職場の心理的安全性を高める方法は?ぬるま湯組織との違いや取組事例を解説
心理的安全性とは、チームの中で従業員が安心して自分の意見を表現できる状態を指します。心理的安全性を高めることは、組織の生産性の向上の他にメンタルヘルスケア対策としても効果的であり、健康経営の実現にもつながります。
本記事では、職場の心理的安全性を高める方法について解説します。経営者や人事担当者ができる仕組みづくりや、心理的安全性が高いチームに必要なリーダーの条件、取組事例を紹介します。
また、混同されがちな「ぬるま湯組織」との違いから心理的安全性の特徴も説明していますので、参考にしてみてください。
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心理的安全性とは?
組織行動学者のエイミー・エドモンソンが発展させた概念で、チーム内で従業員が意見や気持ちを安心して表現できる状態を指します。
心理的安全性の概念について、「ぬるま湯組織」との違いやメリット、必要な要素などから詳しく解説します。
対立を避ける「ぬるま湯組織」とは異なる
心理的安全性は、単なる居心地のよい状態を指す「ぬるま湯組織」とは異なる概念です。
「ぬるま湯組織」は、緊張感がなく業務に対する意識や成長意欲が低い組織を指します。衝突や批判を避け、メンバー同士が意見を出し合って成長する意欲が低いことが特徴です。
一方で、心理的安全性はメンバー同士が得た知識や技術を共有し、さらに高いパフォーマンスを目指す状態を指します。
ミスや失敗を隠したり攻撃したりせず、問題を指摘し合い、学びを得ていく態度が異なります。
チームの生産性を高める要素として注目
心理的安全性は、チームの生産性を高める要素として注目されています。注目された背景には、2012年にGoogleが行った「プロジェクト・アリストテレス」の影響があります。
プロジェクト・アリストテレスでは、チームメンバーが誰であるかよりも、チームがどのように協力しているかが重要だとわかりました。その中でも、最も重要な要素が心理的安全性だと判明したのです。
特に、効果的なチームは、他のメンバーの意見を柔軟に取り入れて、生産性を上げていました。
心理的安全性は、従業員がストレスなく働ける環境を促進するだけでなく、組織の生産性にも影響します。そのため、心理的安全性を高めることは経営課題の一つともいえるでしょう。
参考:「効果的なチームとは何か」を知る│Google re:Work
従業員のエンゲージメント向上につながる
心理的安全性が確保されることで、従業員のエンゲージメントが向上し、より一層仕事に打ち込めるようになります。批判や否定、ネガティブな結果を気にせずに挑戦しやすくなるからです。
また、自分の意見を受け止めてもらえる安心感が強くなり、企業へのエンゲージメントも高まります。その結果、人材の定着につながり、離職や転職が減少し、人材不足への対策にもなるでしょう。
心理的安全性を高めるには4つの因子が重要
心理的安全性を高めるには、以下の4つの因子が重要です。
話しやすさ |
メンバー同士が話しやすい関係性 |
助け合い |
メンバー同士が助け合える関係性 |
挑戦 |
挑戦することを歓迎する雰囲気 |
新奇歓迎 |
メンバー間の違いや個性、新しさを歓迎する態度 |
「話しやすさ」や「助け合い」は、コミュニケーションの活性化につながります。報告や連絡、情報共有、他のメンバーのサポートなどを密に行うため、認識のズレが生じにくく、一丸となって業務に取り組めるでしょう。
また、「挑戦」や「新奇歓迎」は、新しい意見を尊重するチームを形成します。その結果、イノベーションが起きやすくなるでしょう。
参考:「心理的安全性のある組織」と「ヌルい職場」はどう違う?【書籍オンライン編集部セレクション】│ダイヤモンド・オンライン
心理的安全性が低い場合に起こる4つの不安
心理的安全性が低いチームとは、どのような状態なのでしょうか。
心理的安全性の概念を発展させたエドモンドソンによると、心理的安全性が低い組織では4つの不安が生じるとされています。4つの不安をもとに、心理的安全性が低いことのデメリットについて解説します。
参考:心理的安全性に基づくパワーハラスメント防止対策│厚生労働省
1.無知だと思われる不安
周囲のメンバーから「無知だと思われるのではないか」という不安です。率直な意見を述べたり、不明な点を気軽に質問したりできない状態に陥ります。業務を正しく理解しないまま進めてしまい、ミスが増えてしまう可能性があります。
2.無能だと思われる不安
「能力が低いと思われるのではないか」という不安から、ミスを隠して報告しない状態に陥りやすくなります。トラブルへの対応が遅れてしまい、問題が深刻化したり、重大なミスから企業の信頼を失ったりする危険性があります。
3.邪魔をしていると思われる不安
「自分の言動が周囲のメンバーの邪魔になるのではないか」という不安です。意見の表明や質問を控えたり、メンバーへのサポートをためらったりします。自由な意見交換や積極的な助け合いをする機会が失われ、チームワークの低下につながるでしょう。
4.ネガティブだと思われる不安
「ネガティブな人間だと思われるのではないか」という不安です。この不安が強いチームでは、話合いの場でメンバーが反対意見を述べず、当たり障りのない議論になりやすいでしょう。そのため、イノベーションが起きにくくなる恐れがあります。
心理的安全性に欠かせないリーダーの役割
