メンタルヘルス不調を防ぐセルフケアとは?チェックシートや方法について解説
セルフケアとは、厚生労働省が推奨するメンタルヘルス対策の4つのケアのうち、従業員自身が行うメンタルヘルスケアです。
メンタルヘルス不調による休職や生産性低下を防ぐことにつながるため、健康経営の推進には欠かせない要素です。
本記事では、セルフケアの具体的な7つの方法やストレスを自覚するためのチェックシートを紹介します。従業員のセルフケア能力や動機づけを高める施策の実行ために活用してみてください。
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セルフケアとは?
セルフケアとは、従業員が自分のストレスに気づいて対処するための知識や方法を習得し、自発的に実践することです。セルフケアを行うことで、メンタルヘルス不調を予防し、離職率の低下や生産性の向上につながります。
また、セルフケアの対象には、管理監督者も含まれます。部下のメンタルヘルスケアや職場環境改善に重要な役割を担う管理監督者自身も、不調をきたさないように対策することが大切です。
企業は、従業員のセルフケアを推進するために以下の3つの取組が求められます。
- ストレスチェックおよびセルフチェックの実施
従業員が相談しやすい体制の整備
セルフケアに関する情報提供や教育研修の実施
参考:労働者の心の健康の保持増進のための指針│厚生労働省
従業員に勧めたい6つのセルフケア方法
従業員がセルフケアを効果的に行えるように、研修などを通じて推進していく必要があります。ストレス対処に有効とされる方法を6つ紹介します。
- セルフモニタリング
- リラクゼーション
- ストレッチと運動
- 質の高い適度な睡眠
- 休日のコミュニケーションや趣味活動
- 専門家への相談
参考:e-ラーニングで学ぶ 15分でわかるセルフケア│厚生労働省
セルフモニタリング
ストレスに対処するためには、自分自身がどのようなストレスを受けている傾向にあるのかを知ることが大切です。そして、不調に陥る前に気づき、早期に対処することでメンタルヘルス不調を予防できます。
そのために効果的なのが「セルフモニタリング」です。セルフモニタリングとは、自分の心身の状態に注意を向けてストレスがたまっていないか観察することを指します。
具体的には、1週間の活動記録や1日の気分、思考を記録し、ストレス傾向を分析します。また、ストレスとなる刺激に敏感になり、不調に気づきやすくなる効果もあります。
ストレスを感じたときに生じる心身の変化について、研修で以下のような一覧を示すと、従業員の気づきを促しやすくなるでしょう。リストを作成して定期的なチェックを仕組み化する方法も有効です。
こころの面 |
1.悲しみ、憂うつ感 |
身体の面 |
1.食欲がなくなる、やせてきた |
行動の面 |
1.消極的になる、周囲との交流をさけるようになる |
引用:ストレスへの気づき:ストレス軽減ノウハウ|こころの耳をもとに作成
リラクゼーション
リラクゼーションとは、心身の緊張状態を緩め、ストレスを軽減させる方法です。ストレスがかかると心拍数や血圧が上昇し、長期間にわたると消化器疾患や頭痛などの問題が引き起こされます。
リラクゼーションは、緊張を緩和させて心拍数や血圧を下げることで心身の健康を保つ効果があるとされています。
代表的な方法として用いられるのは、呼吸法と漸進的筋弛緩法です。休憩時にも簡単に取り組める方法なので、職場の中で取り入れる仕組みをつくるとよいでしょう。
参考:ストレスに対するリラクゼーション法について知っておくべき5つのこと│厚生労働省eJIM
参考:第2章 心のケア 各論│文部科学省
呼吸法
呼吸のリズムと心身の状態は関連し合っています。一般的に、ストレスがかかり緊張状態に陥ると、浅く速い呼吸になります。深くゆっくりと、腹部に注意を向けて呼吸をすることで、リラックスした状態をつくり出せます。
また、息を吸いすぎるとかえって苦しくなってしまうことがあるでしょう。息を吐き出すことにリラックス効果があるため、吐き出す時間を長くするようにして、ゆっくりと吐き出すことが大切です。5~10分程度行うとよいでしょう。
漸進的筋弛緩法
筋肉の緊張と脱力の仕組みを用いて、リラックス状態をつくり出す方法です。緊張状態では身体に力が入ってしまうことがありますが、意図的に力を入れてから緩めると、力が抜けやすくなります。
