ストレスコーピングとは?種類と効果的な実践方法を徹底解説!
ストレスによって従業員がメンタルヘルス不調に陥ることは、企業にとって損失や業績悪化につながるため、早めの対応が必要となります。
ストレス対策として注目される「コーピング」とは、ストレスに対処するセルフケアの一つです。
本記事では、企業においてコーピングが重要視されている理由や、コーピングを効果的な取組にするためのポイントを紹介します。
目次[非表示]
- ・ストレスコーピングとは
- ・ストレスコーピングが注目される背景
- ・ストレスコーピングの種類
- ・ストレスコーピングの効果的な実践方法
- ・職場におけるストレスのリスクとコーピングの重要性
- ・職場でできるストレスコーピングの取組
- ・1. ストレスケアコーピングに関する研修を行う
- ・2. 1on1ミーティングやメンター制度で相談できる体制を整える
- ・3. ストレスチェック制度を導入する
- ・4. 従業員同士のコミュニケーションを活性化させる
- ・5. 産業医を活用する
- ・ストレスコーピングを実践する際の3つのポイント
- ・職場でストレスコーピングを行うメリット
- ・ストレスコーピングを適切に実践して職場を活性化させよう
ストレスコーピングとは
ストレスコーピングとは、ストレスに対処するための行動です。
職場での人間関係や環境、業務負担など、働いていると気づかないうちにストレスにさらされていることがあります。健康で働き続けるためには、ストレスを受けた際に適切に認識し、対処できるかがポイントとなります。
1. R・S・ラザルスのストレス理論
ストレスコーピングは、アメリカの心理学者R・S・ラザルスのストレス理論が基礎となって提唱された理論です。
人が出来事などに遭遇し刺激を受けると、その刺激に対して1次評価と2次評価という、2つのプロセスがあることを示しています。
1次評価は、受けた刺激が自分にとって脅威であるか、この刺激はどのようなものか、自分との関係や影響について判断する段階です。本人の価値観や考え方が強く影響し、同じ状況でも人によってストレスと感じるかどうかが変化します。
2次評価は、ストレスフルと判断された状況で、次の行動の選択肢を考えて対処する段階です。本人が持つコーピングの幅や行動の選択によって解決できるかどうかが変化します。対処に失敗した場合にはストレス反応が強まり、逆に成功した場合は成功体験となり、次回の刺激への評価に活かされます。
ストレッサー(ストレス反応を起こす外部環境からの刺激)への対処法がわかっていると、ストレスを軽減することが可能です。
2. コーピングとは
コーピング(coping)には、英語で「対処する・処理する」という意味があります。
ストレスコーピングを行うことで、ストレスを発散できたりイライラしにくくなったりと、心身の反応を起こしにくくなるのが特徴です。 ストレスに対してうまく向き合えるようになるため、職場でのストレス対策として注目されています。
3. 適応機制との違い
適応機制とは、ストレスから心身を守るために無意識に起こる反応です。
欲求と深い関係があり、欲求が満たされないことによって起きる緊張や不安などを、適応機制によって制御しています。反応はさまざまで、他の手段で欲求を収める「代償」や欲求不満を他者にぶつける「攻撃」などがあります。
ストレスコーピングもストレスから逃れる行動ですが、自ら行うのか、無意識に行われるかという部分に違いがあります。適応機制は本能的な反応、ストレスコーピングは能動的な対処と理解するとよいでしょう。
ストレスコーピングが注目される背景
日本でコーピングが注目される背景には、メンタルヘルス不調から休職や退職に至る労働者を見過ごせない状況にあることが挙げられます。
過多な仕事量や仕事の責任に対する重圧、職場の人間関係など、仕事でのストレスを抱える人が多くなっています。
厚生労働省の「令和4年 労働安全衛生調査(実態調査)の概況」によると、現在の仕事や職業生活に関することでストレスとなっている事柄があると答えた労働者の割合は82.2%でした。前年は53.3%であったことから、ストレスを抱えたまま仕事をしている人の割合が急激に増えていることがわかります。
コーピングで対処するストレスの要因
コーピングで対処するストレスの要因はいくつかありますが、主に以下の3つに分けることができます。
- 環境的要因
- 身体的要因
