【事例】社労士が通勤災害を解説!自転車通勤・寄り道で事故に遭ったら労災になる?
会社への通勤や帰宅の途中、けがをしたり事故に遭遇した場合には「労災」として補償されます。
しかし、会社と約束していた通勤経路・通勤方法とは異なる場合の労災ではどうなるのでしょうか。
「自転車通勤中」「寄り道」「同僚と飲み会の帰り道」・・・。いくつかの事例をもとに、特定社会保険労務士の舘野聡子先生に質問してみました(取材:サンポナビ編集部)。
※注意:本稿で紹介するケースが必ずしも通勤災害として認められるわけではありません。通勤中の労災として認定されるかどうかは労働基準監督署の判断となります。
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通勤災害(労災)のルール~労災保険法のポイント
労災保険法では「通勤」という行為に該当するかどうかが重要
―まずは、通勤災害がどのようなものか教えていただけますか?
「通勤災害」とは、通勤中に起こる”労災”のことです。
なお、労働災害補償保険法(以下「労災保険法」といいます。)の第1条では以下のように定めています。
労災保険法第1条
業務上の事由又は通勤による労働者の負傷、疾病、障害、死亡等に対して迅速かつ公正な保護をするため、必要な保険給付を行い、あわせて、業務上の事由又は通勤により負傷し、又は疾病にかかった労働者の社会復帰の促進、当該労働者及びその遺族の援護、労働者の安全及び衛生の確保等を図り、もって労働者の福祉の増進に寄与することを目的とする
大まかに言えば「通勤中、電車のホームに降りる途中、階段で転んでけがをした」というようなケースが通勤災害として労災認定され、労災保険法の対象となります。
そして、最終的に「通勤災害かどうか」を判断するのは企業ではなく労働基準監督署となります。
―通勤災害の認定には、具体的にどのようなルールがあるのでしょうか
労災保険法では「厚生労働省令で定める就業の場所から他の就業の場所への移動(第7条)」と定められ、通勤経路上で遭遇した災害を対象としています。
そして、その災害に遭った場所が「通勤という行為から逸脱していないか」また、その経路が「合理的と判断されるかどうか」がポイントとなります。
この2つのポイントを軸にしてお答えしていきたいと思います。
―労災保険法では、通勤中の病気(疾病)についてもカバーされているのですね
そうなのです。けがや事故だけでなく、病気も補償の対象です。
ですので、例えば「通勤中に熱中症になってしまった」という場合にも、労災として認められる可能性があります。
自転車通勤で起きた事故は通勤災害(労災)として認められる?
事例:会社に定期代をもらっているのに自転車通勤で事故に遭ってしまったら労災?
―最近だと自転車で通勤する方も増えていますよね。例えば「会社から交通費(定期代)をもらいながら、自転車で通勤して事故に遭った」場合なんかはどうでしょうか?
結論から言えば労災として認められる…ことが考えられます。
企業が支払う交通費ですが「従業員に交通費を支給するかどうか」については企業の自由であって、法律で義務化されているわけではないのです。
つまり、申請とは異なる通勤方法で通勤災害に遭ったとしても「通勤経路上の事故」として、また「合理的な経路」として労働基準監督署に判断されれば、通勤災害として認定されることがあるといえます。
―しかし、会社の就業規則などで「公共交通機関を利用して通勤すること」を約束している場合もあると思うのですが
会社から定期代をもらいながら、実際には定期券を買わずに自転車通勤をしているような場合ですね。
これは「虚偽の申告」に該当しますので、会社から金銭の返還を求められることや何らかの処罰を受ける可能性だってあると思います。
まず、会社の定めた就業規則には従ったほうが無難ですし、通勤の経路や方法が実態と異なる場合、会社には必ず申請すべきです。
―夕方になるとランニングをして帰る「通勤ランナー」方も最近よく見ますが、考え方は同じでしょうか?
行きは電車で、帰りはランニングということですね。これも基本的な考え方は自転車通勤と同じになるでしょう。
しかし、例えば「ランニングをしながら出勤し、会社に着いたら汗だく」という風に、業務に支障が出るような場合は常識的に考えてNGです。
会社としては、交通事故のリスクを回避する目的や、スムーズな就業のために公共交通機関の使用を推奨していることが考えられますから、別の方法で通勤をする際には会社とよく話し合うことが大切です。
仕事帰りの「寄り道」や会社の「飲み会」後、事故に遭った場合
事例:仕事帰りの「寄り道」会社主催の飲み会からの帰りに事故に遭ったら労災?
―仕事帰りに「寄り道」をして、その後にけがをした場合はどうでしょうか?
寄り道については、通勤という行為から「逸脱していないかどうか」がポイントとなります。
「逸脱」について最終的な判断をするのは労働基準監督署ですが「帰り道、コンビニで晩ご飯を買って帰る」程度の行為でしたら「逸脱」とは判定されない可能性が高いです。
しかし、一般的に考えてNGな行為は避けるべきです。
例えば「仕事帰り、家電量販店に寄って2時間ウィンドウショッピングをし、その後映画を観てから帰宅した」という行為は明らかに通勤から「逸脱」していると考えられますので、帰り道にけがをしても労災として認められない可能性があります。
―同僚との飲み会からの帰り道にけがをした場合は通勤災害になるのでしょうか
同僚との飲み会が、単に有志による集まりの場であったりすれば、通勤災害として認められる可能性は低いでしょう。
しかし「会社が主催する懇親会」であれば話が変わってきます。
部署や全従業員が一堂に会する場であったり、懇親会の存在が業務とも深く関わっている場合には、懇親会そのものが業務として判定される可能性が高いです。
よって、会社主催の懇親会に参加した帰り道にけがをした場合は、通勤災害として判定されることが考えられます。
通勤災害の手続きは?~労災指定病院の受診と申請書の作成
通勤災害に遭ったら、まずどんな手続きをする?
―通勤災害に遭ったら、まずは何をすべきでしょうか
まずは事故に遭ったことを会社に連絡しましょう。
そして、労災指定病院(労災保険指定医療機関)を受診します。
その後は速やかに労災申請書(労災保険給付関係請求書)を作成し、労働基準監督署に提出するようにしてください。
なお、通勤災害や労災には健康保険が適用されないこと、アルバイトや派遣でも通勤災害の給付が受けられることを、あわせて覚えておきましょう。
※労災指定病院は厚生労働省のホームページから検索することが出来ます。
―通勤災害を防ぐためには注意すべきことは何だと思いますか
今回は「通勤災害として認められるかどうか」に焦点を当ててお話しましたが、通勤災害は起こらないことが一番大切です。
特に忘年会や新年会のシーズンでは、仕事関係でお酒の席も増えると思います。
冬場、飲み会の帰り道に路上で眠ってしまって凍死してしまったという事故も実際に起こっているため、産業医による衛生講話などを通じて、アルコールとの上手な付き合い方を学ぶことも重要です。
また、リスクを回避するという視点で「いつもと違う方法で通勤しない」ことも心がけることが大切です。
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