デジタルで従業員の禁煙を支援~座談会で実践法人が事例紹介

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テクノロジーの進化を禁煙支援にどのように活用するか―。産業保健の領域で近年大きな注目を集めているテーマの一つだ。

治療アプリを開発する株式会社キュア・アップは、法人向け「モバイルヘルスプログラム」として、従業員の卒煙をサポートするアプリ「ascure(アスキュア)卒煙プログラム」を展開している。

東京都で開かれた日本産業衛生学会全国協議会で、ランチョンセミナー「産業保健領域でのデジタル・スマートフォンを活用した禁煙支援の成果」を協議会と共催。実際に導入している企業・健康保険組合をパネリストとして迎え、日本での禁煙推進施策の歴史やデジタルテクノロジーを使った禁煙支援の事例を報告した

ascure卒煙プログラム


株式会社キュア・アップが提供する「専用アプリ×有資格者による遠隔カウンセリング×OTC医薬品」を組み合わせて、多面的に禁煙挑戦者をサポートする法人向けプログラム。

これまで手薄と言われてきたニコチンの心理的依存に対して、アプリがユーザーごとにパーソナライズされたガイダンスを行うほか、そのデータに基づいてカウンセリングもすることで、より個別最適化された支援を提供する点が特徴。

【座長】

公益財団法人日本対がん協会参事 望月友美子(もちづき・ゆみこ)医師

【モデレーター】

株式会社キュア・アップ 最高執行責任者(COO) 宮田尚(みやた・ひさし)氏

【パネリスト】

野村證券健康保険組合 常務理事 播磨俊郎(はりま・としお)氏

コニカミノルタ健康保険組合 保健師 大西惠子(おおにし・けいこ)氏

メットライフ生命保険株式会社 カスタマーストラテジー本部 ディレクター 宮本繁人(みやもと・しげと)氏 


「たばこ推進」派、「禁煙推進」派の歴史


日本対がん協会参事 望月氏

私はたばこ対策、禁煙政策をライフワークとして関わってきました。

今、まさにデジタルの時代。新しいソリューションが求められています。一方で、加熱式たばこのような製品も登場し、時代が大きく変わろうとしています。


キュア・アップ 宮田氏

今、なぜデジタルテクノロジーを禁煙推進に役立てる価値、必要があるのか。

日本のたばこと禁煙の歴史、現状について振り返りながら考えてみたいと思います。


紙巻たばこにフィルターが付き、その後ニコチンを減らし、低タールになったライトなたばこが出てきました。そして、近年は加熱式たばこ、海外では電子たばこが出てきております。たばこを推進する側は、テクノロジーの進化を製品の進化にうまく活用していると言えるでしょう。

一方で、禁煙を推進する側はどうでしょうか。

これまでの禁煙を推進する取り組みは、1990年代後半にインターネットを活用した「らくらく禁煙コンテスト」「インターネット禁煙マラソン」が出てきましたが、主に医薬品・医療というアプローチで展開されてきたように思います。2000年前後からOTC医薬品、医療用医薬品が発売され、また、導入されている法人も多いと思いますが、禁煙外来という枠組みが始まりました。


一方で、デジタルの進化の活用という点ではどうでしょうか。加熱式たばこがどんどん販売量を伸ばしているのに対し、アカデミックな反論として、加熱式たばこにも発がん性を含む有害物質が含まれている点や、変わらずニコチンが含まれている点を主張しています。

しかし、テクノロジーの進化に対してただ反論するだけではなく、私たち禁煙を推進する側も、より積極的に禁煙を促すことのできる施策を生みだすために、デジタルテクノロジーを活用する必要があるのではないかと考えております。


禁煙のデジタルソリューションの登場


キュア・アップ 宮田氏

政府も、健康支援や禁煙支援でICTの取り組みを推進しています。健保組合がそれぞれのニーズに基づき、デジタル領域に知見を持つ委託事業者を比較吟味する視点を持つことが重要、と提言をしています。

最近は、禁煙にもデジタルを活用した新しいソリューションが出現し、自由診療であれば完全遠隔診療での禁煙外来が認められてきていますし、弊社でもスマートフォンアプリと遠隔オンライン指導を活用して6カ月の長期支援を提供するプログラムを提供しています



ただ、注意しないといけないこともあります。

「遠隔で、どのように禁煙成功を判定するのか」ということは、少なくない法人様から聞かれます。自己申告だけでは虚偽の申告を防げないではないか、ということですね。

テクノロジーが進化したから、何かを犠牲にしていいということはありません。テクノロジーが医療の質の低下を導くことは絶対に避けなくてはいけません。それでは進化ではなく、退化ということになってしまいます。

遠隔の禁煙支援でも、自己申告以外の客観的な成功確認ができるプロダクト・プログラムが出てきています。禁煙外来では呼気一酸化炭素濃度測定ができますが、この測定を病院だけでなく自宅や職場でも、毎日測定可能にする「ポータブル呼気CO 濃度測定器一体型治療アプリ」といったアプローチが生まれています。このように、テクノロジーの進化が医療の質自体も大きく向上させていく視点を忘れてはいけないですね。


