転倒災害を防止するには アイキャッチ

転倒災害を防止するには?職場でのヒヤリ・ハット事例や対策を解説

労働安全衛生法をはじめとした法整備や、危険・有害業務の規制によって、労働災害による死者は減少傾向にあります。
しかし、高年齢労働者の増加が影響し、高齢者による転倒労災は年々増加しています。特にスーパーなどの小売業や、介護福祉施設などの人手不足業種での転倒労災の増加は顕著であり、経営課題ともいえるでしょう。

本記事では人事労務担当や産業保健職の方に向けて、転倒災害を防止するための対策や事例を紹介します。

目次[非表示]

  1. 転倒災害とは
    1. 慰謝料請求の可能性も
  2. 転倒災害の発生状況
  3. 転倒災害の典型的な3つのパターン
    1. ① 滑り
    2. ➁つまずき
    3. ③踏み外し
  4. 転倒防止のための具体的な対策方法
    1. 4S・KY活動を習慣化させる
    2. 適切な安全靴を着用する
    3. 3.焦らず余裕を持って行動する
      1. 冬季には積雪や凍結対策も
    4. 4.体づくりを行う
    5. 5.危険箇所の見える化をする
  5. 転倒災害の防止に役立つ産業保健活動
    1. 1.職場巡視の実施
    2. 2.従業員への労働安全衛生教育
    3. 3.健康診断・ストレスチェックの実施
    4. 4.エイジフレンドリーな職場づくり
  6. 転倒災害の対策に役立つヒヤリ・ハット事例
    1. つまずきの事例
    2. 踏み外しの事例
    3. 路面凍結の事例
  7. 転倒災害を防止するには産業保健活動の推進が重要

転倒災害とは

勤務中の転倒による労働災害を「転倒災害」といいます。厚生労働省では「転倒」を以下のように分類しています。

人がほぼ同一平面上でころぶ場合をいい、つまずきまたはすべりにより倒れた場合をいう。車両系機械などとともに転倒した場合を含む。交通事故は除く。感電して倒れた場合には感電に分類する。

引用:事故の型分類表|厚生労働省

慰謝料請求の可能性も

転倒災害が発生した場合、労災保険給付にて治療費や休業補償などの損害賠償金が支払われます。しかし、精神的苦痛による慰謝料は対象外のため、労災発生原因が会社の安全配慮義務違反や第三者の故意や過失による行為の場合、会社へ慰謝料を請求することができます。

参考:第三者行為災害について|厚生労働省 東京労働局
参考:労働災害の発生と企業の責任について|厚生労働省


転倒災害の発生状況

転倒災害の発生状況

令和5年度の厚生労働省の調査によると、転倒災害(業務中の転倒による重傷、休業4日以上)は年間で約3.6万件発生しています。
労働人口の高齢化により転倒災害は年々増加傾向となっており、特に女性は加齢とともに骨折のリスクが増大するため、休業日数が1ヶ月を超える重篤な災害につながるケースが多く発生しています。

第14次労働災害防止計画でも、転倒による労災防止対策を重点的に取り扱っており、以下の取組と目標を事業者への指標として掲げています。

取組

・転倒防止(ハード・ソフト両面からの対策)に取り組む事業場を50%以上
・正社員以外への安全衛生教育の実施率を80%以上(卸売業・小売業/医療・福祉)

目標
(令和9年)

・転倒の年齢層別死傷年千人率を令和4年と比較して男女とも増加に歯止め
・転倒による平均休業見込日数を40日以下

このように安心して従業員が働ける職場環境を作ることは、企業にとって重要な経営課題となっています。

参考:令和5年の労働災害発生状況を公表|厚⽣労働省
参考:第14次労働災害防止計画の概要|厚生労働省労働基準局安全衛生部計画課

転倒災害の典型的な3つのパターン

転倒災害の3つの典型的なパターンは以下の3つです。
職場に当てはまる箇所がないかチェックしましょう。

① 滑り

  • 床が滑りやすい素材である。
  • 床に水や油、粉類が飛散している。
  • ビニールや紙など、滑りやすい異物が床に落ちている
  • 路面等が凍結している。