批判的な意見も含めて安心して表現でき、互いに議論し合える関係を築くためには、リーダーが果たす役割は大きいといえます。心理的安全性を含めたチームの雰囲気や風土は、リーダーの姿勢や行動に大きく影響されるからです。
また、ラインケアの観点からも、心理的安全性は重要です。安心して悩みを話せる心理的安全性の高い関係が築かれていると、メンタル不調に陥る前に相談でき、休職の予防につながるでしょう。
従業員のメンタルヘルスケアを推進するためにも、心理的安全性を担保するリーダーの存在は欠かせません。
心理的安全性を高めるリーダーの姿勢や、そのために企業ができる施策を解説します。
参考:Psychological Safety Comes of Age: Observed Themes in an Established Literature│ Annual Review of Organizational Psychology and Organizational Behavior
1.話をよく聞く
上司が部下の意見を傾聴すると、心理的安全性が高まるとされています。部下の意見や考えに耳を傾け、ありのままに受容できる姿勢が心理的安全性を高めるのです。
心理的安全性が十分であると部下が新しいアイデアを生み出しやすくなり、創造性の向上につながります。
企業としては、1on1ミーティングなど個別に話を聞く機会を設ける施策を行うとよいでしょう。また、管理職向けの傾聴や共感技法に関する研修を行い、話をよく聞けるリーダーを育てる施策も必要です。
参考:Mere listening effect on creativity and the mediating role of psychological safety│Psychology of Aesthetics, Creativity, and the Arts
2.チームや組織の利益を優先する
リーダーが利己的な行動をとっているとメンバーから認識されているチームでは心理的安全性が低下する可能性があります。そのため、心理的安全性を高めるには、リーダーがチームを優先した行動をとる態度が重要です。
例えば、チームの課題や目標を設定することがあります。その際に、リーダーの利己的な理由で決めるのではなく、チーム全体の意見をまとめた上で目標を設定することが大切です。
企業としては、チームの目標がメンバーの意向を反映しているものかをチェックできる体制があればよいでしょう。
参考:Feeling safe? A conservation of resources perspective examining the interactive effect of leader competence and leader self-serving behavior on team performance│Journal of Occupational and Organizational Psychology
3.オープンな姿勢を示す
リーダーのオープンな姿勢(透明性)の高さが心理的安全性の高さにつながり、メンバーは自分の業務に集中できるものとされています。オープンな姿勢とは、決定事項や判断の理由を隠さずに共有したり、メンバーからのフィードバックを受け止めたりする態度です。
例えば、チーム目標の背景を隠さず説明するような態度です。オープンなリーダーであるほど、メンバーからの信頼を得やすいでしょう。
オープンな姿勢を示せるリーダーを増やすため、管理職への登用条件として評価基準に盛り込むことがおすすめです。
参考:How Leaders’ Transparent Behavior Influences Employee Creativity: The Mediating Roles of Psychological Safety and Ability to Focus Attention│Journal of Leadership & Organizational Studies
心理的安全性を高める仕組みづくり
心理的安全性を高めるには、企業全体で制度を見直したり、管理職の育成を行ったりするなど、組織的な対応が求められます。経営者や人事労務担当者として、心理的安全性を高めるには、どのような仕組みづくりを進める必要があるのでしょうか。
1.ストレスチェックを実施する
まず従業員の心理的負担や周囲のサポートなど、心理的安全性に関わる現状を把握する必要があります。現状把握に適しているのがストレスチェックです。
従業員のストレス状態や心身の反応を可視化し、心理的安全性の低さが不調につながっている場合は、対策が求められます。特に、集団分析を行うと、詳しい傾向を把握でき、課題が生じている部署が明確になるでしょう。
また、心理的安全性を高める施策を導入した後の効果測定としても活用できます。施策を実行しても、「ぬるま湯組織」になりエンゲージメントが低下する恐れがあるからです。
心理的安全性を正確に把握するためには、エンゲージメントも合わせて把握できるストレスチェックを導入することが大切でしょう。
株式会社エムステージでは、官公庁や大手・中小企業まで幅広くご活用いただいているストレスチェックサービス「Co-Labo」を提供しています。部署、職種、事業所別、採用区分、職責など様々な切り口で集団分析を行うことができます。