日本対がん協会 望月氏

デジタルが誰でも使える環境になり、より多くの人を禁煙に導く新たなソリューションが生まれることは本当にすばらしいことだと思います。すそ野をどれだけ広げて、いろんな職種の方々が取り組めるかが重要です。禁煙による禁断症状のつらさを埋め、よりスムーズに禁煙に導くような継続的なサービスが必要ですね。


ascure卒煙プログラムを導入した企業の事例報告


キュア・アップ 宮田氏

次は実際にテクノロジーによる禁煙支援を導入している3法人様に、これまでの取り組みやデジタルによる禁煙支援の活用事例をお話いただきます。

これまでの喫煙、禁煙施策の取り組みや課題

―これまでの喫煙、禁煙施策の取り組みや課題はどのようなものでしたか。


野村證券健康保険組合 播磨氏

これまで健保組合や会社としては、禁煙デーに合わせてチラシを配ったり、禁煙外来が保険適用になる前は、費用を健保で負担したりというくらいで、特別なことに取り組めずにいました

理由としては、二つあります。一つ目は、なかなか直接訴える手段が見当たらないということ。二つ目は、禁煙外来を勧めるにしても、病院が開いているのは平日。仕事を休んで行くのはなかなかハードルが高いということでした。



コニカミノルタ健康保険組合 大西氏

これまで、個人向けの支援としては禁煙支援プログラムを実施してまいりました。禁煙をしたい人がエントリーして、禁煙外来や会社の看護職に支援をいただき、禁煙を達成した場合に報奨金を出すプログラムです。また、2014年から会社と健保組合が3カ年計画で従業員の健康度を上げる取り組みを始め、その一つの指標に喫煙率の削減を掲げ禁煙に対する施策を行ってきました。

具体的には、その当時はまだ屋内喫煙所が残っていたので、喫煙所の屋外化、屋外喫煙所の減少を目指しました。また、禁煙のイベントや、社内売店の1日たばこ販売停止、肺年齢測定会、医療職による禁煙のセミナーなども実施してきました。その結果、70%の喫煙所を閉鎖し、喫煙率は2013年の約30%から27%まで減少することができました。

一方で課題として感じたのは、喫煙率が下がってくると、禁煙しにくい方が残っていくこと。今までやってきた禁煙支援プログラムの申し込み自体が伸び悩んできたことです。禁煙外来は、地方の拠点だと近くに病院がない、営業職や交代勤務の方は通いづらいなど、プログラムの公平性にも課題がありましたし、思ったほど成功率が上がっていませんでした。禁煙支援プログラムに申し込みはしたけど、禁煙外来に行かずじまいの方も少なくありませんでした。

デジタルへの期待感とアプリ導入後の成果は

アプリの設計が丁寧。オンライン面談も励みに

―ICT、デジタル、スマートフォンでの禁煙推進施策をどのような期待をもって導入しましたか。導入して成果はどうでしたか。また、どのように参加者を集めたのですか。


メットライフ生命保険 宮本氏

私は事業部でマーケティングをしています。目指しているのは、日ごろからお客様の日々の暮らしに寄り添えることです。それが、テクノロジーを活用したサービスを保険商品に付帯することによって可能になってきています。

現在当社では、健康保険組合に対して、テクノロジーを活用した社員向けの禁煙施策を提案し、まずは禁煙希望者へのトライアル実施を支援し始めました。まだそのトライアルの途中段階ですが、デジタルを活用することで、禁煙希望者や禁煙に興味がある社員がより気軽に禁煙に取り組めるようにしています。

5月末からトライアルで「ascure卒煙プログムラム」を提供し始め、高い継続率を維持しています。アプリのデザイン、CX(カスタマーエクスペリエンス)が丁寧に設計されており、初回面談までの導入部分や、教育、啓蒙、そして忘れがちな時のアラート受信などで、アプリが各ユーザーの禁煙状況を把握し、一人ひとりに適したフォローをしてくれているように思います。

トライアルに参加している社員からは、これまで何度か禁煙に取り組みながらも挫折してきたが、今回は、面談が大変励みになっているという声を聞いています。自分がチャレンジしていることを応援してもらうのは、誰しもうれしいのだと思います。

アプリ以外にも、望月先生に社内セミナーで喫煙の実害の話をしていただくなど、社内でも禁煙に対する理解の推進と、組織としてサポートするための社内文化の醸成にも取り組んでいます

また当社は、ホームページの「ヘルスポータル」というサイトから、健康に関連する情報提供を行っており、世界禁煙デーや、たばこの値上がりといった機会に合わせて、禁煙に関する情報発信を行うなどの取り組みも行っています。

ヘルスケアはそもそもデジタルで可能なのかという疑問について、実際にトライアルに参加している社員からは、「すごく便利」という声がたくさん上がってきています。


今回のトライアルに参加している社員は、キュア・アップさんのプログラムと併用で禁煙補助剤を使用する期間と、使用しない期間の両方を経験します。禁煙補助剤を使用しない期間は、オフラインとオンライン両方のケアがより必要になると感じています。

