〈産業医に聞いた〉今後、企業に求められる産業保健活動とは

「新しい生活様式(ニューノーマル)」の提唱により、労働の現場にも変化が訪れていますが、産業保健の専門家はどのようにとらえているのでしょうか。

今、産業保健職のコミュニティで話題・テーマとなっていることや、これからの産業保健活動について「産業保健オンラインカフェ」を運営する小橋正樹先生にお話を伺いました。

※リモートによる取材:サンポナビ編集

目次[非表示]

  1. 1.小橋先生のご経歴と、運営するコミュニティ「産業保健オンラインカフェ」について
  2. 2.「新しい生活様式」のスタート。今、企業からどんな質問があり、産業保健職の間ではどんなことが話題になっているのか
  3. 3.産業医と連携し、今後を見据えた産業保健活動を

小橋先生のご経歴と、運営するコミュニティ「産業保健オンラインカフェ」について

■最初に、先生のご略歴についてお聞かせください。

株式会社oneself.代表で産業医を主な生業としている小橋正樹と申します。

2010年に産業医科大学を卒業後、救命救急などを3年間経験したのち産業医科大学に戻り、2年間の産業医修練を積みました。

現在は関東を中心に、建設業の統括産業医をはじめ、保険、IT企業など約10社で産業医の業務を行っております。


■小橋先生の運営されている「産業保健オンラインカフェ」について教えていただけますか。

「産業保健オンラインカフェ」は、産業医や保健師だけでなく、経営者、人事、社労士、弁護士、臨床心理士、精神保健福祉士、産業カウンセラーなど、産業保健に関わるオールスターで構成され、情報を発信・交換できるFacebookグループとして、2019年に設立されました。

日々の産業保健活動の中で、感じた疑問や話題などを気軽に投稿することができ、会員がお互いに情報を提供し合うことで、課題解決や会員同士の交流を目指したコミュニティとなっています。

今回の新型コロナウイルス感染症の拡大によって、さらに注目度が高まり、会員は900名を超えました。

私は管理者としてこの「産業保健オンラインカフェ」を運営しています。

※「産業保健オンラインカフェ」はこちらからご覧になれます。

Facebookのページにリンクします。


「新しい生活様式」のスタート。今、企業からどんな質問があり、産業保健職の間ではどんなことが話題になっているのか

■緊急事態宣言が解除された現在、企業から寄せられている相談にはどのようなものがありますか。

5月上旬頃までは「3密対策」「感染者対応」「強制的な在宅勤務下での健康管理」がメインのテーマでしたね。

それが、緊急事態宣言解除の見通しが立った5月の中旬頃から「新しい生活様式(以下、ニューノーマル)」に関する質問や相談が増えてきました。

具体的には、「夏にこういうイベントをやりたいんですけど、そもそもやっても大丈夫ですか?やるとしたら気をつけた方が良いことなどありますか?」といったものですかね。延期になっていた健康診断の実施についてもよく問い合わせをいただきます。

印象として、緊急事態宣言前や宣言下では「何をやっちゃ駄目?」だったのが、緊急事態宣言解除後は「何ならやって良い?」へ企業課題がシフトしてきたように思います。

でもこれって全く同じ話で、引き続き感染対策と事業継続のバランスを見ながら意思決定を重ねていくという原理原則は変わりません。

企業担当者とのやりとりや衛生委員会などを通じて、産業医としてこのニューノーマルを乗り切っていくための方法を企業と一緒にディスカッションしています。

余談ですが、企業側からのニーズもふまえ、社員面談や衛生委員会などの業務もWEB会議形式で行うことが増えましたね。


■緊急事態宣言が解除された現在、産業保健分野で話題になっていることは、どのようなテーマでしょうか。

緊急事態宣言下では圧倒的に「半強制的に急遽始まった在宅勤務下での健康管理」が大きなテーマでしたが、緊急事態宣言が解除となった今はやはりニューノーマル下での健康管理についてどのようなやりとりを企業と行っているかという情報交換が主流ですね。

例えば在宅勤務を継続した方が良い社員について、マスクと熱中症との兼ね合いについて、抗体検査について、など、本当に色々です。

また、宣言解除となり、 感染対策への意識が低下してきた企業もしくは過剰すぎる感染対策を行っている企業などに対して如何に適切なアドバイスを行うか、といったような話題も増えてきたように思います。


産業医と連携し、今後を見据えた産業保健活動を

■働き方が変化した「ウィズコロナ時代」、企業に求められている産業保健活動とはどのようなものでしょうか。

引き続きニューノーマルに基づく感染症対策が重要となりますが、企業活動における健康課題は感染症だけではなく多岐に渡ります。

感染症対策を前提としたうえでの熱中症予防、感染症対策を前提としたうえでの健康診断運用、感染症対策を前提としたうえでの職場復帰支援、など、ニューノーマルを前提とした本来の健康施策を実行していかなければなりません。

当然、今までのやり方を根本から変えなければならない場面も多々あるでしょう。

しかし、リソースは有限ですので、全てに対応しようとしたらいくら人や時間があっても足りません。

なので、リスクアセスメントの考えに基づき「やること」「やらないこと」「縮小すること」などの優先順位をつけてメリハリのある活動を行う必要があります。

また、目まぐるしく環境が変化する状況では短期的な視点に振り回されて本来の目的や方向性を見失いがちです。

企業における健康戦略のゴールは何なのか、ゴールを目指すのに有効なKPIは何なのか、今だからこそじっくりと振り返って長期的な視点を共有したうえで、今できることを粛々と進める姿勢が大切ではないでしょうか。


■今後、産業医と企業はどのようにして連携していくべきでしょうか。

新型コロナウイルスだからといって企業と産業医の連携のあり方が本質的に変わるわけではないと思います。

企業における産業医の位置付けは、政府における専門家会議の位置付けと似ているのではないでしょうか?

専門的見地から意見を述べる産業医。産業医の意見をもとに意思決定を行う企業。

お互いが丸投げも抱え込みもせず、「今起きている健康課題」と「今後起こりうる健康課題」に対して一緒に試行錯誤しながらやり繰りし続けていく、そんな良きパートナーとして伴走していける関係が望ましいですよね。

プロフィール:小橋 正樹(こばし・まさき)

社会医学系指導医/日本産業衛生学会専門医/労働衛生コンサルタント(保健衛生)/メンタルヘルス法務主任者

2010年、産業医科大学医学部医学科卒業。福岡記念病院、南部徳洲会病院にて主に救急診療医・総合診療医として従事。

産業医科大学産業医実務研修センター修練医を経て、現在は建設企業の統括産業医のほか、製造業、情報通信業、保険業、サービス業など約10社で嘱託産業医として携わる。

2019年株式会社oneself.を設立、同社の代表を務める。

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