- 心理・社会的要因
例えば、理不尽な要求をしてくる上司にストレスを感じたら、その上司が社会的要因に起因するストレッサーです。PCの動きが悪くて仕事が進まずイライラする時は、PCが環境的要因となります。
具体的な人や物だけではなく、作業や環境、体調、気温など、ストレスの要因になるものはすべてストレッサーになる可能性があります。
1. 環境的要因
環境的要因は、職場環境や通勤環境が主な例として挙げられます。例えば、職場の空調が効かず暑い、外の騒音が気になって集中できない、満員電車で苦痛を受けるなどです。
騒音や混雑など、職場の外の環境は対処が難しいことが多いですが、職場内の環境であれば、従業員の声を聞きながら改善することがストレスの緩和につながります。
2. 身体的要因
身体的要因は、病気や怪我、睡眠不足や体調不良など身体的なものに起因するストレスです。例えば、お腹の調子が悪くて食欲がない、病気や怪我で身体が思うように動かないなどです。
職場で対処する方法としては、従業員の身体的なストレス要因を可能な限り把握し、労働時間を柔軟に調整できるようにしたり、動きやすい作業環境を整えたりすることなどが有効です。
3. 心理・社会的要因
心理・社会的要因は、人間関係、仕事、家庭などの不安や焦り、怒り、緊張、落ち込みなどに起因するストレスです。例としては、対応しきれないほどの業務を担当することになり不安を感じ、重要な仕事で失敗して落ち込むなどが挙げられます。
職場では他人と協力しながら業務を進めるため、関係性をうまく作れないとストレスに感じてしまいます。攻撃的な人や強い言葉を使う上司などがいる場合も、ストレスになりやすいです。
考え方を変えることで改善できる場合もありますが、多くの場合、人事面談などで定期的にコミュニケーションを取り、解決に向けて一緒に取り組むことが有効となります。
ストレスコーピングの種類
代表的なストレスコーピングには「問題焦点型コーピング」と「情動焦点型コーピング」の2種類があります。
問題焦点型コーピングは「(人間関係がストレッサーの場合)相手に働きかけて問題を解決するコーピング」であり、情動焦点型コーピングは「自分の感じ方・考え方を変えて対処するコーピング」ということになります。
ストレスの要因である相手側において変化が可能な場合には「問題焦点型コーピング」の対処が適切とされており、反対に、相手側に変化を求めることが難しい場合には「情動焦点型コーピング」の対処が適切だとされています。
2種類あるコーピングのうちどちらかに集中させるよりも、状況に応じて使い分けるとより効果的です。
1. 問題焦点型コーピング
問題焦点型コーピングとは、ストレッサーそのものに働きかけて、ストレッサー自体を変化させて解決を図ろうとするコーピングです。
例えば、対人関係がストレッサーである場合は、相手に対して直接謝罪をして関係を取り戻そうとするなど、ストレッサーに直接働きかけて対処します。
2. 情動焦点型コーピング
情動焦点型コーピングとは、ストレッサーそのものに働きかけるのではなく、ストレッサーに対する考え方や感じ方を変えようとするコーピングです。
例えば、好きなものを食べる、映画を見て泣く、カラオケで歌うなどしてストレス発散するなどです。
また、「こうあるべきだ」「人を頼ってはいけない」という思い込みから解放され、自分の考え方を修正することも、情動焦点型コーピングの一手法といえるでしょう。
ストレスコーピングの効果的な実践方法
ストレスコーピングの効果的な実践方法は、主に次の3つが挙げられます。
- ストレスの原因を把握する
- 対処法を考えて実践する
- 解決されたかを振り返る
まず、自分が抱えているストレスの原因を把握しましょう。ストレスの原因を言語化することができれば、客観的に考えて対策を練ることができます。
また、対処法を考える場合は考えられるものをすべて書き出し、最も有効な対策と考えられるものをピックアップします。
相手や環境に対してアプローチ(問題焦点型コーピング)をするのか、自分の考え方や感じ方を変えてストレスを緩和(情動焦点型コーピング)するのかによって行動が変わってくるため、必要に応じて周りと相談しながら進めるとよいでしょう。
実践ができたら、ストレスが解決されたかを振り返ります。もし解決されていなくても落胆せずに、別の方法を試すことが大切です。ストレスが解決出来たら自分の中での成功体験になるため、諦めずに取り組みましょう。