また、ストレスチェックやエンゲージメントサーベイ、健康診断結果など、従業員の健康情報を一元管理できる「HealthCore」も提供しております。従業員の健康面を効率的に把握・管理し、予防につなげたいと考えている人事労務担当者の方は、ぜひ一度お問い合わせください。
2.評価制度を見直す
既存の評価制度が心理的安全性にどのように影響しているかを把握し、必要であれば見直しを検討しましょう。例えば、成果重視での評価を行っている場合、評価を下げたくない思いから新しい挑戦をしにくくなる可能性があります。
業務のプロセスを重視した基準にしたり、新しい挑戦を行う態度を積極的に評価したりするなど、評価基準の見直しを行う必要があります。
3.管理職への研修を行う
心理的安全性は、管理職の関わり方によって、大きく影響されます。安心できる職場環境や人間関係づくりにおける管理職の役割は大きいといえます。
そのため、心理的安全性の高いチームを築くための研修機会を設けるとよいでしょう。傾聴や共感などのコミュニケーション力、チームワークを形成する力などのテーマを扱い、マネジメントスキルの底上げを図ります。
4.従業員をサポートする仕組みを強化する
1on1ミーティングやメンター制度など、個別にコミュニケーションを取る機会を増やす制度の導入も大切です。集団場面では、意見を表現できない従業員も、個別であれば安心して話しやすいでしょう。
また、新しくチームに参画するメンバーへのフォローも重要です。特に、新入社員へのOJT、OFF-JTの強化など、少しでも早く組織になじめるよう、サポートの充実を図る必要があります。
5.感謝を伝え合う企業文化をつくる
感謝されることは「自分はチームから認められている」という感覚につながります。従業員が互いに感謝の気持ちをもてるような制度を導入すると、心理的安全性を高められるでしょう。
具体的には、ピアボーナスやサンクスカードなど、従業員同士で報酬や評価を送り合える制度を導入している企業があります。自然と感謝を伝え合える企業文化をつくり、心理的安全性を高めていけるとよいでしょう。
心理的安全性を高める施策事例
心理的安全性の向上を図るには、どのような施策を推進していくとよいのでしょうか。3つの企業での取組事例をもとに、効果的な施策について紹介します。
株式会社メルカリ
株式会社メルカリでは、2017年から「メルチップ」というピアボーナス制度を導入しています。社内のコミュニケーションツールであるSlack上で、感謝や賞賛を伝えられます。感謝や賞賛だけでなく、インセンティブとして一定の金額を送ることも可能です。
従業員からの満足度は約87%と好評を得ており、多いときには1日あたり1000件近い投稿がされています。社内コミュニケーションの活性化と感謝を伝え合える企業風土の構築に役立つ仕組みです。
参考:贈りあえるピアボーナス(成果給)制度『mertip(メルチップ)』を導入しました。 | mercan (メルカン)
株式会社LIFULL
株式会社LIFULLは、住宅、不動産のポータルサイトを運営する企業です。「敬意をもって意思を伝え、決定には全力を尽くす」という条文をガイドラインで定め、心理的安全性向上の施策を実行しています。
具体的には、メンバーの理解を深めるプログラムやコミュニケーション予算の付与など、チームの活性化を促すような取組です。また、1on1や週1回のコミュニケーションデイを設け、チームメンバーが密にやり取りができる環境を仕組み化しています。
立場の違う従業員の壁をなくすため、従業員のコミュニケーション促進する施策が同社の特徴です。
参考:チームへの投資 | 株式会社LIFULL
BIPROGY株式会社(旧:日本ユニシス株式会社)
BIPROGY株式会社(旧:日本ユニシス株式会社)は、金融や官公庁など幅広い業種を対象としたITサービスを提供している企業です。同社では、従業員の「個」の多様性を高め、個性を受け入れる「ダイバーシティ経営」を推進しています。
対話によってコミュニケーションの質を高め、心理的安全性の高い自律型の組織への改革を進めています。
組織変革の取組として、2020年から「ソーシャルインパクトプロジェクト」を行っています。年齢やキャリアが異なる従業員から公募で集められたメンバーでチームを編成し、ビジネス創出を目的とするプロジェクトです。
立場を超えたコミュニケーションを推進する取組が特徴で、職階に関係なく役割が与えられ、各メンバーが決定権を持ちます。
さらに、新事業について役員と従業員がアイデアを共有する「Morning Challenge」も特徴的です。経営層に率直に意見できる、フラットな組織体制の構築を推進しています。
従業員が自由に意見を表明し、積極的に挑戦できるような取組を推進している点が同社の特徴です。
参考:令和2年度 新・ダイバーシティ経営企業 100 選 100 選プライム/新 100 選 ベストプラクティス集│経済産業省
心理的安全性を高めて従業員の力を発揮できる組織へ
心理的安全性の向上は、社内コミュニケーション活性化やエンゲージメント上昇、メンタルヘルス不調の予防につながります。チーム内の関係性の改善にとどまらず、組織全体に影響するため、経営課題の一つとして取り組むべき重要な課題です。
心理的安全性を高めて、互いに助け合える関係や多様性を許容できる文化を築き、従業員の力を発揮できる組織を目指しましょう。
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