具体的には、身体の各部位の筋肉に対して、10秒間力を入れてから15~20秒間緩めることを繰り返す方法です。例えば、両手や腕、背中、肩などの部位に対して順番に行います。時間がない場合には、全身に力を入れて抜くというやり方でも効果があります。
ストレッチと運動
ストレッチは、心拍数の低下や副交感神経が優位な状態につながり、リラックス効果があることがわかっています。30分程度にわたって、全身の筋肉を伸ばすストレッチを行うと効果的です。
適度な運動は脳機能の改善効果があり、うつ病予防や不安やストレスの軽減につながります。
始業直前や休憩中などの合間の時間でストレッチや軽い運動を行うプログラムを導入すると、従業員の健康増進に役立ちます。また、ジム利用などの福利厚生制度を整備するなどの方法も運動促進のために有効でしょう。
参考:ストレッチングの効果 | e-ヘルスネット(厚生労働省)
参考:健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023│厚生労働省
質の高い適度な睡眠
睡眠は、日中の疲労やストレスを回復させる役割があります。特に、質の高い適度な時間の睡眠を目指すことが大切です。
適切な睡眠時間は6~8時間とされていますが個人差があります。6時間睡眠で十分な人が、8時間寝てしまうと、かえって睡眠の質が悪化する可能性があるでしょう。熟睡感があり、日中眠くならない状態を目安とすることが大切です。
また、睡眠不足が続くと、どうしても休日の寝だめで補うことがあるでしょう。しかし、休日の寝だめは、社会的時差ぼけを引き起こし、うつ病の発症リスクになる恐れがあります。
適切な睡眠習慣を維持するよう、従業員に周知することがセルフケアの推進につながります。質の高い睡眠のためには、生活習慣の見直しが必要です。メンタルヘルス不調の予防だけでなく、パフォーマンス向上などポジティブな効果も伝えると行動を促しやすいでしょう。
参考:睡眠対策│厚生労働省
休日のコミュニケーションや趣味活動
休日にコミュニケーションをとったり、趣味活動を楽しんだりすることも、有効なセルフケアの方法です。
余暇中に他者と会話することで主観的な幸福感が高まり、抑うつ症状や身体症状の訴えが軽減されることがわかっています。
会話を楽しむことで充足感が得られ、日頃のストレスの緩和につながります。また、笑うと自律神経のバランスが整い、副交感系神経が優位になるのでリラックスできます。
仕事から離れた趣味活動を行うことで、開放された感覚になり、充実感も増すでしょう。
企業は、従業員が余暇の時間を確保できるような勤務体制を整えることが大切です。
参考:余暇における他者との交流が主観的幸福感および抑うつに及ぼす影響│ストレス科学研究
ストレス解消方法への注意
運動や趣味、飲酒などのストレス解消方法は、やりすぎると生活に悪影響を与える場合があります。特に、飲酒に関しては、不安を解消する手段として用いるのは依存症に陥るリスクがあるので注意が必要です。さらに、睡眠の質を悪化させる可能性もあります。
健康に配慮した適切なストレス解消方法を行えるよう、従業員に周知していくとよいでしょう。
参考:健康に配慮した飲酒に関するガイドライン│厚生労働省
専門家への相談
従業員のメンタルヘルス不調を防ぐためには、相談窓口の設置も重要です。産業医や産業保健スタッフ、外部の相談機関などの専門家に相談し、悩みを解決できるようサポートします。代表的な例としては、以下のような窓口です。
- 事業場内の専門家(産業医、保健師、公認心理師など)
提携しているEAPサービス
地域の医療機関や保健所
社内外問わず、複数の相談窓口を設置し、従業員に周知しておくとよいでしょう。また、相談内容の取扱いについても示しておくと、安心して相談しやすくなります。
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従業員へのセルフケア研修実施のポイント
従業員が自発的にメンタルヘルスケアを行えるよう、会社としてどのように研修を実施すればよいのかを解説します。
参考:労働者個人向けストレス対策(セルフケア)のマニュアル│厚生労働省
1.科学的に実証された方法を用いる
