己保健義務について端的に言えば、労働者の自助努力ということになります。
自己保健義務は、労働者が自身の健康を維持するために努めるというもので、労働安全衛生法第69条第2項に「労働者は、前項の事業者が講ずる措置を利用して、その健康の保持増進に努めるものとする。」と規定されています。
安全配慮義務との違いは義務の対象者にあります。
使用者に対する規定は安全配慮義務。一方で労働者に対する規定が「自己保健義務」となります。
自己保健義務の具体的な内容は、労働安全衛生法第70条の2第1項をベースとした指針「事業場における労働者の健康保持増進のための指針(※)」にて、次のように規定されています。
※事業場における労働者の健康保持増進のための指針(抜粋)
「労働者の健康の保持増進には、労働者自らが自主的、自発的に取り組むことが重要である。しかし、労働者の働く職場には労働者自身の力だけでは取り除くことができない健康障害要因、ストレス要因等が存在しているので、労働者の健康を保持増進していくためには、労働者の自助努力に加えて、事業者の行う健康管理の積極的推進が必要である。その健康管理もこれまでの単に健康障害を防止するという観点のみならず、更に一歩進んで、労働生活の全期間を通じて継続的かつ計画的に身心両面にわたる積極的な健康保持増進を目指したものでなければならない。」
安全配慮義務違反が問われるケースと罰則
安全配慮義務を違反した場合の罰則
安全配慮義務違反があった場合、その罰則は労働契約法には定められていません。
しかし、使用者が労働者に対して適切な配慮を行っていない、あるいは怠っている場合には、安全配慮義務違反として責任を問われる可能性があります。
また、労働契約法にその定めがある安全配慮義務ですが、違反があった場合には民事訴訟によって損害賠償を請求されることがあるため、使用者(企業)として注意が必要となります。
安全配慮義務違反に関する過去の裁判を例に見ると、民法上の不法行為(民法第709条)と債務不履行(民法第415条)を根拠とした提訴がされています。
安全配慮義務違反となる例は?
例えば、従業員の不調を把握していながら、適切な措置を行わずに放置し、結果として病気・けがが発生したような場合がこれに該当します。
具体的には、作業手順や備品の配置等の不備により、従業員がけがをしそうだと予想が可能であったにもかかわらず、改善しないことによって病気・けがが発生したような場合。
他にも、精神状態が良好とはいえない従業員へ適切な配慮を行わず、結果として精神障害が発生したような場合も安全配慮義務違反となる恐れがあるのです。
つまり、使用者および企業が安全配慮義務を果たすためには、職場の危険管理をはじめ、労働者の健康管理を維持するための衛生活動が欠かせません。
また、ハラスメントの発生は様々な病気の要因となり得るため、対策に取り組むことが必要になります。
例えば、以下の裁判例のように、パワーハラスメントや職場のいじめの発生を認識していながら特に対策を行わなかったことによって民事訴訟に発展したケースです。
〈裁判例〉
安全配慮義務の違反が認められた裁判例(ハラスメント)
使用者は、社内にて3年間にもわたっていじめが発生していたことを認識しながらも、防止する措置をとらず、安全配慮義務の債務不履行があったと認められた。
出典:厚生労働省「職場のいじめ・嫌がらせに関連すると考えられる裁判例(一例)」
なお、債務不履行として産業医が提訴された判例もあるため、衛生担当者や人事担当者および産業保健スタッフにとっても十分注意が必要です。
安全配慮義務違反を避けるためのポイント
どう避ける?安全配慮義務違反~企業が取り組むこと~
安全配慮義務違反を回避するためには、適切な産業保健活動を行うことが大切です。
従業員のけがや病気を予防・回避するために取り組むことはたくさんあります。
例えば、産業医による職場巡視を通じて、事故の予防に努める。
あるいはストレスチェックを活用して職場のストレス状態を把握し、早期に課題を発見する。
定例の衛生委員会にて、各部署が抱えている健康の問題について審議することなど、多数挙げられます。
安全配慮義務を果たすためには、これら日常的な産業保健活動に注力することが欠かせません。
産業医の稼働実態によって起こる安全配慮義務違反のリスク
上述したように、適切な産業保健活動を行うことが安全配慮義務違反を防ぐことにつながります。
また、産業保健活動の中心的人物となるのが、企業の人事・衛生管理者や産業医といった担当者です。
ここで注意が必要となるのが、産業医の稼働実態です。
働き方改革が推し進められた2019年頃には「名義貸し産業医」「名ばかり産業医」といった、産業医を選任しつつも、実際には企業に訪問しない(稼働していない)状況であることが問題視されていました。
このような場合では、企業が安全配慮義務違反を問われるリスクがあるため、産業医の選任状況を見直すことも必要と言えます。
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