<第2回>ベテラン保健師が解説!健康経営度調査とフィードバックシートの見方と活用法について
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こんにちは!保健師の石倉です。12月に返却される健康経営度調査フィードバックシートは受け取りましたか?フィードバックシートの活用法について全3回にわたって解説していますが、今回は2回目です。
フィードバックシートは健康経営度調査の結果をもとに作成され、各企業に送付されます。第1回では健康経営度調査の概要について触れ、その後フィードバックシートの構成について解説しました。
健康経営度調査や構成についてわからないことがある場合は、まず第1回目の記事をご確認ください。
第2回にあたる本記事では、フィードバックシートの見方と活用法について解説します。
なお、前年に引き続きフィードバックシートを受け取られた企業は、より深くご理解いただくために、事前に次の4点を準備することを推奨します。
- 令和4年度の健康経営度調査フィードバックシート
- 令和4年度の健康経営度調査票(提出済のもの)
- 令和5年度の健康経営度調査フィードバックシート
- 令和5年度の健康経営度調査票(同上)
健康経営度調査フィードバックシートで自社の“強み”をチェック
まずは、健康経営度調査フィードバックシートで次の項目に従って自社の“強み”をチェックしましょう。
②評価の内訳
④評価の詳細分析
③評価の変遷
各項目について見るべき箇所や見方は以下の通りです。
「②評価の内訳」を確認して強みを把握する
フィードバックシートが届いて、真っ先に気になるのが総合順位ではないでしょうか。
しかし、最初に総合順位にだけとらわれてしまうと、前回に比べて順位が低い場合にモチベーションが損なわれることがあります。
仮に前回よりも順位が下がっていても、落ち込む必要はありません。他社も健康経営に真剣に取り組んでいるため、順位が下がるケースはよくあることです。
そこで、まずは評価の内訳を確認するようにしましょう。
「②評価の内訳」で最も評価が高い項目が自社にとっての強みといえます。
例えば下記であれば、偏差値が最も高い「組織体制」に強みがあると言えるでしょう。
まずは「②評価の内訳」で確認した強みを健康経営に取り組んで現れた成果だと認識し、モチベーションアップに繋げましょう。
「④評価の詳細分析」で現状を分析する
次に「②評価の内訳」で確認した強みの側面について、「④評価の詳細分析」で見ると得点の高い項目がわかります。また、他の側面についても評価の高い項目を確認しましょう。特に「業種平均」よりも自社の方が高ければ、それも強みとなります。
もし業種平均を上回る項目がなかった場合は、平均に近い値で評価された項目を自社の強みと考えてください。
「③評価の変遷」で評価の推移を見る
「③評価の変遷」で各側面の経年変化を見ると、中には前回よりも偏差値がアップしている側面があるかもしれません。もしくは、過去複数年に渡って健康経営度調査に参加している場合は、偏差値に上昇傾向が見られるケースもあるでしょう。
下図サンプルでは、組織体制が前年に比べ大きく伸びていることがわかります。
大きく伸びていたり、自社の中で偏差値が高い側面は、例え現在の順位が低い場合でも、その分伸びしろがあるとポジティブに捉えることもできます。
自社の中では強みだが、他社に比べ低評価だった側面の改善に取り組んで、順位が上がった企業を私は過去にいくつも見てきました。
対応Q番号の活用法
例えば、「②評価の内訳」を確認したときに「組織体制」の偏差値が高かったとします。次に令和5年と令和4年のフィードバックシートを並べて、両者の「④評価の詳細分析」を見比べます。
そして側面「組織体制」の中で、昨年と比べて評価の高かった項目を確認すると、「経営層の関与」が昨年よりも伸びていることがわかりました。さらに「経営層の関与」の対応Q番号を確認すると、Q26とQ27が該当することがわかります。
