大人の発達障害アイキャッチ

大人の発達障害とは?仕事の適性や会社が取るべき対応、二次障害について解説

発達障害とは、幼少期から生じている脳機能発達の偏りによって、日常生活上の困難さを抱えている状態です。職場においては、業務の遂行や対人関係の構築に支障をきたし、メンタルヘルス不調や休職につながる可能性があります。

発達障害は、従業員本人が自覚していないケースもあります。そのため、会社が支援をしようとしても、従業員とうまく認識を合わせられず、トラブルに発展してしまうこともあるでしょう。会社としてどのように支援をすればいいか、迷うことが多い問題といえます。

本記事では、大人の発達障害について、特徴から考えられる仕事の適性や二次障害を解説します。上司や人事労務担当者に向けて、法的トラブルを回避するための方法も紹介していますので、参考にしてみてください。

大人の発達障害の特徴と仕事の適性

大人の発達障害とは

発達障害は、一つの障がいを表す概念ではなく、複数の障がいに分類されます。代表的な発達障害の種類としては、以下の3つが挙げられます。

  • 自閉スペクトラム症(ASD)
  • 注意欠如・多動症(ADHD)

  • 限局性学習症(LD/SLD)

3つの障がいには、発達の偏りによる特性がみられ、業務の適性に影響します。3つの障がいそれぞれが独立しているというよりも、併存しているケースも多いとされています。そのため、どの障がいがあるか明確に判別することは難しいといえるでしょう。

また、同じ発達障害でも、特性の程度に個人差があります。「ASDだから○○だ」と決めつけず、従業員一人ひとりの特性を丁寧に把握することが大切です。会社としては、特性を加味した上で、職場環境や業務の仕組みを改善していくことが求められます。

では、3つの発達障害にはどのような特性があるのでしょうか。特性に応じた得意な業務と苦手な業務について解説します。

参考:発達障害 | e-ヘルスネット(厚生労働省)
参考:政策レポート(発達障害の理解のために)│厚生労働省

1.自閉スペクトラム症(ASD)

自閉スペクトラム症(以下、ASD)とは、コミュニケーションの困難さや興味関心の偏り、特異な感覚などの特徴がある発達障害です。

特徴的なのは、コミュニケーションのとり方です。一方的に話しすぎたり、逆に話せなかったりするなど、相手と会話のキャッチボールを行うことが苦手な場合があります。
また、目線が合いにくかったり、口調に抑揚がなかったりするなど、非言語的なコミュニケーションにも特徴があります。
さらに、相手の感情や発言の意図などの抽象的な物事を読み取れず、相手が言ったことを額面通り受け取ることもあるでしょう。そのため、冗談がわからずにショックを受けたり、相手が意図した通りに行動できなかったりする場合があります。

興味の偏りに関しては、自分なりのルールを曲げることが苦手で、柔軟な対応が難しいことが特徴です。そのため、急に予定が変更されると混乱しやすいでしょう。一方で、興味のある物事へは高い集中力を発揮するといった強みがあります。

特異な感覚については、特定の感覚への過敏さまたは鈍感さがみられる人もいます。例えば、以下のような特異性から、環境にうまく適応できずストレスを抱えやすいでしょう。

聴覚

・雑音が気になって集中できない。
・急な大きな音に驚いたり、パニックになったりする。

視覚

・PCや照明のライト、窓の光などがまぶしく感じる。
・目から入る情報が多くなると、疲弊して体調が悪くなってしまう。

嗅覚

・タバコや香水、化粧品の匂いに敏感で体調を崩す。
・わずかな香りでも過敏に反応してしまう。

触覚・味覚

・制服の肌触りやタグが気になり、作業に集中できない。
・特定の食べ物が苦手など、偏食がある。

鈍感さ

・痛みに鈍感で、怪我をしても気づかない。
・空腹感や疲労感に気づかず集中し続けてしまう。

【得意な業務】合理的に進み、成果がわかりやすい

ASDの特性として、興味のある物事には高い集中力を発揮するという強みがあります。一定のルーティンを嫌がらずに遵守し、一般的には抵抗のある緻密な作業にも集中し、正確な仕事ができるでしょう。

また、ASDの傾向がある人は、人の感情や評価よりも合理性に関心があることが多いとされています。数字や論理性など、目に見える形で成果がわかる業務の方が能力を発揮しやすいです。

例えば、テクニカルサポートなどの窓口業務や経理、法務などの管理部門、エンジニアなどのIT系業務などに適性があると考えられます。

【苦手な業務】コミュニケーションが中心

人の感情や考えを汲み取りながらコミュニケーションを取ることが苦手であるため、営業や接客では困難さを生じる可能性があります。また、こだわりが強く、自分なりのルールを基準にして完璧さを求めやすいため、チームプレイが主となる業務は不向きでしょう。

2.注意欠如・多動症(ADHD)

注意欠如・多動症(以下ADHD)は、「不注意」と「多動・衝動性」という2つの症状を主とする発達障害です。

「不注意」とは、細かいところに注意を払うことや長時間の集中が難しいという特徴です。忘れ物やなくし物が多かったり、相手の話を集中して聞けなかったりすることから、業務上のミスが生じやすいでしょう。
また、計画を立てたり優先順位をつけることが苦手で、納期に遅れてしまったり、効率的に作業ができなかったりすることもあります。

