〈産業医コラム〉ヘルスリテラシーについて
日本医師会認定産業医 社会医学系専門医制度専攻医
菊池 広大
今回はヘルスリテラシーについて書きたいと思います。ヘルスリテラシーの話を始める前に、コロナ禍でこんなニュースがあったことはご存知でしょうか。
イランで「アルコールを飲むと新型コロナウイルスの治療に効く」というデマが流行し、不幸にも27名の方が、密造酒を飲んで亡くなってしまったというニュースです。(*1
緊急事態においては、様々な情報が飛び交い、根拠のない情報を信じてしまうことがあります。
また、私たちが日ごろに接する情報の中にも、根拠のない情報が拡散することがあります。もしヘルスリテラシーがあれば、このような情報から身を守り、健康被害を防ぐことができるかもしれません。
出典:TBSテレビ「風をよむ」
ヘルスリテラシーとは
ヘルスリテラシーという言葉を聞いたことはあるでしょうか?
ヘルスリテラシーとは”健康情報を知り、理解して、評価して見極め、活用する個人の能力だけでなく、病院などへの受診のしやすさなど状況や環境の影響も含む概念”です。
ヘルスリテラシーが高い人はどのように考え、行動できるでしょうか?まず自分や家族の健康状態を把握することができます。その上でたくさんある情報の中から自分に必要な情報を選び、より健康になるための選択ができるでしょう。一人ひとりのヘルスリテラシーが高いことは健康経営を推進する基盤にもなります。
ヘルスリテラシーが不十分だと高血圧や糖尿病など慢性的な病気を管理しにくい。そしてその結果として入院しやすい。医療費が高い。医学的に問題の兆候に気づきにくい。職場で怪我をしやすい。死亡率が高いといった影響をもたらすことが明らかになっています。(*2
自分のヘルスリテラシーをチェック
5つの質問に、「強くそう思う5点」「そう思う4点」「どちらとも言えない3点」「あまりそう思わない2点」「全くそう思わない1点」で答えてください。(*3
だいたい平気点が3点台になると平均的なヘルスリテラシーと言えるようです(*4。
具体的に何をすればいいのか?
では具体的にヘルスリテラシーを高めるためにどんなことをすればいいでしょうか?具体的に何をすればいいのかご紹介します。
①健診結果を確認
まずは自分やご家族の健康状態を知ることからです。健康診断の結果から自分やご家族の健康状態を確認しましょう。血圧や体重を測定して、日々の変化を確認し、いつもと違う点はないか考えてみることもいいでしょう。
②健康に関する情報は見極めなければ「か・ち・も・な・い」
健康に関する情報については「か・ち・も・な・い」の語呂合わせで見極めましょう。
「か」書いた人は誰か?個人の意見なのか。それとも組織のものか。組織と言っても何らかの利益を目的にしているものか、非営利・公的な組織かなどを確認しましょう。
「ち」違う情報と比較したか?賛成、反対双方の立場の情報を確認しましょう
「も」元の情報、根拠や一次資料を確認しましょう。どこから引用したものかが書かれているだけで、安心しないでください。意外と引用元を見てもそんなこと書いていないということがあります。
「な」なんのために書かれたか?広告目的の情報なのか確認しましょう。特にグラフなどは印象操作がされていないか要注意です。(グラフによる印象操作は日常にたくさん溢れており、ぜひ紹介したいところですが紙面の都合上割愛します。興味のある方は「詐欺グラフ」というキーワードで調べてみてください。)
「い」いつの情報か?古い情報で今では参考にならないということもあります。
③相談する力
信頼でき、相談できる「かかりつけ医」をもちましょう。また言いたいことや聞きたいことを事前にメモして整理しておくこともおすすめです。
■引用、参考資料
*1)2020年3月15日「風をよむ~インフォデミック~」
https://note.com/tbsnews_sunday/n/n42cae6a08b35
*2) 福田洋・江口泰正編著(2016)ヘルスリテラシー 健康教育の新しいキーワード 大修館書店
*3) Ishikawa H, Nomura K, Sato M, et al.: Developing a measure of communicative and critical health literacy : a pilot study of Japanese office workers, Health Promot Int, 23, 269-274(2008)
*4) 後藤 英子ら: 日本人男性労働者におけるヘルスリテラシーと生活習慣,主観的健康感との関連、受診勧奨該当者を対象に:日本ヘルスコミュニケーション学会雑誌2017,8(1):11-18
■菊池 広大【略歴】
日本医師会認定産業医、社会医学系専門医制度専攻医
金沢医科大学医学部卒業。
東北労災病院で臨床研修修了後、(株)リコー専属産業医となる。
※文章出典:株式会社イーウェル「健康コラム」より寄稿