次に健康経営度調査票の回答を比較すると、令和5年のQ26(令和4年ではQ25に該当)とQ27(令和4年ではQ26該当)についてQ26は変わらず、Q27に変化がありました。そこで、令和5年のQ27について令和4年(Q26)との回答内容の違いを確認します。
ここからは、下記の例をもとに解説します。「令和4年の調査票(Q26)」と「令和5年の調査票(Q27)」を見比べてみてください。
▼令和4年の調査票(昨年)
▼令和5年の調査票(今年)
両者を比べると、会議で健康経営を議題にする回数が増えていることから、これが偏差値が上がった要因と考えられます。
このように今年の調査票を前年と並べて比較すると、評価が上がった要因がわかることが多くあります。
また昨年と今年の調査票を比較する場合は、調査票の「認定要件・補足説明等」シートの「調査票目次」を確認するとよいでしょう。今年のQ番号が昨年のどのQ番号に対応しているかが容易にわかります。
「調査票目次」では次に示すようにQ番号が一覧になっているので、「Q番号」欄の「今年」と「昨年」を見比べてみてください。
例えば、「組織体制」の中にある「経営層の体制」の対応Qを見ると、昨年と今年では次のようにQ番号が変更されていることがわかります。
- Q25(令和4年 昨年)→Q26(令和5年 今年)
- Q26(令和4年 昨年)→Q27(令和5年 今年)
以上を参考に、まず自社の強みを確認してみてください。全てのフィードバックシートの中に、必ず強みはあります。
健康経営度調査フィードバックシートで自社の“弱み”をチェック
強みを確認したあとは、弱みもしっかり把握して健康経営の改善に繋げましょう。
まず、「②評価の内訳」の中で最も偏差値の低かった側面に注目します。
その側面について「④評価の詳細分析」を確認し、業種平均値に至っていない項目をピックアップしましょう。次に、その項目の対応Qを健康経営度調査票で確認します。
弱みが明確になったら、優先度と実現性の高さを検討し、次年度に向け今後どのような取り組みをすればよいか計画を立てます。
計画を立てる際には、取り組みを増やせそうな設問にアプローチすることもひとつの手です。
「②評価の内訳」で偏差値をみて、最も低い側面の中のうち最も低い項目について「④評価の詳細分析」で確認し、対応Q番号をチェックし確認したところ、例えば次のような結論に至ったとします。
- 対応Q番号に関係する課題はすでに中期的に施策を展開し、少しずつ改善されてはきている
- 今後も課題解決に向けて、施策を強化していく予定である
- 施策は強化するものの、来年度の健康経営度調査票回答時に、加速度的に改善したとは記載できないため、高得点を得るのは難しいと考えられる
このような場合は、その項目については現状維持のまま中長期的な施策に取り組みつつ、その次に偏差値が低い項目に着目しましょう。次点でピックアップした弱みに対応するQ番号を確認して、1つでも取り組みを増やせそうであれば、次年度の評価改善が期待できます。
以上のように、フィードバックシートから自社の課題を健康経営度調査票の設問レベルで確認すると、これから取り組むべき課題が見えてきます。
中長期的に取り組む課題と、短期的な取り組みで改善できそうな課題を把握して、アプローチする設問に優先順位を付けましょう。優先して改善すべき設問がわかったら、次は具体的な施策を考えるフェーズに入ります。
フィードバックシートを健康経営の推進に役立てる方法
既存資源を活用すると、新たな予算や、担当者の業務をそれほど増やすことなくフィードバックシートの評価を改善することが期待できます。
以降の作業では、調査票の「下書き用(保護なし)」シートを活用し、右側空欄にメモを残し、関係者と共有しましょう。
既存資源の活用により予算をかけずにできる取り組み
上述の「健康経営度調査フィードバックシートで自社の“弱み”をチェック」でピックアップした自社の弱みから順に、健康経営度調査票の設問内容を1つ1つチェックしましょう。