➁つまずき

  • 床の凹凸や段差がある。
  • 床に荷物や商品などが放置されている。

踏み外し

  • 大きな荷物を抱えるなど、足元が見えない状態で作業をしている。

参考:STOP!転倒災害プロジェクト|厚生労働省

3つの中で最も起きやすいのが「滑り」です。「滑り」は床環境の問題だけでなく、不適切な履物の使用によっても発生しやすくなります。高齢者の場合、後方へ転倒をすると腰椎の圧迫骨折や後頭部を強打する危険性があるため十分な注意が必要です。

転倒防止のための具体的な対策方法

転倒災害防止

「滑り・つまずき・踏み外し」による転倒を防ぐために必要な、5つの対策を解説します。

4S・KY活動を習慣化させる

日頃から4つのS(整理・整頓・清掃・清潔)を意識して職場環境を整えることが重要です。こまめに床の汚れを取り除いたり、物の置き場所を決めるようにしましょう。

整理 

・必要なものと不要なものを区分し、不要、不急なものを取り除くこと

整頓

・必要なものを、決められた場所に、決められた量だけ、いつでも使える状態に、容易に取り出せるようにしておくこと

清掃

・ゴミ、ほこり、かす、くずを取り除き、油や溶剤など隅々まできれいに清掃し、仕事をやりやすく、問題点が分かるようにすること

清潔

・ 職場や機械、用具などのゴミや汚れをきれいに取って清掃した状態を続けること
・ 作業者自身も身体、服装、身の回りを汚れの無い状態にしておくこと


4Sを習慣化させることで安全面以外にも、商品管理がしやすくなり売上やサービスの向上にもつながります。

また、潜んでいる危険(K)を予知(Y)するKY活動も転倒防止に効果的です。
業務開始前に「どのような危険が潜んでいるのか」を従業員同士で話し合い、対策のための行動目標や指差し呼称項目を実践しましょう。

参考:転倒災害防止対策に役立つ安全活動|厚生労働省

適切な安全靴を着用する

滑りにくい安全靴を着用することで、「滑り・踏み外し」による転倒リスクを下げることができます。しかし、滑りにくいことがかえって「つまずき」の原因になるなど、作業環境によって適切な安全靴は異なるので、メーカーや販売店とよく相談して決めましょう。

安全靴を選ぶ際に注目したい性能は以下の5点です。

  • 靴の屈曲性
  • 靴の重量

  • 靴の重量バランス

  • つま先部の高さ

  • 靴底と床の耐滑性のバランス

参考:転倒防止に有効な安全靴|職場のあんぜんサイト

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3.焦らず余裕を持って行動する

転倒災害を発生させないためには、常に時間に余裕を持って作業しましょう。
滑りやすい場所では歩幅を小さくする、足元が見えにくい状態での作業はしない、などのルールを設けて従業員に徹底させましょう。急いでいる時ほど焦らず落ち着いて作業することが肝心です。

冬季には積雪や凍結対策も

冬季は積雪や路面凍結による転倒災害が増加します。天気予報や防災情報に気を配り、早めに従業員へ対策の周知をしましょう。
また市販の耐滑靴はほとんどが「水・油用」です。雪や氷の上では滑りやすい可能性があるため、氷上用の耐滑靴を着用しましょう。

4.体づくりを行う

高齢者の転倒災害の発生が多い原因として、加齢による身体強度や運動機能の低下があげられます。わずかな段差やつまずきでも、打ちどころが悪い場合には寝たきりになってしまうケースもあるため注意が必要です。

転倒予防のための体づくりとして、朝礼やミーティングの際に体操やストレッチを行うと良いでしょう。
体調やカラダの痛みについてチェックをしたり、安全第一で仕事に取り組むよう声かけをしたりすることで、従業員の転倒防止への意識を高める効果が期待できます。