研修で紹介するセルフケアの方法は、科学的に実証された方法を用いましょう。個人的な経験にもとづく方法だけを紹介するのは、効果的な教育とはいえません。
効果が実証されている認知行動トレーニング(※)やリラクゼーションなどの方法をもとに研修を計画することが大切です。
また、専門用語はわかりやすい言葉にして、職場や日常の場面での例を交えながら伝えると効果的です。
(※)考え方の癖や行動パターンを見直したり、ストレス反応への気づきを促したりする方法。
2.到達目標を明確にしておく
セルフケア研修の到達目標を明確にし、従業員と共有しておくことが大切です。限られた時間の中で研修に参加する従業員に適切な内容を伝えるには、到達目標が明確であれば参加するモチベーションも高まります。
例えば、「自分なりのストレス解消法を見つける」というように、ゴールを明確に示しましょう。職場で抱えがちな課題を解決できるゴールを設定すると、自分事として捉えやすいでしょう。
3.生活に取り入れられるよう動機づけを行う
研修でセルフケアの方法について学んだのち、普段の生活で取り入れて実践してもらう必要があります。ただし、従業員のセルフケアへのモチベーションには個人差があるため、配慮が必要です。
生活に取り入れる際に重要なのが、「自分にもできそうだ」という自信です。抵抗感を減らすため、身近な事例を紹介して自信を高めましょう。
セルフケアのための簡易チェックシート
従業員が自らのストレスに気づけるよう、セルフチェックシートを活用することも、セルフケアの推進においては重要です。
5分でできる職場のストレスセルフチェック
ストレスによって生じる不調について、身体面と精神面の両方から把握できるセルフチェックシートです。
各症状について、大項目と小項目に分かれているため、より詳しい症状もチェックできることが特徴です。受診が必要なレベルかどうか、どの診療科を受診すればよいかなど、病院受診の目安にしやすいでしょう。
【項目例:胃の痛み】
- ほぼ毎日胃が痛む
胃薬を週3回以上飲む
以前検査を受けたのは、1年以上前である
1か月以上続いている
胃の検査(胃カメラ)を受けたことがない
参考・引用:こころとからだを守るためのセルフチェックシート│一般財団法人あんしん財団
K6・K10
うつ病や不安障害などの精神疾患を発見することを目的とした尺度です。6項目もしくは10項目の質問に回答するだけで、メンタルヘルス不調に陥っているかどうかを判断できます。すでにストレス症状が表れており、治療の必要性を判断するのに役立つツールです。
K6、K10は、以下の質問に回答した結果、K10は25点以上、K6は15点以上であると、精神疾患が疑われます。
引用:K6/K10 日本語版│東京都福祉局
セルフケアの推進に役立つストレスチェック
常時使用する従業員数が50人以上の事業場では、ストレスチェックの実施が義務づけられています。
ストレスチェックは、従業員のストレスに関して、心身の反応や要因、周囲のサポートを把握できます。ストレス状態を包括的に測定でき、セルフケアに役立つ施策です。
法的義務がない50人未満の事業場においても実施することで、生産性向上などの経営上のメリットにつながるでしょう。
しかし、法定のストレスチェックで用いる職業性ストレス簡易調査票だけでは不十分な場合があります。ストレスの受け方や対処パターンは個人差があり、適切なセルフケア方法が異なるからです。
そのため、職業性ストレス簡易調査票では捉えきれない、ストレス対処力や回復力、生産性の状態などを把握することが大切です。
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メンタルヘルスケアには産業保健活動の推進が不可欠
従業員のセルフケアを推進するためには、管理監督者による職場環境改善や、産業保健職、事業場外の機関との連携が必要となります。
人事・労務担当者や、健康経営を推進するチームが、全従業員に対して定期的に情報発信をし、時には外部講師を招いて研修やワークショップを行うことも、メンタルヘルスケアに役立つ大切な取組の一つです。
そして、メンタルヘルス不調による休職や離職、生産性の低下は経営課題の一つとして捉え、企業全体で取り組めるとよいでしょう。
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