〈判例から読む〉パワハラ発生は会社へのダメージ大。リスクと対応策を紹介
2022年4月、いわゆる「パワハラ防止法」が中小企業も対象となります。
本記事では、企業が罰せられた過去のパワハラ判例から、企業が注意すべき点と、法施行以降に欠かせない対応策を紹介します。
判例:身体的・精神的な攻撃によるパワハラの裁判例(N社事件)
裁判の概要:上司から部下に対するパワハラ
金融企業のN社で起こったパワハラの裁判例です。
同社に勤務する従業員X、Y、Zの3名は、上司Aからのパワハラを受けていました。
従業員のうち1名(X)はパワハラを原因として抑うつ状態を発症したこと等から、3名は同社と上司Aに対し慰謝料と治療費・休業損害を請求。
結果として、企業側に賠償金等の支払いが命じられる判決となりました。
パワハラの内容:上司から部下に対する暴行・暴言行為
●上司AからXに対するパワハラ(暴行・暴言)
まずは上司Aから部下Xに対すパワハラの内容を見ていきましょう。
Xに対して行われたパワハラには暴行と暴言があり、具体的にはXの背中を殴る、取引先との商談中に叱る等をしていました。
また、上司Aが提案した方法で業務にあたっていなかったXに対し、叱責した上で始末書も書かせています。
始末書の内容は「今後、このようなことがあった場合には、どのような処分を受けても一切異議はございません。」というもの。
その他にも、会議にてXが業務改善に関する発言を行った際には「お前はやる気がない。なんでここでこんなことを言うんだ。明日から来なくていい。」と上司Aが怒鳴ったこともあったそうです。
●上司AからYに対するパワハラ(暴言/過度な叱責)
次に、部下Yに対する上司Aからのパワハラについて。
Yが業務に関する報告を行っていなかったことについて、Yとその直属上司に対し、上司Aは「責任をとれ」「給料泥棒」「バカ野郎」と発言し、強い叱責を行いました。
また、この件についても始末書を提出させており、その中に「給料をもらっていながら仕事をしていませんでした。」という文言を入れさせていました。
●上司AからZに対するパワハラ(暴行・暴言)
続いて上司Aが部下Zに対して行っていたパワハラの内容です。
上司Aは部下Zの背中を殴打する等の行為をしました。また、面談中に叱責しながらZの膝を蹴る等の暴行を与えていたそうです。
その他にも、Zと上司Aが昼食をとっている際、既婚者であるZに対して「よくこんな奴と結婚したな、もの好きもいるもんだな。」という旨の発言をしていた。
●上司AからX、Yに対するパワハラ(嫌がらせ)
上司Aは、部下のY、Zに対して扇風機の風(強風モード/首振り固定)を直接当て続けるという嫌がらせを行っていました。
この点については上司Aにも言い分がありました。それは、上司Aには持病があったため、X、Yの両氏が喫煙者であることを理由に風を当てていたとのこと。
しかし、通常であれば扇風機が使用されない季節であり、風を当てる行為も長期にわたっていました。
また、これに悩んだXが別の上司に相談したところ「マフラーを巻けば?」等と言われ、会社としても適切な対応がされなかったのです。
この相談の直後、Xは心療内科を受診し「抑うつ状態」と診断され、一か月間の休職になってしまいました。
裁判の判決
上述した内容のパワハラを受けていたX、Y、Zの3名は、会社と上司Aに対して裁判を起こしました。
判決では、上司から部下に対するパワハラ行為は執拗に行われ、かつ著しい不快感を与えたとして、不法行為と認められました。
パワハラ行為について反論することは、上司Aより退職を要求されるかもしれない恐れがあると考えられる他、雇用の不安を与えていたことなどから、これらの行為は不法であるという判決が下されたのです。
また、別の上司に相談があったにもかかわらず、会社として適切な対応がなされなかったこともあり、企業にも罰が課せられる結果となりました。
●判決にてパワハラと認められた行為の例
・過度な叱責や始末書の提出について:業務や指導の範囲を超えたものであり、XやYに対して雇用の不安を与える、人格を否定するなど、屈辱的な行為とされた。
・暴行に/嫌がらせついて:正当な理由なきものであり、不法行為として認定されている。
・暴言について:Xとその配偶者への侮辱行為として認められた。
慰謝料、損害賠償について
なお、Xの発症した抑うつ状態は上司Aからのパワハラ行為と因果関係があるとされ、慰謝料60万円のほか、治療費と休業損害を支払うよう命じられています。
また、Yへは慰謝料40万円、Zへは慰謝料10万円の支払いが被告の上司・企業へそれぞれ命じられました。
企業におけるパワハラ発生リスクと対応策
パワハラ発生は企業のリスク。イメージにも影響が大きい
上の判決では、パワハラの発生によって慰謝料や賠償金などの支払いが命じられました。
会社にとっては大きな金額ではないかもしれませんが、パワハラ事案の発生あるいはそれに関する裁判は企業イメージの大幅ダウンにつながります。
また、暴行等の行為については、傷害罪や暴行罪などの刑法にて裁かれますので、企業には金額以上のダメージがあります。
その後の人材採用や株価、経営、といった視点からも、パワハラを発生させない職場づくりが欠かせないものになります。
企業は「パワハラ防止法」に沿って適切な対応策を講じる
2022年4月、いわゆる「パワハラ防止法」が中小企業も対象となります。
パワハラ防止法では、パワハラを発生させない、あるいはパワハラが発生しても適切な対応を行うためのルール等が定められています。
具体的には、パワハラ防止に関する企業の方針を周知・啓発することや、パワハラが発生した際の相談先を設置すること等が挙げられます。
●「パワハラ防止法」における事業主の義務
1.事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発
2.相談(苦情を含む)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
3.職場におけるパワーハラスメントに係る事後の迅速かつ適切な対応
4.1~3までの措置と合わせて、相談者・行為者等のプライバシーを保護すること、その旨を労働者に対して周知すること、パワハラの相談を理由とする不利益取扱いの禁止
これらのルールを守ることは、職場におけるパワハラの発生を抑止し、深刻化を防ぐことにもつながります。
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裁判例を見ると、パワハラの発生は従業員への負荷だけでなく、企業にも大きなダメージ・リスクがあることがわかります。
「パワハラ防止法への対応がまだ出来ていない」という企業・担当者の方は、速やかに取組みを進めていきましょう。
なお、パワハラ防止法の義務・ルールの詳細については、過去の記事で紹介していますので、よろしければご覧ください。
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