衛生委員会で共有しておきたい「従業員の命を守る仕組みづくり」のポイント

企業が防災活動に取り組むのは、事業継続に必須である経営資源を守るためです。

経営資源には、自社の建物・設備や電気・ガス・水道というライフラインなどさまざまなものが考えられますが、その中で最も重要な経営資源は、従業員であるといっても過言ではありません。

地震で被災した後、たとえ建物・設備やライフラインが確保されたとしても従業員がその命を失っていたのでは、企業の存続はおぼつかないものとなります。

今回は、安全衛生委員会で共有したい「防災の基本」として、従業員の命を守る仕組みづくりについて紹介します。

地震発生時を例にして災害発生後の安否確認と帰宅抑制(帰宅困難者への対応)のポイントを解説していきます。

解説:本田茂樹(ほんだ・しげき)

三井住友海上火災保険株式会社に入社後、リスクマネジメント会社の勤務を経て、現在はミネルヴァベリタス株式会社の顧問であり信州大学経営大学院にて非常勤講師も務める。リスクマネジメントおよび危機管理に関するコンサルティング、執筆活動を続ける一方で、全国での講演活動も行っている。

これまで、早稲田大学、東京医科歯科大学大学院などで教鞭を執るとともに、日本経済団体連合会・社会基盤強化委員会企画部会委員を務めてきた。

目次[非表示]

  1. 1.就業時間中であれば、まずは従業員の安否確認を行う
    1. 1.1.大きな揺れがおさまった後にするべきこと
    2. 1.2.「安否確認システム」や社内イントラネットによる集計を行う
  2. 2.帰宅抑制~帰宅困難になった従業員への対応
    1. 2.1.施設の安全確保には、産業医の職場巡視も有効
    2. 2.2.防災備蓄の確保
    3. 2.3.家族の安否確認手段の確保
    4. 2.4.混乱が収拾した後の帰宅ルール


就業時間中であれば、まずは従業員の安否確認を行う

企業には、労働安全衛生法のもとで従業員の安全配慮義務が課せられています。地震が発生した際、自社の従業員が無事であるかどうかを確認する「安否確認」を行うことが求められているといえます。

さらに、企業が被災後に事業を提供し続けるためには、安否確認だけではなく、どれくらいの従業員が、発災後、どれくらいの時間で自社に駆けつけることができるかを確認する「参集可能人数の確認」が必要です。

なぜなら、従業員本人は無事であっても、家族がケガをしているなどの事情で、企業に出勤するまでに時間がかかる、あるいは参集できないことが考えられるからです。

また、災害発生時には混乱することも考えられますので、安全衛生委員会などを通じて、防災に関するルールを事前に構築し、共有しておくことが大切です。


大きな揺れがおさまった後にするべきこと

地震の激しい揺れは、東日本大震災のように数分続く場合もありますが、長くても1分程度というのが一般的です。大きな揺れがおさまり、自らの安全が確保できた段階で、周囲の同僚の安否を確認します。

執務スペースでケガをしている従業員を救出するとともに、会議室、応接室、そしてトイレや倉庫など、従業員がいる可能性のある場所を探して、確認漏れがないようにします。

外出、あるいは休暇などで勤務外の従業員の安否は、次の項で説明する安否確認システムで把握します。

 

「安否確認システム」や社内イントラネットによる集計を行う

従業員の「安否」と「参集可能人数」を把握するために、企業独自で、あるいは外部事業者が提供するサービスを利用して、安否確認システムを行っているところが増えています。

メールや電話を使って確認する方法もありますが、混乱している被災時において従業員の手作業で確認することは非常に困難ですから、専用のシステムを導入するか、社内イントラネットなどのツールを利用して、集計することを検討するとよいでしょう。

安否確認システムは、職員が短時間で簡単に入力できることが重要です。なお、従業員へ確認しておく事項として、以下の項目は必須です。


①職員の状況

  ・無事  

  ・軽傷  

  ・重傷  

  ・その他


②参集可能な時間(選択肢は企業ごとに決める)

・ 勤務中(企業内で被災した場合など)

・1日以内

・  2日以内

・  3日以内

・ 3日超(当面出社不可を含む)

ただし、首都直下クラスの地震が起こった場合、被災地では交通手段が途絶する、また火災が多数発生するなどの状況から、数日間、出勤できない状況になる可能性が高いことを理解しておく必要があります。


③参集可能人数による事業継続体制の構築

大きな揺れがおさまった後、自社内で確保できる従業員数、そして外出中など社外から参集可能な職員数を確認し、それらの従業員を適材適所で重要業務に振り分けて配置します。