職場におけるストレスのリスクとコーピングの重要性
過度なストレスは心身に影響を及ぼすことはよく知られています。
2015年にスタートしたストレスチェック制度や、健康経営の潮流など、職場におけるストレス対策としてメンタルヘルスマネジメントやコーピングの重要性が注目されてきました。
その理由は「高ストレス状態」の従業員を放置することや、適切なストレス対策・コーピングを行わなかった場合、従業員のメンタルヘルス不調による休職・離職リスクにつながる恐れがあるためです。
また、従業員が休職・離職することは企業経営にとって損失が大きく、場合によっては従業員からの訴訟・紛争問題にまで発展してしまうケースもあります。企業のイメージダウンにつながることがないよう、適切なストレス対策としてコーピングを行いましょう。
職場でできるストレスコーピングの取組
ストレスコーピングは日常生活でも実践できるものですが、ここでは職場での取組に絞って紹介します。
具体的な方法は以下の通りです。
- ストレスケアコーピングに関する研修を行う
- 1on1ミーティングやメンター制度で相談できる体制を整える
- ストレスチェック制度を導入する
- 従業員同士のコミュニケーションを活性化させる
- 産業医を活用する
1. ストレスケアコーピングに関する研修を行う
ストレスケアコーピングに関する研修では、どのような状況がストレスになりやすいのかを学び、周りの人へのサポート方法について習得することなどができます。
自分の感情を客観的に見つめる方法や、自律神経を整えてリラックスする方法を学ぶと、日々のストレス解消にも活かすことが可能です。
また、自分がどんなストレスコーピングをしたり、傾向があるかを把握することも大事ですが、職場で周りの人がストレスを抱えて困っている際に、気づいて適切な声掛けができるようになると、さらに良い職場づくりにつながります。
研修は場合によって内容が異なるため、自社に合う内容を選択することが大切です。
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2. 1on1ミーティングやメンター制度で相談できる体制を整える
1on1ミーティングとは、直属の上司と部下が1対1でミーティングを行うことです。仕事に関するサポートを行うことを目的としており、上司と部下のコミュニケーションを円滑にし、成長させるための場としても活用されています。
対象は職場にいる全員で、仕事の効率が低下した際には原因について周りを気にせず話し合えるため、メンバーの状況把握もしやすいです。
一方で、メンター制度とは、職場の先輩が後輩を1対1でサポートすることです。厚生労働省が2012年に「メンター制度導入・ロールモデル普及マニュアル」を公開してから一気に知名度が上がり、導入する企業が増えました。
対象は主に新入社員で、一般的には社会人としての心構えや仕事に対する姿勢など、より抽象的なことをサポートします。特に具体的な悩みがなくても、仕事に対しての不安や悩みを相談することも可能です。
各制度の特徴を理解し、職場のメンバーに合わせてストレスの把握と改善がしやすい環境を作りましょう。
3. ストレスチェック制度を導入する
適切なコーピングを行うためには、まずストレスチェックをしっかり実施し、従業員個人が自分のストレス状況に気づくことが重要です。そして、企業は職場のストレス状況を把握する必要があります。
厚生労働省「令和4年度 労働安全調査」(個人調査)によると、「現在の自分の仕事や職業生活に関することで強い不安、悩み、ストレスとなっていると感じる事柄がある労働者の割合」は82.2%と、働く人の8割以上が仕事にストレスを感じています。
ストレスチェック制度を導入し、「何に」「どのような」ストレスを感じているのかを把握し、職場全体が適切に対処できるようにすることが求められています。
4. 従業員同士のコミュニケーションを活性化させる
従業員同士のコミュニケーションを活性化させると、仕事に関する悩みを気軽に話せるようになったり、有益な情報を交換できるようになったりするため、コミュニケーションを取りやすい環境を整えましょう。
具体的には、カフェスペースの設置や社内SNSの活用、フリーアドレスの導入等が挙げられます。
同じ場所でずっと仕事をしていると話す人も関係者に限られてしまうため、あえてその垣根を壊してコミュニケーションを活発化させると、ストレス解消にもつながることが期待できます。