時間と場所の制限が大幅に緩和


野村證券健康保険組合 播磨氏

昨年、オンラインの取り組みのお話をいただいた時には、正直やってみないとわからないなと感じたので、トライアルという形にしました。選んだ200人ほどの対象者の中から手を挙げた8人のうち7人が完走し、これはいけるなと実感を持ったのは確かです。


禁煙外来は、出かけないといけない。それができないと途中で終わってしまいます。しかし、キュア・アップさんのプログラムは、時間と場所の制限が大幅に緩和されますし、アプリを使って良い「おせっかい」を焼きながらのフォローがすごく丁寧に設計されています。たばこを辞めようと始めた方があきらめそうになったときに、どこまで細かくフォローできるかが大きな課題だと思っていたので、その部分を上手にサポートしていただけたかなと思っています。


初年度のトライアルの対象は、特定保健指導対象者に呼びかけました。

しかし単に案内しただけでは届かないので、どうしたらいいか考えたんです。たばこを吸っている人の中には、辞めようと思っているがその先にいけないという人も意外と多いのです。その方に、禁煙へのハードルを下げてもらえるよう、「たばこを辞めるといいことがありますよ」「そろそろ挑戦しませんか?」というようなポジティブな印象を与える案内をつくりました

私も実は、ちょっと前までたばこを吸っていました。たばこを辞めると「辞めたんですか、よかったですね」と褒められるんですね。辞めると周りから喜ばれるという感覚は、吸っているという間はありませんでした。たばこの健康への害を全面的に押し出すのではなく、たばこを辞めたら家族や周囲に喜ばれますよ、健康を取り戻せますよ、という書き方にして、少しでもこちらを向いてもらえるよう工夫しました。


また、禁煙外来では「たばこを辞めます」と宣言させられますが、このハードルが実は高いようです。ほとんどの人は、本当に自分がたばこを辞めるという覚悟を持てません。自分の禁煙への意思が固いものであるという自信がないので踏み込めないのです。周りに宣言したのに、また吸い始めた時の周囲の冷たい視線に耐えられない。そこで、「大丈夫ですよ、たばこを辞められないのは意思の問題ではなくて、ニコチンの問題です。ちゃんと禁煙プログラムに取り組めば、無理なく辞められます」ということを案内しています。オンラインでの禁煙支援は、人知れずこっそりできるのも魅力です。


加えて、行動経済学的な観点を取り入れて、キュア・アップさんと合わせてチャンピックスを使う遠隔診療のプログラムも提示しました。これに参加しませんかという聞き方ではなく、両方を案内してどちらかに〇を付けてくださいという案内にしたのです。2つ提示されるとどちらかに〇を付けてくる人は意外と多かったですし、自分が〇を付けた選択肢だということで、参加意欲も上がります。なにげなく動かない人はなにげなく動く。深く考えなくてもすっと参加してしまうような案内にしました。


昨年はトライアル的に対象者をハイリスクな従業員にしぼりました。今年は全国の支店を対象に広げ、全社を巻き込む形で禁煙に取り組んでいきたいと思っています。

ハイリスクな人に対しては、健保が補助して全額負担をしていくほか、それ以外でもこれを機会にたばこを辞めたい人がいれば、保険適用と同じように3割自己負担、7割健保負担で取り組んでいただけるようにしていきます。


禁煙に向けて、社内の雰囲気醸成も重要

コニカミノルタ健康保険組合 大西氏

禁煙支援プログラムの参加者が伸び悩んでいたこともあり、まずは地方の関係会社と営業系の関係会社にトライアルで、ascure禁煙プログラムを導入しました。その申し込みの人数が予想より多かったので、今年4月からグループの全社員が禁煙プログラムを選択できるようにしています。

会社の目標としては2020年度からの構内全面禁煙に向けて準備を始めています。今年の5月には全社的に1日禁煙デーを実施しました。そういう会社の雰囲気を、従業員のみなさんも感じ取っての上ではあると思いますが、今年は禁煙支援プログラムの申し込みを非常にいいスピードでいただいています。

今までの禁煙プログラムを全てデジタル・遠隔のプログラムに変えたわけではありません。みなさんにいろいろな選択肢を提供したいということで、従来型の支援プログラムも提供しています。

ただ、やはり今年は遠隔禁煙プログラムを選んでくる方が圧倒的に多いです。従来の禁煙外来の場合、申し込んでもなかなか病院の初診まで行きつかない方が多いのが課題だったのですが、ascureでは申し込みから初回面談までの到達率が8割と、これまでよりも非常にいい成績です。3カ月、6カ月の禁煙成功率も75%が禁煙していて、高い達成度で推移しています。


参加者への呼びかけは、非常に地道な取り組みですが、タイミングを選んだ情報発信が大切です。普段は主に喫煙者に向けて情報発信しているのですが、今年は「1日禁煙デー」の前後に全社員に連続で情報発信をして、非喫煙者も含めて受動喫煙について考える空気の醸成を目指しました。

また、1日禁煙デーの直後に、喫煙者の方に「複数のプログラムがありますが、いかがですか」と案内します。複数のプログラムから選ぶことで、それならやれそうという一歩を踏み出すきっかけになるのかなと思います。


文・編集/サンポナビ編集部


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