「多動・衝動性」とは、動いていないと落ち着かなかったり、無意識的に身体が動いてしまったりする状態です。身体の動きだけでなく、話しすぎてしまったり、頭の中の考えがまとまらなくなったりすることもあります。
さらに、思いつきで行動してしまい失敗することもあるでしょう。不用意な発言から相手を傷つけてしまうなど、対人関係にも影響します。

【得意な業務】発想力や行動力を生かせる

ADHDの特性は、発想力や行動力を生かせる業務で力を発揮できることが多いでしょう。多動・衝動性は創造性の高さとも関連します。そのため、デザイナーや企画職など、独自の発想力を生かして新しい価値を創造できるような業務が向いています。

また、衝動性が高いことから、ルーティンが固定されていて変化の少ない業務は退屈に感じやすいでしょう。そのため、外勤や出張が多い営業職など、変化が多い業務の方が適しています。

参考:Creativity and ADHD: A review of behavioral studies, the effect of psychostimulants and neural underpinnings│Neurosci Biobehav Rev.

【苦手な業務】マルチタスクや正確さを必要とする

マルチタスクが多く、正確さを求められる業務は、不注意な傾向が強いと支障をきたす可能性があります。優先順位をつけられなかったり、一つの業務に取り組んでいる最中に別の業務に取りかかって中途半端になったりしやすいでしょう。

そのため、緻密かつ同時並行的にスケジュール管理を行うような業務は苦手だと考えられます。

3.限局性学習症(SLD)

限局性学習症(以下SLD)とは、知的能力に問題がないにもかかわらず、文字の読み書きや計算などに支障をきたす発達障害です。基本的には、子どものころに勉強面で目立つ障がいですが、大人になってからも仕事面で困難を生じることがあります。
具体的には、以下のような困難さがみられます。

障がい名

特徴

職場での困難例

読字障害

文字を正確に読めないなど、単語同士のつながりから意味を捉えにくい。

・マニュアルの理解に時間がかかる。
・メール内容を誤解してしまう。

書字表出障害

母音や子音、文法の誤りや文章の組み立て方など、書くことの困難さがある。

・議事録を正確にまとめられない。
・報告書に誤字脱字がある。

算数障害

計算や推論を正確に行えないなど、数学的概念が身につきにくい。

・計算に時間がかかる。
・時計が読めずスケジュール管理ができない。

【得意・苦手な業務】個人差がある

SLDの業務適性については、個人差があります。SLDの特性が原因で苦手となっている業務に対し、ツールを活用した配慮が必要です。

例えば、読字障害がみられる場合は、マニュアルや書類の読み取りが難しい可能性があります。重要な部分にマーカーを引いておいたり、行間をあけたりするなど、字が読みやすくなるように配慮を行いましょう。

発達障害の二次障害とは

二次障害とは

発達障害の傾向による働きづらさや失敗体験などから、抑うつや不眠などの二次障害が生じるケースがあります。具体的にはどのような症状や問題が起こるのでしょうか。

二次障害の特徴

発達障害の傾向によって、環境になじめなかったり、業務をこなせなかったりするなどのストレスを抱えることから二次障害が生じます。その結果、意欲の低下や体調不良が起こり、遅刻や欠勤が増加につながっていくことがあります。

二次障害が目立つと、精神疾患が原因でメンタルヘルス不調に陥っていると捉えられがちでしょう。周囲にとっては、発達障害の傾向よりも二次障害の症状の方がわかりやすいためです。

不調を繰り返している従業員がいる場合は、背景に発達障害の傾向がみられないか意識してみることが大切です。

二次障害の症状や併存症

二次障害の症状は、精神面や身体面、行動面に表れやすいでしょう。慢性化するとうつ病や不安障害などの精神疾患を発症してしまうケースもあります。二次障害が表れやすい3つの側面について、以下の調査をもとに詳しく解説します。

【精神面】抑うつや不安が強い

発達障害の診断を受けた人のうち、病院を受診したことがある精神症状として以下の3つが多い傾向にあります。

  • 気分や感情の浮き沈みが激しい(62.5%)
  • 自己肯定感が低い(54.6%)

  • 極度の無気力(32.2%)


業務をうまくこなせなかったり、周囲から叱責されたりする失敗経験をしやすく、落ち込みを繰り返して自信が低下する傾向があります。うつ病の合併率も高いため(45.8%)、慢性化した場合はうつ病を発症する可能性もあるでしょう。

また、特定の場面や場所に対する恐怖感が強い(33.9%)という症状も3分の1を超えています。背景には、ASDの感覚過敏な特性が影響していると考えられます。失敗をしたときの感覚が記憶に残りやすく、特定の場面に対する恐怖や不安が増大しやすいでしょう。

重篤化すると、社交不安症やパニック障害などの不安障害を発症する可能性があります。特に発達障害の人のパニック障害の併存率は12.7%と、全体の有病率である1%程度と比較すると非常に多いといえます。