帰宅抑制~帰宅困難になった従業員への対応

非常に大きな地震が発生した際、職場からすぐに移動を開始すると大規模な火災やビルからの落下物などでケガをする恐れがあります。また、自衛隊や消防が行う救助活動の妨げにもなります。

そこで、大規模地震等で帰宅困難となる従業員の安全確保をはかり、一斉帰宅による混乱を回避するため、現在、企業は従業員が一斉に帰宅することを抑制するよう求められています。すでに、東京都や大阪府などの自治体では、帰宅困難者対策の条例を制定し、一時帰宅の抑制を推進しています。

一時帰宅の抑制は、従業員を社内に数日間とどめることを意味しますから、平常時から準備を進めておくことが重要です。

施設の安全確保には、産業医の職場巡視も有効

従業員が自社内に安全にとどまれるように、建物の耐震性を確保するとともに、オフィスのキャビネット・書棚の転倒防止、事務機器類の移動防止対策を実施します。また、窓ガラスに飛散防止フィルムを貼るなどガラスが割れたときに備えた対策も必要です。

また、施設の安全確保・確認には、産業医による職場巡視を活用することも効果的です。

そのためにも、日頃の安全衛生委員会などでは、産業医から職場の情報をヒアリングしておきます。


防災備蓄の確保

従業員が自社内でとどまるためには、水や食料など生活に必要な物資を備蓄しておく必要があります。

備蓄量について従来は、「3日分の水・食料・その他必要な物資」とされていましたが、最近は、首都直下地震や南海トラフ巨大地震など被害が甚大な地震の発生が懸念されていることから、備蓄量についても「最低3日間、推奨1週間」となりつつあります。

あわせて、来社中の顧客や取引先など、従業員以外の帰宅困難者がいることを想定し、10%程度余分に備蓄することも検討するとよいでしょう。

また、水・食料には消費期限がありますから、定期的に期限切れのものがないか確認することが重要です。


家族の安否確認手段の確保

東日本大震災など過去の大地震の際に職場にとどまらず自宅に帰宅した人の多くは、家族の安否確認ができなかったことをその理由にあげています。

企業は地震が発生した際に使えるよう、自社の従業員との連絡手段をあらかじめ決めておくことが重要です。そして、従業員に対しては、自分の家族との安否確認手段を複数準備するよう周知しておきましょう。

例えば、安否確認手段としては、災害用伝言ダイヤル(171)、携帯電話の災害用伝言板サービスやSNSが考えられます。それらの安否確認手段は、知っているだけではなく、実際に使えるよう従業員に啓発します。


混乱が収拾した後の帰宅ルール

災害後に救助活動が落ち着き、火災も鎮火し、徒歩などによる帰宅が可能となった段階において、従業員の帰宅をどのように進めるかについてのルールも決めておくことが大切です。

帰宅ルールにおいては、次の点にも注意します。

・帰宅ルートの安全に関する情報、道路やその沿線にある建物の被災状況などの情報を入手し、従業員に提供する

・帰宅途中での余震等に備え、ヘルメットや水・食料を持たせる

・自宅までの徒歩帰宅に必要な時間を事前に把握し、日没前に帰宅できるようにする

・できるだけ複数で帰宅できるように方面別でグループを組む 

・帰宅後は、企業に連絡を入れる など

いかがでしたでょうか。

急に発生する災害への対策は、職場での仕組みづくりが効果を発揮します。

いざという時、被害を最小限でとどめられるよう、日頃の安全衛生委員会などで情報を共有し、備えておくことが大切です。


▼過去の連載記事▼

第1回「地震・台風・洪水などの災害時、企業に求められる「防災」とは?

第2回「会社の場所は大丈夫?ハザードマップで地震・台風・洪水の被害を予測する

〈解説者のプロフィール〉

本田茂樹(ほんだ・しげき)

三井住友海上火災保険株式会社に入社後、リスクマネジメント会社の勤務を経て、現在はミネルヴァベリタス株式会社の顧問であり信州大学経営大学院にて非常勤講師も務める。リスクマネジメントおよび危機管理に関するコンサルティング、執筆活動を続ける一方で、全国での講演活動も行っている。

これまで、早稲田大学、東京医科歯科大学大学院などで教鞭を執るとともに、日本経済団体連合会・社会基盤強化委員会企画部会委員を務めてきた。

近著に「中小企業の防災マニュアル」(労働調査会)、「健康長寿のまちづくり-超高齢社会への挑戦」(時評社)などがある。


【関連リンク】

みずほ総合研究所セミナー「『BCP(事業継続計画)』の策定と見直し」(2020年2月5日東京開催)

近著「中小企業の防災マニュアル」(労働調査会)


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