<産業医コラム>LGBTQ+当事者の支援に企業はどのように取り組んでいくか

<産業医コラム>LGBTQ+当事者の支援に企業はどのように取り組んでいくか

1.LGBTQ+当事者の割合

「日本のLGBTQ+当事者の割合は9.7%」と聞くと、皆さんは何を思うでしょうか。私の周りでは、「意外と多いんですね」という反応が多くみられました。

2023年に全国の20~59歳の個人57,500人に行われた電通「LGBTQ+調査2023」では、LGBTQ+当事者の割合は9.7%でした。LGBTQ+の人々を包摂するための議論が徐々に活発になっており、LGBTQ+の当事者、当事者と一緒に働く社員からの相談に企業としての対応が求められる時代になっています。具体的にどのような対応が必要なのか、まとめました。

2.LGBTQ+とは

LGBTQ+とは、レズビアン(同性を好きになる女性)、ゲイ(同性を好きになる男性)、バイセクシュアル(両性を好きになる人)、トランスジェンダー(出生時に割り当てられた性別と性自認が一致しない人)、クエスチョニング(性のあり方を模索している人やあえて決めていない人)の頭文字をとった言葉で、性的マイノリティ(性的少数者)の総称として用いられています。

3.LGBTQ+当事者を取り巻く環境の変化

2023年6月にLGBT理解増進法(正式名称は性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する法律)が成立、施行されました。この法律では、国や企業、自治体のLGBTQ+当事者に関する理解を広めるための努力が求められています(努力義務)。ジェンダーアイデンティティとは、性自認や性同一性ともいわれ、自分がどの性別であるかに関するのことです。2024年3月には、札幌高裁が同性婚を認めないのは憲法違反と判決を出すなど、日本のLGBTQ+当事者を取り巻く現状と課題は確実に変化しています。

日本GID(性同一性障害)学会も2024年3月の学会総会で、学会の名称を「日本GI(性別不合)学会」に改名すると正式に発表するなど、今ではLGBTQ+は障害や病気ではないという考えが一般的となっています。

4.カミングアウトとアウティング

カミングアウトとは自分の性自認や性的指向を自発的に他者に伝えること、アウティングとは他人の性自認や性的指向を同意なく暴露することです。アウティングは絶対にしてはいけない行為です。会社で上司からアウティングを受けた後、精神疾患を発症したことについて、2023年7月に労働基準監督署から労災として認定された事例があります。

社員からカミングアウトを受けた時は、まずは「話してくれてありがとう」と伝え、どのような支援が必要かを話し合いましょう。また、その際には情報の共有範囲について本人の意向を確認し、アウティングが起きないように注意する必要があります。

5.企業としてできること

結婚休暇や家族手当などの福利厚生制度は異性の配偶者を対象とした制度が前提のため、LGBTQ+当事者は利用しにくいケースも多々あります。それらの制度を戸籍上同性のパートナーがいる社員も含めて利用できるよう変更することは、LGBTQ+当事者への配慮の一つです。

 他にも、LGBTQ+当事者にフレンドリーな取組を進める旨のトップメッセージの発信、正しく理解するための研修の実施や相談窓口の設置などが挙げられます。研修や社内の相談窓口として産業保健職を活用しましょう。

6.個別対応の重要性

LGBTQ+当事者がどのような配慮を求めているか、当事者の周囲がどのような心配事を抱えているかは一人一人異なるため、産業保健職や人事担当者は一律なアプローチではなく、個別に面談等を実施し、それぞれのニーズに応じた丁寧な対応をすることが必要です。これにより、企業全体として多様性を尊重し、性的指向・性自認によらず快適に働ける職場づくりに繋がります。

社員の中には、「よく分からないから怖い、理解できない。」という状態の方もいるでしょう。近年ニュースで取り上げられる機会も増えたため、「差別をしてはいけないとは思うが、具体的に何をしたらいいか分からない」という方もいると思います。企業の規模や業種により、対応できる範囲も様々です。「更衣室で着替えるところを他の人に見られるのが嫌だ」という声があれば更衣室にカーテンをつける、「会社の制服のスカートは履きたくない」という声があればズボンを選べるようにするなど、それぞれの困りごとに合わせて一つずつ丁寧に対応していきましょう。施設面や費用面で対応が困難な場合もあるかもしれません。その場合でも、できない理由をしっかりと伝え、代わりにどのような対応ができるのかを当事者と一緒に考えていきましょう。

7.多様性を理解する

快適な職場で働きたい、という思いはLGBTQ+当事者・非当事者に関わらず、皆が持っているものです。LGBTQ+について、「よく分からないから不安」という状態から「話し合ったら疑問が解決してお互いに理解できた」という状態に変化することが大切です。そのためにも、LGBTQ+についての基本的な知識と十分な話し合いこそが重要だと考えます。それぞれの違いを認めることが、快適に働ける職場づくりに繋がります。多様性を理解し、お互いに認め合うことは、LGBTQ+当事者だけでなく、病気や介護など様々な理由で働き方への配慮が必要な方々のためにも働きやすい環境づくりに繋がります。全ての人が働きやすい環境になるよう、できることから進めていきましょう。

参考文献:多様な人材が活躍できる職場環境づくりに向けて~性的マイノリティに関する企業の取り組み事例のご案内~


文章出典:人事・総務向け「ウェルビーイング経営」サポートメディア「ウェルナレ」専門家記事より寄稿

大林 知華子

大林 知華子

産業医・精神科専門医・指導医 労働衛生コンサルタント(保健衛生) 産業保健法務主任者 精神科専門医としてのキャリアを経て、メンタルヘルスの不調を未然に防ぐ取り組みを目指し、産業医活動を開始。現在、製造業、情報・通信業、人材派遣業、レジャー業など、複数の企業で産業医としての活動に従事している。また、メンタルヘルスの専門家として、ラインケア研修や新人研修も行っている。

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