参考:パニック症 / パニック障害 | e-ヘルスネット(厚生労働省)
参考:成人の発達障害に合併する精神及び身体症状・疾患に関する研究│厚生労働科学研究成果データベース

【身体面】睡眠の問題が目立つ

身体面の症状としては、睡眠の問題が代表的です。不眠障害の合併率は22.8%と高く、ASDとADHD両方の診断を受けた人は30.2%とさらに高いことがわかっています。
脳内の中枢神経系に何らかの不全があり、リズムが乱れやすいことが不眠が生じやすい原因ではないかと考えられています。

そのため、ささいな環境変化だとしても、睡眠リズムが乱れてしまう可能性があるでしょう。例えば、残業の増加や配置転換に伴う就業時間の変更などがあると、遅刻が生じやすくなる恐れがあります。
環境変化による影響を想定しておくと、発達障害の傾向がある従業員に対して適切な配慮が行えます。
参考:成人の発達障害に合併する精神及び身体症状・疾患に関する研究│厚生労働科学研究成果データベース

【行動面】依存しやすい

ASDとADHDを合併している人は、アルコールやギャンブル、薬物などへの依存症の割合が7.6%とされています。一般的な有病率は4.1%であるため、併存率はやや高いといえます。

特にADHDの傾向がある場合、長期的な報酬よりも短期的な報酬を求めるといった傾向から、依存状態になりやすいでしょう。飲酒や喫煙などを止めたくても止められず、エスカレートしていく可能性があります。

参考:依存症について│厚生労働省

事例から考える法的リスクを回避するための対応ポイント

法的リスクを回避するための対応

発達障害は、どこからどこまでを障がいとするのか、線引きが難しいことが特徴です。例えば、「相手の意図を読み取りにくい」というASDの特性も、発達障害によるものか、単なる性格かは判断しにくいでしょう。

そのため、安易に発達障害だと決めつけるような対応はトラブルに発展してしまう可能性があります。特に、休職や復職などの就業上の処遇を決める対応には注意が必要です。

会社として、どのように対応すれば法的リスクを回避できるのか、実際の判例をもとに解説します。

シャープNECディスプレイソリューションズ事件

適応障害と診断されて休職した従業員に対し、会社側が社会性やコミュニケーションの問題を背景に復職を許可しなかったことから訴訟に至った判例です。主治医や産業医から復職可能と判断されましたが、会社側は休職前に在籍していた部署ではなく、グループ会社での復帰しか認めず、その後休職期間満了を理由に自然退職させました。

裁判では、休職理由となった適応障害と、元来持っているコミュニケーション能力は分けて考えるべきだとされました。そして、適応障害については回復していることから、自然退職は解雇権の濫用だとして無効と判断したのです。

本事件では、精神科への受診を嫌がる従業員に対し、会社側が無理に診断を受けるように促したことで訴訟にまで発展しました。発達障害の診断を受けてもらい、特性に対して自己理解をしてもらおうと対応したことがトラブルを招いてしまったのです。

従業員に対して、発達障害特性の有無を無理に認識させることは、法的トラブルにつながる恐れがあります。発達障害かどうかの線引きは専門的な知識がないと難しいため、診断については専門家に任せる姿勢が大切です。

発達障害の特性は、あくまでも従業員を理解するための視点の一つとして捉えるとよいでしょう。本人が抱えている困りごとを説明し、よりよい改善策を考えていくための視点とすることが重要です。

神奈川SR経営労務センター事件

休職から復帰する従業員に対し、発達障害の傾向があることを理由に、復職を拒否した判例です。従業員の主治医からは休職理由である適応障害の症状が回復し、復職可能の診断書が出ていました。しかし、産業医がASDの傾向があることを理由に、復職を拒否したのです。
裁判では、休職理由との関連性を否定し、自然退職扱いとしたのは不当との判断が下されました。

発達障害の二次障害が改善し、復職できる状態となった段階で、発達障害の傾向を理由に復職を拒否することはトラブルになる恐れがあります。従業員の復職支援を考える上では、発達障害の特性を念頭に置いたサポート計画を立てることが重要です。
従業員本人がどこまで特性に向き合うのか、その対処として何を行うかまでも明確にしておく必要があるでしょう。

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発達障害かどうかにこだわらず、まずは産業医へ相談を

発達障害の傾向がある従業員は、「業務をうまくこなせない」「周囲とコミュニケーションを取れない」などの悩みを抱えることが多いでしょう。従業員一人ひとりの特性に応じた工夫をしながら、二次障害が生じないよう、会社として取り組むことが必要です。

しかし、「発達障害だから」と一方的に決めつけた対応は、悪影響を及ぼす可能性があります。発達障害の特性は、あくまでも従業員を理解する視点の一つと考えて対応していくことが望ましいでしょう。

発達障害が疑われる従業員がいたら、まずは社内の産業医や保健師に相談してみましょう。また、相談体制が整っていない場合は、産業医や保健師、公認心理師などの専門職とオンライン面談ができるサービスもあります。
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サンポナビ編集部

サンポナビ編集部

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