5. 産業医を活用する
産業医は、労働者が健康に仕事ができるように支援を行います。 活躍が期待できる場面として、健康診断とその結果に基づく対応、治療と仕事の両立支援、ストレスチェックの実施、長時間労働者に対する面接指導などがあります。
労働者の健康管理を目的としており、50人以上の事業所には産業医を配置することが義務付けられています。産業医を選任しているものの、うまく活用ができていない場合は体制の見直しをしましょう。
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ストレスコーピングを実践する際の3つのポイント
職場でストレスコーピングを実践する際は、より効果を高めるために以下の3つのポイントに注意して取り組みましょう。
1. 現状を把握する
「顧客とのトラブルが解決したら体調が良くなった」「転職したら憂鬱な気分がなくなった」など、ストレスがなくなって初めて原因に気づくことは珍しくありません。むしろ、自分が感じているよりも大きなストレスを抱えている場合もあります。
ストレスに気づかずに体調を崩すと、回復までに時間がかかってしまうため、まずは自身の現状を第三者視点で客観的に分析することが重要です。
上記に挙げた1on1ミーティングやメンター制度を使って、従業員が現状を正確に把握できる環境を構築すると良いでしょう。
2. 解決したいという意識を持つ
ストレスコーピングは、自分にとってのストレスを解決する手段であるため、いくら周りが働きかけても本人の意思がなければ限界が来るでしょう。
周囲の人が本人の話を聞いたり、環境的な問題の解決に動くことは非常に重要です。
しかし、まずは本人がストレスの存在とその影響を理解し、解決に向けて自主的な行動に移せるような雰囲気を作ることが大切です。
3. 信頼できる人と協力する
コーピングを行う際のポイントは「一人で行わないこと」です。
ストレスを抱える当事者が一人でコーピングに取り組むことは、さらなるメンタルヘルス不調の原因になるため、必ず「信頼できる周囲の人」の協力を得るようにしましょう。コーピングにおける「信頼できる周囲の人」とは、同僚や上司・人事担当者・産業医などの人物を指します。
そして、ストレスによりメンタルヘルスの不調を感じている場合には、産業医や産業保健師・心理カウンセラー等の専門家、あるいは外部機関へ相談する方法があります。
職場でストレスコーピングを行うメリット
企業でストレスコーピングを行うと、以下のようなメリットがあります。
1. 仕事のパフォーマンスが向上する
従業員一人一人が、コーピングを実施することによって組織全体のストレス状態が改善すれば、風通しも雰囲気も良い職場環境が構築されるでしょう。
ストレスが低い状態でのびのびと仕事ができれば、周囲の人にも優しくでき、協力して仕事を進められるようになります。結果として、仕事のパフォーマンスが向上します。
2. 心身の健康維持がしやすくなる
仕事でのストレスが減少すると、心身の健康維持がしやすくなります。
近年では特にメンタルヘルス不調に陥るケースも増えていますが、ストレスを感じた時の対処法をあらかじめ理解していると、実際にストレスを受けても適切に対処できるようになります。
そして、ストレスを軽減できれば、パフォーマンス向上につながるだけでなく、心身の健康維持にも寄与するでしょう。
ストレスコーピングを適切に実践して職場を活性化させよう
普段仕事をしていると、どうしても何かしらのストレスは受けてしまうものですが、その原因と対処法を適切に知ることで、効果的に解消することができます。一人で抱え込まずに、信頼できる上司や産業医、保健師、外部相談窓口などを活用することも大切です。
また、ストレスの少ない職場環境を実現するためには、ストレスチェック実施の際「プレゼンティーズム(出社しているにもかかわらず、心身の健康上の問題でパフォーマンスが落ちている状態)」を測定することも大切です。
そして、ストレスチェック後には適切な指示・指導を行い、自分自身に合ったコーピングを行う必要があります。
そのため、ストレスチェックを行う際は、プレゼンティーズムが測定可能で、各個人にとって最適なコーピングの方法が示されるストレスチェックシステムを活用することが有効です。
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