既存の社内資源にプラスαで工夫をすれば、予算を投入せずに取り組める施策が見つかるかもしれません。新しく実施できる施策が見つかれば、回答欄に「1」の記入を増やせるため、来年度の健康経営度調査フィードバックシートの改善に繋がる可能性があります。
予算を投入せずとも、「1」を記入できる項目は意外とあるものです。私が支援した企業でも、予算のかからないちょっとした取り組みで対応Qへのチェックを増やした事例をいくつも見てきました。
予算をかけずにフィードバックシートの改善に取り組んだ事例
ここでは、予算をかけずにフィードバックシートの改善に取り組んだ2つの事例を紹介します。
- 【事例1】保険者と連携してコラボヘルスを実施する
- 【事例2】健康経営推進の方針を従業員に対して文書で通達する
【事例1】保険者と連携してコラボヘルスを実施する
コラボヘルスとは、自社と保険者(以下健康保険組合)が連携して健康経営に取り組むことです。まずは加入健康保険組合のホームページなどを確認し、活用できる資源を把握しましょう。
※保険者以外に互助会などの補助金やサービスなども確認すると、健康経営の取り組みとして活用できるものが見つかることがあります。
例えば、保険者による無料カウンセリングサービスや各種健康イベントの周知などが考えられます。
保険者による無料カウンセリングサービスの周知
無料カウンセリングサービスの周知に関連した具体例として、「1.メンタルヘルスについての相談窓口の設置および周知を行っている」の設問をクリアした事例をご紹介します。なお、この設問はQ60内(R5年調査票)にあります。
私が過去に担当した企業で、月1回2時間の産業医訪問があるものの、メンタルヘルス相談までは産業医の訪問時間でカバーできないケースがありました。産業医訪問時のスケジュールは安全衛生委員会や職場巡視、復職審査などで埋まってしまい、個別のメンタルヘルス相談に対応する時間が十分に確保できません。
そのため、該当の設問に「1」を立てられない状況でした。
そこで健康保険組合で利用できるサービスを確認すると、無料の外部カウンセリングサービスがあることがわかったので、それを社員に周知しました。
しかし、メンタルヘルス不調が就労にまで影響を及ぼす場合は、外部カウンセリングでは不十分です。対応策として上司や人事を通し産業医に相談できるような体制を整えることで、翌年は調査票に「1」を入れられるようになりました。
その後、就労に影響を与えかねないメンタルヘルス不調に関する相談が増えたため、保健師による相談窓口を設置しました。保健師は従業員にとって身近で相談しやすいことから、その後は早めに相談窓口を訪れる従業員が増え、必要時産業医と連携しメンタルヘルス不調の早期発見・早期介入に繋がりました。
各種健康イベントの周知
健康組合が実施する次のような健康イベントも、コラボヘルスとして利用できます。
- 無料の健康に関する研修
- ウォーキングラリー
- 食事や栄養に関するイベント
健康イベントを利用してコラボヘルスを行うと、健康経営度調査票にある以下の項目をクリアできる可能性があります。
- 従業員や管理職に向けた健康教育に関する取り組み(R5年調査票Q42,43)
- 食生活の改善に向けた取り組み(R5年調査票Q54)
- 運動習慣の定着に向けた取り組み(R5年調査票Q55)
コラボヘルスに限ったことではありませんが、以上の設問は、調査票にイベントへの対象者や参加者の比率を記入する必要があります。
対象者の比率(全従業員に占める対象者の割合)と参加者の比率(対象者に占める参加者の割合)を把握する必要があります。また、フィードバックシート「⑧各施策の参加率」の開示項目でもあります。
参加率の把握については、GoogleフォームやMicrosoft Formsを活用されている会社も多いです。キャンペーンの企画と実施率把握の例を記します。
食生活の改善キャンペーンを定期的に実施するとします。1回目は自社の健康課題である朝食欠食率改善を目的に、健康保険組合の朝食に関するvideo教材を活用し、次のようなキャンペーンを企画しました。