具体的な転倒予防体操は「進めましょう!転倒予防体操」を参考にしてください。

5.危険箇所の見える化をする

転倒の可能性のある箇所を従業員全員が把握して注意ができるように、危険な場所を見える化しましょう。

職場の平面図を用意して、従業員同士で以下のような危険な箇所をリストアップします。

  • 過去に災害が発生した箇所
  • ヒヤリ・ハット事例の多い箇所
  • 危険予知活動で注意が必要とされた箇所
  • リスクアセスメントで作業場の注意が必要とされた箇所や作業

危険箇所を分かりやすくするために「マーカー」を貼り付けるとより効果的です。
休憩室や作業場など、従業員がよく集まる場所に掲示し、安全意識を高めましょう。

危険箇所の表示等の危険の「見える化」

出典:危険箇所の表示等の危険の「見える化」|職場のあんぜんサイト

参考:職場のあんぜんサイト|厚生労働省

転倒災害の防止に役立つ産業保健活動

転倒災害を防止するには、日頃から安全で健康な職場づくりをすることが重要です。企業が従業員を守るために取り組むべき、4つの産業保健活動を解説します。

1.職場巡視の実施

労働安全衛生規則では、作業環境を実際に確認して、安全衛生上の危険や問題点を見つけて改善する、職場巡視の実施が規定されています。産業医や衛生管理者が、作業内容や現場の実態を把握しておくことで、転倒災害の防止だけでなく、従業員の適正配置や企業理解にも役立ちます。
法令で定められている職場巡視の頻度は以下の通りです。

  • 産業医による月1回の職場巡視
  • 衛生管理者による週1回の職場巡視

参考:職場巡視のポイント|JOHAS(労働者健康安全機構)

2.従業員への労働安全衛生教育

労働災害を防止するために、企業は危険な業務に従事する従業員に対して安全衛生教育を実施する必要があります。過去には、危険有害性についての知識や技能があることで防止できた労働災害が、多数認められています。

自社での安全衛生教育の実施が難しい場合には、安全衛生関係団体等が開催する講習会や説明会を活用しましょう。

安全衛生教育の内容は大きくわけて6種類です。以下の通り、法令上義務づけられているものと各事業場が独自の判断で実施(努力義務)するものがあります。

義務

・雇入れ時の教育
・作業内容変更時の教育
・職長教育

努力義務

・安全管理者等労働災害を防止するための業務に従事する者に対する能力向上教育
・特別の危険有害業務従事者への教育(=特別教育)
・健康教育

参考:安全衛生教育の実施について|中央労働災害防止協会
参考:労働安全衛生教育の重要性について|厚生労働省 東京労働局

3.健康診断・ストレスチェックの実施

転倒災害の内的原因となる、運動機能や視覚機能、精神的疾患の有無などを把握するために、健康診断とストレスチェックの実施は欠かせません。
健康診断やストレスチェック結果の集団分析をすることで、部署や事業場毎の課題や問題点を見つけることができます。

株式会社エムステージでは、職場環境改善にも役立つ集団分析レポートが搭載されている、ストレスチェックサービス「Co-Labo」を提供しています。
また、健康管理システム「HealthCore」の導入もおすすめです。Co-Laboのストレスチェックデータなど、複数の健康データを掛け合わせて判断することで、健康リスクの早期発見につながります。

資料ダウンロードは無料ですのでお気軽にお役立てください。

  ストレスチェック「Co-Labo」パンフレット|エムステージ ストレスチェック「Co-Labo」はストレスチェックの法制化前から約20年、年間70万名の方にご利用いただいています。 このパンフレットでは、「Co-Labo」がほかのストレスチェックサービスとどのような違いがあるかを詳しくご説明するとともに、導入事例やよくある質問も掲載しております。 エムステージ 産業保健トータルサポート
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4.エイジフレンドリーな職場づくり