キャンペーン開始時に自社の朝食欠食状況を知らせ、併せて健康保険組合の研修video「朝食の重要性」のURLをつけ、視聴を誘導、その後アンケートに回答してもらいます。同時に、視聴の有無と、〇週間の自分の朝食の目標(週の摂取回数や内容)を回答してもらい、〇週間後、アンケートで評価してもらうことを予告します。途中、参加者全員に励ましのメールを送るなど、行動変容を働きかけます。
(参加率=目標を入力した人数÷全従業員数)
アンケートで朝食に関する目標を記載することで行動を後押しする他に、記事の内容を楽しいクイズにし関心を高める工夫もできます。加えて、今後の健康施策への意見を尋ねることで健康経営への従業員参画の雰囲気づくりに繋がります。
総合健康保険組合加入のある会社から、「運動や食生活のアプリを活用したいが、健康保険組合では提供されていない。自社ではなかなか予算が取れない」という相談を受けました。その際、運動をしたり食事の改善に取り組んだりするとポイントをもらえる無料のスマホアプリを紹介しました。これらも上手に活用してイベントを組んだり、健康の啓発を実施したりするのもよいでしょう。
また、ウォーキングキャンペーンの事例として、会社からアプリなどの支給はせず、従業員のスマートフォンにデフォルト設定されている歩数計の画面で、各自の1ヶ月の歩数結果を確認し、実施状況を把握・評価した企業もありました。
【事例2】健康経営推進の方針を従業員に対して文書で通達する
健康経営推進の方針を従業員に向けて文書で通達し、令和5年の「Q17.健康経営の推進に関する全社方針を社内向けに明文化しているか」の中にある、「1.従業員に対して定期的に文書を通達している」をクリアできた事例があります。
この事例では、毎月開かれる安全衛生委員会の議事内容に健康経営推進を上げていたため、健康経営推進の方針についてより明確に議事録に残し、全従業員に発信することが可能でした。その結果、翌年より調査票の該当設問に「1」を記入できるようになりました。
同業他社等のフィードバックシートを参考にする
令和4年の健康経営度調査以降は、評価結果の開示を許可した法人のフィードバックシートが、「ACTION!健康経営」で公開されています。
※上記サイトの下方にある業種別のフィードバックシートからダウンロードして閲覧できます。
同業種や類似の会社はどのように施策に取り組んでいるのかを、PDCAとして把握したい場合は、「⑧具体的な健康課題への対応」内の「重点を置いている具体的な施策とその効果」の項目を確認してみてください(令和5年健康経営度調査票 Q73.SQ1)。
▼「重点を置いている具体的な施策とその効果」の項目
※R5年健康経営度調査票でQ73.SQ1で回答した内容となります。
また、自社と同じ「課題テーマ」で偏差値の高い会社の記載内容を参考にすることで、施策の改善は勿論、次年度の健康経営度調査票回答内容のブラッシュアップに役立ちます(次年度も継続して同じ「課題テーマ」にする場合)。
フィードバックシートの結果を、健康経営の取り組みに役立てよう
今回は、健康経営度調査フィードバックシートの見方と活用法について解説しました。本記事の要点は次のとおりです。
- 健康経営度調査フィードバックシートを見る際は、最初に強みをチェックしてモチベーションアップに繋げる。
- 強みを把握した後は弱みもしっかりと把握して、次年度以降の改善に繋げる。
- 取組みを強化しても、評価は相対評価(偏差値)のため必ず改善するとは限らない(他社が自社以上に頑張れば、偏差値としては下がる可能性もある)。
- 健康経営度調査フィードバックシートと健康経営度調査票で確認し未着手だった施策の中には、既存資源の見直しや少しの工夫で実施できるものもある。
- 他社の健康経営度調査フィードバックシートを参考にすると、自社の健康経営の改善に役立つ。
次回は、フィードバックシートの評価を改善するための施策をメインに、事例をご紹介します。
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