令和5年度の厚生労働省の調査では、60代以上の女性の転倒による骨折は20代女性の約15倍も発生していることが分かりました。
被災しやすく、また重症化もしやすい高齢者の特性に配慮した、エイジフレンドリーな職場づくりが企業には求められます。

エイジフレンドリーな職場にするためにはハード面とソフト面の両方から職場環境を改善することが重要です。
ハード面の対策では、階段に手すりを付けたり、警報音等は聞き取りやすいように中低音域の音にしたりすることで、身体機能の低下を補います。
ソフト面の対策では、注意力や集中力を必要とする業務は作業時間を考慮したり、作業姿勢に配慮したりすることで、持久性や筋力の低下を補います。

また、若手従業員にも自身の疾病予防や健康維持に関心をもってもらい、高齢者の特性を理解した働きやすい職場づくりの協力をしてもらうことも重要でしょう。

参考:令和5年 高年齢労働者の労働災害発生状況|厚生労働省労働基準局 安全衛生部安全課

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転倒災害の対策に役立つヒヤリ・ハット事例

ヒヤリ・ハット事例

災害や事故が起きる一歩手前の出来事、ヒヤリ・ハット事例を紹介します。事例と似たような危険な作業方法や作業環境がないか、対策とあわせて参考にしてみてください。

つまずきの事例

業種/作業

建設工事業/内装材の人力運搬

状況

建設工事において、内装材の入ったダンボール箱をかかえて運搬中、通路に放置されたパイプにつまずいてよろめいた。

原因

・前が見えないほどの大型のダンボールを手運搬している。
・運搬通路にパイプを放置している。

対策

整理整頓を行い、運搬作業前に運搬通路の安全を確認するとともに、前が見えるような運搬用具を使用する。

引用:ヒヤリ・ハット事例|職場のあんぜんサイト 厚生労働省

踏み外しの事例

業種/作業   


木材加工業/点検作業

状況

作業開始前の設備点検のため、製品搬送ラインテーブルの横断デッキを渡り、鉄製の8段の階段(1段から8段迄の各段高さは200mm)を駆け降りて地面に足を着けようとした時、前のめりになりバランスを崩して転びそうになった。1段目と地面の高さは250mmと高かった。

原因

・点検者が駆け足で階段を降りた。
・手摺りが地面までないのでバランスを崩したときに捕まるものがない。
・最後のステップと地面の高さが250mmと高い。

対策

・工場内(特に階段、デッキ等)では走らない。
・地面をコンクリートで50mm上げて階段の各段の高さをすべて200mmとし、手擦りも地面まで延ばす。

引用:ヒヤリ・ハット事例|職場のあんぜんサイト 厚生労働省

路面凍結の事例

業種/作業

卸売業/運搬

状況

右手にバッグ、左手に段ボール箱を持ちながら、事務所から駐車場に向かって平坦な雪道を歩いている途中、雪の下の路面は前日からの雪で凍結しており、足を滑らせ仰向けに転倒しそうになった。

原因

雪の下の路面が凍結していることをよく確認せずに、雪道を歩いた。

対策

雪の下の路面は凍結して滑りやすくなっているので、積雪が少ないときは路面の凍結状態をよく確認して注意して歩くことが大切である。
両手に荷物を持っているときに滑って転ぶと、体制を整えることができないため、大怪我を負うおそれがある。

引用:ヒヤリ・ハット事例|職場のあんぜんサイト 厚生労働省

転倒災害を防止するには産業保健活動の推進が重要

労働人口が年々減少していく中で、転倒災害を防止することは経営課題のひとつです。経営層が中心となって職場環境改善に取り組み、転倒災害の発生件数を減らしていくことで健康経営の推進へとつながります。

転倒災害を防止するには、産業医による職場巡視や、安全衛生委員会での対策協議、危険な可能性が高い作業場での注意喚起や啓蒙活動など、産業保健活動全般の推進が重要です。

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